閻魔あいちゃんの笑顔が見たい   作:アラウンドブルー

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 周一さん、こにさん、めちょくさん、☆9ありがとうございます。

 今回は番外編第一弾になります。時系列的には無印終了〜二籠開始前です。

 日常回になります。



四方山話
四方山話-其之壱


 

「……誕生日?」

 

「そそっ、お嬢の誕生日っていつ?」

 

 

 あの一件から幾ばくかが経ったある日のこと。オフの日だけど特にやることが思いつかなかった俺は家の縁側でぼんやりと雲の数を数えていたところ、ふと気になったので傍で無為に横になっているお嬢に尋ねてみた。

 

 

「……知らない」

 

「え゛っ」

 

 

 しかし返ってきたのは予想外の答え。まさか『覚えていない』ではなく『知らない』と来るとは……なんとも寂しい…………

 

 いや待て、これは仕方の無いことか? 確か、日本に誕生日の概念が入ってきたのは近現代だったはず。お嬢が生きていた時代は数え年なんだっけか。それなら『知らない』という答えは特におかしくはない。

 

 ならば、と続けて質問をする。

 

 

「ええと。じゃあ、これまで輪入道たちから生まれたことをお祝いされたりとかは……?」

 

「……無いわね」

 

「えぇ……」

 

 

 返答はあまりにも悲しいものだった。ア、アイツら……数百年も時間があったのに誰もそういう催しをやろうとしなかったていうのか…………? ヤバい、キレそう。

 

 ────なんてね。まあ、地獄少女という宿命を背負っているお嬢のことを気遣っているのだろう。考えてみれば分かることだが、お嬢が生まれたことを祝うということは、『地獄少女になってくれてありがとう』と言っているようなものだ。

 

 なりたくてなった訳でもなく、むしろ苦しんでいるのにも関わらず、そんなことを言うのはマジで人の心がないとできないだろう。人じゃないけど。

 

 

「うーん……まあ、お嬢の過去を知っている身からすれば『祝う』というよりも『呪う』になっちゃうよね……」

 

「……そうだね」

 

 

 でも、と言葉を続ける。

 

 

「俺は、さ。お嬢に会えて良かったと思っているし、それは輪入道たちも同じ想いのはずなんだ。お嬢が生まれていなければ俺は適当に現世を生きていただろうし、アイツらはどこかで朽ち果てていただろうからさ。

 だから、『地獄少女になってくれてありがとう』なんて残酷な事を言うつもりは毛頭ないんだけど、それでも『生まれてきてくれてありがとう』くらいは伝えたいんだ。お嬢がいるお陰で、今の俺たちが在るんだから」

 

「────────」

 

 

 お嬢は鳩が豆鉄砲を撃たれたような顔をしている。

 

 

「な、なーんてね。アハ、アハハハ……」

 

 

 やっべぇ……今のセリフはいくらなんでもクサすぎでしょ。オゲェェェ、自分で言っといてなんだけど顔が熱くなっているのを感じる。思わず両手で顔面を覆ってしまった。

 

 しかし、

 

 

「……じゃあ、いつにしようかしら」

 

 

 少し間を空けてお嬢は起き上がり、そう口にした。『いつにしようか』って……それはつまり、

 

 

「……えっ、良いの? 誕生日作っても? 自分で言っといてアレだけど、あんまり気分の良いものじゃないでしょ……?」

 

 

 困惑しながら尋ねるとお嬢は首を横に振り、

 

 

「……そういう想いなら、嬉しいから…………」

 

 

 普段と変わらない澄まし顔でお嬢はこぼすように言ったが、よくよく見ると口角が微妙に上がっている。

 

 うん、かわいいね。

 

 しかし、人の誕生日を決めるなんてことは初めてだ。ゲームとかでも基本誕生日は自分のをつけるタイプだからなあ。どんな人、物にでもあるのが当たり前だから、考えて付けるとなると中々に難しい。

 

 うんうんと頭を捻り、思考をグルグルと巡らせていると閃きが走った。

 

 

「────そうだ、あの日なんてどうかな。過去を断ち切って、新たなスタートを迎えられたあの日」

 

 

 ずっと引きずっていた因縁が絶たれ、色々な意味でお嬢が帰ってきた六道郷での一件があった冬の日。確か、1月16日だっけか。

 

 どうでっしゃろ?とお嬢に尋ねると、

 

 

「…………そうね、その日にしようかしら……私が、生まれた日になるのね……」

 

 

 噛み締めるようにお嬢はそう言った。

 

 

「よし、決まりだね。これから毎年、お祝いをしよう。今年はもう過ぎているけど、まあ遅れてやればいいでしょ」

 

「……うん…………楽しみ」

 

 

 相変わらず表情は読めないが、まさかお嬢の口から『楽しみ』なんて言葉が飛び出すとは。危うく一瞬意識が飛びかけそうになった。

 

 

「……それで、何が欲しい? お金なら多少はあるよ」

 

「……欲しいもの」

 

 

 そう言ってお嬢は黙ってしまった。悩んでいるのだろう、しばらくしてポツリと、

 

 

「……写真」

 

「写真……? なんの?」

 

「……みんなと撮った写真」

 

 

 欲しいものと聞いて出て来た答えが『写真』とは……

 

 

「えっと、そんなので良いの? それくらいならいつでも撮れると思うけど……」

 

「……形のある思い出が欲しいから」

 

 

 そう言ったお嬢はどこか寂しげだった。

 

 

 ────ああ、そうか。

 

 仙太郎との思い出は記憶の中にしか無く、故郷はあるにしてもそれは時代と共に変わって行く。その時生きていたと証明する何かはどこにも無い。家にもそういった品は置かれていない。

 

 400年地獄少女として活動していても、お嬢が『生きた』証というものは無い。都市伝説として語られ、時たまそういう記事が出るくらい。

 

 お嬢の絵を描いていたご老人はいた*1が、この前亡くなってしまったし、その絵が世に出ることは無いだろう。

 

 ただ今に『在る』だけのお嬢。そうやって長い年月を過ごしてきた。

 

 だが、そんなお嬢がここに来てそういう物が欲しいと言ったということは、大きな変化なのだろう。なら、願いを叶えなくちゃな。

 

 

「……うん、それなら撮ろっか。じゃあちょっとカメラ買ってくるね」

 

 

 そう言って現世に降りて、使い捨てのフィルムカメラを買う。本当は一眼レフとかデジカメが良かったんだが、生憎そこまでの金は持っていないし、バッテリーの充電ができる環境は家には無い。電撃くらいは発動できるけども、精密機器がどうなるか分かったものではない。

 

 

「戻ったよー……あれ、もう揃ってる」

 

 

 夕暮れの里に着くと、既に3人が人間態になっていた。

 

 

「ああ、お嬢から聞かされてな」

 

「アンタ、中々良いこと言うじゃないか」

 

 

 一目連と骨女がニヤニヤしながらそう言ってくる。

 

 

「…………えっ、お嬢俺の言ったこと話したの!?」

 

 

 コクリとお嬢が頷く。

 

 

「マ、マジかぁ……勘弁してくれよ…………」

 

 

 黒歴史の暴露は魂の殺人なんだぞ。

 

 

「ハッハッハ、そう恥ずかしがることはねえだろ。俺たちの気持ちをお前が代弁した、ただそれだけのことじゃねえか」

 

「そうさ。アタシらじゃ思いついても実際に言うなんてできなかったろうしさ」

 

「前々から祝いたいとは思っていたからなあ。お前がその機会を作ってくれたんだから、感謝しかねぇよ」

 

「みんな……」

 

 

 3人の反応は俺が想定していたより遥かに良かったので驚きだ。

 

 さて、そういうわけで集合写真を撮ることに。

 

 

「背景どうしよっか?」

 

「やっぱ花畑が良いんじゃないか?」

 

「……おばあちゃんも写したい」

 

「家の中かい? 薄暗いからあんまりよく撮れないんじゃない?」

 

「それなら大丈夫。ほら」

 

 

 こういう時に俺の便利な妖術。明度自在の光の玉を出現させる。

 

 

「お前ンなことまで出来んのかよ……」

 

 

 一目連が顔を引き攣らせている。

 

 

「十徳ナイフよりも役に立つのが俺の妖術だから。ま、これでフラッシュ焚く必要も無くなったね」

 

 

 というわけで、次は位置取りだ。

 

 

「ばあちゃんが右端に写るようにして……あ、ばあちゃん。撮る時は糸車止めてね」

 

「あいよお」

 

「で、お嬢はもうちょっと左にズレて……そう、その位置。で、お嬢の隣は……」

 

「じゃ、アタシもーらい」

 

「あ! ズリぃ!」

 

 

 ファインダー越しに位置の調整をしていると骨女が我先にとお嬢の左隣を確保した。一目連は思わず非難の声をあげている。

 

 

「ったくよぉ……じゃ、オレは骨女の隣だな」

 

 

 そう言うと一目連は骨女の隣に座り、続けて輪入道はお嬢の右隣……人1人分空けて座った。

 

「あれ? 輪入道詰めなよ」

 

「へっ、構わねえさ。お嬢の隣はお前さんに譲ってやる」

 

「マジ? サンキュー輪入道!」

 

 

 フレームに皆入っているか、角度は良いか確認したらカメラを空間に固定してお嬢の隣に座る。

 

 

「よし、んじゃ撮るよ」

 

 

 そう言って次は念力を発動。不可視の力でシャッターボタンを押すとカシャリと小気味の良い音が鳴り響く。

 

 

「現像が楽しみだな」

 

「ま、問題なく撮れてるでしょ」

 

「だけど、まだフィルムは余ってるみたいだよ?」

 

「うーん、どうする? フィルムの劣化に関してはここに置いとけば問題無いだろうけど」

 

「……もっと撮りたい」

 

 

 お嬢の要望を受け、この後も色々なバリエーションで撮影した。

 男だけの写真を撮ったり、各人お嬢とのツーショットを撮ったりと楽しんでいたらあっという間にフィルムが終わった。

 

 現世に降りて現像をしてもらい、皆に撮った写真を配っていく。集合写真は6枚、人数分作ってもらい後は1枚ずつだ。

 

 

「はっは、この写真なんかまるで爺さんと孫だな」

 

「よく撮れてるじゃないか。これなんて見ろ、イケメンコンビだ。まっ、オレの方がイケてるけどな」

 

「こっちは美女コンビだよ? 羨ましいだろ?」

 

 

 3人とも撮れた写真を見てあーだこーだと楽しそうに話している。

 

 お嬢はというと、

 

 

「よく撮れてるよね」

 

「……そうね。私以外、笑えている……」

 

 

 集合写真をじっと見つめそう零した。確かに、お嬢以外は良い笑顔を浮かべている(ばあちゃんは分からないが)。もちろん俺も。そのため、1人疎外感を覚えているのだろうか。

 

 

「……でも、心の中では笑えたんでしょ?」

 

「……うん」

 

「なら、いつか笑えるよ。その時また撮ろう」

 

「…………うん。これが、思い出なのね……」

 

 

 写真から目を離さずに感慨深く、噛み締めるようにお嬢はそう言った。

 

 

 

 

 

 ────この日、新たに1つ家具が増えた。殺風景だった部屋に、『生きている証』が飾られるようになった。

 

*1
第十三話【煉獄少女】





 お読みいただきありがとうございました。

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 ちなみに1月16日は初閻魔の日です。
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