閻魔あいちゃんの笑顔が見たい   作:アラウンドブルー

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 お陸さん、☆10ありがとうございます。

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 UA数50000超え、お気に入り数1000超え、ありがとうございます。


 お待たせして大変申し訳ないです……最後の投稿から4ヶ月以上空いてしまった…………言い訳はするまい。

 しかも、気づいたら第1話投稿から1年以上経っていたとは……今後ともご愛顧のほどよろしくお願いいたします。

 原作は二籠第8話【偽地獄通信】です。



呼名-其之壱

 

「そーれ行くぞー!」

 

「キャハハハハ! 速い速ーい!」

 

 

 とある日。俺は夕暮れの里にある家の庭で、1人の女の子を肩車して遊んでいた。

 

 名前は【きくり】。最近俺たちの仲間になった女の子だ。

 

 大きな藍色の目、センター分けされた外ハネボブ、椿の髪飾り。濃紺で無地の着物を身に纏う、以前俺の前に現れた子供だ。

 

 どうやらちょくちょく俺たちのことを観察していたみたいで、時折感じた視線や閑静な夜の住宅街の公園で骨女が怒鳴っていた正体は彼女だった。

 

 もちろん人間ではないが、俺や輪入道たちのようなお嬢の使い魔というわけではなく、ましてやもう1人の地獄少女という訳でもない。

 

 というか、そもそも地獄少女が複数人になる光景なんて想像できないし、多分これからも有り得ないだろう。2人や3人に増えればお嬢の負担を分担できるんだが、そうなると不幸な少女が必要になるわけで。そんなことを願うのはあまりよろしくはないだろうということで、考えるのは止めにする。

 

 性格は見た目相応。子供らしく無邪気で元気いっぱい……のように見せかけて、どこか物事の核心を掴んでいるような素振りをすることがある。

 

 子供らしいというかまんまお子様だが、お嬢に対しては上下関係を理解しているのか基本的に逆らうことはなく、ちゃんと言うことを聞く。

 

 一方の輪入道や一目連、骨女に対してはだいぶ舐めた態度をとっていて、それぞれ【ハゲ】、【エロ目玉】、【オバサン】と呼んで馬鹿にしくさっている。

 

 そして、俺こと大天狗はというと……

 

 

「あ、トンボ! 追いかけるぞ【周】!」

 

「はいはーい……ってあらら、あんなに高く飛んでっちゃった」

 

「ならお前も飛べ!」

 

 

 ぺしぺしと、小さくて幼子特有の柔らかな手で頭を叩かれる。

 

 なんと、人間だった頃の名前で呼ばれている。潜入する時くらいでしか昔の名前で呼ばれることはないし、それでも基本は苗字がほとんどだ。だから、この里で昔の名前で呼ばれるのは非常に新鮮。

 

 気に入られたからなのだろうか、子分みたいな扱いを受けている。最初に顔を合わせた時からは想像ができないくらいには懐かれている。というのも、ファーストコンタクト時にきくりはとんでもないことをしでかした(お嬢からのプレゼントをふざけて壊した)ため、じっくりとお話をして道徳倫理を教え込むということをしたからだ。

 

 そのため、しばらくは大分怯えられていたが、お嬢や輪入道たちが割と厳しいから俺は少し甘めに接していたらいつの間にかこうなっていた。

 

 

「肩車したままだと危ないだろ? だーめ」

 

「なら抱っこにしろ! 早くしないといなくなっちゃう!」

 

 

 ポカポカと頭を叩いてくる。別に痛くはないが、トンボなんて追いかけ回して何する気なんだろうか。羽を1本ずつ毟るとか平気でやりそうな気配がするのだが。

 

 しかし【きくり】、ねぇ。この名前を聞いてパッと思いつくのは、日本書紀でイザナミとイザナギを仲裁したとされる【菊理媛神】だ。まさか、神様なんてことないよな? 

 

 

「はーやーくーしーろー!」

 

 

 ……いや、このガキがそんなわけないか。人間ではないし、輪入道達のような妖怪でも俺みたいな転生者でもない。もちろん地獄少女なわけもないし、なら本当にコイツは何者なんだ? 

 

 ていうか……

 

 

「あだだだだだだだ! 耳引っ張るのやめろ! もげる!!」

 

「じゃあきくりの言う事を聞け!」

 

「危ないっつってんだろってイデデデ! 髪も引っ張るな!!」

 

 

 このクソガキめ、ちょっと俺が下手に出ていれば図に乗りやがって。

 

 まあ、怒りはしない。これもじゃれ合いの範疇だと分かっている。が、やはり痛いものは痛い。

 

 2人でわーわーと騒いでいると家のドアが開く音が聞こえた。きくりの耳には届いていないみたいで今は俺の頭を両手で掴んでブンブンと振っている。脳みそがシェイクされる……

 

 

「何しているの、きくり。やめなさい」

 

 

 そこに、お嬢の凛とした声が響いた。いつもはひっそりと喋るお嬢がこうもハッキリと声を出すのは珍しい。今のようにきくりを注意する時くらいだ。

 

 きくりは一瞬肩を震わせると、無言で手を止めた。

 

 

「頭がぐるぐるする……助かったよ、お嬢…………」

 

「……良いのよ…………それよりしゅ……………………

 

 

 噛んだのだろうか。突然押し黙ってしまった。

 

 

「…………?」

 

「……………………」

 

 

 お嬢は伏し目がちに口をもにょもにょとさせている。

 

 どうしたのだろうと、肩に乗っているきくりの方を見ると目が合った。もっとも、そのクリッとした藍色の目からは何も読み取ることはできなかったのだが。

 

 

「…………それより、大天狗もこっちに来て……見て欲しいものがあるの…………」

 

 

 少しして、お嬢が言い直した。

 

 

「見て欲しいもの……? なんだろ。行くぞ、きくり」

 

「……クフフッ♪」

 

 

 きくりに一声かけたら、何故か笑いだした。顔を見ると、ニヤついている。

 

 

「────────」

 

「ひぅっ!?」

 

「え、なに」

 

 

 突然、お嬢がきくりに強烈なプレッシャーを放ち、表情を変えることなく睨みつけた。すると、彼女はさっき注意を受けた時以上に体を震わせて縮こまってしまった。

 

 一体何だって言うのだろうか。ブルっているきくりを落ち着かせるために、頭を撫でながら家へと向かった。

 

 家に入る前に、玄関できくりを下ろすと外に遊びに出て行ってしまった。そんな彼女を後目に、家の中に目をやると輪入道たち3人が揃っていた。

 

 

「おう、大天狗。見てみろよ、これ」

 

 

 そう言って一目連がPCを指差す。画面を見ると、地獄通信が開かれていた。

 

 いや、これは……

 

 

「地獄通信の偽物か」

 

「流石、一瞬で見抜いたねっ」

 

「ふっ、まあね。ちょっと前にサイトの仕組みがどうなっているのか調べたからよく覚えている。ていうか、あんなシンプルなレイアウトを忘れるわけがないさ」

 

 

 本来の地獄通信は真っ黒の背景、中央に『あなたの怨み、晴らします。』の文言、そのすぐ下に入力フォームと送信ボタンが続いているだけの簡素な作りだ。凝ったデザインや遊び心など一切ない、無機質故に初見はゾッとするレイアウト。

 

 だが、今映し出されている画面は濃紺の背景で、まず上部には『地獄少女』と派手に書かれている。この時点でもうおかしい。

 

 中央部には『自分の名前』と『相手の名前』の入力フォームが配置されていて、すぐ下に『きっと晴らしてみせましょう』の文言、その右下に送信ボタンが配置されている作りになっている。

 

 ついでと言わんばかりに、画面の四隅には鬼火のイラストが添えられていて、有り体に言えばパチモン臭が強い。

 

 大体、『きっと晴らしてみせましょう』なんて、お嬢を知っている身からすれば違和感しかない。そんな曖昧なことを言うわけがないって分かり切っているのもあるが、句点で文を終わらせていないところにお嬢の繊細さが感じられない。

 

 

「……で、どうする? 放置していたらお嬢が風評被害くらいそうだし、消しとく?」

 

 

 隣に座っている輪入道に振る。

 

 

「これも人の営みってやつなんだろう。いんたーねっと……ってぇのはよく分からねぇが、このままにしといて良いだろうよ」

 

「────────歪んでいるの。怨みの念が……」

 

「え?」

 

 

 ここまで話に入ってこなかったお嬢が静かに口を開いた。

 

 

「……ほっとくわけにはいかないから」

 

 

 お嬢の強い感受能力。それは、こうして人間が作ったホームページからですら感じとることができてしまう。俺や輪入道たちではほんの少しすらも感じ取れなかったというのに。

 

 

「……そうか」

 

「お嬢がそう言うなら仕方ないな」

 

「いっちょ調べてみるかい」

 

「じゃあ、とりあえずこのサイトを作った端末くらいは特定してみるよ」

 

 

 お嬢のPCは分厚い鉄の塊もかくやの古い代物だが、スペックは令和のそれを超えるレベルだ。オマケに異界の物だからか、諸々のセキュリティを素通りできてしまう。

 

 俺は普段、お嬢と遊んだりきくりをあやしたり、能力開発に時間を充てているためPCに触れることはあまり無い。必然、それ関連の知識は薄いがこれでもチート転生者。ハイスペPCと合わせればスーパーハカー程ではないがそこそこの事はできてしまう。

 

 

「助かるぜ」

 

「こういうのにはアタシたち強くないからねぇ。輪入道なんて尚更」

 

「老いぼれにはちぃと厳しいからなぁ。どうにも……」

 

 

 てなわけで、かかること数十分。

 

 

「────どうやら、このサイトを作ったPCは○○県□□市××町にある【久賀中学校】のパソコンルームの端末のようだ。数ヶ月前にサイトは作られて、今に至るまでポツポツとアクセスされているみたいだね」

 

「誰が作ったかは分からないのかい?」

 

「流石にそこまでは……ログを見るに、サイトの開設時間は夕方。だから、作ったのが生徒か先生かは分からないな。でも、興味深いことがひとつ」

 

「ほう、そりゃあ一体なんだって言うんだ?」

 

 

 表示したアクセスログをスクロールする。俺の目に映っているのは異様な光景だ。地獄通信は不特定多数の怨みを抱えた人間が相手の名前を入力する。だから、アクセスした人の分だけターゲットは違う。

 だが……

 

 

「『自分の名前』欄はまばらなんだけど、『相手の名前』欄はただ1人の名前が何度も書き込まれている。その人物の名は【馬場翔子】。『送信』ボタンを押しても必ず『恨みの念が足りない』なんてエラーPOPを返すように作られているからか、1人が何度もその名前で送信している日もあるし……ハッ。これは確かに、お嬢の言う通り歪んでいる」

 

 

 ここまでで推察できるのは、久賀中学のみで使われている裏サイト……いや、それよりもタチが悪い代物ということ。

 

 相手の名前は恐らく先生なんだろう。アクセスした人全員が特定の名前を入力するというこの状況、生徒間のイジメと考えるにはちょっと違う気がする。

 

 このサイトは誰が誰の名前を入力したかは管理人にしか分からない。そうなると、共通の話題として盛り上がれない点から生徒間のイジメというのは除外しても良いと思う。一人一人が入力してコッソリと個人で盛り上がって……そういうのは生徒というより教師がターゲットになるイメージだ。

 

 しかし、この管理人は一体何が目的でこんなサイトを作ったのだろうか。

 

 

「まったく、ロクでもねえ暇人もいたもんだ……よし。じゃあいつも通りオレと骨女は教師として、輪入道は用務員、大天狗は生徒として潜入だな」

 

「あいよ」

 

「おうっ」

 

「了解」

 

 

 一目連がまとめあげ、俺たちは件の中学に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ⛩

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、そんなこんなで久賀中学に潜入して幾ばくかが経った。偽の地獄通信に書き込まれている馬場翔子はやはり、厳しい先生だ。厚化粧をした女子体育の教師で、校則や礼儀にうるさいと男女問わず陰口を叩かれている。

 

 骨女はそんな彼女に近い立ち位置、非常勤の体育教師として潜入して、人気を獲得している。

 

 今の季節は夏。そのため、水泳の授業が開かれている訳だが、骨女は自身の特性を活かして無双している。話を聞くに、そろそろ女子水泳の世界記録を塗り替えそうな勢いならしく、転生者の俺よりもチート無双していて思わず笑ってしまった。

 

 

 閑話休題。

 

 

 昼休み、そんな水泳の時間に馬場先生から叱られた女の子が中庭で友達2人と集まっていた。

 

 名前は【野々原郁恵】。茶髪でふわふわの長い髪を伸ばした、少しキツめな印象を受ける少女だ。様子を見るに、相当腹が立っている様子で、普段以上に顔がキツイ。

 

 

「や、野々原。どうしたよ? 眉間にシワなんか寄せて」

 

 

 そんな彼女たちに声をかける。先程念話で骨女から概要は聞いているため、詳細を探るのが目的だ。

 

 

「あっ、周! ねぇ聞いてよ!」

 

 

 今回は転校生ではなく1年生の時からいる存在としてこの中学に溶け込んでいる。そのため、少なくとも同学年とは顔見知りになっているし、彼女は俺が入り込んだクラスの人間のため、会話することは多々あり、それゆえ気軽に話を聞く事ができる。名前で呼ばれているが、まあこの年代の娘なら割と普通だろう。

 

 

「化粧ババァにさぁ、次までに髪切って来ないと自分が切るって脅されたのよ! 酷くない!?」

 

「マジで? おっかねぇ〜、体罰スレスレじゃん」

 

 

 骨女が伝えてきた情報と一致している。既に知ってはいるが、本来なら知りえないことなので話を合わせる。

 

 

「でしょ!? 校則校則って、それしか頭にないのかっつーの!」

 

「だから、旦那に逃げられるんだよっ」

 

「……学校にいる時だけでも髪結んだら?」

 

 

 悪口で盛りあがっていると、野々原郁恵の友人の1人が提案をした。本当に髪を切られてしまうという最悪の事態を考えて、彼女を心配したのだろう。

 

 

「イヤよ、この髪気に入ってるんだから。それに、化粧ババァの言いなりになんかなってたまるかっての」

 

 

 しかし、彼女は切るつもりなど毛頭ないみたいだ。その表情は挑発的な笑みを浮かべていて、反抗心がみてとれる。

 

 

「でもさあ、野々原ポニーテールも似合うだろ? 早坂もこう言ってんだしさ、アリなんじゃね?」

 

 

 彼女の髪型は髪留めで前髪を右側で留めつつ、両サイドを肩にかかるくらいまで下ろしていて、後ろは背中辺りにまで伸ばしている。

 

 ルックスも合わさり、生意気な雰囲気と可愛らしさが前面に押し出されていてよく似合っている。だが、さっきも言った通り今は夏。正直見ていて暑苦しいため、つい口を挟んでしまった。

 

 

「そーそー、烏鷹くんもこう言ってんだしさっ。ここでちょっと髪結んでみる真似してみなって」

 

「烏鷹くん見たがってるよ〜、郁恵〜?」

 

「え、ええっ!?」

 

 

 郁恵の友人2人がここぞとばかりに囃し立てる。それを受けてか、彼女が先程まで纏っていたキツイ雰囲気は失せて忙しなく髪を弄り出した。

 

 

「う、うーん……もうっ、ちょっとだけ! ちょっとだけよ!」

 

 

 そう言って彼女は両手を後ろに持っていき、ポニーテールに見えるように結んでみせる。

 

 

「どう?」

 

「結構良いじゃん。雰囲気ガラッと変わって新鮮だよ」

 

「うんうんっ、正直今の髪型は見てて暑苦しいし」

 

「なによそれー! もぅ……で、周は? なんか、ない?」

 

「ああ、よく似合ってる。爽やかに感じるし、顔がハッキリ見えるそっちの髪型の方が俺的には良いわ」

 

 

 ポニーテールにしたことで、可愛らしいふわふわお嬢様な雰囲気から快活な、しかしカールのかかった髪なため大人びた印象へと変わった。 今の髪型も似合っているが、やはり元が良いからなのかまとめた方も似合う。

 

 

「顔がハッキリ見えるだって!」

 

「やったじゃん郁恵!」

 

「ちょっ、やめ、やめてよ! もうっ!」

 

 

 女子3人がやいのやいのと盛り上がっている。

 

 先ほど骨女が転生者の俺を差し置いて無双しているって言ったけど、俺も十分大概ですね()

 

 

「あ、あたし、次の授業で理科室の鍵開けとく当番だから! もう、行くからねっ!」

 

 

 耐えきれなくなったのか、顔を真っ赤にした野々原郁恵はそれらしい理由付けをして逃げるように校舎へ走り去った。

 

 

「ああ〜! 待ってよ郁恵ー!」

 

「じゃ、烏鷹くん。また後でっ」

 

 

 友人2人も、彼女の後を追いこの場から立ち去った。一人、中庭に取り残された俺は彼女たちが去っていった方角を見ながら一息つく。

 

 

「…………あの様子じゃ、あの子たちも違うな」

 

 

 この学校に潜入してからしばらくが経つが、未だ正体を掴めていない。記憶を読み取る能力でもあれば楽なんだが、生憎そこまで強力な術は無いため地道に活動している。

 

 

「……ん?」

 

 

 ふと、隣に気配を感じたためそちらへ目を向ける。

 

 隣には校舎の方へ顔を向けている、久賀中学の制服(夏服ver)を着たお嬢がいた。

 

 白がメインの、アクセントとして浅蘇芳色の襟がついている半袖のセーラー服。普段着ている漆黒の長袖のセーラー服とは対照的な、涼し気な装いが非常に新鮮かつ清涼感を受ける。

 

 ────清々しい青空、山のようにそびえる入道雲、爛々と照りつける太陽。夏というどこか解放された空気感にマッチした、爽やかで『普通な』セーラー服。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 瞬間────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 脳裏に過ぎる────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 お嬢との────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 青春の記憶─────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────────何てものがあるはずもなく。

 

 存在しない記憶が溢れ出るのを押さえ込もうとしていると、お嬢はこちらへ顔を向けてきた。すると、おもむろにそのしなやかで眩しい両腕を後ろに回し、髪をまとめてみせた。先程の野々原郁恵の動作にそっくりだ。

 

 

「…………どう?」

 

 

 両腕を後ろへ回したまま、首を傾げて尋ねてきた。

 

 セーラー服の丈が短いのか臍部がチラリと見えてしまっている。更に、髪の毛が後ろに持っていかれたため綺麗でかわいい顔が顕になっている。

 

 ヤバい。これはヤバいって。普段のザ・清楚なお嬢が腕を露出している時点で破壊力がヤバいのに、腕を後頭部に回しているその姿勢、セーラー服がめくれて見える肌。

 

 ヤバいヤバい、これまで上品さと美しさ、妖しさに重きを置いた姿しか見てこなかったから、ここに来て爽やかさとほんの少しの官能美という目新しさが脳を強烈に刺激する。

 

 更に、髪を後ろにまとめていることで、究極にかわいい顔がよりハッキリと見えてしまっている。顔面凶器だったのが顔面核弾頭と化していて、顔を直視できない。

 

 マズイ、非常にマズイぞこれは。まもなく最後の扉が開かれようとしている。そして天は鳴き、大地は震えるだろうね(意味不明)

 

 一旦大きく、しかし空気を吸い込む音は聞こえないように深呼吸して精神をフラットな状態になるよう抑え込む。

 

 

「────────うん、すっっっっっっっっっっごい似合っている! ポニテで顔がよく見えるのも良いし白セーラーマジで合ってる!!」

 

「っ! …………ふふっ、でしょ……?」

 

 

 嬉しそうに、少し頬を朱くしてお嬢はやわらかく笑った。

 

 これもう天使を超えた女神だろ。いや、お嬢に比べたら天使だの女神だのはただのカスや。

 

 

「これからさ、夏場は夏服着ない? 白の半袖セーラー服もマジで似合ってるし良いと思うよ」

 

 

 語彙力が溶けて無くなりつつあるの自覚しながら、なおも髪を結んだままの姿勢のお嬢に尋ねる。

 

 長袖黒セーラーそれ自体は確かに暑苦しさを感じるが、お嬢ならば春夏秋冬いつ着ていても常に似合っているし暑苦しさなど感じない。しかし、今ここで黒とは正反対の白の破壊力を知ってしまったからには提案せざるを得ない。

 

 

「……良いよ。でも…………」

 

「…………でも?」

 

 

 提案を受け入れてくれて喜ぶも束の間、『でも』と続けてきたため思わず唾を飲み込んでしまう。一体、何を言い出すのだろうか。

 

 

「………………でも、たまにね…………たまに、誰も見てない時にしゅ……大天狗にだけ、特別に見せてあげる…………」

 

「」

 

 

 ────こりゃダメだ。意識飛ぶ。すまん輪入道、一目連、骨女。後は任せた。

 

 最期に見た光景は、顔を朱くしてはにかんでいるお嬢だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あっ……気絶した…………」

 





 お読みいただきありがとうございました。

 野々原郁恵、ゲストキャラとしてはジルに次いで好きまであります。見た目良し、CV良しでクッソ可愛い。このエピソード自体良い話なので、未視聴の方は是非。

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