刻灯さん、かにかまーさん、☆9ありがとうございます。
番外編第三弾です。日常回です。勘違い要素有りなのでご注意を。
「曽根、アンナ?」
「そっ。これから仕事の時は【恩田ヨネ】改め、【曽根アンナ】と呼んでおくれよ」
とある日。家の中で輪入道と一目連と雑談をしていると骨女が現世から戻ってきてそんなことを言い出した。突然の事で俺たちは無論、部屋の隅にいるお嬢も目を丸くしている。
「……だがなんだって急に。別に今のままでも良かったろう?」
「まっ、心境の変化ってヤツ? いい加減、この名前には飽きてきたところだったからさ」
「ふぅん、良いんじゃないの。『ヨネ』って名前は流石に古臭く感じていたし、そっちの方が骨女らしいよ」
「ふ、古……アンタ、そういう事はもっと早く言いなさいな!」
「いやスマンて」
てっきり気に入っているのかと思ってたし。人の名前にそんなこと言えないからさ。
「まあ、そういうことでよろしくね」
そう言って骨女は家を出ていった。気配がこの里から感じないため、恐らく現世に降りたのだろう。家の中には取り残された俺たち。
輪入道と一目連、俺が一斉に顔を突き合わせ、初めに一目連が口を開いた。
「……アイツ、何があったんだ?」
「さあ……気になるねッ」
「さっきの仕事が終わって帰る時アイツだけ姿が無かったが、その間に何かあったんだろうよ」
輪入道がそう推測する。
「『骨休め』の時に?」
「……おい大天狗」
「激ウマギャグでしょ? 『骨女』と『骨休め』」
「はぁ……お嬢を見てみろ」
呆れた様子の輪入道にそう言われ、部屋の隅にいるお嬢に目をやる。見ると顔を両手で覆っていた。
かわいいね。
そのため表情は伺えないが、髪から出ている耳が赤くなっている。薄暗い部屋のため普通ならそんなこと分からないだろうが、俺の目にかかればハッキリと見える。
何故お嬢がそんな反応をしているかと言うと、先程依頼を終えてこの里に帰る時、骨女だけ姿が無かったのだ。
連れ戻そうかと一目連は提案したが、お嬢は、
『……たまには骨休めも必要よ』
と、澄まし顔でそう言ったのだ。輪入道と一目連は笑うべきか否かで悩んでいたが、俺は思わず吹き出してしまった。
だってあのお嬢が、いつも感情の読めない顔をした無口美少女であるお嬢が、サラッとギャグを言うなんて面白すぎるでしょ。これを笑わずにいられるかって話だ。
お嬢本人はギャグを言ったという自覚は無かったようで、俺が吹き出した途端に顔を赤くしていた。
それはとってもかわいかった。
「……なんだろうな。芸能事務所にでもスカウトされたとか?」
「骨女も美人だからね。でもこの短時間で芸名まで貰ったとか有り得る?」
「案外、前々から考えていてようやっと良い名前が閃いたとかじゃねえのか?」
「なるほど……それも『骨休め』のおかげか」
「……おい」
流石に同じネタを3回はしつこ過ぎるか。一目連に突っ込まれてしまった。
「わ、悪かった。そう怖い顔しないでよ」
「い、いや、そうじゃなくて……ん」
「え、何」
焦った様子で一目連が親指で後ろを見ろと示してくるので振り返ると、顔を真っ赤にしてほっぺたを少し膨らませたお嬢が立っていた。
あっ、かわいい。なんてことを思っていると、
「…………」
グイイッと、俺の右頬を思いっきり引っ張ってきた。
「イ、イテテテ! や、やめて! ごめんなひゃいお嬢! ゆる、ゆるひて!」
なんかすっげぇ力強い! お嬢の細腕からじゃ到底出せないようなパワーで頬をつままれている。
あまりの痛さに涙が出てしまい思わず謝るが、
「……ダメ」
無情にも謝罪は聞き入れられず、ダメ押しにと空いた左頬も一緒に引っ張られた。
「イデデデデデ!!」
「アホだな」
「ああ、愚かとしか言いようがねえ」
一目連と輪入道が呆れ返っている中俺の頬はグニグニと、まるで餅のように引っ張られされるがままだった。やっぱりお嬢は怒ると怖い。
しかし、涙目の中見えたお嬢の顔は少し楽しげだった。
⛩
私、閻魔あいは暇な時間を家の中で横になって過ごしている。
400年間変わらない壁、畳の感触、おばあちゃんの回す糸車の音。慣れはしても、飽きはしない。ここが一番落ち着いて好き。
今、家の中に藁人形は1つも無い。依頼が入っていないため各々が空いている時間を好きに過ごしている。彼らは現世に降りて、浮世巡りをしているみたい。
だから、いつもいるおばあちゃんを除けば私は1人ぼっち。
……嘘。もう1人、この里にいる。
名前は大天狗、もしくは烏鷹周。私の4人目の使い魔。
彼は今、家の縁側にいる。何をしているのだろう。ふと気になったので起き上がり、家の外に出る。
縁側を見ると彼は仰向けになって寝ていた。普段の凛としていて優しげな目付きは無く、落ち着いていて可愛らしい寝顔がそこにはあった。
もう少し近づいて様子を見ようとすると、段々と彼の顔が歪んでいき、
「やめ、ろ……!」
「────────」
何かを拒絶するような声が彼の口から漏れた。
「頼、む……や、めてく…………れ……! なんで、こんな……!」
次第に冷や汗をかき、苦悶の声をあげ初めた。
────悪い夢を見ているのね
彼が見ているであろう悪夢に1つ、心当たりがあった。それは、私の過去。
何年か前、彼もあの親子と同様に私が【あい】から【地獄少女】になるまでを見たと、この里にある河原で聞いた。そして、彼の心の内を聞いた。
そんな彼の想いを受け止めて、私の想いを聞いてもらった。そうしたら再び彼に晴れやかな笑顔が戻った。だから、もう引きずっていないと思った。
だけど未だにこうして夢の中に現れる。きっと、まだ忘れられないのね。
────私は何をすれば良いのだろう。こういう時、どうしたら……
ふと、昔を思い出した。
それは確か、まだ私が【あい】だった頃。怖い夢を見て泣いていた時お母さんにしてもらったこと……
こうして悪夢を見るようにしてしまったのは、私の罪。なら、償わなくてはならない。
未だ魘されている彼の傍に座り、そっと私の膝の上に頭を乗せる。そして優しくゆっくりと、汗が手につくのも構わずに彼の顔を撫でる。
「苦しまないで……大丈夫よ…………私が傍にいるわ……」
優しく、優しく、まるで子守唄を歌うように彼に語り掛けていると、段々とその顔は安らいでいった。
しばらくしたら、彼が目を覚ました。
「あ、れ……お嬢…………?」
「…………おはよう」
何が何だか分からない、そんな顔をしている。
「膝……枕…………?」
「……そうよ」
「………………ごめん」
「……良いの。まだ、夢に出てくるのね……」
「……………………」
謝らないで良いのよ。これは私からのささやかな恩返しだから。いつも何かを与えてくれるあなたへの感謝の印。
だからもう、引きずらないで。
⛩
小太りのオッサン数人にケツを代わる代わるまさぐられる夢、アレは一体なんだったんだ……
目が覚めたらお嬢の顔と上半身が映った。そして後頭部に感じるちょっと柔らかいこの感触。これは、
「膝……枕…………?」
「……そうよ」
やっぱりそうだった。あの悍ましい悪夢が途中から消えたのはお嬢のおかげか。
「………………ごめん」
「……良いの。まだ、夢に出てくるのね……」
『まだ、夢に出てくるのね』……?
待て、お嬢は何を言っているんだ? 考えろ、強化された頭脳を高速で回転させる。
────そういうことか。
お嬢は自分の過去を夢で見ていたと思っているのか。だから持ち前のやさしさと罪悪感から膝枕をしてくれたのだろう。俺を悪夢から解き放つために。
だが違う、違うんだ……お嬢の過去なんて見ていないんだよ…………
出て来たのは小太りのオッサンなんだよ……夢にお嬢は一瞬足りとも登場しなかったんだよ…………
もう完全にホモ。史上最悪過ぎる悪夢を何故見てしまったのかまるで心当たりがない。暇な時間に色んな本を読んでみてはいるが、BLのジャンルにはまだ一切手を出していない。それなのに何故……
お嬢は今なお何処か優しげな表情で俺の頭を撫で続けている。いやほんと罪悪感でキツイ。お嬢の行動理由は概ね推測通りだろうから何とか誤解を解かねば。
「いや、あのねお嬢。その、」
「分かってる……悪い夢を見ていただけだから…………大丈夫よ……」
「………………」
あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!! 完璧に勘違いしている!!
どうするのよこれ。起き上がりたくても頭を抑えられている(力は全く込められていない)から動けないし。もし夢のことがバレたら絶対殺される。頼むから誰でもいいから帰ってきてくれ。なんでこんな時に限ってみんな外出してるんだ。
罪悪感が……罪悪感で胃が痛くなってきた…………本当なら役得どころの話じゃないレベルで嬉しいのに……なんで…………
誰か、誰か助けて…………
〜一方その頃の三藁〜
「……まあなんとも微笑ましいもんを見ちまったなあ」
現世を満喫した三藁は夕暮れの里に帰ってきたが、目に映ったのは自分たちの主が仲間の1人に膝枕をしている光景だった。
「お嬢があんなことするなんて、大胆になったもんだねえ」
「オレらが帰ってきたことにも気づいてないみたいだな」
ふと、輪入道が違和感に気づいた。
「……なんか、大天狗の様子おかしくねえか?」
「そういえば……そうね」
「めっちゃ顔引き攣っているな……」
「いつものアイツなら大喜びしそうなんだがな」
「爽やかな表情を浮かべているつもりで内心大喜びしているアレな」
そう、実は大天狗が内心『お嬢万歳!(意訳)』しているのは皆からは筒抜けなのである。4人から早々に信頼されたのはこういった理由も一つだ。
「本人はバレてないつもりなんだろうけどねえ……」
「こう、アイツの周りの妖力? がブワーッ! となるよな」
「だが、今の大天狗はまるで罪の意識に苛まれているような……」
「やむを得ず糸を解いた後の依頼人のような顔だよな……」
普段の大天狗を知っているからこそ、この状況をあまり歓迎していない様子なのが3人にはあまりにも不自然に映った。対する閻魔あいはいつも通り、いや少しばかり表情が柔らかいため余計に。
「どうすんのさ? アタシあの空間に行きたくないんだけど」
骨女が尋ねた。3人は思案する。
「……ちょいと俺は現世でまだ用事があるんだった」
「……オレも」
触らぬ神、いやこの場合は触らぬお嬢に祟りなし。そう判断して2人はこの場から逃げることに決めた。
「……じゃ、アタシも」
残る骨女も消えてしまい、救いは無かった。
「……♪」
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次から二籠に入ります。