生きていたナナシ、レールガンぶっぱ始める
「先ほど、私たちにくれたプレゼントのお返しから参ろう」
ナナシがそう言うと、先ほどまで亜空間を開いていた手を解除し、天の方へ突き出す。
するとまたたくまに俺たちを取り囲むようにして歪な亜空間と現実の隙間が開き、最強の魔法使いの魔法が五月雨のごとく降り注ぎ始めた。
「皆さんこちらへ! 『カースド・クリスタルプリズン』――ッ!!」
ウィズがそう言って、氷の監獄を頭上に展開する。
アンデッドの王と呼ばれるリッチーが開発したオリジナル魔法は攻撃力もさることながら、その実は防御に傾倒した魔法だったらしい。
氷の分厚さは数メートルに収まらず、爆裂魔法の爆風を跳ね返さんと樹氷が成長し続ける……
が、堅牢な魔法を溶かしつくさんと熱線が間を置かずに次々と到来する高密度に圧縮された爆裂魔法の嵐は氷を蹴散らし徐々に氷の壁を突き破らんと迫ってくる。
「お手伝いしますわ、あの邪神にはお家を破壊された恨みがございますの!」
「そうだな、アタシもリストラされた上に就職先を勝手に決められた恨みつらみがある、お供すんぜ!」
そう言ってウィズの背中に触れたのは魔王の娘とセレスディナ。
魔王の力の大半を継承している彼女と上級職の中でも特殊なダークプリーストの思いが共鳴しながらが繰り出す支援は、アクアが俺たちにかける支援魔法と遜色変わりない。
ウィズのカースド・クリスタルプリズンの結界が防御壁となり、魔王娘の支援やセレナの支援が加わり、なんとか攻撃と防御の均衡が釣り合った。
「ゆんゆん、あと何発くらいでこの魔法が終わるかわかるか?」
「すみませんカズマさん、めぐみんたちが何分何十分と打ち続けた魔法、一体どれだけ吸収されているかわかりません……少なく見ても100発は確実かと」
「うわー、マジかぁ……なんとか耐え忍びつつ隙を見せた瞬間にゆんゆんに攻撃魔法を打って欲しかったんだが……望みは薄いかぁ」
「そうですね。それに、攻撃の密度があの先生にしては生ぬるいというか。手加減しているのか、それとも節約のためかは分かりませんが、100%の全力は出し切れていないように思えます。まだこれならめぐみんが撃ってた時の方が密度が高かいように……」
ナナシは長時間、これの倍の密度で魔法を食らってもこうして生きていた。
その事実に驚愕し恐怖を感じつつも、現状を打開しようとなんとか死に物狂いで策を巡らせる。
早くしないと攻撃と防御の均衡云々の前にウィズたちの魔力が尽きてしまう。
あーでもないこうでもないと極限の状況下でうなっているとアクアが。
「ねえカズマ! まだなの、テレポートの準備はまだなの!? 早くこんな危なっかしいところから逃げないとステータスがダクネスみたいなゴリゴリのゴリラじゃない私たちはお陀仏よ!」
「そんなことぐらい知ってるわ! でもさっきの魔法、テレポートを阻害する魔法みたいで転移できないんだよ!」
ディメンショナル・ロックだったか。
聞いたことがない魔法だが、もしかしたら魔法に詳しいウィズやゆんゆんならわかるかもと思ってそちらを見ると、二人とも首を横に振る。
「紅魔族でも知らない魔法ですよ。しかも広範囲に作用するタイプみたいで……私も試しているんですけど全然テレポートが起動しないんです! 今この封印魔法の解析をしてるので、それまではどうか持ち堪えてください! 解析が終了したらすぐにテレポートです、でないと先生が別タイプの転移阻害魔法を使ってきます!」
「ああああああっ゛! どうしてこんなことになっちゃったのよ! もしかしてさっきのアレなの!? 『シュワシュワ飲み放題っていう話にはもちろん高級シワシワも含まれてるわよね?』って私が言ったのがフラグになっちゃってたの!?」
「おい、慌てたって何にもならないだろ、落ち着いて何かお前も策考えるかしてくれ。あれだったらナナシに向かってダイヤモンドをカットする要領で超高圧で水を噴射して攻撃するんだ。きっとお前の宿敵、ジャイアントトードだって一撃で葬りされるぜ」
「エグい! カズマさんてばなんてエグいことを考えるのよ! そしてなんてことをやらせようとしてるのよ!」
「それじゃあ何か、この封印を解けるんだったらそっちの方に尽力してくれた方がありがたいが」
「……………………あ」
「あって何だよ。もしかしてナナシの封印魔法は解除できんのか!」
「ま、まあ多分? いやでも、解除できるっていうか女神の加護を与えて状態異常を無効化するだけだし、カズマとゆんゆんにはかけられるかもだけど、ウィズみたいな女神と真反対の存在には無効よ。この封印自体は空間にかかってるから、魔法が発動しても私たちを守ってくれてる3人は置いてきぼり……」
普段アンデッドや魔王軍を目の敵にしているアクアらしからぬ発言だ。
とは言っても確かにウィズの事となると……この前なんかウィズに恋人ができたっていう騒動の時に一番親身になって寄り添っていたのは他ならぬアクアだ。
これがもしエリス様だったらこうはならないだろう。
「カズマ、何か方法はないの!? あそこで頑張ってくれてる3人がこの危ないところを離れる方法はないかしら!? そのいつも強敵たちに向かう時に使ってる悪どくて小賢しいを作戦を考えてよ!」
「やかましい、今考えてるところだからお前は加護の準備でもしとけ!」
いつも自分本位なアクアが珍しくそんな他人を思いやるような発言をする。
でも、お前の加護が無理だったら俺たちだけで1回離脱するしかないんじゃないか?
ウィズとか魔王の娘は人間じゃないからなんとか逃げられそうだし、むしろ俺とアクアがいるこの現状は守らなければいけない足手まといが後ろにいるっていうことに他ならない。
そう、足手まといだ。
この戦闘において今のところ俺たちは何も役に立っていない。
ただひ弱で守られるだけの存在。
魔王軍幹部の3人のように攻撃に対抗する手段はなく、ゆんゆんのように魔法を解析するなんてのもできない。
ふとそんな時、まるで天恵のように俺の脳内に1つの作戦が思い浮かんだ。
「…………いや、おいおい。ちょっと待ってくれよ」
「どうしたのカズマ? もしかして何か思い浮かんだの? それとも考えすぎて頭痛くなっちゃったのかしら?」
「まあ、なんと言うか一応思い浮かんだっちゃ思い浮かんだんだが……」
アクアがパァッと顔をほころばせる。
喜んでるところ悪いが、これを実行すべきかどうか俺は悩んでいた。
だって俺が考えてた作戦ってのは――
セレスディナの質問に何か引っかかりを感じた。
「人間と敵対していたウォルバクが助かったのはお姉様のおかげだ。……今回もそういう何かを成し遂げたいっていうことなんだろ?」……あのときはウォルバクを救うためだったが、今回も誰かを救うためなのだろうか。
ナナシは言っていた。
「我が肉片の一つも残すことなく、この肉体が滅ぶまで私は戦い続けなければいけない宿命にある。」……なぜ体が滅ぶまで戦うことを運命と呼ぶのか。
「過程は重要じゃない。偉人の功績は、歴史は、この世は、結果だけが残る。故に結果次第で、未来は、運命は、世界は変わる!」……世界を変えたいと切に願うその気持ちは一体何に向いてるんだろうか。
「本史である勇者と魔王の戦いに代わり、汝と私が戦う。ただそれだけのこと」俺と戦うことで、決着をつけることで一体何が変わるというのだろう。
そして「魔王からは逃げられない」……逆をいえば1対1で勝負を挑んでくる冒険者から逃げて魔王はもう魔王とは言えない。
ナナシの発言からわかったのは、ナナシは何かを守るために世界を変えたいってことと、そのためには俺と……勇者と戦う必要があるってことだ。
――つまり、ナナシの願いを叶えれば、この戦いは終わる。
ナナシの目標を叶えてやれば、俺が勇者のように魔王を自称するナナシに立ち向かえば終わるんだ。
「……ったく、しょうがねえなぁ!!」
俺のもはやお決まりの叫びにキラキラと信頼で目を輝かせるアクア。
作戦は「俺がナナシを相手することで他の5人を逃がす」。
どうせ俺には女神様(アクア)がいる。
それに俺の幸運値は高いらしい。
死んでも生き返らせてくれるって信じて、俺はアクアに。
「アクア! 俺にありったけの支援魔法をくれ! そしたらなんとかしてこの戦いを終わらせてやる」
「ほんと!? 本当にカズマさんに任せていいのよね!? 一体どんな作戦を立てたっていうの!?」
「簡単だよ。…………俺が、1対1でナナシを相手する。テレポートでダンジョンに一緒に飛んで、お前らからナナシを引き剥がすから……」
「いやいやいやいや、それは無茶ってもんでしょう? そもそもその作戦って呼べるかわからないそれでこの戦いが終わるの?」
「ナナシの目的は俺と戦うことだ。俺と決着がつけば終わるはずだ。それに無理だって言って、結局魔王軍幹部を討伐してきたのが俺たちだぜ? それに、何も力もなかった最弱職の冒険者がラスボスを倒すってのはかっこいいだろ?」
俺はアクアの方を見て、ニカッと笑いながらグッドサインを見せつける。
普通の人だったらあんな人外に挑むだなんて自殺願望者かと止めるに違いなかろうが、アクアはあっけに取られ、次の瞬間俺と同じサインを見せつける。
「はぁ……分かった、分かったわよ。貧弱なカズマさんがのじゃロリちゃんと一対一でやり合うってことでしょ? とりあえず骨はエリスに探させて拾ってきてもらうわ。だからちゃんとその骨とか肉片とかでもいいから残るように立ち回りなさいな。幸運値だけが取り柄のカズマさんなんだからそれくらいできるでしょ?」
「いや、何で俺が負ける前提の話し方すんだよ! 別に負けるつもりは……」
「私の曇りなきまなこと女神の感が死亡フラグしか見えないと言ってるわよ? そもそも勝つビジョンが浮かばないんですもの」
「お前……」
「でもね、今までの経験的にカズマさんならなんかあっと驚くような姑息な手で切り抜けちゃうんじゃないかっても思うの」
アクアなりのエールだろうか。
なんか所々に俺のことを褒めてないような言い回しがあったような気もしなくもないが、それがなんとなくいつも通りで心地よい。
変に調子を狂わさずいつも通り。
まるで家からギルドに顔を出すときのようにごく自然とアクアに背を向ける。
「色々と手はあるさ。本当にどうしようもなくなったら、テレポートで先にアクセルに帰るから。ナナシがここに帰ってこなかったら俺が倒したと思ってくれ。そしたらゆんゆんのテレポートで帰還な」嘘だ。俺が登録しているテレポート地点は「王都・魔王城・ダンジョン」だし。そもそも逃げるつもりはない。何かしらの形で決着をつけるつもりだが……「もし倒せなくて、それでまだ俺たちと敵対してるってんならめぐみんの爆裂魔法の嵐に加えて紅魔の里のあのヤバそうな機械とゆんゆんのお友達と一斉放火してやれ。めぐみんが回復するまでの時間稼ぎはしてやるからさ」
「……いいのね?」
「もちろん。さっさと始めるぞ! 俺の気持ちが醒めないうちに……!」
「わかったわ、本当に信頼してるんだから! 『パワード』『プロテクション』『レジスト』『ヘイスト』――――水の女神の名において、とびきりの祝福を! 『ブレッシング』ッ!! ちゃんと帰ってきなさいよ!」
未だ膠着状態が続いているようだ。
いつ均衡が崩れるかわからない。
それを理解しているのかそれともしていないのか……多分してないんだろうなこの駄女神様は。
ただ俺の言葉を信じて送り出してくれた。
なら俺はその言葉に応えるだけだ。
「よし、それじゃあ行ってくる」
「もやしっこなカズマさんじゃ、まともに攻撃を食らったら即死なんだからね? しっかり逃げて逃げて逃げまくりなさい。カズマはやればできる、できる引きニート! 逃げるのは負けじゃない。逃げるが勝ちという言葉があるんだからね」
「なんかそこまで言われると腹立つまであるからやめろ! ……ったく、俺を信じろ。俺が真正面からかっこよく最後まで戦う男だと思ってんのか? ニートってのは諦めが早いんだよ」
「知ってるわよ。諦めが早いのも臆病なのも。雰囲気に流されやすいへたれなのも。後、なんだかんだで最後には必ず何とかしてくれるっていうのを知ってるから、だから死なない程度におちょくってやんなさいな。――『汝、佐藤和真に女神の加護を』!」
「……よし、転移できそうだ! 今まで適当な応援してくれたの忘れずに帰ったらぶん殴ってやるから。俺の帰りを楽しみにしてろよ!」
「そ、それは楽しみじゃないんですけど!」
もうチートなんて望まない。
伝説の魔剣やすごい才能、何物にも負けない力も必要ない。
だから
「行くぜ! ナナシ!」
俺は持ち前の運で爆裂魔法の線を避けつつ、ウィンドブレスとティンダーで推進力を得ながら、ナナシの方へ猛突進を仕掛け……
テレポートの魔法を発動した、その瞬間。
ナナシの口が異形のように大きく歪んだ。
「……待っていた、待ちわびていたぞ、この瞬間を」
次回 勇者と邪神 最後の戦いへ
どっち!
-
討伐
-
共栄