閻魔あいちゃんの笑顔が見たい   作:アラウンドブルー

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 タクミスターさん、ファナトさん、☆10ありがとうございます。

 黒鷹商業組合さん、深山木秋さん、猫好きのタマさん さん、ビーンズ@鼬さん、☆9ありがとうございます。

 皆さん、この間ようやく発売した1/7閻魔あいのフィギュアは購入されたでしょうか。私はもちろん購入しました。観賞用と保存用とで2つ。顔が最高にかわいいです。アルターの方も高クオリティでしたが、今回のはそれ以上の完成度なので買われていない方は是非。

 原作は二籠第2話【うたかた】です。



覆水-其之壱

 

 とある日。

 

 茜色に染まった世界で、閻魔あいは沐浴に使う池に落ちてしまった毬を取ろうと手を伸ばしていた。

 

 

「…………っ」

 

 

 池自体は浅い。せいぜいが膝下まで浸かる程度だ。靴とソックスを脱いで入れば足を濡らすだけですぐに取れるが、それをしないのは有り体に言えば面倒なのだろう。

 

 毬に指が届く。しかし掴むには至らず、指に押されて遠のいてしまう。

 

 

「…………っ!」

 

 

 膝をつき、前かがみになり尚も手を伸ばすが届かない。

 

 先程まで、あいは毬突きをして遊んでいた。

 

 1人で遊ぶことは400年の間で見れば珍しくは無いが、最近は頻度が少なくなっていた。というのも、大抵は(誘われなくても)大天狗が参加するからだ。

 

 しかし、現在大天狗は能力の慣熟訓練のためこの場にはいない。転生時に貰った能力は未だに底が見えていないため、定期的に山や海、空で能力開発を行っている。故にあいは一人で遊んでいた訳だが、手が滑って毬が池に落ちてしまった。

 

 

「…………ッ!」

 

 

 息を凝らし、声にならない声を漏らしながら必死に手を伸ばす。

 

 しかし届かない。

 

 

「…………ぁあっ!」

 

 

 より前屈みになり手を伸ばしたがため、身体のバランスが崩れてしまい池に落ちる────と思われたが、

 

 

「おっと」

 

「……ぁ」

 

 

 丁度帰ってきた大天狗があいの腰を支え、あわやずぶ濡れになるのを防いだ。

 

 

「あのボール取ろうとしてたの? ……それっ」

 

 

 そのままの姿勢で大天狗が片手を軽く振るった。すると小さなつむじ風が発生し、それは水面に浮かんだ毬を宙へ巻き上げ2人の背後へ落とした。

 

 

「これでいい?」

 

「……うん」

 

 

 これにて一件落着────と思われたが、ここで予想だにしないことが起こる。

 

 

「…………えい」

 

「あっ、ちょ。おわっ!?」

 

 

 グイッと、未だ腰を支えたままの大天狗の腕をあいが引っ張った。当然、そんなことをするとは思っていなかった大天狗はバランスを崩し、バシャンと2人まとめて池に落ちてしまった。

 

 

「────ブハッ! いってて…………お嬢、大丈夫? 怪我してない?」

 

「ケホッ……うん」

 

「なら良いんだけど…………何で……こんなことを…………?」

 

 

 困惑。大天狗の頭の中はそれだけだった。普段の閻魔あいはまさに静謐、今のような突拍子もない行動からは遠くかけ離れた存在。

 

 大天狗に怒りの感情は全く無いが、強化された頭脳を回転させても答えにたどり着けないため尋ねる。しかし、

 

 

「…………なんでだろう……?」

 

 

 あい本人も自身が何故このような行動をとったのか分かっていない様子だ。濡れた長い髪を額に張り付けながら、目を丸くして首を傾げている。

 

 

 ────────それは心の発露。大天狗との触れ合い、そして己の内を解放した六道郷での一件により、止まりかけていたあいの心は動き出した。

 

『ここで腕を引っ張ったらどんな反応をするのだろう』、『どんな表情をするのだろう』。そういった、『もっと知りたい』という興味が今のあいには湧くようになっていた。

 

 私心を閉ざし、数百年に渡り人の怨みを見続けてきた地獄少女、閻魔あいは自分でも気付かない程に変わりつつあった。

 

 清めに使う池に毬を落としたのも、あいの心境が変わりつつある証拠だ。これまでなら、無聊を慰めるために毬で遊ぶことはあってもその心は氷。ミスで毬を零すことはあれど、池に落とすまでには至らない。

 

 よしんば落としたとしても、地獄少女の権能ですぐ手元に戻すことができる。それをせず、懸命に手を伸ばして取ろうとしていたのは人としての心が戻ってきた証拠。

 

 そんな、あいの心の動きを大天狗は察した。

 

 

「────ははっ、なら良いや。でも、今のは危ないから次からはやらないでね。怪我してほしくないから」

 

「……うん」

 

 

 感情を押し殺した彼女を見てきたからこそ、『気になったから衝動的に動いた』という人間らしさが垣間見えたことがたまらなく嬉しくて、思わず笑みを浮かべた。

 

 

「お嬢、仕事だっ……て…………」

 

「「!?」」

 

 

 グルンと、あいと大天狗は声のする方へ顔を向ける。

 

 

「……何、してんだ? 2人とも……」

 

 

 そこにいたのは、依頼が届いたことを知らせに来た一目連。彼は目の前の光景を見て顔を引き攣らせた。あいと大天狗、お互い池で膝立ちとなり髪も衣服もずぶ濡れのまま見つめあっているという奇妙な状況。

 

 大天狗はなんて答えればいいか分からず、

 

 

「あー……なん、だろうな…………」

 

「それはオレが聞いてるんだっつの……」

 

 

 答えになっていない返事をするしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ⛩

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、今回の依頼は【倉吉弥生】という女子大生……のはずなんだが、中々奇妙な案件だ。

 

 お嬢が依頼人の元へ向かい、俺たち4人は近くにある無人の野菜直売所で待機。一目連が千里眼で、俺は投影で様子を伺っている。

 

 依頼人の口の動きを見るに、自分の意思で地獄通信にアクセスした訳ではないみたいだ。勝手にPCが起動して、気づいたら名前を送信していたとの事。妹の【スミレ】がそうさせたんじゃないかと彼女は言っている。

 

 ターゲットの名前は【男】、ただそれだけが送られてきた。名前が分からずとも、確かな怨みがあればお嬢は正確に相手を割り出して地獄流しを行える……が、それは依頼人の意思であればのこと。

 

 

「スミレ、ね。憑依……いや、意識の一時的なジャックかな…………こういうこと、過去にあったりした?」

 

 

 お嬢の帰りを待っている間、3人に話を振る。

 

 

「……いや、覚えている限りねぇな。だが、人間に取り憑く亡霊は何度か見た事がある」

 

「へぇ、やっぱそういうことあるんだ」

 

「あぁ。今の彼女みてぇに意識が乗っ取られていたわけじゃねえが、感情の行き先を亡霊が誘導していたな。最も、お嬢に言われるまで俺らはそれに気づけなかったんだが」

 

「後は、この前のニナ*1って子が近いんじゃない?」

 

 

 俺からの問いに輪入道と骨女が答える。一目連は千里眼に集中しているからか話に入ってこない。

 

 しかし、ニナか。確かに似ているかもしれない。最もあちらは本人の未練から生まれた意思を持つ人形、こちらは霊に一時的に取り憑かれたと思われる人間だ。どっちにしろ、生者の意志からしか依頼を引き受けないのには変わりないか。

 

 それから間もなく、お嬢がもう用は無いといった様子でこちらに歩いてきた。

 

 

「……その感じじゃ、依頼は引き受けないってところ?」

 

「……本人の意志じゃないから…………帰るよ」

 

 

 やはり、倉吉弥生は一時的に身体を乗っ取られて地獄通信にアクセスしたみたいだ。思い返せば、PCに届いた依頼から感じる思念は2つあり、一方は希薄で、もう一方はハッキリとした憎悪だった。

 

 そういうことで依頼は断り、家へ帰ることに。俺たちはお嬢の後に続いて夕暮れ時の世界に戻る……のだったが、

 

 

「……どうした、一目連?」

 

 

 1人、その場に立ち尽くし再び千里眼を使用している一目連を見た俺は思わず声をかけた。

 

 

「…………いや、何でもない」

 

 

 返事こそすれど、その眼差しは倉吉弥生の家の方角に向いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 現世時間で夜が明け昼をすぎた頃、一目連の姿が無かった。昨晩の様子を考えれば、向かった先は凡そ予想がつく。

 

 使い魔同士の感覚を辿ると、倉吉弥生の家の近くにあるファミレスにいた。客のふりをして、前の席に座っている弥生と大学の友人と思われる男との会話を伺っていた。

 

 

「────お客様、お冷をお次ぎいたしましょうか?」

 

「え!? あ、いやオレは……ってなんだよ、大天狗か……驚かすなよな」

 

 

 ふざけて店員のふりをしてみた所、一目連が珍しく取り乱した。

 

 こういった調査の時、俺たちは周囲に気取られることなく場に溶け込むことができる。今回の場合で言えば、一目連の座席に人が案内されることはなく、かといってそこに一目連がいるとは気づかれない。

 

 そんな状態の時に誰かから声をかけられるのなら、それは俺たちしかいない。なのに俺の接近に気づかなかったということは、それほど彼女に入れ込んでいるのだろう。

 

 

「悪い悪い。で、どうよ?」

 

 

 一目連に尋ねながら彼の正面……より少し奥に座る。正面に座ると一目連が彼女の様子を見れないからね。

 

 

「……どうって?」

 

「あの子、依頼しそうなのか?」

 

「…………さぁな。地獄通信のことは今知ったばかり。もう少し見ていないと分からねぇよ」

 

 

 どうやら倉吉弥生は会話していた男から地獄通信のことを聞いたみたいだ。

 

 ────しかし、もう少し見ていないと、ね……現状依頼する素振りは無し。なのにその発言…………

 

 

 場面は変わり、とある駅周辺。天気は生憎の雨にも関わらず、彼女は両親と共にレインコートを着て懸命にビラ配りをしていた。

 

 

「お願いします!」

 

「お願いします!」

 

 

 ビラの内容は捜索願。見出しには『探しています』とあり、続く内容は【倉吉スミレ】の顔写真とプロフィール、最後に姿を確認した場所と連絡先が記載されていた。

 

 しかし、ビラを受け取る者は僅か。ほとんどの人は無関心で、たまに受け取ってくれることはあってもすぐに捨てられてしまう。道路には水に濡れ、踏まれ、破れたビラが何枚も落ちていた。

 

 そんな中、倉吉弥生だけは両親と違いビラを配ろうとせず、一人物憂げな表情で立ちつくしていた。

 

 というのも、どうやら彼女は最近、頻繁にスミレの声と泡の音が幻聴として聞こえているようだ。

 

 これを、妹を喪ったショックと日々のビラ配りによる心労と切り捨てるのは容易い。

 

 しかし、幻聴に加え、昨晩スミレの部屋のPCが勝手に起動したという事実。いつの間にかアクセスしていた地獄通信。そして、俺が画面越しに感じた2つの思念。

 

 病気なんかではないというのは明白。つまり、死んだ妹が姉に向けてメッセージを送っているということ。

 

 その事実を察した彼女は、もうビラ配りは無駄と気づいてしまったのか両親のように必死な顔はしておらず、声も小さい。

 

 

「こんなとこにいた」

 

「骨女……それに輪入道も」

 

 

 俺と一目連が屋根のあるバス乗り場から彼女達の様子を見ていると、背後から骨女に声をかけられた。見ると、輪入道と相傘をしている。

 

 

「……悪いか?」

 

 

 一目連は彼女達から目を離さず応える。

 

 

「一目連だけじゃなく、お前さんも気になるのか?」

 

「まあ、思うところが無いわけじゃないからね」

 

 

 俺も、スミレと同じく両親の前から姿を消した存在だ。前の世界とこの世界、合わせて2度も。それが心の棘になっている程では無いが、引っかかるところはある。

 

 だが、何より一目連の様子が心配だ。彼が今回のように強く感情移入する時は大抵が家族、親友関係といった案件だ。そして、そういった時の一目連はどこか不安定に思える。

 

 やがて、娘の様子がおかしいことに気づいた両親は疲れているのかと考え、倉吉弥生に家へ帰ることを勧めた。彼女は一瞬躊躇するも、その言葉に従い帰路に就いた。

 

 

「あ、動いた」

 

 

 骨女のつぶやきと同時に、一目連も彼女の後を追い出す。

 

 

「そっちは一目連に任せよう……お前さんはどうする?」

 

 

 どうやら輪入道と骨女も、調査に乗り出すようだ。

 

 

「俺は一目連に着いて行くよ。じゃ、また後で」

 

 

 そう言って俺と一目連、輪入道と骨女で分かれて行動することになった。

 

 

「────────ん? なんだ…………?」

 

 

 一目連の後を追うべく歩き出そうとすると、誰かから見られている感覚を覚えた。

 

 お嬢ではないのは確かだ。この俺が、お嬢と他の者の視線を混同するはずがない。

 

 

「……気のせいか」

 

 

 視線はさっきの一瞬だけだし、今はそんなことよりも一目連を追わねば。

 

 

 そして、すぐに追いつけた。倉吉弥生は家に帰ると言っていたが、道に逸れて警察署前に佇んでいた。

 

 聞こえる幻聴、それは妹のスミレが既に死んでいるという証であり、同時に何者かによって殺害されたということ。恐らく、殺人事件として取り扱ってもらおうと来たのだろう。最も、証拠が無いと悟ったのか、見張りの警官に声を掛けられるとすぐに立ち去った。

 

 

「一目連」

 

 

 彼の背後から声を掛ける。

 

 

「ッ、お前…………ここはオレ一人で十分だ。お前は輪入道たちの所にでも行ってろ」

 

「そうは言っても、2:2で分かれた方がバランス良いでしょ。なにより、そんな思い詰めた様子の一目連を放っておきたくない」

 

 

 いつもの一目連は軽薄だが、同時に輪入道のようなドッシリとした雰囲気も持ち合わせている男だ。それがこういった案件になると何処か思い詰めた様子というか、煙になって消えてしまいそうな雰囲気になる。

 

 普段は何かと気にかけてくれる良い奴だから、こうして寂しそうにしているのなら力になりたい。

 

 

「ハァ……ったく、何言ってんだか…………好きにしろ」

 

 

 ぶっきらぼうに返事をして、倉吉弥生の様子を伺うのを再開した一目連だったが、俺から背を向ける瞬間見えた彼の口角は、僅かにだが上がったのを確認できた。

 

 

「ああ、好きにさせてもらうよ」

 

 

 そう言って一目連と共に、今回の一件の行く末を見つめるのだった。

 

*1
本作第6話【祈り】に登場





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