這地人さん、☆9ありがとうございます。
タイトル、悩みに悩んだ挙句まさかこんな単純になってしまうとは……
原作は二籠第3話【愛しのけいちゃん】です。
ちなみに、始まりは本作【在処】のセルフオマージュとなっております。
最近、お嬢の様子がおかしい。
いや、以前のようなここじゃない何処か、遠くを見ている感じではない。むしろ、ここの所のお嬢はどこか楽しそうな雰囲気を身にまとっている。
顕著なのは眼だろう。これまでは仕事がオフの時は大抵まどろみの中にいるような、寂しい眼をしていたが、最近はクッキリとしていることが多くなった。
後は仕草か。頷いたり首を傾げたりする動作が以前はほんの少しだけだったのが、今では結構ハッキリとアクションするようになっている。第三者から見たら大して変わらない程の差ではあるけども。
別に俺は今挙げた点をおかしいと言っている訳ではない。むしろ歓迎すべきことだと思っている。オフの時くらいは人らしい感情をもっと発して欲しいと常々思っていたから、今の状況は非常に喜ばしい。
俺が言いたいのは、最近のお嬢との距離感だ。
近いんだよ、物理的に。
この前、縁側で仰向けになって寝ていた時のこと。なんか顔がくすぐったいと感じ、目を開けると視界いっぱいに、逆さまにお嬢の顔が広がっていた。くすぐったさの原因はお嬢の長い髪が垂れていたからだった。その距離は鼻と鼻が当たる寸前、息づかいが明確に分かるほど。
ここまで顔を近づけられたことは今まで無かったため、心臓がバクバクと鳴っているの感じた。気にしないようにして、『どうしたの?』と尋ねると、お嬢は少し間を置いて『なんでもない』と言って何故か慈しむような表情を浮かべながら俺の額を軽く撫でた。
それだけじゃない。気分転換に
あんな酷いことがあって、しかもいずれ地獄に行く運命なのにも関わらず、懸命に今を生きている彼女の姿につい足が止まってしまった。そのままぼんやりと、『美人だなあ』とか『昔会ったことあるんだよなあ』なんて他愛のないことを考えていると、隣に気配が。
目をやると、いつの間にかお嬢もその映像を見ていた。お嬢は俺と目が合うや否や、『行こ』と言って俺の手を引っ張りテレビから距離を取らされてしまった。その時の表情は真顔だったが、どこか不機嫌そうな印象を受けたのは記憶に新しい。ちなみに、その日の外出にはお嬢も加わることに。
ていうか何だよ『行こ』って。かわいすぎるだろ、天使か? これもう地獄少女ならぬ天国少女だろ。一日限定でやってみない? 『もっぺん、生きてみる?』を決め台詞に、報われぬ魂を救済する大天使あいとか良いでしょ。純白のセーラー服着て青のカラコン入れてさ。でもそんなの見たら俺が耐えられなくなる気がする。
閑話休題。
なんてことがここ最近多い。うん、明らかに距離感バグっている。そして、それは今も。
「……それ、おもしろいの?」
縁側に腰をかけて現世で借りてきた本を読んでいると、隣からお嬢が尋ねてきた。俺の肩に頭をもたれ、開いているページに目を向けている。
なんとも言えぬ不思議な良い香りが鼻腔をくすぐる。ヤバい、すんごいドキドキする。こんな風に近づかれるのは今までほぼ無かったから緊張する。
「う、うん。結構イケるよ。登場人物の感情が地の文であまり表されてなくてさ。台詞や動作表現から読み取っていくのが面白いんだ」
なんとか、務めて冷静に返事をする。
「……そう。良かったわね…………」
それっきりお嬢は黙ってしまったが、体勢を変えるつもりは無いらしい。依然として肩にもたれかかったまま開いているページを見て、時折こちらに目線をやってくる。相変わらず表情は変わらないが、何かを探っているような目付きだ。
「…………」
クッソ、かわいすぎだろ。
お嬢はね、顔が良いんだよ。いやほんと、テレビで見るアイドルや世界的な女優を余裕で置き去りにするくらいに清廉で、妖艶で、可憐で、華やかで、たおやかで、美美しくて……世界中のありとあらゆる慣用句やことわざを並べて褒め称えてもなお足りないほど。
世界三大美人は閻魔あい、地獄少女、お嬢で埋まる。ボー○ボかな? 時代や環境が違ったら傾国の美女として数多の男たちが虜になり、お嬢をめぐる戦乱でも起きていたんだろうな。これが元は田舎娘だなんて信じられん。Eラインが綺麗すぎる、マジで純日本人なの?
ていうか最近のお嬢の行動……顔を近づけてきたり、手を引っ張ってきたり、今なんて寄りかかってきたりして。これって────────
いやいや、変なこと考えるな。主従関係だろ。烏滸がましいだろうが、そんなこと考えるの。
大体、俺が今までやってきたことって、お嬢が寂しそうだったから一緒に遊んだくらいじゃないか。それくらい……だよな? お嬢に対して何かできたことって。うん、そのくらいで有り得ない……はず。
高鳴る鼓動を無視して本を読み進めてしばらく、横からスースーという音が聞こえてきた。
ちらりと隣を見ると、頭どころか全身を俺の肩に預けた、穏やかな寝顔のお嬢がいた。
「んぅ…………ふふっ……」
口をもにょもにょとさせて、かわいらしい寝言が漏れている。
あれは……天使だ…………
心のマク○リス・ファ○ドがそう呟いている。
……そういえば、こうもぐっすりと寝ているお嬢を見たことって無いな。家の中で横になっているのを見ることは多々あるが、あれは目を瞑っているだけで起きているし、仮に寝ていたとしても夢と現の境ってのが多い。常に依頼が来るのを気にしてスタンバイしているというか。
どんな夢を見ているのだろう。願わくば、やさしくて慎ましやかな夢を見ていてほしい。しあわせな夢だと覚めた時の落差があるし、悲しい夢はもっての外。
だから、ほんの一時の安らぎの時間は、せめて宿業から解き放たれていて、それでいてこっちに帰って来れるくらいの夢であってほしいな。俺にもたれかかるだけでそうなるのなら、いくらでもお易い御用だ。
カラカラという、ばあちゃんの回す糸車の音は相変わらず聞こえてくる。いつもと変わらない音量と速度だけど、今はそれがお嬢へ向けた子守唄のように聞こえる。
現世時間はまだ22時過ぎ。仮に依頼が来るとしても、後2時間弱は余裕がある。
だから、今はゆっくりとおやすみ。お嬢。
⛩
お嬢が穏やかな時を過ごしている場合に限って依頼は来る。
現世時間で約2時間。本をとっくに読み終えた俺は、陽の沈まぬ空を眺めながら、頭の中で素数を数えていた。
その間お嬢はと言うと、隣で俺に寄りかかったまま気持ちよさそうに寝ていた。そのため、下手に動くわけにはいかず、2時間ずっと縁側で座り続けることに。
流石にキツイ……わけがない。お嬢に寄りかかられるってだけで幸せなのに、それが2時間も続くのは正に至福の時。
時折漏れ出る寝言を楽しみながら、素数の桁数が7桁になろうとした頃、通知音が鳴り響いた。
「うぅん……依頼、来たのね…………」
眠そうに目をこすりながらポワポワした感じに話すお嬢は、いつもの威厳というものは無かった。ただひたすらに愛くるしい。うーん、これは天使。
「おはよう、お嬢。水出すから顔洗って」
「……ん…………」
妖術で洗面器大の水の玉を生み出し顔を洗ってもらい、次に懐から取り出したタオルで顔を拭いてあげる。
「……ぷはっ」
痛くないように慎重、かつ迅速に水気を取って顔からタオルを離したら愛らしい声が漏れ出た。
天使(確信)
「目覚めた?」
「……うん…………行くよ」
「了解」
今回の依頼を確認するため、縁側から立ち上がる。そこにはいつもの毅然としたお嬢がいて、俺は不思議にも安心感を覚えていた。
⛩
依頼人は【坂入多恵】、ターゲットは【花村弓枝】。どちらも高校生。今回の案件は……なんと言ったら良いか。
坂入多恵には家が隣同士で異性の幼馴染がいるらしい。名前は【高田啓】と言う、草食系の爽やかイケメンだ。お互いに好き合っているが恋人ではなく、彼の相手は件の花村弓枝とのこと。
好きな人が取られた怨みから地獄通信にアクセスした……という訳ではないらしい。PC越しに伝わってきた感情は名状し難い、よく分からないものだった。
お嬢も理解できなかったのか、登校中の依頼人を異界に引きずり込んで『何が望みなの?』と聞く始末。それに対して多恵は『啓ちゃんを守ってあげたいの。ずっと幸せでいて欲しいから』という、どこかズレた回答をした。
それから地獄流しのルール説明をするも、多恵は啓ちゃんのためなら地獄に落ちても構わないとのこと。それを見たお嬢は輪入道が変身した藁人形を渡し、彼女を現世へと帰した。
そして────────
「────コラ! 子供は早くお帰り! 何時だと思ってるんだい全く!」
坂入多恵を探っていた骨女と合流するべく、お嬢と一目連と共に彼女の家の近くの公園に向かうと、茂みに向かって怒鳴っている骨女がいた。ちなみに少し酒臭い。骨女は調査相手の警戒を解くために敢えて酒を入れることがあるから、今回のもそうなのだろう。
「何デカい声出してるんだ?」
「近所迷惑だぞ、静かに」
「あっ、いや。さっきおかしな子供が……」
「……子供?」
「…………」
時刻は22時を過ぎる頃なのに子供がうろついているとは……もう終わりだよこの国。
……そういえば、以前にも似たようなこと考えたことがあったような。
「で、例の依頼人は?」
一目連が促す。
「それがねぇ……ご親切な事に、好きな男と嫌いな女をくっつけようと頑張ってるよ…………」
「「は?」」
骨女の言った事が理解できず、一目連とハモる。
「ああっと……つまり、大好きな男が悪い女と付き合ってるんだけど、その男が傷つかないように守ってるらしいよ」
「…………どゆこと? 大天狗」
「俺に聞くなよ。呑み過ぎてんじゃないの」
「喧嘩売ってんのかいアンタ?」
骨女の顔にビキリと青筋が浮かび上がる。
「ヒェッ……ごめんごめん、冗談だってば。でもよく分かんないのは事実だから、もう少し詳しく話して」
「ったく……良いかい、要するにあの子はね…………」
そこから語られる、坂入多恵の思考回路。
彼女は幼馴染の高田啓のことが大好き。だから、彼が傷つかないように常日頃から守っている。彼のためなら、例え自分の嫌いな女と付き合っていようとも、
自分以外の女が隣にいようとも、変わらず自分が彼の傍いられるのならそれで良いらしい。
「いずれその男が傷ついた時には、怨みを晴らしてやろうってお嬢に連絡して来たんだと思うけど……で、理解できた?」
「全く。でもよく繋がったなぁ、それだけ想いが強いってことか? 大天狗」
「だから俺に聞くなって。けど、半分はその子のこと理解できたかも」
正直、骨女から聞いた限りでは理解できない話ではないと思った。
「マジか、なんで半分も分かるんだお前」
「いやぁ……つまり、相手には幸せになって欲しいけど自分では釣り合わないから、せめて自分にできる精一杯のことをしているってわけ…………だと………………思う……………………多分」
半分理解できたとは言ったが、話していくうちに自信が無くなり歯切れが悪くなってしまった。
好きな人には幸せになって欲しい、それは分かる。隣に自分がいなくてもいい、それも分かる。だけど、他の女と上手くいかせるために、自分の部屋を貸すってのは全く理解できない。寝具の乱れ、そういう匂い。そんなのを察知してしまったら、俺なら確実に脳が破壊される。
そもそも、骨女の主観も混じってるからな。今聞いた話が100%正しいとは限らない。
「んな奴ほっときゃいいじゃねえか……」
一目連はすっかり呆れ返っている。
「一目連に賛成。思考回路はともかく、状況だけ見ればこの前の2件よりかはだいぶ分かりやすい」
「いいや、一応どういうことなのか調べてみるよ」
ターゲットの女がやらかしたら糸が解かれる。やらかさないで暫く経てば、契約は自動的に解消。ただそれだけの話だが、骨女は違うみたいだ。
「でも無闇に動くのは……」
「気になるんだよ、女としてね」
今はもう仮契約状態のため、あまり接触は控えるべきだ。俺は以前、恩田麻紀*2に対してかなりギリギリなアプローチを掛けたから、一目連と違って骨女を止められる立場に無い。
「お嬢……」
「どうする?」
一目連は縋るような口振りでお嬢に伺いを立てる。俺もお嬢にバトンタッチ。
「……骨女の好きにさせよう」
如何にもお嬢らしい答えが返ってきた。
「だよね……そう言うと思った」
そして、俺たちは深夜の公園を後にする────前に、俺だけは一度、坂入多恵と高田啓の家を見るために振り返った。
「……幼馴染、か」
彼らはお互いのことをどれだけ知っているのだろう。どれくらい一緒にいたのだろう。2人の部屋は窓と窓の距離が非常に近い。好きな時いつでも行き来できそうなあの距離感が、俺には羨ましく思えた。
⛩
あれから数日後、同じ時間帯の同じ公園に俺は骨女の様子を見に来た。
「精が出るね、骨女」
「あら、大天狗。良いのかい? お嬢放って来ちゃって」
「許可は取ったし大丈夫。快く送り出してくれたよ……で、お悩み相談の調子はどう?」
「アタシはカウンセラーじゃないっての…………それがねぇ」
骨女は2度坂入多恵に会い、彼女の話を聞いていた。やはりと言うか何と言うか、ターゲットの花村弓枝は二股をしていたそうで、高田啓はフラれてしまったとのこと。傷心した彼は、多恵からの誘いで窓を越えて彼女の部屋に入り、彼女に
「へぇ〜、そりゃまた……じゃあ正式に付き合い始めたって訳だ」
「話はまだ途中だよ。むしろその逆、そういう関係はこれっきりで終わらせるんだと」
「…………は? いやいや無理でしょ。男の方が納得するわけないって。ていうかなんでそうなる? あの子だって歓迎すべきことじゃないの?」
「アタシに聞かれたって困るよ……怖いんだってさ、今の関係が壊れるのが」
これ以上近づいて、万が一恋人なんかになったらいつかは壊れてしまう。壊れない愛なんてものは無い。だから、これっきりにすると。
「アタシにゃサッパリだよ。普通、好きな子は自分のものにしたいって思うのが当然だろ?」
「確かにそうだが…………」
────いや、そうか。怖い、というのはつまり今が充分幸せ、ぬるま湯に浸かるような心地良さなのに、それ以上を求めたら逆に失ってしまうかもしれない。そういう恐れなら……なるほど、確かに理解も納得もできる。
「なんだい? 急に黙ったりして」
「……いや、ただ────」
骨女の問いに答えようとしたら、それを遮るかのように突然『バン!!』という何か重い物が落ちる音が聞こえた。続けて、鋭く突き刺すような悲鳴が深夜の住宅街に響いた。
声の主は、件の依頼人。
骨女は何かとんでもないことが起こったと察し、公園を飛び出した。俺は坂入多恵の家周辺を急ぎ投影で調べると、頭から血を流し地面に倒れている高田啓が映し出された。
「骨女」
「大天狗! 一体、何が……」
「……これを見て。落ちたんだよ、彼。窓を越えて、あの子の部屋に入ろうとして…………多分、足を滑らした」
「そんな……」
坂入多恵と高田啓の家を遮る塀には血痕があり、彼は自分の家の敷地で倒れている。即死だろう、生命反応が感じられない。多恵は今も『けいちゃん、けいちゃん』と涙声で繰り返し彼の名を呼んでいる。
俺と骨女は、ただ呆然とその様を見ていることしかできなかった。
それから数週間後。失意の中、坂入多恵は高校に登校した。教室に入ろうとした直前、彼女の耳に聞こえてきたのは花村弓枝とその友人達との会話。しかし、その内容は級友や元彼が亡くなったことを偲ぶものでは決してなく、下世話なもの。
なんで死んだかで盛り上がり、花村弓枝は多恵が誘ったからじゃないかと半笑いで言う。彼女の友人の一人が、彼氏が死んでショックじゃないかと尋ねると弓枝は、
『ショックはショックだけど、別にうちら付き合ってたわけじゃないし』
『元々は多恵に付き纏われて啓が可哀想だったから、彼女のフリしてあげてただけだし』
一切、毛程も彼への愛はないかのように言い切った。
『なにそれ』
それを聞いた多恵は、花村弓枝を怒りの籠った目で睨みつけていた。彼女らは『怖い』、『縁起悪い』と多恵から距離をとるが、既に彼女らの一挙手一投足全ては怒りを増すだけ。
校舎裏で、なおも憤怒に震えながら坂入多恵は黒い藁人形に結かれた赤い糸を力一杯に引っ張った。
今、契約が成立した。
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あれから更にどれくらい経ったか、坂入多恵は全く別の土地へと引っ越した。彼女の部屋にはダンボールがいくつも置かれているが、荷物の整理をするよりもまず窓を開けた。
前の家と同じように、すぐ目の前に隣の家の窓があった。身を乗り出して、軽く叩いてみる。
が、誰も出てこない。
もう窓を叩いても啓ちゃんが出てくることはない。大切だったものが失われているということを思い出し、彼女は涙を流した。
「────────ああ、そうか。そういうことか」
窓を開けて、隣の家の窓を叩く。その一連の動作を見て、今ようやく坂入多恵のことが分かった気がする。
「何がそういうことだってんだ?」
輪入道が訝しげに尋ねてくる。
「……多分、あの子は窓と窓の届きそうで届かないあの距離感が好きだったんじゃないかな。近づき過ぎず離れ過ぎない……そういう程良い関係そのものが」
そうでなければ、大好きな人が死んだのと同じシチュエーションなんて見たくもないし激しく拒絶するだろう。なのに涙を流すだけで済んでいるのは、つまりそういうことだと思う。
頭お花畑な女の子に見えて、実のところは『届かないならそれで良い』、『むしろ届かない方が良い』、『高嶺の花は高嶺にあるからこそ良い』と心得ているクレバーな女の子だったという訳だ。そして、その事を彼女は恐らく自覚していない。
「なるほどね……道理で女のアタシにも分からないわけだ。そういった経験は無いからね…………でも、よくアンタには分かったね?」
「…………まあ、よく本読んでるし、脳みそフル回転させれば分かるさ」
「……そういうことにしといてやるよっ」
優しげな、かつこちらの心の内を見透かしたような微笑みを骨女が向けて来た。
「本当に分からねえもんだ……人間の業っていうのは」
「それを言うなら女心。さ、帰ろうぜ」
一目連が話を切り上げ、3人はこの場から立ち去り出した。俺も彼らに続こうとすると、ブレザーの裾を引っ張られ思わず足を止めてしまう。
振り向くと、少し俯いたお嬢が裾を摘んでいた。かわいい…………ではなく、この場合どうすれば良いのか。アイツらは……いない。多分分かってて先に消えたな。
少し逡巡するも、
「行こう」
摘んでいる小さな手を取る。
「…………! うん……」
お嬢は一瞬キョトンとするも、どこか嬉しそうな微笑みを浮かべ、共に薄暮時の世界へと帰った。
────坂入多恵は、俺の未来の姿なのかもしれない。お嬢と主従関係でありながら少し近く、でも近づき過ぎない距離感が俺は好きだ。安心するし、程良い距離感でいるのは心地良さを感じる。
だが、その距離感の維持に躍起になっていたら、いずれやって来るであろう別れ、つまりお嬢が地獄少女の責務から解放される時、俺は何を思う?
お嬢が態々、こうして近付いて来てくれているんだ。ならば、こちらからも歩み寄らなければな。
彼女のように本当は何が好きなのか、好きだったのかが分からなくなり、別れの涙は流したくない。
お読みいただきありがとうございました。
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本当は骨女回にしたかったのですが、それはまたの機会に…
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