ウィズたちがナナシの攻撃を防御。
その間にカズマがなんとか作戦を練り上げ……
俺はナナシのことをダンジョンに誘拐しようとして――その実、俺はそうするように誘導されていたのだろう。
「……待っていた、待ちわびていたぞ、この瞬間を」
ナナシにそう言われた瞬間、背筋がゾクリと震える。
一体いつ俺がそうするように誘導したのかわからない気味の悪さが来たいから嫌な汗を吹き出させる。
もしかしてテレポートの権限を奪ってダンジョンじゃない別の場所に飛ばされるのか。
はたまた、ナナシが抵抗して無意味に俺だけがテレポートする――仲間を見捨てるわけもないのにはたから見ればそういう風にしか見えない構図に陥るのか。
一瞬そのような不安を抱えるも、転移魔法は正常に作動して俺とナナシを世界一深いダンジョンの最下層へと誘った。
目の前に広がるその目的地通りの光景を目にして、安心するも急いでナナシから距離を取る。
「おや、私のことをエスコートしてくれるんじゃなかったのかい?」
「むしろお前がこうなるように俺を誘導したんだろ?」
「確かに、私の保有するダンジョンの一つだ、ゲストをもてなすのはホストの務め。私の方がエスコートする側か」
「ッ!!?」
そういえばそうだ、ナナシはダンジョンに潜りまくって色々なダンジョンを経営してるとか言っていたな!?
まさかこの場所もナナシの管轄だったとは……
何で俺っていうやつは敵の本拠地に敵を送り届けるなんてことをしてしまったのだろうか、マジで数分前の俺を殴りたい!
そんなことを思っているとナナシは中二病のような笑いではなく、クスリと小さく笑いながら俺に。
「今は警戒しなくても大丈夫だ。会話の時間だからな」
「その言葉を俺に信じろって? そもそも会話が成り立つんだったら……」
「戦わずに話し合いで物事を決めろとな? 無理であると知っていように」
「……心の中でも読んだか?」
「はて、どうであろう。そも、信じても信じなくとも結果は変わらぬ。故に聞き流してくれてもかまわんが……できることなら聞いてくれ。少し、世界の真理について、私の目的について打ち明けようと思う……そうだな。まずは私の目的について話そうか」
「正直、興味がないことはないが厄介ネタにしか思わないからやめてくれ」
そう言って、地面に腰をおろし、目をつむり、全く警戒心のない様子で俺に話しかけてくる。
なんならこっちに来いと言わんばかりに手招きをしてくる。
先程の禍々しく恐ろしい殺人機械のようなオーラとは似ても似つかないナナシに俺は距離を詰める。
「警戒するでない。むしろ聞かねば後悔するだろう。そもそも私はカズマ、汝の願いを聞き届けようと思い、こうして破壊神が如く全てに敵対していたのだ」
「……俺の願い?」
「言っただろう『別に魔王を倒さなくてもいいじゃん』と。汝は人類と魔王の共栄を望んだのだろう? だが運命は決まっていて変えられない……のなら、お前に変えてもらうことにしたのだ、カズマ」
俺はナナシとの間合いを詰めていく。
何と言うか、俺のためにこんなことをしてたらしいが、言ったとしたら迷惑極まりない。
「確かにそんなこと言ったかもしれないけど……それが一体どうして、お前がさっきみたいに暴れることにつながるんだよ。世界の運命ってのも……」
「……それを知るためには汝、世界の深淵を覗く覚悟をせよ。深淵を覗く時、汝もまた深淵に覗かれているのだ」
「じゃあいいです」
俺は目を瞑ったナナシの背後より近づいていた。
覚悟をうんちゃらと言われたときにはすでに背後をとっており、わずかに躊躇いがありながらも、俺はその心臓目がけて刃を突き刺したのだ。
『デッドリーバックスタッブ』
アサシンさんから教わったこのスキルは相手に気づかれない状態で背後から攻撃すると一定確率で致命傷を与えるという必殺スキルだ。
気づかれていない状態という条件下でなければ必殺スキルとしての効果はないが、一体
そんなこと言われた時俺は「ふざけんなッ!」と思わず殴ってやったが、スキルを習得して確かにわかった。
そもそも、単純に相手の急所に突き刺せば、スキルがあろうとなかろうと――必殺である。
突き刺した背中から鮮血がドクドクと漏れ出る。
自分が握る柄が伝えてきた肉の感触が、自分の悪辣極まりない行動が吐き気を催させる。
俺は思わず口に手を当て刀を手放し恐怖で尻餅をつく。
いや、冷静になるんだ俺。
アクアが、エリス様がいるじゃないか。
幸いと言っていいのか、肉体は残っている。
つまりそれが示すところは、ナナシの蘇生が可能ということだ。
支えがなくなったおかげで一言も声を発さずに前方へ倒れるナナシ。
1周回って冷静にそれを見たら、飲み込んだ吐き気がさらに波のようになって押し寄せるも、それと同じくらい戦いが終わったという達成感が心の中を空っぽにさせる。
ただただ静かな空間には俺の荒く乱れた息だけ。
心の中で「ようやく終わった……」と、ポツリとつぶやくと。
「ふむ、存外悪くない一撃であった」
「ッ!!?」
ほどけた緊張と恐怖ですっかり足腰から力が抜けていた俺は目の前の死体から聞こえてきたそんな声で思わず立ち上が――ろうとしたんだが、ふと安心してしまったせいで今までの疲れがどっと出て、うまく力を入れることができない。
背中に突き刺さった刃を掴み、それを引き抜く化け物。
人間ならば心臓を貫かれればそりゃ死ぬだろうと思って突き刺したんだが……
「そして次はバトル再開、か? ……そんなに冷や汗をかいて、一体どうしたというのだ」
「……さすがに化け物過ぎだろ」
「魔王だって即死攻撃は無効である。故に、私も同じく。何一つとしておかしなところはない」
「でも、さっき刺した時、確かに心臓の感覚が……」
「心臓はあるぞ?」
何言ってんだこいつ。
いや本当に、心臓あるなら心臓が急所に決まってるだろ。
それなのになんで即死攻撃効かないんだよ。
「……ああ、たった一つ心臓を潰された程度じゃ息絶えることはない。そも、この体自体魂を収める殻に過ぎない。もうすでに魂を繋ぎ止めておくだけの力はこの肉体には存在しない。であれば肉体から解き放たれるべし。殻が空となっているのであれば、それすなわち肉体の破壊は魂の破壊を意味しない。まあ、通常の人であっても魂の破壊はそれ相応の呪縛が必要であるが」
「また変な邪法に手出しやがったのか……」
「今更気づいたか? 変と言われるのは癪だが、間違いでもあるまい。早急にこのことに気づき、我が肉体を消滅させれば決着であったのかもしれぬ。が、気づくのがちと遅かった」
自分の胸から引き抜いた刀――ナナシの邪法と比較するまでもなくダントツで変な名前をしている――の血をふるい落とし、やはりぎこちない動作で俺の方に向かってくる。
俺の直感を信じるとすれば、ナナシの体力や魔力は底を尽きている。
それゆえか自分の体を修復しようとする様子が見られない。
いや、空の体というのなら、修復せずとも問題ないと言い換えてもいいのかもしれない。
いわゆるゾンビアタックというやつだ。
どんな攻撃をしたところでそこに体が存在する限り動き続ける。
通常なら無敵と言っても過言じゃないだろうが、だからこそ俺はそこに――回復魔法を使わないところに勝ち筋を見いだした。
俺はマナタイトを使って
「『クリエイト・アースゴーレム』!」
「おお、なかなかに立派な木偶の坊だ……して、このような土人形で一体この私をどうするというのだ。マナタイトを使用したのだろうがこれでは勝算はないことくらい理解しておろうに。また小賢しい手を考えておるのか?」
「言うと思うか? てか、むしろそんな体で魔法も大したもの使えないのに、どっちが危機的状況かわかってんのか」
「体が致命傷を負った、魔法は使えない……が、だからどうしたというのだ。たったそれだけの状況でなめられたは困る」
「たった?」
「ああ。……くっくっく、ならば最後まで、地べたを這いずり足掻き、その奇策で私を楽しませてみるといい」
体も魔力も不自由ならば、一体何ができると言うんだ。
確かにあの亜空間から引きずり出しているめぐみんたちの魔法は厄介極まりない、が、あの暗闇が発生してから発射までは時間を要する。
そもそも発射したら自爆わざとして機能するから使わないだろ。
だが、俺から何も攻撃しないとなると、一体どんな奇妙な技を使われるのか。
故に俺が勝つには攻撃し続けるしかない。
そして、ナナシを倒すための――肉体を完全に不能にするための魔法の詠唱をするのに時間を稼ぐだけだ。
本当なら攻撃役はめぐみんに、時間稼ぎはダクネスに担ってほしいが、そんな頼れる二人はいない。
「いけ、ゴーレム!」
「巨石のような質量故に物理に特化した攻撃と防御、常人ならば危うかろうが――
「なっ!?」
ナナシが呪文のような何かを唱えた次の瞬間、ナナシを狙っていたゴーレムの攻撃は、その標的から不自然なまでに外れる。
そして俺はそんな指示をしていないのに勝手な行動したゴーレムがバランスを崩し、その巨体は前方へ転げ倒れてしまった。
一切魔法を使った痕跡はない。
一体何をしてくれたんだとこの現象を引き起こした張本人であろうナナシを睨むと
「
「くそっ、まだこっちの準備は終わってないつうのに! ゴーレム! お前はそんな敵の催眠術的な変なのにかかっちまうような柔なやつじゃないだろ!」
「無駄だ、
またしてもゴーレムの攻撃が外れる。
爆裂魔法の攻撃にてようやく破壊されるその壁は鋼よう。
いや、鋼を越えているもはや凶器と言っていいそれに拳を打ち付けるたびにゴーレムは崩れていく。
このままじゃあ時間稼ぎができない……
「『クリエイト・アースゴーレム』! 『クリエイト・アースゴーレム』!」
「三人寄れば何とやら、三矢の教えとはよく言うが……そんな魔力ゴリ押し脳筋戦法で勝とうとは。魔力を温存しなくても大丈夫か?」
「まだまだこっちにはマナタイトがゴロゴロあるんだぜ? 脳筋とでも何とでも言っとけ!」
「……別に、この技術は1対1に特化しているわけではない……むしろやりやすくなったことを感謝しよう。
一斉にナナシに向かって攻撃するゴーレムたちの拳の軌道があらぬ方向へとねじ曲げられ、その拳は互いにぶつかり合う。
ハッタリあんなこと言ったが、マナタイトを割と節約しなきゃならない現状。
攻撃させればさせるほどゴーレムたちの耐久が減っていく。
あんな状態のナナシならワンちゃんゴーレムでも攻撃が入るんじゃないかと思ったが、子供を相手にする大人というか、勝負にすらなっていない現状に冷や汗を垂らす。
だが時間稼ぎにはなっているし、なんなら攻撃せずにナナシの攻撃を耐える防御手段として転用した方がいいんじゃないかと、魔法の詠唱をしながら考えていると――
「うーむ、しかし雑魚でも多いと目障りだ」
ナナシはそんなことをいい、俺とゴーレムたちが一直線になるその軌道に圧縮された爆裂魔法を一閃。
1体のゴーレムを貫通し、俺の方へ向かってくるそれを察し、回避スキルを併用してとっさに避ける。
そしてその光線は、果てのない回廊のような虚空に向かって飛んで行き――どこか果てにやる壁に当たったのか、激しい音とともに爆ぜた。
直後に目に届いた眩い光と、しばらくして伝わってきた熱風。
なるほど、こんな場所では巻き添えになる、死なば諸共で使う自爆技としてしか発動しないと思ったら、貫通できない障害物に当たるまでは直進するおかげで自爆しないのか……
高火力を乱射し放題……そんな絶望的な状況に青ざめていると
「さて、我を滅ぼし得る魔法の詠唱の終了にはまだ時間がかかりそうか。もう少し遊んでやろう、我が力に怯え、必死の覚悟で逃げ惑え」
俺は作戦がばれてることに思わず顔をしかめるのだった。
次回 決着か
どっち!
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討伐
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共栄