閻魔あいちゃんの笑顔が見たい   作:アラウンドブルー

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 飛沫弾さん、☆9ありがとうございます。


 また、UA数4500超、お気に入り件数110件超になりました。感謝の言葉もございません。

 それと、ほんの一瞬だけランキング100位に載っていて驚きました。



地獄少年-其之参

 

 今でも思い出す。故郷フランスの片田舎で、悪魔祓いと称して殺された日のことを。

 

 僕はジル・ドゥ・ロンフェール。本名では無い、苗字は捨てた。

 

 6歳の誕生日、僕は能力に目覚めた。まだ幼かったからその異常性に気付かず、以降家や学校で頻繁に能力を使うようになった。

 

 僕にとって、超能力とは便利な道具だ。

 

 真っ直ぐな線を引きたい時に使う定規のような。

 

 遠くにいる人と連絡を取るための携帯電話のような。

 

 そういう認識だったから日常生活で使ってしまうのは当然だった。

 

 それからだ。両親の、先生の、友人達の、周囲の人全ての、僕を見る目が変わったのは。

 

 誰もが僕を見ると目を逸らした。

 

 愛想笑いをして逃げる者もいた。

 

 次第に周囲から孤立していった。

 

 両親は僕を酷く恐れ、悪魔が憑いた子と呼び罵倒した。

 

 その罵倒は僕の中にいる悪魔に向けていたのだろうが、6歳の僕にはそんなこと分からなかった。ただ泣き喚き、すっかり変わってしまった両親に怯えるしかなかった。

 

 ある日、両親は僕の担任の先生に相談し、先生のツテでやってきた祓魔師を名乗る者に何とかしてもらおうとした。

 

 僕は能力で抵抗を試みたが、ソイツは荒事になれていたのかあっという間に無力化され、磔にされた。

 

 そして悪魔を地獄に送る儀式をすると祓魔師は宣言し、ソイツが吹き込んだのだろう。父さんが僕の指を一本一本入念にへし折って行った。

 

 その後、役目が移ったのか母さんは狂ったように僕の身体を、祓魔師から渡された短剣でメッタ刺しにした。

 

 痛かった、苦しかった。なんで僕がこんな目に遭わなければいけないんだ。

 

 ただ人とは違う能力を持っていただけなのに。

 

 両親の目には僕ではなく悪魔が見えていたのだろう。

 

 そんなもの、いないのに。

 

 僕は僕でしかないのに。

 

 こんな力、無かったら……

 

 何度も何度も刺される内に、痛みや悲しみが憎しみに変化した。

 

 

 

 

 

 ────全員殺してやる

 

 

 

 

 

 母さんも父さんも、傍でほくそ笑んでいる祓魔師も、ソイツを呼び寄せた先生も。僕を認めないヤツらを。

 

 薄れ行く意識の中、いつか必ず復讐してやると誓い僕は地獄へ落とされた。

 

 

 だが、地獄で送る日々は辛いなんて生易しいものじゃなかった。

 

 父さんに指をへし折られた痛みなんて、母さんにメッタ刺しにされた時の痛みなんて、地獄で受けた仕打ちと比べればふかふかのベッドで寝ている様なものだった。

 

 それほどまでに、過酷なものだった。

 

 穴という穴に液体と化した高温の鉄を流し込まれ、串刺しにされ、燃やされ、潰され、喰われetcetc……

 

 あまりにも残虐な刑罰が止めどなく行われた。

 

 だがそんな地獄でも僕は折れなかった。むしろ原動力になった。こんな所に送ったヤツらを、残酷に殺してやろうという復讐心は強くなる一方だ。

 

 地獄の化け物共の目を盗み、着々と力をつけた。

 

 監視があるため能力の開発と制御には時間がかかったが、10年の歳月を経てようやく、ありとあらゆる能力を全開にして化け物共と悪行を犯した愚か者共が蔓延る地獄から抜け出してみせた。

 

 現世に甦った僕の肉体は、時間経過を表しているかのように16歳くらいのものになっていた。

 

 だが、そんなことはどうでもいい。

 

 まずやることは決まっている。僕を恐れ、罵り、否定した両親を惨殺すること。

 

 10年前住んでいた住所を訪れたが家はなかった。引っ越したのだろう。

 

 無論、そんなことで諦めたりはしない。調べ上げ、両親の新しい家を探し当て訪れた。

 

 家にはちょうど、母さんと父さんがいた。

 

 能力でドアを解錠し、『ただいま』と言ってみた。

 

 もしかしたら僕を殺した後、後悔に苛まれ、再び僕への愛情が湧いたのではないかと僅かばかりの期待を込めて。

 

 だがやはりダメだった。彼らは僕を見て恐れ慄いていた。

 

 

 何で、どうして、あの時確かに殺したはずなのに。

 

 

 そう叫んでいた。

 

 怒りに支配された僕は2人を磔にし、彼らにされたことをそっくりそのまま返してやった。そして、地獄で浴びた苦痛の一端を彼らにも与えると更に泣き喚き、懺悔した。

 

 今更謝っても遅い。

 

 そう思ったが、謝ったのは僕にではなく神にだった。

 

 沸騰していた頭は一瞬で冷えた。

 

 結局、どこまで行っても両親にとっての僕は、ただの化け物なんだとハッキリ認識した。

 

 最後は発火能力を使い、家を完全に燃やし尽くした。

 

 

 僕の復讐はこれで止まらなかった。

 

 

 調べたところ、僕のことを悪魔憑きと断言した祓魔師はイカれた邪教の信者だった。

 

 なんのために地獄に送る儀式なんかをしたのかは知らないし知りたくもない。

 

 分かっているのは一つ。

 

 ソイツらのせいで僕は地獄で苦しんだということ。

 

 で、手始めにその教団を叩き潰し、その様子を祓魔師にじっくりと見せてあげた。無論、最後は始末した。

 

 

 まだ僕の復讐は止まらない。

 

 

 自覚があろうとなかろうと、ソイツらと繋がっていた先生も有罪だ。

 

 先生は僕のことをすっかり忘れていたようだった。

 

 記憶を覗いて見たところ、僕があまりに怖かったから自己暗示で僕だけのことを忘れようとしたらしい。

 

 情けないヤツだ。地獄の刑罰を耐え抜いた僕を少しは見習え。

 

 というわけで、しっかりと10年前の記憶を思い出させてあげて処刑した。

 

 僕が地獄に行く原因となったものを全て取り除いた後、残ったのは虚しさだけだった。

 

 復讐をしている時はハイになっていたが、いざそれが終わると面白くもなんともない。

 

 

 ────これからどうしようか……この能力があれば、生活に困ることは無い。もっとも、コソ泥まがいのことをするつもりはないがね────

 

 

 そんなことを考えながらフランスの都市部を歩いていると、とある会話が聞こえた。

 

 フランス人と日本人が会話しているようで、話の内容は怪談話や都市伝説といったものだった。

 

 物好きがいるものだ。

 

 なんとなく聞き耳を立てていると、なんでも日本には地獄少女という都市伝説があるらしく、ソイツに復讐依頼をすると自分の代わりに相手を地獄に流してくれるというもの。

 

 

 僕は思った。それは単なる偽善だと。

 

 

 他人のために、地獄に送るだと? 僕は自分のために奴らを地獄に叩き落とした。だが結局は何も残らなかった。

 

 そんなつまらないことを、他人のためにするだと。

 

 優れた力を持っているなら、自分のために使えばいいものを。

 

 僕にはできない、やりたくないことをしているその地獄少女。

 

 ただ又聞きしただけなのに、まるでソイツを通して僕という醜悪な悪魔をまざまざと見せつけられているような気分になった。

 

 普段ならこんなことを考えないのに。ダウナーな気分になっているからだろうか。

 

 

 ……会ってみたい。きっとソイツも僕と同じような能力を持った者なのだろう。なのに、僕とは違う行動をするのは何故だ。善行をしている気分にでも浸り、いい気になっているのか? 

 

 

 

 

 

 ……腹立たしいな。

 

 

 

 

 

 そして日本に渡り、超能力者として売り込んだ。僕は持ち前のルックスも合わさり瞬く間に人気になった。

 

 会う人会う人に容姿を褒められ、能力に驚かれ、良い気分だった。

 

 

 

 

 

 ……が、何かが足りないと感じていた。

 

 

 

 

 

 1年でそこそこ名が売れ、ある程度の発言権を得たので、イカサマ超能力者を軽く笑い物にした後それなりに懇意にしている番組ディレクター・亜紀に一つ企画を提案した。

 

 

 地獄少女との対決。

 

 

 亜紀は見事食いつき、あっという間に承諾してくれた。

 

 

 会うのが楽しみだ。

 

 

 準備が整うのを待っている間、ちょっとした一悶着はあったがアレ(柴田一)はどうでもいい。

 

 正義漢ぶっていたが、自分のことは棚に上げている人間だったし、アレ(柴田一)にやったことは軽いお遊びみたいなものだった。

 

 そして見事あの大根役者は地獄少女────閻魔あいを呼び出してくれた。

 

 お邪魔虫は追い払い、彼女と2人きりになれた。

 

 彼女に僕のこれまでのことを語り聞かせた。きっと理解してくれるだろうと期待を込めて。

 

 だが彼女は何も反応を示さなかった。

 

 

 

 

 

 ────ああ、コイツも僕を見てくれないのか。

 

 

 

 

 

 同類だと思ったのに。分かってくれると思ったのに。

 

 初めて会った者に何を期待しているんだと思うだろうが、この時はそんなことまでは頭が回らなかった。

 

 激情に駆られ、能力を発動する────寸前、閻魔あいに向けて突き出していた右腕が切られた。

 

 一瞬呆けたが、遅れて激痛がやってきた。血が沢山溢れ、バランスを崩し情けなく尻餅までついてしまった。

 

 しかし、腕は切られておらず、血も出ていなかった。

 

 そして、いつの間にか現れていた【大天狗】と名乗る男はこれを幻覚だと軽く言ってのけた。

 

 

 

 

 ───そんな馬鹿な────

 

 

 

 

 

 物心が着き始めた頃から能力に目覚め、数年かけて地獄から蘇った、多様な力を使いこなせるこの僕が、全く分からなかった、だと。

 

 超能力者としての矜恃を踏み躙られ、閻魔あいと2人きりの時間を邪魔され、あまつさえ『分からないで良い』みたいな物言いに僕は激昂した。

 

 奴を気が済むまで叩きつけ、アイアン・メイデンを取り出してその中へ叩き込み、扉を閉めて串刺しにした。

 

 そして、僕が味わった地獄の炎を再現して燃やしてやった。

 

 

 

 

 

 だが────

 

 

 

 

 

 ────僕は最初から何もしていなかった。超能力で痛めつけていたのも全て、僕が見ていた幻だった。

 

 

 

 

 

 勝てない……

 

 

 

 

 

 地獄から甦った超能力者としての僕のプライドは折れた。

 

 これが死闘の末敗れたのなら、まだ敗北を受け入れられた。

 

 しかし、相手がしたのはただ幻覚を見せていただけ。そのことに全く気づけず、ただ一人で盛り上がっていただけ。

 

 

 僕は、凄くて……

 

 でも、不幸で…………

 

 それでも………………

 

 

 感情がまとまらず、頭の中がぐちゃぐちゃになっている。

 

 

 そんな時だった。

 

 僕を打ち負かした、大天狗が話しかけてきた。

 

 

「────お前は、少しだけど俺と似ていた……と思う。だから何となく分かるんだ。そんなことのためだけにお嬢と接触しようとしたわけじゃないと」

 

 

 ……え? 

 

 そいつは続ける。

 

 

「『周囲と自分は違う。どれだけ仲の良い者でも、親でさえも、真に分かり合えることは無い』そう思って俺は生きていたんだ」

 

 

 それは……

 

 

 親から、先生から、友達だった者から否定された僕は、誰も信じられずにここまで来た。

 

 

 でも────

 

 

 彼は語る。自分の生まれを。

 

 未来人で、別世界からの転生者だということを。

 

 

 そんな事が本当にあるなんて。

 

 

 前の世界では、地獄通信も地獄少女も無かったと。それどころか、聞いた事のない地名やメーカーがあったり、知っている場所には知らない建物が建っていたりと。

 

 

 それじゃあ……

 

 

 彼は物心ついた時からずっと、言いようのない疎外感に苛まれていたということ……

 

 

 それは、ある意味では生き地獄かもしれない。

 

 

 知っているはずの土地なのに知らない。

 

 知っている人がいない。

 

 

 そういったことが、どれだけ彼の心を蝕んだのか。

 

 だがそんな彼の人生は、ある日呆気なく幕を閉じたと言う。

 

 

 ────地獄に流された。

 

 

 しかし、地獄から拒絶され今は閻魔あいの下にいるという。

 

 そこで彼はようやく居場所を、真の仲間、友人を見つけられたと。

 

 話している時の表情が本当に幸せそうで、満ち足りていそうで……

 

 僕には見つけられなかった、理解してくれる者を。

 

 

 そんな彼が────────

 

 

 

 

 

「羨ましい……」

 

 

 

 

 

「見つけられるさ」

 

「え?」

 

 

 無意識の内に何かを呟いていたようだ。

 

 それよりも、僕は今なんて言った? 何を思った? 

 

 

『羨ましい』? 

 

 

 何が? 

 

 

 理解者が? 見つけたかった? 

 

 

 困惑している僕を他所に彼は話を続ける。

 

 

「今の世界人口は60億。その中に人の理を外れた者が俺たちやお前だけな訳が無い。妖怪や転生者なんて、ワンサといるに決まってる」

 

 

 大天狗はそうハッキリと断言した。

 

 

 

 

 

 ────────そうか。僕が閻魔あいと会いたかったのは、ただ仲間が欲しかったからなのか。

 

 

 

 

 

 こんな事実、きっとこれまでの僕では認められなかっただろう。

 

 だが、彼に叩きのめされたから自分を見つめることができるようになった……のだと思う。

 

 

「……会えるかな?」

 

「会えるさ。何せ、もう俺と会っているだろう? ジルは」

 

「っ!」

 

「世界は広い。まだ諦めるには早すぎるぜ。お前を分かってくれる理解者……いや、友達になれる者はいるさ」

 

「友達……」

 

「ああ! 理解者が友達って言うなら、確かに俺はお前の友達だぜ、ジル」

 

 

『ジル』

 

 

 そう呼ばれることは珍しくない。

 

 だが、今までとは違う。不快にならないし、かと言ってテレビ出演していてその名を呼ばれた時に感じる高揚感もない。

 

 じんわりとした温かみを感じる。

 

 

「そうか……僕と君は友達か、ははっ」

 

「おっ、いい笑い方するようになったな。さっきの気取ったのより全然良いぞ」

 

 

 ニッコリと笑みを浮かべ、僕と目線をしっかり合わせてくる。そんな彼の態度に少しくすぐったい感覚を覚える。

 

 

 

 

 

 ────そうか、いたんだな。

 

 会えたんだな。

 

 僕を分かってくれる友達に。

 

 

 

 

 

「────ありがとう、大天狗。君のおかげで、僕が本当に欲しかったものが何なのか分かった」

 

 

 彼に感謝を伝える。暗闇を歩き続けていた僕はようやく、一筋の光を見つけることができた。

 

 

「気にしなくていいさ。ただ、これからは憎しみに心を支配されるなよ? 俺達に依頼なんか来たら、お前を地獄に送らなきゃいけなくなる。流石に、友達を地獄に送りたくはない」

 

「うぐっ、それは……そうだな。僕だってまた地獄は勘弁だ。────まあ、そうは言っても地獄行きは確定しているだろうけど」

 

 

 僕が死んだら今度こそ地獄に落とされ、永遠にさまようことになるだろう。人を何人も殺したのだから、そうなるのは必然だ。

 

 

「それでも、お前はまだ生きてる。それに、証拠が一切無いんだろ? なら、これまで通り堂々としていれば良いさ。生きているなら、不幸を味わったのなら幸せにならなければいけない。だろ?」

 

「ふっ、そんなので良いのか?」

 

「良いんだよ。俺は妖怪、少しぐらい人の法を軽んじてもバチは当たらないさ」

 

 

 そう言ってニヒルな笑みを浮かべる大天狗に釣られて、僕は笑ってしまった。

 

 

 

 

 

 ああ……君と出会えて、本当に良かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ⛩

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さてと、そろそろお開きにするか。

 

 ついついジルと話し込んでしまったが、もうお開きで良いだろう。お嬢や一目連達を待たせているしね。

 

 

「ち、ちょっと待ってくれ!」

 

「うん?」

 

 

 おっと、依頼人のことを忘れていた。

 

 正直言うと糸を解いて欲しくないんだが、俺たちが止めたりしてはいけないからなあ。

 

 さっきの俺の行動だって、だいぶグレーゾーンだし。

 

 こればっかりはどうしようもないな、と考えていると、

 

 

「この藁人形だけど、ええと……あ、あいちゃんに返すよ!」

 

「あいちゃん?」

 

 

 このオッサン、お嬢のことをあいちゃん呼びだと……! 

 

 畜生羨ましいなぁ! 

 

 使い魔の分際で馴れ馴れしく呼ぶ訳にはいかないんだよこっちはさぁ! 

 

 思わずマジなトーンで聞き返してしまい、萎縮させてしまった。

 

 

「いや、何でもない。一応聞くけど、良いの?」

 

「お、おうとも! 君たち2人のやり取りを見て、空気を読まず糸を解くなんてこと、いくら大根タレントな俺でもできるわけないっつーの! アハ、アハハハハハ」

 

 

 おお……なんだかんだ漢気あるじゃんこの人。ヘタレ感凄かったのに。見直したわ。

 

 ワタナベから黒藁人形を受け取り、それをお嬢に渡す。

 

 

「はい、これ」

 

 

 お嬢はジッと黒藁人形を見つめた後、俺の顔を覗き込んでくる。

 

 

「あなたがいれば………………」

 

 

 とても小さく何かを呟いたようで、強化されている聴力をもってしても聞き取れなかった。

 

 

「ゴメンお嬢、何て言った?」

 

「…………なんでもない」

 

「……そう? ああ、後ちょっとだけ待ってて貰っていい?」

 

 

 お嬢はこくりと頷く。

 

 そして俺はジルの元へ駆け寄る。

 

 

「ジル、俺たちは帰るよ」

 

「……っ! そうか、もう行ってしまうのか……」

 

 

 ハッと驚くような表情を浮かべた後、寂しそうにそう言った。

 

 

「ああ。だが、これだけは忘れないでくれ。俺とお前は友達だ。そして、お前はお前だけの仲間を見つけるんだ」

 

「……僕と君は仲間じゃないのか?」

 

「俺は妖怪でお前は人間だからさ……友達ではあるが、仲間にはなってはいけないと思うんだ」

 

 

 超えてはいけない境界というのは何にでもある。

 

 仲間という『括り』で妖怪の俺と人間の彼を囲むのは良くないことだ。

 

 そう伝えると、渋々だが納得してくれた。

 

 

「後、さっきも言ったが悪さはするなよ? 巡り巡ってお前を地獄に流すなんてこと、したくないからさ」

 

「ああ、肝に銘じておく。君たちに負けない、僕だけの最高の仲間を作ってみせるさ」

 

 

 そう宣言して見せた彼の表情は、最高に輝いていた。まぶしいほどに。

 

 

「うん、頑張れよ」

 

「ああ────後、もう一つ!」

 

 

 そう言ってジルはお嬢たちの方へ顔を向ける。

 

 

「閻魔あいとその仲間たち、そしてエスパー☆ワタナベ。すまなかった、非礼を詫びさせてくれ」

 

 

 そう言ってジルは頭を下げた。

 

 いきなりの事で一目連達は目を丸くしているし、ワタナベは愕然としている。

 

 お嬢だけ普段と変わらない。

 

 しばし間が空いて、骨女が口を開いた。

 

 

「……まあ、最初はお嬢を見せ物にしようとしたのには腹が立ったけどさ」

 

「大天狗とのやり取り見てたら、それも許せたっていうか」

 

「俺は藁人形だったからな。ま、これから気張って行けよ、坊主」

 

 

 なんだかんだ言っても3人は優しい。改めて、良い仲間に恵まれていると俺は思った。

 

 

「な? 良いもんだろ、仲間ってのは」

 

「そうだね……本当、君が羨ましいよ」

 

「お前にだって、手に入れられるさ。……それじゃあな、ジル。テレビ局員の記憶処理、忘れるなよ」

 

「分かっているさ。────さらばだ、大天狗! 僕の初めての友よ!」

 

 

 晴れ晴れとした笑みを浮かべたジルに見送られながら、俺達は夕暮れの里へ帰った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ⛩

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 閻魔あいは一人、思い出していた。400年前の、まだ人であった頃を。

 

 先程会った少年は言っていた。

 

 能力を持っていたから辛い思いをしたと。

 

 他人を地獄に落とすのは、憎しみで自分の気持ちを制御できないときだと。

 

 彼のその言葉が、封じ込めていた記憶を呼び覚ました。

 

 

 色褪せないおもいで。

 

 ちいさくて、いとおしい記憶。

 

 そして、

 

 

 

 

 

 ────全てに絶望し、怒りと悲しみに支配されたあの日の感情。

 

 

 

 

 

 だが、閻魔あいが思い出していたのはそれだけではなかった。

 

 先程、怨みの連鎖を断ち切ってみせた彼────【大天狗】

 

 彼は、あの少年を傷つけることなく倒し、そして分かり合った。

 

 閻魔あいの目にはその光景が焼き付いていた。

 

 

 もし、

 

 もし彼が、あの時いたら……

 

 そう思わずにはいられなかった。

 

 

 彼は不思議だ。

 

 未来から来た転生者。

 

 人間の心を持ちながら、こちら側の者でもある。

 

 寄り添ってくれるが、近づき過ぎない。

 

 程よい距離感を保ってくれるから、不快にならない。調度良い暖かさ。

 

 彼が閻魔あいの元に来てから、彼女の周りは少しだが変わった。

 

 例えるなら、暗い部屋に小さな明かりが灯ったようなもの。

 

 たったそれだけだが、それは数百年変わらぬ日々を送っていたあいにとっては大きな変化。

 

 成り行きでやって来ただけだった彼の存在が、自身の中で日に日に大きくなっていくのをあいは感じていた。

 

 そんな考えを振り払い、縁側で再び一節切を吹こうとする。

 

 

「…………っ!!」

 

 

 目の前に和装の少年がいた。

 

 

 

 

 

 覚えている。あの顔つき。

 

 

 

 

 

 思わず一節切を落としてしまう。

 

 

 ────見間違い、なのだろうか。

 

 

 あの少年がここに来るわけが無い。現にその少年を見た場所には影も形もなかった。

 

 それは、あいの記憶が見せた幻。

 

 封じていた記憶が、感情が次第に目を覚ます。

 

 だが、それでも彼女の日常は変わらない。今日もまた、依頼が来たことを知らせる着信が鳴った。

 

 

 揺れ動く感情を押さえ込み、次の仕事へ向かうのだった。

 

 

 

 

 

 ────運命と対峙する日は近い。

 





 ジル生存!良いよね……?
 
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