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原作は1期第24話【夕暮れの里】です。
「クソッ……」
大天狗は一人、現世を無為に歩いていた。
彼は能力の訓練や、夕暮れの里で過ごす時に欲しいものがあった時くらいでしか現世に降りることはしない。
だが、そんな大天狗は宛もなくフラフラとしている。
時刻は午後の十三時頃。鬱屈とした彼の内面とは対照的に、太陽が照りつけ青空が広がっている。
「俺は、どうすれば良かったんだ……」
思い出すのは少し前にあった依頼。誰にでも優しくて、人一倍努力をしていて、誰からも愛されていた女性。
落ち度なんて、調べた限りでは全くと言っていいほど無かった。
地獄に流されるはずがない、天国に行かなければならないような女性だった。
なのに、
「なんで、なんであんな良い人が……」
名前は【桜木加奈子】看護師。*1若くて美人で近所の人や患者、同僚から好かれていた。
地獄という単語から最もかけ離れていると言ってもいい人だった。
だが、流された。
依頼人は加奈子に歪みきった感情を抱いていた男。
────笑顔を振りまき、人から慕われているのが憎い
────いつでも可憐で、可愛らしい笑顔が愛おしい
その男は以前、数日だけ加奈子が務めていた病院に入院した。と言っても、彼女に看護されることはなく、面識は無かった。すれ違って挨拶をした程度で男が一方的に知っていただけ。
男は彼女を見るようになった。
────実年齢より少し若い顔つき。
────短く切りそろえられた綺麗な髪。
────スタイルは良好。
────誰にでも笑顔を絶やさず、真面目な勤務態度。
およそ欠点という欠点が見つからない女性。
心を奪われてしまうのは必然だった。
男は、桜木加奈子という強すぎる光に焼かれた。
何故、自分の物にならない。何故、自分には彼女の笑顔が向けられない。あの笑顔を恐怖と絶望に歪ませてやりたい。
桜木加奈子には付き合っている男性がいなかった。いや、作れなかった。というのも、看護師という職業である以上仕事が多忙で構うことができない。それでは相手に申し訳ないからと考えたからだ。
これがまだ、彼氏がいたなら男は諦めがついただろう。
だが、誰にでも笑顔を振りまきつつ特定の関係を作ろうとしない彼女に、男は悶々とした気持ちが次第に強い憎しみと地獄でなら自分と一緒になれるという想いに変質した。
────そして、糸は解かれた。
地獄へ向かう舟に乗せられて、誰だか分からない男に恨まれていたことを知り、恐怖と絶望に顔を歪ませ『なんで、どうして、行きたくない』と泣き叫びながら彼女は流された。
男はというと、糸を解いてすぐに薬を飲み彼女の後を追った。
「何か、何かできなかったのか……?」
止めたかった。あの看護師は全く悪くなかった。地獄に流されて良い人じゃなかったのに。
「分かっている……分かっているさ。邪魔しちゃいけないってのは。でも、あんまりだろ……」
大天狗の心持ち。それは彼が人間だった頃、【烏鷹周】だった頃から変質している。それは人ならざる者になった故、魂も合わせて変化した。
彼の精神構造は人間の頃より遥かに割り切りが良くなっている。目の前で人と人とのすれ違いや理不尽を見せられても、しばらく経てば何事も無かったかのように振る舞えてしまう。
今は桜木加奈子の件が済んでから数日経っている。なのに何故、彼が未だにこの一件を引きずっているのか。
理由は単純。
人を、地獄流しに関係のある者を救ったという『味』を覚えてしまったからだ。
以前会ったジル・ドゥ・ロンフェール。もし大天狗が関わらなければ、彼は地獄に流されていただろう。
そんな、地獄に行くはずだった者を救いハッピーエンドに『してしまった』。
その時の『旨味』が忘れられないのだ。
「お嬢も声が震えていた……俺なんかよりも遥かに苦しんでいる…………彼女の絶望を目の当たりにして、怨嗟の声を近くで聞いて……」
────何とか、したかった
閻魔あいが過去の因縁に向き合うことになり揺らいでいる中、大天狗もまた自身の在り方に思い悩んでいるのだった。
「……ん?」
それからしばらく歩いていると、一人の女の子が小学校から飛び出したのが見えた。
背後からは道路を走るトラックの音が聞こえる。
「……ヤバいっ!!」
トラックはクラクションを鳴らしているが、女の子は恐怖のあまり横断歩道の真ん中で硬直してしまっている。
────このままでは、轢かれる!
大天狗は急ぎ妖術を使って少女の近くに転移し、抱きかかえて反対車線に渡る。
タイヤのスキール音と共に何か────恐らくガードレールだろう────に激突した音が聞こえてきた。
「大丈夫か!?」
安否を確かめるため声をかけたが、その少女の顔を見て大天狗は目を見開いた。
「だ、大丈────え!?」
茶髪でおさげの三つ編み、そして彼岸花の髪飾りを着けた女の子。
恐怖に顔を引き攣らせ息を切らしているが、大天狗の顔を見てその少女はハッと驚いた。
「周、おにいちゃん……?」
柴田つぐみだった。
⛩
交通事故が発生したため、急いで110番をしてつぐみちゃんには父親へ連絡を取らせた。と言っても、俺は勿論のことつぐみちゃんの方も怪我は一切していない。トラックにだけ被害があった。
トラックの運転手は急いでこちらに駆け寄ってきた。怒鳴られるんじゃないかと思ったが、ひたすらつぐみちゃんに謝ってきた。
彼女も自分が飛び出したのが悪いと分かっていたようで、お互いに謝り合っていた。
そして俺は運転手から感謝された。一歩間違えれば本当に危なかったと。 つぐみちゃんを助けてくれて本当にありがとうと。
────────良い人だな
現場検証が終わり、父親が来るのを待つだけになった。その間も運転手はつぐみちゃんの父親に謝罪するべく残っている。
とりあえず、近くの公園に移動して待つことにした。
「────はい、ココアで良い? つぐみちゃん」
「ありがとう……それと久しぶり、だね。周おにいちゃん」
「う、うん。あの時以来だね」
……何故、つぐみちゃんが俺のことを覚えている。
確かにサーカス団の一件の時はこの子から情報を得るために接触を図った。
だが、最終的に俺のことは忘れるように妖術を施して辻褄合わせをしたはずだ。
なのに何故。
────この時、大天狗は一つ重大なことを見逃していた。
つぐみに渡した彼岸花。それは夕暮れの里のもの。
つまりこの世のものでは無い。そんなものを彼女は日頃から身につけていた。
更に花には枯れないように、頑丈になるようにと大天狗の妖力が流し込まれている。
長い間異界の物に触れ続け、彼の妖力に当てられたつぐみと傍にいた父親の
この事実に大天狗が気づくのは少し先になる────
「周おにいちゃんも、ココアなんだ……」
「まあね……最近、苦いことあったからさ。甘いのでも飲んでいないとやってられないって言うか……」
公園のベンチに座って二人で缶のココアを飲む。
「そう、なんだ……サーカスはどうしたの……?」
「えーっと、実はあの後辞めたんだ。やることを見つけたって言うか……でも、正しい答えが見つけられなくって……悩んでばかりでさ。今日もこうしてフラフラとしてた」
「……私と一緒だ」
つぐみちゃんの表情は浮かない。以前会った時に見た向日葵のような笑顔は見受けられない。
理由は知っている。桜木加奈子の一件の時、彼女は柴田一と共に加奈子が勤務していた病院を訪れていたのだから。
加奈子と接していたのは『視た』。ならば、優しいあの人が流されてしまったのも気づいたはずだ。
「私もね、周おにいちゃんに言われてからいっぱい考えたよ……いっぱい考えたけど、全然分かんなくて、分かんなくてね…………」
そう言ったつぐみちゃんの声は震えていて、目には涙が浮かんでいた。
サーカス団の一件以降、つぐみちゃん(と柴田一)は五件ほど俺たちの行く先に現れた。依頼人やターゲットを見る度にこの子は考えていたのだろう。
人の心が無いのかと言いたくなるターゲットもいた。ソイツは結局、柴田一とつぐみちゃんの働きで依頼人が契約を破棄したため流されなかったが、後味の悪い結末だった。*2
そして、そんなつぐみちゃんが次に見たのがあの桜木加奈子だった。
────何故悪い人間が地獄に行かなくて、良い人間が流されなければならないのか。
つぐみちゃんはそう思ったのだろう。
「……ごめんね。俺が難しいこと言っちゃったから……ハンカチ、未使用だから使っていいよ」
そう言ってつぐみちゃんにハンカチを渡す。妖怪になってから自分の力で体調の調節はできるようになったが、人間だった頃の癖でハンカチは持ち歩いている。
「……ありがとう」
「お礼なんて……本当に、ごめん」
この謝罪は、地獄流しに関わっているから出た言葉だ。謝ってもどうにもならない事は分かっているが、それでも……
ベンチに座りながら、顔を上へ向ける。
「────空、青いね……」
「そうだね……私たちの気持ちなんて、お構い無し……」
雲一つない、清々しい青空が広がっていた。こんな晴れやかな天気なのに、俺たちの心は淀んでいる。
「……そういえば前にあげた彼岸花、よく似合ってるね」
このままだと暗いムードのままズルズル行きそうだったから話題を切替える。
声のトーンを上げて、さも今気づいたみたいな感じで話しかける。
「え……? う、うん。言われた通り、髪飾りにしたの。毎日つけてるんだ」
「そっか。でも、彼岸花ってやっぱアレじゃない? 今度何か別の見繕ってあげようか?」
そう言うとつぐみちゃんは首を振った。
「ううん、いらない。これが良いの。それにね、これのおかげで、また周おにいちゃんに会えたんだと思う」
「……なんで?」
「え〜、分からない? 彼岸花の花言葉でね、『また会う日を楽しみに』っていうのがあるんだよ。この前調べたんだ」
まだサーカスの時ほど明るい笑顔は浮かべられていないが、暗いムードを切り替えようという俺の考えは伝わったようだ。先程よりは調子を取り戻しているように見える。
少し背伸びをしたような態度で彼岸花の花言葉を教えてきた。
「へぇー、そんな意味があるんだ。花言葉なんて、考えもしなかった……」
「他にも『情熱』なんていう意味もあるんだよ。もう、そういうの気使った方が良いんだからね?」
「はい、肝に銘じます」
小学一年生に(見た目)高校生が叱られている図が完成してしまった。
お彼岸に咲くっていうのと毒持ってるくらいしか知らなかった……
「……ふふっ。ありがとう、周おにいちゃん。少し、気持ちが楽になった」
「なら良かった。つぐみちゃんは笑っていた方が可愛いからね」
そう言って頭を撫でる。
「も、もう! また子供扱いして!」
「むしろ、今のうちにたくさん子供扱いされておきな。それが子供の特権なんだからさ」
つぐみちゃんには母親がいない。こうして小学1年生とは思えない振る舞いをするのも、『自分がしっかりしていなくては』という現れなのだろう。柴田一はなんかダラしなさそうだし。
でもやっぱり、小さい女の子であるのには変わりないんだ。
「本当に、ありがとう……」
涙を浮かべながら、ポツリと零した。
⛩
あれからしばらくして、柴田一が車でやってきた。
トラックの運転手は
また、俺とつぐみちゃんにも再び謝罪と感謝をしてきた。
本当に善良な人なんだなと思っていると、つぐみちゃんの表情が少しばかり憂いを帯びたものに変わった。まだ思い悩むところはあるのだろう。
そして、
「周くん。娘を助けてくれて、本当にありがとう」
柴田一から感謝された。
「気にしないでください。当たり前のことをしただけですから」
使える力を持っている以上、あんな場面に遭遇したら助けるのは当然だろう。
「いや、それでもだ。何か礼をさせてくれ」
「……それなら、俺がつぐみちゃんに礼をしなければなりません」
「……何故?」
柴田一が首を傾げる。つぐみちゃんもよく分からないといった様子だ。
「つぐみちゃんと同じく、俺も悩み事がありまして……まだ完全に晴れたという訳では無いんですが、話しをしたら少し楽になれたんです。だから、ありがとうね。つぐみちゃん」
そう言って膝をつき、つぐみちゃんと目を合わせて笑いかける。
「……うん」
まだ何か思い悩んでいるようで、笑顔はぎこちない。
「そういうことなんです。だから、どうか俺にはお構いなく」
「そうか……そこまで言うのなら分かった。君が何に悩んでいるかは分からないが、もっと周りに頼ると良い。……これも何かの縁だ、俺の電話番号を渡しておこう。あまり出られないかもしれないが、いつでも掛けてきてくれ」
「はい、ありがとうございます」
そう言って柴田一から彼の電話番号が書かれたメモを受け取った。
この人も、得にならないのに何度も地獄流しを止めようと動いているだけあって良い人だ。
────周りに、か。何となく顔を合わせづらくてこうして外を歩いていたわけだけど、一目連たちに話してみるのも良いかもな……
そして、柴田一はつぐみちゃんを車に乗せ、二人は家に帰ることになった。
出発する直前、以前のようにつぐみちゃんがパワーウィンドウを開けて顔を出してきた。
「今日は、ありがとね。周おにいちゃん」
「こちらこそだよ。それと、これからは気をつけるんだよ」
「うん……バイバイ、周おにいちゃん」
つぐみちゃんが小さく手を振りながら車は発進した。柴田一が会釈してきたので、こちらも軽く片手を上げる。
あの時とは違って、遠のいて行く車を俺は静かに見送った。
「……帰るか」
特に意味は無いが、彼らの方向に背を向けて夕暮れの里に戻ろうとした。
────が、振り返るといつの間にか目の前にお嬢が立っていた。
「…………何してたの」
「ええっと……トラックに轢かれそうだった子を助けたらあの子だったってわけ。それで少し話してた」
「…………そう」
お嬢の機嫌は最近特に良くない。肌がピリつくというか。
一人で考え込んでいる時間は長いし、人知れずどこかへ行ってしまうこともしばしば。流石に一緒に遊んだりはできそうにない雰囲気がここのところ続いている。
何とかしたいとは思っているが、こっちも自分のことで手一杯だったためアクションは起こせていない。
何も起こらなければいいんだけど……
「…………気づいたらいなかったから、探しに来た」
迷子のお子さんかな? 俺の扱い。
しかし、珍しいこともあるものだ。
朝から夜まで能力の慣熟訓練で現世に降りていることはあるが、こうして態々お嬢が迎えに来てくれたことは今まで無かった。何か心情の変化があったのだろうか。
「心配かけてごめん。ちょっと、一人になりたくてフラフラしていたんだ……」
「…………そう。……輪入道たちも、心配してた」
……そりゃ、バレているか。なのに今まで踏み込んで来なかったのは、考えをまとめる時間をくれたとでも見るべきか。
お嬢も不調なのに、こうして心配させてしまって……ダメだな、ほんと。
「……そっか。ありがとう、お嬢」
「…………いいの」
そして、俺たちも帰るべき場所へ帰った。
────これが、嵐の前の静けさとも知らずに。
UA数17000超、お気に入り数730、更に日刊ランキング最大9位にランクインと、驚きのあまり声も出ません。
未だ地獄少女という作品が多くの方に愛されているのだと実感したと共に、より多くの読者様のご期待に応えるべく一層励もうという想いが強くなりました。
これからもよろしくお願いいたします。