カズマに問いかけた。
カズマの導き出した選択とは……?
世界の適を演じて魔王と勇者が共闘させてみた
<カズマ>
「今まで選択を違えなかった者よ…………
……ねぇ。
俺はそんな大層な決心なんてできず、ぼんやりと、目の前で繰り広げられている光景を眺めていた。
周囲では、めぐみんが相変わらずのテンションで爆裂魔法を振りかざそうとしているし。
アイリスは頭のおかしい爆裂娘による頭のおかしい馬鹿げた威力の爆裂魔法を止めるどころか「セイクリッド・エクスプロード」で張り合おうとしているし。
隣で魔王の娘が「あの、それはお家の中でやることではないですわ!」と、必死に説得を試みていたが、全く効果がないし。
「ふははは! 私の爆裂魔法を見たことがない? ならば見せてやりましょう、人類の終着点を!」
「なんですか、やる気ですかー! 王族は強いんですよ! 私が次の魔王です!」
「お二方は一体何を! 私が正式な次の魔王ですのに! というか自分が魔王だとおっしゃるのだったら自分の家となるこの場所で爆裂しないでくださいまし! 爆発落ちなんてサイテーですわ!」
ヘイワダナー。
荒々しすぎるお嬢様方の遊戯を見て、全く心にも思っていないことを思ってしまった。
いや、でも平和っちゃ平和か?
ここにいるヤツらは、魔族であろうと王族であろうと、ただの日常を楽しんでいる。
「なあ、ナナシさん」
「なんじゃ、ようやく決心したか?」
「いや、そうじゃないんだけど……一応これって平和なんだよな?」
「某の顔を見ればわかることだ」
「うわ、ひ孫を見守るひいばあちゃんじゃん」
「そこまで年食ってないがの」
俺は平和主義者を自称する男、佐藤和真。
今まで遠すぎる存在だった魔王が、敵が、討伐対象が、今や力と権力が強いただの親馬鹿にしか見えない。
……平和主義者自称してんのに、会話の前から敵とか討伐対象だとか……
そんなことを思って自嘲気味に笑いながら、もう一度周囲を見渡した。
魔王は親馬鹿だし、アイリスはただ人類最強なだけの年相応の女の子。
ダクネスだってただの変態だし、めぐみんはシスコンで面倒見のいいお姉ちゃんだ。酔い潰れて酒瓶抱えてるアクアなんて、その辺のおっさんと変わらない……
俺なんて、ナナシに勇者だって言われたりしてるが……勇敢でもなんでもない。
ただ、流れに乗っかってここまで来ただけだ。
そう考えると、魔王討伐とかどうでもよくなって肩の力が抜けた。
「ナナシ。意外に勇者だとか魔王だとか、立場なんて意外とささいなもんだな」
「何を今更。自分の立場を一番わきまえていない勇者の小僧が汝であろうに」
「いや、一番はアクアだと思うぞ? きっと今だって女神だってことを忘れて寝呆けてる。ほら見てみろ! 腹だしてポリポリかいてるぞ!」
全く女神らしくないうちの女神と、そんな女神を女神と知ってながらもただの馬鹿な仲間として扱ってくれる仲間。
うん、決めたわ。
俺は目の前のこの光景を壊したくない。
めぐみんやアイリス、そして魔王の娘が戯れているこの平和な瞬間がずっと続いた方がいいに決まってる。
だから――
「別に魔王を倒さなくてもいいじゃん」
――そんな結論に達した。
めぐみんたちのやり取りを眺めている最中、ふと背後から冷たい視線を感じた。
振り返ると、そこにはナナシが。
彼女はいつものように、微笑んでいたが、その微笑みがどこか歪んで見えた。
「ふふふ……。それが主人公の選択か。いい、実に、いい……!」
「ナ、ナナシ?」
突然、ナナシが静かに笑い始めた。
額のあたりを押さえておりあまり表情を確認することはできないが、確かに口元は笑って……いや、嗤っていた。
その嗤いは次第に大きくなり、やがてカズマの耳をつんざくような高笑いへと変わった。
「ふはははははっ! 見よ、我が世界の行く末を! ついに……ついに、この時が来たのだ! 世界の幕引きが訪れる!」
狂喜的な笑いにひるみ、思わず一歩後ずさる。
普段のナナシとはまるで別人だ。
彼女の声には、普段の冷静さや落ち着きが一切なく、ただ狂気が渦巻いていた。
周囲の空気が重く、冷たく感じられる。
まるで、ナナシの存在そのものが異質な何かに変わってしまったかのようだった。
その瞳はどこか遠くを見つめるような、虚ろな光が宿っていた。
わずかに焦りを感じる。
目の前にいるのは、確かにナナシの姿をしているが、彼女から発せられる雰囲気が異常だった。
まるで何か別の存在が彼女を乗っ取っているかのように、狂気に染まった眼差しをカズマに向けてくる。
――俺はこれと似たような状況を知っている。
いや、まさか。
あれは演技だったんだろ?
そんな思いも空しく、ナナシは狂っていた。
「世界よ、震撼せよ! 我が存在こそ、運命を断ち切る者……いや、運命を歪める邪神の再来だ! 私に抗えるものなら抗ってみせよ!」
ナナシはその場に立ち尽くし、両手を広げて天を仰ぐ。
その言葉を聞いた瞬間、背筋に寒気を感じた――演技ではない異質なものを感じたからだ。
ナナシの言葉は、まるで異次元から響いてくるような、現実感のないものだった。
――魔力を声に乗せているわけでもないのに。
彼女の存在そのものが、この世界にとって異質なものであると強く感じた。
周囲の空気がどんどん重くなり、思わず足がすくむ。
ナナシの狂気に囚われた姿だけで、周囲の者たちに異常なプレッシャーを与えていた。
このままでは、何か取り返しのつかないことが起きる――直感的にそう感じた。
ナナシはもう、以前の彼女ではない。
狂気に囚われた彼女は、今やカズマたちにとって「敵」でしかない存在へと変わりつつあった。
ナナシは狂気に満ちた笑みを浮かべたまま、ふっと目を閉じる。
そして次の瞬間、彼女の周囲に強大な魔力が渦巻き始めた。
地面が揺れ、空気が裂けるような音が響き渡る。
まるで自然現象そのものが、彼女の存在に抗おうとしているかのようだった。
「何が……? どうして急にこんなことを――」
「し、師匠……これ、は……暴走して……?」
「まさか……またアレか!」
アイリスの疑問にめぐみんが呆然とした表情で呟く。
圧倒的な力の奔流を前にめぐみんはただ立ち尽くし、ダクネスはそんなめぐみんやアイリスを庇おうと前へでる。
「ナナシ! やめろ! お前の精神力はそんなものか! 私と同等のレベルだと思っていたのにたかが自分の中に潜む悪魔一匹御せないでどうする! やめるんだ、自分を取り戻せ!」
いつもの調子ならダクネスに「お前はまずはその性癖を直せド変態!」と突っ込みの一つは浴びせるのに……
ダクネスの声に対して、ナナシはただ冷ややかに笑っただけだった。
そして、半ば開かれた瞳が俺たちを捉えた時、その瞳にはただひたすらに冷たかった。
「自分の中に潜む悪魔一匹御せないでどうする、か。本当に渡しながら恥ずかしい限りだ。まさか偽りの私に抑圧され、なかなか外に出られないなんてね。それに、やめろと言われても無理だ。これは勇者の望――そう、汝が選択した道だ」
「お、俺が何を望んだって!?」
「……魔王との共存だよ。これこそが、世界の運命を断ち切るための唯一の方法だ」
「でも、こんなのは――」
俺が反論しようとしたその瞬間、ナナシはさらに魔力を解放し、空気がさらに重く圧し掛かってくる。
ナナシの声は、まるで遠くから響いてくるように低く、異質だった。
そしてこう続けた。
「そろそろ私の魔力が暴走する。望月が満ち満ち足りていく、その瞬間を刮目せよ。お前たちは、その果てに何を見るか……楽しみにしているといい」
「何をしようと……」
「さて……世界の終焉を見せてやろうか? さもなくば……抗え!」
その瞬間、ナナシの体から放たれた魔力の波が周囲に広がり、凄まじい圧力が全てを押し潰すように襲いかかってきた。
地面が砕け、大地が裂け、風が嵐のように吹き荒れる。
目に見えるすべてが、彼女の魔力の前にひれ伏すかのように歪んでいった。
めぐみんや他の仲間たちも必死にその場から逃れようとする。
ナナシの魔力は彼らの逃げ道を遮るかのように、さらに強まっていく。
「これが……邪神の力……!」
めぐみんが苦しそうに呟きながらも、懸命に抗おうとする姿が目に入った。
何とかしてこの状況を打開する方法はないのか……!?
かつて、この世界では運命に抗うことは不可能だと思われていた。
魔王は討たれ、勇者は称賛される。
それが物語の終焉であり、世界の運命として既に定められた原作だ。
しかし、その運命に抗おうとした者がいた――
その者は、自らの意思で邪神へと転生し、世界の運命を改竄しようとしていた。
世界の流れを変え、原作通りの結末に縛られない未来を模索するために、自らが犠牲となることも厭わない覚悟で行動したのだ。
無謀にも思えるその試み、その一手は、世界に一瞬の混乱をもたらす。
そして、最終的には元の軌道に戻っていくことを繰り返す。
いくら繰り返しても決して覆らない運命の強固さ。
――運命を断ち切るには、さらなる劇的な変化が必要だ。
そして今、世界の運命は再び揺らぎ出そうとしていた。
目指す先は、再び運命を歪め、勇者カズマによる魔王討伐という既定路線を破壊すること。
このままでは世界は予定通りの結末を迎え、すべてが定められた運命通りに進んでしまう。
だからこそ、すべてを投げ出し、かつての仲間と敵対する道を選んだ。
今、世界は再び揺れ動こうとしている。
全てをかけて挑む運命の戦いが、静かに幕を開けようとしていた。
次回
魔王と勇者とそれから邪神
どっち!
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討伐
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共栄