閻魔あいちゃんの笑顔が見たい   作:アラウンドブルー

23 / 28

 地獄少女二次増えないかなー……

 今回で二籠第2話【うたかた】は完結となります。



覆水-其之弐

 

 あれからしばらく、大天狗と一目連は倉吉弥生の後をつけていた。警察署を去ってからも彼女は家に帰ろうとせず、フラフラと歩き続けてどれほど経ったのか、唐突に一目連が口を開いた。

 

 

「……なぁ」

 

「なに?」

 

 

 ここまで大天狗と一目連に会話は無かった。雑談をするような雰囲気でもないため、それは必然。

 

 

「お前にも、家族はいたんだろ?」

 

「……ああ」

 

「……心配してねえのか?」

 

 

 一目連から問われ、大天狗は何処か遠くを見るような目付きになりながらゆっくりと答える。

 

 

「…………たまに思い出す事はあるよ。1度目の方も、2度目の方も。その度に、もう決して届かない所に来てしまったなって思うよ。せめて別れの一言でも残したかったな、ともね……」

 

 

 1度目も2度目も、取り立てる程の人生を大天狗────烏鷹周は送っていなかった。だが、そんな平々凡々な人生においても家族はあった。

 

 1度目の、前の世界を観測する方法は無い。それは大天狗の能力でも、地獄少女の力をもってさえも不可能のこと。

 

 2度目は確認することこそ可能だが、地獄少女の元に来た時点で烏鷹周に関する記憶、記録、痕跡は跡形もなく消えている。それはつまり、この世界で人間だった頃の烏鷹周を知る人間は誰一人としていないということ。

 

 1度目も2度目も普通な、だけど暖かくて大切な家族はあった。2度目の人生は疎外感こそ覚えてたが、それでも一定以上の敬意を大天狗は両親に払っている。

 

 

 人ならざる者になった故、情緒を乱されるほどではないが時たま思い出して感傷に浸ることはあるのだ。

 

 

「……そうか。スミレって子は、どう思ってんだろうな」

 

「……さあ。でも、彼女に幻聴聞かせてお嬢にアクセスさせようとしているんだから、相当怨みが強いんじゃない? 俺みたいなこと考えている余裕が無いほどに」

 

「そうだな…………分からねぇな、人間って」

 

 

 何故、底知れぬ怨みを抱えてしまうようなことを人は行えるのか。何故姉にしか怨念を伝えようとせず、姉が幻聴に苦しんでいても尚それを止めようとしないのか。一目連にも、大天狗にもそれが分からなかった。

 

 

「……一目連はどうだったんだ?」

 

「オレは…………オレは見つめてきた。人を、心を。ただ、見るだけだった」

 

 

 一目連の過去。かつて数多の人の手に渡り、生き血をすするだけの刀────それに宿った【付喪神】だった頃。彼は見ているだけだった。

 

 欲望、憤怒、憎悪、悲嘆。様々な思いを込めて振るわれるだけの頃、一目連はただ受け止めることしかできなかった。

 

 

『生きてくれ』

 

『殺させないでくれ』

 

 

 多くの人の念から生まれた一目連は自然とそう願うようになっていた。しかし、その想いが届くことはなく命が、絆が断ち切られていくだけだった。

 

 そして、多くの人の手に渡り続け、人の大切なものが失われていく様を見つめてきた果て。戦場で打ち捨てられ、朽ちるのを待つだけだった時、閻魔あいに出会った。

 

 彼女の元でなら、自身が求めている何かを見つけられるかもしれない。一目連はそう思い、あいの手を取って今に至る。

 

 

「……見ているだけ、か…………でも、今は違うだろ? 今は、見ているだけじゃない。こうして話せている」

 

 

 一目連がかつてはどのような姿だったのか、大天狗は想像に及べていない。

 

 彼の特徴はあらゆるものを視る目。輪入道や骨女のように、分かりやすい特徴では無い。更に、暴風神の一目連ではないと聞いているため、正体に辿り着けなかった。

 

 だが、何か重い過去があるというのは分かった。抽象的な返事。そこから導かれるのは、あまり話したくない嫌な過去があるということ。

 

 だからこそ、今の一目連は過去とは違うと否定した。

 

 

「────フッ、そうだな。何せ昔と違って、今はアホな弟分をあやさなきゃならねぇからな」

 

 

 そんな大天狗を見て、一目連は虚をつかれるも微笑みをこぼし、何処かこそばゆく感じるのを紛らわせてようと軽口を叩いた。

 

 

「ふっ、おいおい。俺をアホだと? 今なら東大だって余裕で入れるであろう頭脳を持つこの俺をアホと?」

 

「そういうとこだぞ────────ありがとな

 

「なんて?」

 

「何でもねぇ。…………ここが、か」

 

「……ああ。多分、スミレちゃんがいなくなった場所なんだろうね」

 

 

 倉吉弥生の後を追って更にしばらく、雨は止み日が傾きかけた頃。辿り着いた場所は河沿いの田舎道。河の向こう側には家が見えるが、こちら側は畑と平野が広がり遠くには山々が連なっている。

 

 そこにある寂れたバス停のそばで倉吉弥生は一人佇み、妹がいなくなった日のことを思い出していた。

 

 雪が降り積もる日、姉妹で買い出しに行った時のこと。帰路の途中、妹がタクシーに乗りたいと我儘を言い出して喧嘩になった。

 

 スミレは寂れたバス停に座り込んでしまい、タクシーを呼ぶと言って聞かなくなり歩こうとしなくなった。それを見た弥生は怒り、買った荷物をスミレの分も抱え一人で家に帰った。

 

 それが、スミレを見た最後だった。待てども待てども、何日、何週間経ってもスミレが帰って来ることはなかった。警察に行き、聞き込みもして、最後に見た近辺も駆け回ったが、終ぞ痕跡を見つけることは叶わなかった。

 

 

「あの時、喧嘩なんてしなければ……スミレの傍についていられた。そうすれば、スミレも行方不明になることもなかった……あたしのせいで、あたしのせいでスミレは…………」

 

 

 ちょっとした喧嘩。妹が駄々を捏ね、姉が怒る。なんて事ない、ありふれた日常の一場面。まさかそれが、永遠の別れの引き金だと誰が想像できるか。

 

 そんなことしなければと、こんなことになると分かっていたならと、倉吉弥生は何度も何度も考え、その度に時計の針を巻き戻せたらと祈るばかり。

 

 だが、時は無情にも進み続ける。どれだけやり直したいと、過去に戻りたいと願おうが叶うことは決して無い。

 

 妹を喪った姉は無慈悲な現実をただただ受け入れ、己の行いに後悔するしかなかった。

 

 その哀れな姿を、一目連と大天狗は無言で見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ⛩

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時は更に過ぎ、0:00。倉吉弥生はスミレの部屋のPCを使い、地獄通信にアクセスしようとしていた。しかし、画面に映るのは『404 Not found』。何度リロードボタンを押しても、繋がることは無かった。

 

 その様子を見届けて、一目連と大天狗は昨晩と同じ場所に戻った。

 

 

「お嬢のおかげで、全て見てきたよ」

 

 

 骨女は野菜直売所の人参を齧りながら、やって来た2人に声をかける。

 

 

「「お嬢?」」

 

「もう帰ったよ」

 

「……そうか」

 

「それで、スミレちゃんはやっぱり……」

 

 

 大天狗が尋ねる。

 

 

「酷いもんだったよ……アレじゃ怨みが残るのも無理ないね」

 

「……で、今あの子はどこに?」

 

 

 少し上擦った声で一目連が尋ねる。

 

 

「湖の底だ……あっちの子は?」

 

「…………自分の意思で地獄通信にアクセスしようとしている」

 

「けど、今のままじゃ繋がりそうには無いね」

 

「……きっと、自分を責めてのことだろう。だが、それは怨みとはまた別の心持ちだからな……繋がらねぇのも無理はない」

 

「もしくは…………」

 

 

 そこまで言って大天狗が言い淀む。彼の脳裏に過ぎったのは別の可能性。それは、『幻聴から解放されたいがために地獄通信にアクセスしようとしている』ということ。

 

 

「ん? 『もしくは』……なにさ?」

 

「……いや、なんでもない」

 

「「?」」

 

「…………」

 

 

 だが、その可能性を大天狗は言わなかった。人と人との絆というものに強い関心がある一目連が聞いている中で、そんな冷たい可能性があるということを大天狗は言いたくなかった。

 

 

「────ま、今回はこれまでかねぇ……」

 

「……帰ろう」

 

 

 一目連が話を切り上げ、4人は夕暮れの里へ帰って行った。

 

 

「どうして、どうして繋がらないのよ! スミレの怨み晴らしてよ!!」

 

 

 一人、妹の部屋で嘆く姉の声に耳を傾ける者は誰もいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ⛩

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれから更に数日。倉吉弥生は尚も幻聴に苦しめられていた。寝ても醒めても、朝食を食べている時も、両親と共にビラを配っていても『冷たい』、『暗い』、『ここから出して』という、耳を塞いでも魂に響いてくる泡沫の声。

 

 

「ごめんね、スミレ。何とかしてあげたいけど、何もしてあげられない。ごめんね……」

 

 

 毎日地獄通信にアクセスしようとしていた弥生だったが、何度試しても繋がらない。しかしお構い無しに聞こえてくる幻聴。

 

 両親には探しても無駄かもしれないと、暗にもう死んでいることを告げるが、そんな言葉で諦めてくれるはずもなく。

 

 弥生は何もスミレのためになることはできないからせめて、妹の部屋で謝罪の名目で『だからもう声を届けないで欲しい』という願いを伝え、PCを立ち上げずに自室に戻って行った。

 

 

「最近はアクセスしようとはしてねぇようだな……」

 

 

 今日も彼ら四藁は、弥生の家の近くの無人野菜直売所から様子を伺っている。

 

 

「……所詮、その程度の怨みってことさ」

 

 

 一目連が表情一つ変えずそう応えた。

 

 

「そりゃそうだけどさぁ……」

 

「……他人の怨みに同情はできても、自分の怨みにするのは難しいからね…………それこそ、追体験でもしない限りはその辛さは分からないよ」

 

 

 かつて閻魔あいが『あい』から『地獄少女』になるまでの由縁を克明に見て、聞いて、その時のあいの心と同調したことのある大天狗だからこそ、倉吉弥生の今の心情が理解できた。

 

 もし、自分がただあいから過去を聞かされただけなら、深く悲しみはしてもその行動原理にまで強く影響は出なかっただろう。そう、大天狗は考えた。

 

 怨みがどのようなものか予想し、理解することはできても魂に刻まれなければそれは自身の怒り、悲しみ、憎しみにはならない。

 

 

 しかし、尚もスミレは姉にのみ意志を伝え続ける。

 

 

『無理よ』

 

『無理なのよ』

 

『どうしても繋がらないのよ』

 

『どうして私にだけ?』

 

『どうしてお父さんお母さんじゃなくあたしなの?』

 

『どうして私にだけ!』

 

 

 弥生は心の中で必死に妹へ向けて叫びながら、ビラ配りを放り出して耳を塞ぎ駅前から走り去ってしまった。

 

 

 気がつけば、日は傾き始めていた。ビラを配っていたのは3時頃。倉吉弥生は2時間近く耳を塞ぎ、目を瞑って聴こえてくる幻聴に耐え忍んでいた。

 

 場所は駅から少し離れた広い公園。周りは家族連れやカップルがいて、子供が走り回っている。

 

 いつの間にか、幻聴は聞こえなくなっていた。

 

 

「……やっと解放してくれたのね…………」

 

 

 安堵のため息と共に彼女はそう零した。しかし、そんな彼女の耳に、水の吹き出す音が聴こえてくる。なんだろう、そう思い俯いていた顔を前に向けると、それは噴水だった。

 

 頭がぼんやりとしてきた。

 

 ふらふらと噴水に近づき、水面に浮かぶ自身の顔を眺める。

 

 

「『冷たい……』」

 

 

 噴水に仰向けに浸かり、身体全体で水の冷たさを感じる。周囲の人々が怪訝な様子で見てくるが、今の彼女には関係がなかった。

 

 

 そして、スミレの心と繋がる。

 

 

 喧嘩別れした後、見ず知らずの男に捕まり、車のトランクに積まれ、着いた先は裸電球一つがぶら下がっているだけの何処ともしれない倉庫。少し埃っぽい匂い、床に手をつけば感じる冷たさ。

 

 怯え、身を震わせる彼女の元に近づいてくる男。虚空に手を伸ばし母、父、姉に助けを求めるも、その声が届くことはなく無情にも転がる赤い靴。

 

 悲しみと絶望、そして強い憎悪を抱えたまま殺され、トランクに詰め込まれ、湖に捨てられるというスミレが負った壮絶な仕打ち。それを、弥生は追体験した。

 

 

「スミレ……スミレ…………!」

 

 

 スミレの恐怖、苦痛、絶望は弥生の魂に強く刻みこまれ、内よりドス黒い憎悪が溢れ出した。

 

 家に戻り、スミレの部屋で0:00になるのを待つ。

 

 

「『冷たい……』『暗い……』」

 

 

 強い怨みと深い悲しみを胸に、子の刻を知らせる壁時計のアラームが鳴るのと同時に一切の躊躇無くリロードボタンを押す。

 

『404 Not found』と表示されていた白い画面が、漆黒に塗り変わる。中央に炎のムービーが再生され、それが消えると同時に、『あなたの怨み、晴らします』と書かれたテキスト、入力フォーム、送信ボタンだけの簡素なレイアウトの画面が浮かび上がった。

 

 弥生は入力フォームに【犯人】とだけ打ち込み、送信ボタンを押した。彼女自身の怨念は、夕暮れ時の異界にまで届く。

 

 

「ついに来たか……」

 

「……そうね。一目連を呼んできて」

 

 

 大天狗はあいの指示を受けて、無為に夕陽を眺めている一目連を呼び戻しに外へ出た。

 

 

「一目連、依頼だ。相手は……言わなくても分かるよな」

 

「……ああ。あの子だろ」

 

 

 そして、あいは一目連と共に再び倉吉弥生の目の前に顕現する。

 

 弥生は動揺しない。以前会っているということもあるが、今の彼女の心にはスミレの負った凄惨な体験が刻み込まれている。

 

 大好きで大切なスミレの何もかもを奪い壊した犯人が憎い。スミレ()にこんなことをした奴を許せない。

 

 既に、スミレの憎悪は弥生の憎悪になっていた。『スミレのために』『幻聴を無くすために』ではなく確かに、自分自身の心の奥底から『犯人を地獄に堕としたい』という憎しみが湧き出ていた。

 

 あいは藁人形に変身した一目連を弥生に手渡し、地獄流しの説明をする。糸を解いたら、怨みの相手は地獄に流されるが、代償として自分自身も死後地獄へ落ちることになると。

 

 

「────だから、私なのね。スミレ……」

 

 

 弥生は悟る。何故、母でもなく父でもなく、自分にだけ怨みを伝えるのか。何故、地獄通信にアクセスさせようとするのか。

 

 それは、スミレからの弥生に向けた怒り。もしもあの時、一緒に残っていてくれたら悲劇に遭わずに済んだかもしれないという、身勝手な想い。

 

 故に、弥生にだけ幻聴を聞かせて苦しめ、死後地獄に行くという罰を背負わせようとしている。

 

 そんな妹の真意を全て理解した弥生は、その上で犯人に罰を与えるために、そして自分自身が裁きを受けるために糸を解いた。

 

 

《怨み、聞き届けたり……》

 

 

 蒼色の藁人形は、虚空へと消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ⛩

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「犯人を地獄に流して怨みを晴らした後も、あの子の日常は変わらないね……はいっ」

 

 

 茜色に照らされ続ける異界。そこにある家の庭で大天狗と閻魔あいはボール遊びをしている。

 

 大天狗が毬をあいの方向へ、斜め下に投げる。放られた毬は一度地面にバウンドした後、吸い込まれるかのようにピッタリとあいの手元へ届いた。

 

 

「……そうね」

 

 

 あいもまた、大天狗と同じように毬を投げる。少し右に逸れたが、しっかりと受け止められた。

 

 

「後悔先に立たず……なんて簡単な言葉で済ませちゃいけないけど、彼女の残りの人生に少しでも色があることを願うよ……はいっ」

 

 

 毬が投げられる。

 

 

「……そうだね」

 

 

 毬が投げられる。

 

 

「…………お嬢、無理してない?」

 

 

 毬を持ったまま、大天狗はあいに尋ねる。

 

 今回の案件は似ている。ほんの些細な選択で悲劇に繋がった点、そして水の中という違いはあるが、似たような形で殺されたという点があいの過去と。

 

 その事に気づいた彼女はゆっくりと首を横に振り、

 

 

「……ううん、大丈夫…………あれはもう、昔のことだから………………それに」

 

「……それに?」

 

「…………今は、あなたと遊ぶのが楽しいから……」

 

 

 瞳を閉じて、口元をほころばせながら静かにそう言った。

 

 

「フッ、スウゥーーーーーー…………そ、そう? なら良いんだけど。は、はいっ」

 

 

 明確にあいが笑った姿を見て、大天狗は虚をつかれた。目をパチパチとさせ、少し挙動不審になりながらも毬を投げた。もっとも、それでコントロールがぶれることはなくスッポリとあいの手元へ収まった。

 

 

「あ、あーっと、一目連は今日も外に?」

 

 

 上がっている心拍数を誤魔化すかのように、大天狗はあいに尋ねる。

 

 

「……うん。まだ、気になっているみたいね…………」

 

「そっか……ちょっと、あいつの様子見に行って良い?」

 

「……良いよ。行ってらっしゃい…………」

 

 

 見送りの言葉と共にあいに手を振られ、大天狗は異界から姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………顔、朱かったわね……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 毬を抱え、現世へ続く道を見つめながら、あいは大天狗が帰ってくるのを今か今かと待つ。全てを見透かす真紅の瞳は、やさしく輝いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 場面は変わり、とある駅前。

 

 

 

 

 

「よっ、一目連」

 

「……どうかしたのか」

 

「用が無けりゃ、来ちゃいけないか?」

 

「…………」

 

 

 一目連の隣に立つ大天狗だが、彼の眼差しは変わらずスミレの捜索願のビラを配る倉吉弥生に向いている。

 

 その目に映るのは、決して報われることの無い贖罪を続ける哀れな影。家族の絆を守るため、真相を明かさず一人抱え込んだ罪人。

 

 だが、どこか晴れやかさを感じる表情を浮かべていた。それは自身の罪と向き合えたからなのか。真意は、本人のみぞ知る。

 

 

「……あの子は、あれで良かったのかな」

 

 

 しばらくの間2人で彼女達を眺めているとポツリと、一目連が零す。

 

 

「そのあの子ってのは、どっち?」

 

「……どちらもだ」

 

「…………自分の全てを奪った相手とその原因に復讐したくてしょうがなかったんだろう。それは大切な姉すらも例外じゃなかった。

 対する倉吉弥生の方はその想いを理解して、妹と家族のために現世と地獄で贖い続けることを決めたんだろうね。妹は成仏したようだし、姉は姉で納得しているみたいだから、きっとこれで良いんだろうよ」

 

「…………」

 

 

 大天狗なりの考えを伝えるが、一目連は押し黙ったまま終わらぬ償いを見つめている。

 

 

「って、悪いな。偉そうに語ってしまって」

 

「……いや、いい。オレも似たようなこと考えていた…………帰るか」

 

 

 一目連は彼らに背を向けて歩き出す。大天狗も続き、歩幅を合わせる。

 

 

「……あっ、そうだ」

 

「なんだ?」

 

「さっきまで俺、お嬢とボール遊びしてたんだよね。一目連もやらない?」

 

 

 ここで、2人の目がようやく合う。楽しげな笑みを浮かべている大天狗を見て、一目連は思わず溜息を着くが、

 

 

「…………まっ、たまに悪くないか。乗った」

 

「よし! んじゃお嬢を待たせちゃいけない。さっさと戻ろうぜ」

 

「…………多分こういう所が、なんだろうな」

 

「あん?」

 

「……フッ。いや、なんでもねぇよ…………」

 

「?」

 

 

 先程までは陰を感じさせる面持ちの一目連だったが、今は爽やかな笑みを浮かべていた。

 

 

 ────────暗い雰囲気のままにさせてくれない、あの頃みたいに孤独になろうとしても気づいたら傍に立っている、他の3人とは違った愉快なヤツ。だが、だからこそ輪入道も骨女も、そしてお嬢もコイツの事が好きなんだろう。それはオレも…………

 

 

 楽しそうに隣を歩く大天狗を見て、一目連はそう思った。

 





 お読みいただきありがとうございました。

 高評価、お気に入り登録、ご感想よろしくお願いします。

 いつの間にか一目連回になっていた……
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。