カズマは魔王との共栄を目指す。
だが世界の運命はそう簡単なものではない。
だからこそ、主人公ちゃんは…………
で、魔王の城で魔王の座を奪って中二病絶頂期の主人公ちゃんが生まれたって訳。
<カズマ>
──こんなの、どうやって勝てってんだよ。
戦場を見渡しながら、額に冷や汗を浮かべる。
目の前では、アイリス、魔王の娘、そしてその父である魔王がナナシと対峙。
魔王といえども、ナナシ――いや、今や「ソレ」と呼ぶべきか?――の圧倒的な力の前に、苦戦しているのが明らかだった。
ナナシは変わらぬ無表情で、魔力の波動を纏いながら三人に襲いかかっていた。
その動きは、まるで舞を踊るかのように優雅でありながら、死をもたらす刃そのものだった。
アイリスは稲妻を纏った神速の剣技を繰り出し、魔王の娘は炎を纏った槍を構えて攻撃を繰り出している。
魔王もその強力な魔力で攻撃を放っているが、それでもナナシにはまるで通用していない。
「シットですわ! さすが、私のパp……いえ、父親の側近なだけあって手強いですわね! けれど、それはそれ、我が家を壊す不届き者にはご退場いただかなければ!」
「くくっ、一体いつからここが貴様らのフィールドだと錯覚していた? 結界や扉など、すべての所有権は私のもの……土地すらもすでに我に所有権が移っている! おとなしく退去せよ!」
「なにしてくれちゃってますの!? こうなれば私たちの力を見せ、由緒正しき代々伝わる魔王領土の所有権を奪還する必要がありますわね!」
魔王の娘はそう言い放つと、一層の力を込めて槍を突き出した。
炎の渦がナナシを包み込み、その一撃は彼女の全身を直撃したかに見えた。
……が、次の瞬間だった。
不気味にニヤリと歪められた口。
ナナシは無傷のままその炎を払いのけた。
まるで何事もなかったかのように、冷ややかな目で彼女を見つめる。
「それでもこの程度か? 魔王の娘。だとすれば失望ものだな」
「……ッ!!」
ソレの口から静かな声が漏れた。
挑発に乗った魔王の娘が五月雨が如く突きの残像を作る、が、それも軽く手を振っただけで攻撃をいとも簡単に弾き返す。
アイリスも必死に隙を見つけようと、剣を構えて再びナナシに挑む。
彼女の剣筋は確かに鋭く、速い。
しかしそれすらも完璧に読み切っているかのように、アイリスの攻撃を避け続けていた。
「人間の! 俺の魔法の邪魔だ! 引け!」
魔王が声を上げる。
アイリスは無駄のない動きで、ナナシの隙を突こうとしているが、どうしても決定的な一撃を与えることができないことにしびれを切らしたのだろう。
しかしそんな魔王の一撃でさえ届くかどうかわからない。
防御は鉄壁そのものであり、その強大な魔力にすら揺るがない。
「人類最強がどんなものかと思えば、こんなものか……」
「ですが負けてはいませんよ? 人道踏み外した貴女のためにも、私は、ここで負けるわけにはいきません! 私たちが……絶対に勝ちます!」
「勝つ! 勝つと! この私に! フハハハハハッハ……はぁ。ほざけ。矮小なる存在はただ静かに、終焉の時を待てばよい。これは神の決定である」
ナナシは冷淡にそう言うと、アイリスの元へ一瞬で詰め寄る。
驚きのせいか、アイリスの剣は柔らかさを失い、再び攻撃を繰り出そうとするも、先ほどより切れがない。
ナナシの攻撃の反動を直に受け、吹き飛ばされるようにアイリスは後ろへ下がり、剣も死ぬ。
ナナシが一突きすれば命が刈り取れる状況にあっと声を漏らすが、魔王の溜めていた魔法により追撃は免れる。
むしろその不意の魔法はナナシを捕らえた。
激しい爆発音と灼熱の熱風を見てどうなったかと確認するも、ナナシはその焔を払いのけ、歩み出てくる。
「ふふっ、これが痛み……ダメージを負う感覚か……!」
多少のやけどだった。
その爛れさえも数秒とたたないうちになかったことになる。
魔族の頂点の攻撃でさえこの有様。
──くそっ、どうすりゃいいんだよ……
アイリスたちの激闘に巻き込まれないよう遠巻きに見て、ため息をつきながら頭を抱えたい。
そう思っている俺の隣で、半泣き状態のアクアが女神らしく力を振り絞って支援魔法を唱えていた。
「いやだ、もういやぁだぁ……! かじゅまさん助けでぇー! 死にたくない、帰りたいよぉ! もう逃げ出していいわよね! いいわよね! だって逃げることは負けじゃない、逃げるが勝ちって言葉があるじゃない!」
……訂正。
生に執着してるだけでいつも通りの駄女神でした。
「おい、駄女神! 女神らしく仕事してると思ったら! 泣き言言ってないでしっかり支援してくれ! お前の支援なかったらアイリスが! お前が頼りなんだからな!」
「だからやってるじゃないのよー! 私だってこれ以上は無理ぃヒィィッ! 今おっきい瓦礫の破片飛んできたんですけど! 戦いの余波だけで死にかけなんですけど!」
「俺は戦い始まる前に一回死んでるんだよ! ほら、ビシバシ働け!」
「いやよ! 残業はいやあ! 私先帰ってていいかしら!? このままだと巻き込まれて尊き私の存在が消滅しちゃって、それって世界の損失だと思うの! ゼル帝のお世話もしなくちゃだし……」
「我が身かわいさに人類見捨てんな!」
「そういうカズマさんこそ一人で潜伏スキル使って隠れようとしないでよ! 私も連れてって! 安全地帯に連れてって! 戦うなんてまっぴらよぉぉお゛!」
鼻水と涙を垂れ流しながら、必死に魔力を込め続けているアクア。
そんな中、めぐみんはというと……
ナナシを倒すために爆裂魔法の詠唱中だった。
「ふふふ、かっこいい……かっこいいのです! その調子ですよ師匠! 師匠が新たな魔王となった暁には、私がその側近役をするのです!」
「何ナナシのこと応援してんだよ! ……魔王たちを標的に爆裂しようとすな! ここでやったら崩れるどころかアイリスたちに被害が……。ちょ、目が赤い! そっちが本気ならこっちも本気でドレインタッチすんぞ!」
「ブー」
「ふてくされんな! あれだ、ナナシを止めたら世界の危機を救った英雄だ、やる気出てきただろ?」
「そういうカズマは全くやる気ないですね。それに、私は世界の危機を救った者という称号より魔王の側近の方が琴線に響くといいますか……。いや、待ってください。ここで私があの四人を倒せば……私こそが真なる魔王に……!?」
「何言ってんの? この緊急事態になに不穏なこと言ってんの!?」
「いいでしょういいでしょう! 私が一網打尽にして差し上げましょう!」
「差し上げんな! あとでやらせてあげっから一回おとなしくしてろ!」
問答無用とめぐみんの首根っこをつかんでダクネスの方へ放り投げる。
俺たちじゃ手に負えない相手だ、一先ず作戦を考えるためにも逃げよう!
そう思ってた俺は戦いの余波に巻き込まれないように泣きじゃくるアクアの手を引き、ダクネスはめぐみんのことを抱きかかえながら巻き込まれないように逃げる。
そんな中、ダククネが俺に。
「カズマ、私はあの猛攻の中アイリス様を守らねばならないのだ。先に行ってく……」
「イクな! お前の場合はあの猛攻の中に入ったらどれだけ気持ちいいかしか考えてないだろ! 戦闘のお荷物になりたくなかったら大人しく変態は下がってろ!」
「くっ……/// 時と場合を考えろ……こんな時まで自分の欲に忠実なわけじゃ……にゅん///」
「今攻撃の威力を妄想したのと俺の罵りで興奮したろ」
「し、してにゃい……!」
何でうちのパーティーメンバーはこんなに頭のおかしい奴らばかりしかいないのだろう。
現状に涙を禁じ得ないでいる中でも闘いは苛烈化していく。
そうこうしているうちにナナシの攻撃を受けたのか、魔王がこちらに吹き飛ばされ、壁埋め状態になっていた。
「オイイイッ! お前、なぁに易々やられてんだよ! 魔王だろ! もっと頑張れ!」
「老体に無茶言うな!」
ものすんごい衝撃的な状態だったのに、意外とダメージが少ないようですぐに突き刺さった頭を壁から抜く魔王。
自分が埋まっていた穴を見て修繕費を考えたのだろうか、哀愁漂うその背中。
その…………老体にむち打って頑張ってください。
かわいそうにと思っていると魔王がこちらを見て。
「というかお前勇者なんだろ! 困ってる人がここにいるぞ、勇気100倍で邪神に、世界の敵に立ち向かうのが道理だろ!」
「やだね! 俺はハイエナマスターのカズマさんと呼ばれた狡猾な男。邪神と魔王が戦ってるのを見て、どんな戦いをしてるかを見定め、敵同士つぶし合ってもらった後、全部かっ攫っていかせてもらう!」
「姑息で卑怯なこそ泥め! 勇者だからって人の家に不法侵入が許されると思ってるのか! そもそもそれは諦めた方が良さそうだぞ?」
全スキル・全魔法を取得できる冒険者の職を極めたナナシ。
多種多様な攻撃を組み合わせるその戦闘技法はもはや一つ一つが見たこともない異質な特殊攻撃。それが数百、数千どころじゃない。
組み合わせることでパターンが指数関数のように膨れ上がり、その場その場でその膨大な組み合わせの最適解をコンマにも満たない刹那の時間で判断し繰り出す。
ムリゲーじゃね?
そんな中、魔王が息を荒らげつつ。
「こんなことを言うはめになるとは、世の中ままならないな。おい、勇者。もう人類とか魔族とか、そういうことを言っている場合ではない状況――世界の危機だ。だから、一つ提案がある」
「奇遇だな魔王、俺からもある……」
「共闘しないか?」
「にg……ま、まあ利害の一致ってやつだし、いいと思うぞ?」
……逃げようかって言おうとしてたのは黙っておこう。
「ふっ、ふははは! いいだろう。 後れをとるなよ!」
「無理無理! 冒険者の基本がナナシだと思っちゃいないか!? 俺は無理! というか人にそんなこと言うってことはアンタはアイツのことどうにかできそうかよ!? 策があんのか!?」
「お前こそ、勇者ならなんとかならんのか!」
「こ、コイツ! 他力本願か!」
「奇想天外な姑息な手は人間の強みだろ! 俺が止めておくから早めに作戦を考えておけ!」
俺の返事も待たずそんな勝手なことを言って行ってしまった。
……どうする。
俺たちには決定打がない。
あってもめぐみんの爆裂魔法くらいだ。
「なあめぐみん、爆裂魔法でナナシ倒せるか?」
「あの人の結界の性能を知ってて言ってます? それともウォルバクお姉さんの一件を忘れましたか? それに、今の師匠は全身に魔力を巡らせているので結界がなくても並大抵の防御力ではありません。ダクネスの上位互換です」
「お、おい! さすがに私の方が防御力上だと思うのだが!」
「魔力を巡らせたらって話ですよ。なんなら体外の表面が魔力で覆われているので魔法が到達する前にかき消されます。私の爆裂魔法で大ダメージは狙えますが、しかし致命傷には……」
「そうか。どうにかしてできないかなと思ったんだけどな……結界…………結界………………っあああああああっっ!」
「っるさいわね! 人のこと指さしたあげく耳元で叫ばないでちょうだい!」
「おま、お前女神じゃん! デストロイヤーの結界だの魔王城の結界だの、結界破壊のスペシャリストじゃん!!」
「…………私?」
自分の後ろを見て誰もいないのを確認して、きょとんと自分を指さすアクア。
自分のことだとわかった途端、またしても目がうるうるし出し。
「いやよ! 私を死地に送るつもりねこのクソニート! そんなことさせるんだったら一目散に逃げてやるわよ!」
「神は神らしく人の願いを聞きやがれ! というか遠くから当てるだけだから逃げんな!」
「ううっ……帰ったらシュワシュワ奢ってよね!」
シュワシュワでいいのかよ。
まあいいや。
帰ったら好きなだけ浴びせてやる!
だが、まだ問題は解決しちゃいない。
どうやってナナシを止めるか……
きっと正気に戻れるようなレベルの衝撃を与えたらいいと思うんだが、爆裂魔法でも足りないとは……
結界が解除された瞬間にアイリスとめぐみんが同時攻撃とか?
いや、アイリスが巻き込まれる。
それにアイリスの一撃は広範囲でないためすべていなされている。
ダクネスに庇ってもらっても爆裂魔法は全体攻撃魔法、前面からの攻撃を庇っても後ろから横から攻撃はやってくる。
そう思ってるとめぐみんが。
「カズマ。先ほど爆裂魔法では決定打にならないと言いましたが、少々語弊がありまして」
「語弊? どういうこった」
「爆裂魔法2発分ならいけます。私が爆裂魔法をすぐに二回使えば結界が再構築される前に、回復される前に、師匠を昏倒させられるダメージは十分見込めます。未だかつてない魔力の吹き出し方なので確証はありませんが」
「ほんとか! いや、でもそんなことしたら……」
「普通なら私が魔力を使い切り、体力が0になり干からびるでしょうが、まあアクアがいますしね」
「ま、マジで? おまえマジで言って……」
目を爛々と赤く光らせているうちの爆裂狂いはとうとうその域まで達してしまったらしい。
仲間の命を犠牲に倒すなんて……考えられないな。
もし本気で言ってるんだったらなんとかして止めないと……なんて思ってたら。
「嘘です。というかそんなことしたら単純に不発で……ああっ、無言で頬を引っ張らないでくだひゃい! 爆裂魔法二回分打てばいいことを伝えたかっただけなのです! やはり爆裂魔法こそ至高!」
「……もしかして、マナタイトをくれってか?」
「そういうわけです。というわけでマナタイトをよこせください」
「王城においてきちゃってるわ! ほかに何か方法は……!」
アイリスたちが足止めをしている。
ギリギリの様子を見て焦りが先行して考えがまとまらない。
くそっ、どうすれば……頭をかきむしり知恵熱が出るほどに脳みそを回転させていたそのとき、赤い瞳がくっくっと笑いを浮かべながら、悪魔のような提案をしてきた。
「……カズマも覚えてみては? 爆裂魔法」
次回
二人は爆裂魔法使い
どっち!
-
討伐
-
共栄