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この回を書くために25話を何度も見返すことになりましたが、キツすぎる……
アンケートしています。詳しくはページ最下部へ。
原作は1期第25話【地獄少女】です。
一部オリジナル要素があるのでご注意を。
ちゃぷ、ちゃぷと水の音が聞こえる。
閻魔あいは地獄へ向かう舟に乗っていた。しかし、船頭はあいではない。今までのように彼女が対象を地獄へ流しているのではなく、あい自身が地獄へ流されていた。
彼女は禁忌を犯した。自らの意志で人を地獄へ流そうとする行為。禁じられた行いをすれば、自身が地獄へ行かなければならなくなる。
今、彼女は意識を失い横たわっている。
閉ざされた瞳の中であいは思い出していた。あの日の事を。
そして、自分の手で捨ててしまった彼との楽しかった日々を。
『ねえお嬢! ここの彼岸花摘んでもいい?』
『できたよお嬢! 花冠だ!』
『今日は何して遊ぼっか? カルタ? しりとり? それともゲームボーイカラーでも買ってくる?』
『お疲れ、お嬢。サクランボ、ここに置いておくから気が向いた時に食べてね』
『悩んでいるなら相談くらい乗るからね、お嬢。役に立たないかもだけど……』
暖かかった。優しい気持ちになる。自分は素っ気ない態度しか取らないのに、それでも声をかけ続けてくれる。
手放したくなかった。思い出すだけで心がじんわりとする、彼との日々。
そんな日々を、自らの手で捨ててしまった。
閻魔あいは、自分の攻撃で彼が滝つぼに落ちていく光景が目に焼き付いて離れない。
暖かな思い出が蘇る度に、頭から血を流しボロボロになった彼を自らの手で葬る記憶が上書いてしまう。
────あんなこと、したくなかった
だがそれ以上に、人間だった頃の記憶も蘇る。蘇る度に、憎しみの焔は強さを増す。暖かな思い出が怨嗟に侵され、焼かれていくのを感じている。
そこに、しわがれた不気味な声が響く。
《やってくれたな、あい。己の意志で人を地獄へ送ろうとするなど、もはやお前にはこの仕事を任せることはできない》
あの人面蜘蛛があいの肩に留まり、これからの処遇を淡々と告げる。
《私と共に地獄へ帰るぞ、あい。罪の戒めを受けよ》
しかし、意識を取り戻したあいは聞く耳を持とうとしない。
「……まだダメ。地獄へは戻れない」
開かれた目は、復讐にとりつかれた者のそれだった。彼女の頭の中にあるのは、自身を裏切った男の血統を地獄に送ることだけ。
人面蜘蛛は制止するも、あいは構うことなく現世へ戻る準備を始める。
見かねた人面蜘蛛は糸を飛ばして拘束しようとするも、未だ健在の地獄少女としての能力でそれを振り払った。
蜘蛛の身体はあくまで監視用。そのため、使用できる能力は限られている。
打つ手がないと悟った地獄の管理者は、三途の川から抜け出していくあいを見ていることしかできなかった。
⛩
「自分が嫌になるよ……」
六道郷の河原には、閻魔あいの使い魔である輪入道、一目連、骨女がいた。
「お嬢を助けたいのに、いざとなると何にもしてやれない……」
骨女は自身の無力さに打ちひしがれていた。
「……お嬢に拾ってもらわなければ、オレたちは地獄で朽ち果てるところだったんだから────」
────お嬢には、デッカイ借りがある
これが言い訳というのは一目連も自覚している。先程あいの暴走を止められなかった、いや、止めようとしなかったことへの。
骨女を慰めているようで、実の所自分を慰めているのかもしれない。
「……だがアイツは、大天狗だけは違った」
輪入道はこの場にいないもう一人の仲間、大天狗について言及する。
「アイツはお嬢に正面から立ち向かった。俺たちは見てる事しかできなかったってのに」
「そうだな……アイツには、お嬢への恩義も借りも無い。だから、なんだろうな」
「最初の頃は、変なやつが来たと思ったねぇ……どっちつかずで、めんどくさいヤツ」
骨女を皮切りに、3人はそれぞれ大天狗にも思いを馳せる。
「お嬢の気持ちを案じて、俺たちは仕事のねえ日は藁人形になって静かにしてるってのに、アイツと来たら……」
「空気を読まず、しょっちゅうお嬢に絡んでる」
「最初、ひっぱたいてやろうかと思ったよ。でも……それからよね。お嬢が寂しそうじゃなくなったのはさ……」
恩義、忠義。そういったものを3人はあいに向けている。時代も場所も違うが、彼らは皆あいに救われたから今がある。
だが4人目の使い魔、大天狗は違う。ただ成り行きで仲間になっただけ。あいに拾われたわけでも、ましてや救われたわけでも無い。上から命令されて、受け入れられただけ。
「……オレは時々、アイツを羨ましく思う」
「そうね……アタシたちができなかった、やろうとしなかったことをして……」
気づけばあいの隣には大天狗がいるようになった。一緒に遊んだり、気安く話しかけるようになっていた。
それを見て3人は思った。大天狗は使い魔としての自覚が足りないと。
注意をしようとしたが、やめた。
なぜなら、彼と遊んでいる時のあいは何処か楽しそうだったから。表情こそ以前とほとんど変わらないが、雰囲気が違っていた。
彼らは羨ましかった。あいが今まで纏っていたどこか鬱屈とした雰囲気。それを一時的にとはいえ祓ってみせたのだから。
少しばかり、嫉妬はした。しかし、3人はあいのことを第一に想っている。あいが楽しそうなら、嬉しそうならそれが何よりの幸せ。ならば当然、大天狗のことを認めないはずがなかった。
こういった理由で、人の一生の数倍は生きている彼らから、前世を含めても数十年程度の大天狗が1年ほどで認められ、確たる信頼を置かれれるようになったのだった。
「……ま。奴には奴、俺たちには俺たちのやり方ってのがある。お嬢を支えたいという想いに、違いはねえだろうよ」
「だが、そんなアイツはどっかに消えちまった。お嬢も……」
「まさか本当に地獄へ流されちまったなんてこと、ないだろうね……? アイツも、浮かんでこないしさ……」
骨女の声は震えていた。3人の中でも特に感情的な彼女は最悪の事態を思い浮かべ、恐れた。
「……まあ落ち着けよ。慌てたって仕方ねぇ。物事ってのはなるようにしかならねぇんだから。今俺たちができるのは、2人を信じて待つことだけだ」
一方の輪入道は落ち着いた様子で、冷静に骨女をなだめる。
しかしそんな態度とは裏腹に、足元には既に1カートン以上のタバコの吸殻の山を作り出していた。
結局、彼も心配なのだ。消えてしまった主と仲間のことが。
「お嬢……」
3人の誰かがポツリと零すも、滝の流れる音にかき消された。
⛩
────────見てしまった、お嬢の過去を。知ってしまった、お嬢が地獄少女となった
400年も昔の光景。幼い【あい】が【仙太郎】と呼ばれる少年と心を通わせている光景を見た。そして、その顛末も。
────曰く、あいは物の怪。
────曰く、あいがいると気味の悪いことが起こる。
────曰く、死んだ蝶を手に乗せて生き返らせた。
『あいがいると、いつか村が酷い目に遭う』
『だから村のためにいなくなれと言った』
幼いあいは、彼らの心無い言葉にどれほど傷ついたことだろう。今と違い、引越しなんて簡単にはできない。村こそが彼女の世界だった。
だが、味方はいた。それが仙太郎。あいの従兄弟であり、幼馴染。
あいのために傷ついた彼は、痛む身体も気にせず、
『あいは、あいだ』
真っ直ぐな眼差しをあいに向けて、笑顔で言い放った。それを聞いたあいはとても嬉しそうな、救われたような笑顔を浮かべていた。
────場面は変わる。
村の五穀豊穣のため7歳の子供を生贄にする儀式、【七つ送り】を執り行うということを伝えるため、村長があいの家に訪れていた。
つまり、生贄の対象はあい。
その場には仙太郎もいた。
『厄介払いのためにあいを生贄に選んだ』
そう反発した。だが、子供の彼では代案を立てることなどできず、村の決定を覆すことはできなかった。
しかし、あいの両親は仙太郎に願いを託した。夜に人身御供の祠へ赴いて、あいに食料と衣類を差し入れて欲しいと。あいを護ってあげて欲しいと。
七つ送りが埋めるといった方法をとるではなく、祠の中で餓死させるやり方のため、両親はその提案をすることができた。
村の掟に背くことになる。山神様から怒りを買うかもしれない。しかし、
『俺が、あいを護る』
彼は誓いを立てた。そこには、覚悟をした漢の目があった。
それを聞いた時のあいは、生贄になることへの恐れなどなく、とても穏やかで安心した様子だった。
────場面は変わる。
儀式から数年。村は以前として貧しいままだった。米の収穫量は少なく、人々は痩せ細り、新たに産まれた赤子は泣き続けるばかり。そんな様子を後目に、仙太郎は変わらずあいに差し入れをする生活を続けていた。
ある月明かりの照らす夜。仙太郎が周囲を見張りながらあいは河原で水浴びをしていた。
とても美しく成長していた。目が朱くない事と、やわらかな表情を浮かべていること以外は俺の知っているお嬢その人だった。
『ずっと、このままならいいのに』
親とも会えず、一日のほとんどの時間を山の中の祠で過ごす日々なのに、それでもあいは言った。
仙太郎と過ごせる僅かな時間。それがどれだけ彼女にとって尊いものだったのか。
俺は仙太郎の事が少し、いや、とても羨ましかった。あいとここまで心を通じ合わせていることが。あいにとって、大きな存在になれていることが。
だが、それ以上にこうも思った。
────どうか、彼女をこれからも支えて欲しい。どうか、この笑顔を絶やさないで欲しい。
そんな想いは、いともたやすく破られた。
いつの間にか、村の連中が河原に来ていた。
夜な夜な山へ向かう仙太郎を怪しんで追ってきていたようだ。
『米が取れないのはあいが生きているからだ』
『村のしきたりに背いたからだ』
『山神様からお怒りを買ったからだ』
連中は皆あいに憎悪を向けていた。
危機を察知した仙太郎はあいに逃げるよう指示を出した。
すぐにあいは走り出し、仙太郎は村の連中を止めようとするが相手にされず押さえつけられ、
「お、おい……待て。お前、何してる…………? 何してんだよ……!?」
「────ッ!! その手を、離せェェェェッ!!」
俺はいてもたってもいられなくなり、お嬢からその男を引き歯がそうと掴みかかった。
だが、すり抜けた。
これは過去の記憶。故に干渉ができない。そんなこと分かっているはずなのに、それでも叫ばずにはいられなかった。
「その……そのっ、綺麗な髪は! お嬢の自慢の髪で! 俺の、大好きな髪で! だから……やめろよッ!!」
憶えている。以前、お嬢に『綺麗な髪だよね』と言ったら、少し得意げな笑みを浮かべたのを。
記憶は止まらない。
恐怖と絶望に歪み、『助けて、仙太郎』と悲鳴をあげている。
しかし、その嘆きは彼らには響かない。むしろ煩わしく思った男は黙らせるために、お嬢の顔を川に沈めた。
────俺の中で、何かが切れたのを感じた。
「やめろって……言ってるだろォォォォォォッ!!!!」
怒りに任せて、瞬時に実態化させた羽団扇にありったけの妖力を流し込み、斬撃の術を仙太郎とお嬢以外に打ち込んだ。
だが、斬撃は誰一人切り裂かずに闇へ消えた。
「あっ……そ、そうだ…………これは、記憶……お嬢の、過去なんだ…………当たるわけ、ない……ッ!!」
俺は、見ていることしかできない。お嬢が酷い目に合っているのに、何もしてやれない。
この前だってそうだ。辛そうにしているのに、何もできなかった。
────────無力
その二文字が、脳裏に過ぎった。
村のヤツらはお嬢の両親も捕らえて縛り上げ、再度開かれた儀式の最中に1人が鉄の農具を構えた。
「ッ! おい何を!? よせ!!」
俺の声が届くはずもなくそれは振り下ろされ、お嬢と両親は殴り殺された。
仙太郎の悲鳴が聞こえる。
深く掘られた穴の中に、ヤツらは3人を無造作に投げ入れた。
仙太郎は涙を流し、穴に向かってお嬢の名を呼んでいる。涙の雫がお嬢に落ちた時、お嬢だけは意識を取り戻した。
仙太郎は喜んだ。しかし、それも束の間。彼の元にスコップが差し出された。
「嘘、だろ……? そんなことまで、やらせるのかよ……?」
罪を償えと。村が貧しいのはあいと仙太郎のせいだと。ヤツらの声が仙太郎に響く。それと同時に、『仙太郎』と呼び助けを求めるお嬢の声も響いてくる。
そして、お嬢と村人の板挟みとなったからか、心が壊れてしまったのだろう。虚ろな目をした仙太郎は穴に土をかけてしまった。
『私を護るって……信じてたのに…………』
目隠しがズレたお嬢は、仙太郎が自分に土をかけたのを見てしまった。
仙太郎の行動を皮切りに、ヤツらは一斉に土をかけ始めた。血走った目つきで、狂ったかのように穴を埋めようとする彼らを見て、仙太郎は逃げ出した。
「やめろ……! やめてくれ……頼むから、やめてくれよ…………お嬢は、仙太郎といられれば良かっただけなんだ……! なのに、こんな…………」
目まぐるしく起こる光景全てが魂に焼き付くのを感じる。
見たくない。目を背けたかった。でも、俺がこれを見ているのには何か意味があるはずだ。そう思って目を離さずにいた。だが……
『怨んでやる……お前たちみんな…………死んでも、怨んでやる!』
悲しみと憎しみが込められた呪詛を吐きながら、お嬢は埋められてしまった。
こんなの、こんなの……
「辛い……辛すぎるよ、お嬢…………!」
分かっている。
俺はただ見ているだけ。実際にこれを体験して、今もこの記憶に囚われているお嬢の方が、遥かに辛いってことは、分かっている。
だがそれでも、
「心が……痛い…………ッ」
────場面は変わる。
次の満月の夜、お嬢が甦った。
山から下りたお嬢は、目と口から血を流しながら次々に家を灼いている。
かつて、人身御供の祠で仙太郎と歌っていたわらべ歌を口ずさみながら、朱い瞳に映るもの全てを怨念の焔で燃やし尽くしている。狂気の笑みを浮かべて。
そして、お嬢が次に向かった先は、
「────!! お、おい! お嬢! その家は! 仙太郎の家だぞ!?」
これが記憶で、俺の声が聞こえないというのも忘れて思わず叫んでしまった。もちろん声が届くはずもなく、他の家同様灼かれてしまった。
それからお嬢は歩みを止めず、ついには村全てを燃やし尽くしてしまった。
仙太郎は恐らく、助かったのだろう。お嬢は見えていなかったようだが、遠くに彼らしき人影があった。
記憶の再生が終わったのか、辺りは漆黒の闇に染まった。
「これが……ッ。これが、お嬢の背負っているものかよ……!」
余りにも、重すぎる。お嬢を支えたい、その想いは今でも変わらない。
だけどこんな、こんな……俺なんかじゃ、力になれるわけが…………
────心の中で思っていた、俺は強いと。お嬢から貰った『大天狗』という名前、誇りだった。最強の妖怪の名前を名乗れるくらいに俺は強いのだと。そう、お嬢が認めてくれたのだと。
炎、風、水、雷、空間転移や念力、幻術などの妖術を高い水準で使いこなし、大空を羽ばたくこともできる。実の所、輪入道達より強いんじゃないかと心の片隅では思っていた。
だが違った。俺は何の役にも立たない。ただ貰い物の力で調子に乗っているだけの『テング』だった。俺なんかがいなくとも、お嬢は輪入道たちだけで事足りてしまう。
どこまでも、無力。
《君も、見たんだね》
────何処かから、声が響いた。
「なっ……だ、誰だ!?」
《一度、君と話したかった……》
声の主は、俺の問いには答えない。だが、聞き覚えがある。いや、さっきまで見ていた記憶の声にソックリだ。
「まさか、仙太郎……なのか…………?」
なんで、仙太郎の声が急に聞こえるように……
《ずっと見ていたよ。君があいに寄り添っている姿を。笑えなくなったあいのために、一生懸命な君を》
幽霊、なのか……? でも、お嬢の話じゃ想いが強くないと消えるって────ああ、そうか。未練、あるに決まっているだろうよ。
どこか他人事な仙太郎の声に向かって、俺は頭に血が上ったのを感じながら叫ぶ。
「なら…………ならッ! アンタがやれよ! こうやって俺に話しかけられるのならッ! アンタがお嬢のそばにいろよ!!」
《それはできない》
「なんでだよ!?」
《君なら分かるだろ? 今こうして、俺たちが話せているのは奇跡としか言いようのない事だと》
「ッ! そ、それは……でも!」
ああ、分かっているさ……声は聞こえる。だが、相手を感じとろうにも形がハッキリとしなさすぎる。そして、あまりにも薄い。一息吹きかけるだけで消え去りそうな感覚だ。幽霊と言うよりは、思念だろう。
熱が冷めていく頭で考える。
これは推測だが、まず仙太郎の血を柴田親子は引いている。激昂したお嬢がそれらしきことを言っていた。
そんな彼らとすぐ近く、いや、あの時は護るために完全に密着していた。そして、彼らと縁のある六道郷にいたから、こんな奇跡が起こったのだろう。
あまりにも突拍子な推測ではあるが、それくらいしか考えられない。
《ずっと謝りたかった……護ると言ったのに護れなかった…………だから、せめてもの償いで七童寺を建てた》
「仙太郎……」
七童寺。輪入道に乗っている時、チラリとだけ見えた寺が脳裏に過ぎる。
《……君に、お願いがある》
「……なんだ?」
《あいを、護って欲しい。俺ができなかった分まで……》
その願いは、あまりにも純粋なものだった。400年経っても尚、朽ちることのないやさしい想い。
だからこそ、即答することができなかった。
その願いを託されるのに、俺は相応しい存在なのだろうか。
お嬢の背負っているものはあまりにも重すぎる。俺なんかが果たして力になれるのだろうか。
この2つが頭から離れず言い淀んでいると、
《……時間みたいだ。君と会うことは、もう無いと思う…………あいを、頼んだ》
「なっ!? ま、待ってくれ! まだ話は……」
────終わっていない
言い切る前に仙太郎との繋がりが完全に途絶えた。
俺は……どうすればいいんだ…………
お読みいただきありがとうございました。
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