閻魔あいちゃんの笑顔が見たい   作:アラウンドブルー

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 乃音さん、☆10ありがとうございます。

 ほたて()さん、メガロバニァさん、現実の実現さん、海老茄子さん、『白』さん、お化け匁さん、keybladeさん、露場さん、じゃものさん、☆9ありがとうございます。


 最終更新日から9ヶ月近く空いただと……

 お待たせして申し訳ありません。地獄少女20周年というのに……


 原作は二籠第10話【曽根アンナの濡れた休日】です。



一会

 

「ごめんだけど、アタシ今日から数日間旅行するから。何かあったら呼んでおくれよ」

 

 

 ある、地獄流しの依頼がない日。

 

 いつもの妖艶な和装束とは異なり、少し落ち着いた和服を見に纏った骨女は、夕暮れの里の茅葺屋根の家にいる閻魔あいと大天狗の前に姿を現し、そう口にした。

 

 この場に輪入道と一目連、きくりはいない。使い魔の2人は浮世巡りと称して現世に降りていて、きくりは静かな雰囲気に耐えられずどこかへ行ってしまった。

 

 

「ふーん、了解。人間の友達がいるんだっけ? よっぽどの事がない限り、俺らで何とかしとくよ」

 

 

 本から目を離し、あいの代わりに大天狗が返答をした。これは別に、主人であるあいを蔑ろにしているといった訳ではない。

 

 あいとの一瞬のアイコンタクトで、考えていることを読み取ったからである。

 

 

「ん、あんがとさん。……にしても、随分と距離が近くなったもんだねぇ」

 

「まあね。それがお嬢の望みだし、俺の望みでもあるから」

 

 

 そう、今大天狗は畳に腰を下ろし、背中は壁に預けた状態で膝にあいの頭を乗せている。

 

 所謂、膝枕の状態になっていた。

 

 

「じゃ、もう戻んないと。お嬢に変なことするんじゃないよ?」

 

「アイアイ、いってらー」

 

 

 骨女は軽口を叩いた後、姿を消した。

 

 

「旅行か……」

 

 

 大天狗がポツリと呟き、本に視線を戻す。

 

 

「…………」

 

 

 カラカラと、影しか見えぬ老婆の回す糸車の音は今日も響いている。

 

 薄暗い部屋の中、読書をする大天狗とそんな彼の膝に頭を乗せ目を瞑っているあいは余りにも自然体だった。

 

 数分して、

 

 

「……ねぇ、お嬢」

 

「……なあに?」

 

「俺たちも、何処か出掛けない?」

 

 

 本から目を離し、あいに声をかけた。

 

 大天狗はあいとの穏やかな時間は何よりも好きだ。だが、旅行や観光もまた趣味の一つになる。

 

 地獄流しの依頼があった際、皆が気晴らしできるようにその地域の観光スポットや飲食店をリサーチする事はしばしば。

 

 そのような男で、かつこの場にはあいと大天狗(と影の老婆)以外は不在。故に、自分たちも外出をしないかと提案をしたのだ。

 

 

「……良いよ」

 

 

 あいは目を開き、大天狗へと顔を向けた。

 

 

「よし、じゃあ何処にしよっか?」

 

「……あなたが行きたいところ」

 

 

 表情を変えず、目線を大天狗へと向けたまま言う。

 

 

「おおっと、そう来たかぁ……ううむ、どうしよう」

 

 

 大天狗が行きたいところならいくつもある。しかし、自分本位で決めるわけにもいかないため、当然悩む。

 

 自分の行きたい所ではなく、あいが気に入りそうな所を当然、考えてしまう。

 

 ここで、閻魔あいは大天狗にとって強烈な一撃を放った。

 

 

「……周のこと、もっと知りたいの。だから、あなたの行きたい所に連れて行って…………」

 

 

 念押し。

 

 他人任せではなく、本心から大天狗の行きたい場所に行きたいのだと改めて伝える。

 

 

「オゥフ…………ン、ンーッ! じゃあ、1個思いついた!」

 

 

 あいの言葉を受け、心臓が跳ね上がるも、それならばと脳を高速回転。既に複数浮かんでいた地域を自分が行きたい場所順に並び変えて、第1位が決まった。

 

 

「【賽河原(さいがわら)市】って知ってる? G県にある田舎町でこの前ブラついたんだけど……確か今日じゃなかったかな、【六文燈籠(ろくもんとうろう)祭り】があるんだ」

 

 

【賽河原市】。これといった特徴のない地方自治体ではあるが、大天狗は以前訪れたことがある。

 

 といっても、なにか目的があった訳ではなく、適当に夕暮れの里から現世へ降りたらそこだったというだけ。

 

 

「……六文燈籠。灯籠流しかしら…………?」

 

「そうそう。なんか、忘れたいことを紙に書いて、それを燈籠に入れて川に流すんだって────────」

 

 

 そこまで言って気がついた。

 

 三途の川に燈籠が流れているということを。そして三途の川はあいが船でターゲットを地獄へ流す時通る。

 

 つまり、地獄流しを思い出させてしまうと。

 

 

「や、やっぱ止めよう! あんま、いい気分にならないだろうし……」

 

「良いよ」

 

「え」

 

「……周の忘れたいこと、気になる」

 

 

 だが、あいは別に良かった。というのも、あいは船頭。基本的に正面にしか目を向けておらず、時たまターゲットの方を見るだけ。三途の川に浮いている燈籠に目を向けることは無い。

 

 

「よ、よし! じゃあそれで決まり! 祭りは夕方からだから、あと半日は時間あるな……それまでどうしよう…………」

 

「……服」

 

「服? ああ、そっか。お祭りだし、着替えるのも悪くないか。和服は……仕事思い出しちゃうか」

 

「……見に行こ、外に」

 

 

 あいの提案により、2人は現世に降りて一般的なアパレルショップに入店。まずは大天狗の服を決めるということになったのだが、

 

 

「これとかどうよ?」

 

 

 試着室から出てきた大天狗の姿は、頭のてっぺんから爪先まで見事に黒一色。どこぞの外出をした多重債務者を見張る黒服以上にブラック。

 

 

「……………………」

 

「あ、あれ? 反応薄い…………」

 

 

 あいの顔は、久しく見ていなかった能面に変貌していた。

 

 

「じゃ、じゃあこれ!」

 

 

 次に出てきたのは、チェックの上着の下にボーダー、有彩色のパンツという派手すぎる姿。あいの顔は、ますます能面に近づく。

 

 

「…………………………………………」

 

「や、やっぱ……ダメ?」

 

 

 そう、大天狗の致命的な弱点はファッションセンスの無さ。

 

 本人とて、それは自覚している。自覚しているのだが、あいとのデートという事実に浮かれ、更に『人間時代よりスペックが上がった自分ならセンスも磨かれているだろう』という、謎の自信によりこんな醜態を晒してしまうことに。

 

 なおも自信のセンスが人間時代から変わらず0であると認められない大天狗は、有り得ない手に打って出た。

 

 

「な、なら! 骨女ならこのセンスわかってくれるでしょ!?」

 

 

 骨女は2人に『何かあったら呼んでくれ』と伝えていた。それはつまり、今この状況なのではないかと、大天狗は勝手な解釈をしてしまう。

 

 大天狗は骨女の居場所をサーチし、あいに一言も告げずにアパレルショップから姿を消してしまった。

 

 

「……あっ…………行っちゃった」

 

 

 ついカッとなって周りが見えなくなることがあるのも彼の欠点だった。

 

 

 

 

 

 そして、大天狗は【手柄】というパーキングエリアに降り立った。

 

 

「えーっと、骨女は……あの車か」

 

 

 大天狗の感知によれば、骨女は車移動している。どの車かも既に把握しており、ちょうど駐車スペースにバックで停めようとしているところだ。

 

 

「降りてきたら、隙を見て聞いてみよう……って、ヤッベ! お嬢置いてきちまった! それに、よく考えたら骨女の休日邪魔することになるじゃんか……」

 

 

 段々と冷静さを取り戻した大天狗は本能のままに動いたことに気がつき、頭を抱えてしまう。

 

 

「……戻ろう。お嬢ほっぽり出してしまったし、骨女にも悪いし────って、あぁッ!?」

 

 

 何の気なしに件の車へ再度目を向けると、そこには駐車スペースの隣にある車に激突寸前の光景が。

 

 

「ちょっ! ストッ、ストーップ! ストップストップ!! 止まって!! 止まれ!!!!」

 

 

 流石にこんな事態を見過ごせない大天狗は急いで車に近づき、大きな声とジェスチャーで運転手にブレーキをかけるように促した。

 

 突然人が飛び出してきたことにより運転手は驚き、急ブレーキをかかる。激突まで残り数ミリといったところで、事故は回避された。

 

 

(だ、大天狗!? アンタ、なんでここに!?)

 

(わ、悪い……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「いっやぁ〜ッ。ほんっと、さっきは助かったよ!」

 

 

 あの後、レンタカーに乗っていた人間3人と骨女とで、パーキングエリアのフードコートに大天狗はいた。

 

 

「いえいえ、流石にあんな光景見たら誰だって止めますよ。しかもあの車、年代物で大事に乗っているようでしたから、ぶつけてたら本当にヤバかったと思いますよ、【根来(ねごろ)】さん」

 

 

 心の中で、『それこそ、地獄流しされてもおかしくなかった』と付け加える。

 

 

「マ、マジ?」

 

「哲郎くん。あとの運転は、全部あたしがやるから」

 

「あ、はい…………」

 

 

 運転手だった【根来哲郎(ねごろてつろう)】という男は、妻である【根来歌江(ねごろうたえ)】に睨まれ、シュンと項垂れる。そんな様子を見た、2人の友人である【雪村久美子(ゆきむらくみこ)】はそっと哲郎の肩に手を置いた。

 

 骨女は複雑な笑みを浮かべている。最も、原因はそれだけでは無いだろうが。

 

 

「し、しかァし! キミやるねぇ、こんなカワイイ女の子連れて、ヒッチハイク旅行だなんて。しかも制服旅行ッ! くゥ〜ッ、青春だねぇ〜っ!」

 

 

 即座に切りかえた根来は、大天狗の隣にいる少女へと目を向けた。

 

 そう、閻魔あいだ。

 

 おいてけぼりを食らったあいは、しばらくフリーズするも大天狗の居場所を探知し合流していた。

 

 服装はお互いにいつもの制服だ。

 

 

「ええ、まぁ。そういえば、紹介していませんでしたね。か、彼女の────────」

 

 

 閻魔あい。

 

 そう口にする寸前、大天狗は気づく。

 

 

 ────いや、どう考えても【閻魔あい】は無いだろ。キラキラネームどころじゃないぞ、しかも苗字の方だし。

 

 どう答える? 名前だけ伝えるか? いや、いくらなんでもそれは有り得ないだろう。ならば……うん、偽名だ。偽名でいくか。お嬢も、意図を理解してくれるはず。

 

 肝心の偽名だが、とりあえずお嬢の名前をモジれるか考えてみよう。

 

 閻魔あい。

 

 

 

 

 

 ENMA AI。

 

 

 

 

 

 AMNE AI。

 

 

 

 

 

 あまない あい。

 

 

 

 

 

【天内あい】

 

 

 

 

 

 これだ……! 

 

 

 大天狗に電流走る。ここまでにかかった時間、僅か0.01秒。

 

 

「────【天内あい】って言うんです」

 

 

 そう答えながら、あいの肩を抱き寄せる。分かりやすいジェスチャーも忘れずに。

 

 

「……! うん、よろしく…………」

 

 

 大天狗の突然のアクションにあいは不意をつかれたが、不快そうな気配は無かった。

 

 

「あら、顔真っ赤」

 

「可愛い〜。あたしにもあったなあ、昔を思い出す」

 

 

 根来歌江と雪村久美子は初々しい光景に懐かしさを憶えていた。在りし日の学生時代。とうの昔に過ぎ去った青春を、2人は感じていた。

 

 もちろん、見た目こそ学生ではあるが、実年齢は大天狗とあいの方が遥かに上。あいに至っては、400歳を超えている。

 

 

 こうして2人が打ち解けたことにより、話に花が咲き出す。

 

 

「え、根来さん映画監督なんですか!?」

 

「そうなんだよォ〜。ベルリン映画祭にも出品したことあるんだヨ?」

 

「お金を出せば、誰でも出せるんだけどね」

 

 

 根来哲郎が映画監督であることに驚いたり、

 

 

「……ラーメンおいしい」

 

「ね。高速で食べるラーメンって何でか凄く美味しく感じるよね」

 

「あっ。あたし聞いたことある。長い移動で疲れたりとか、食事する時間が普段とは違うとかが原因でより美味しく感じられるんだって」

 

「へぇ〜」

 

 

 パーキングエリアで舌鼓を打ったり(全員分根来哲郎の奢り)、

 

 

「キミたち見てると執筆意欲湧いちゃうな〜……よぉし! 次のテーマは青春ラブストーリーだァッ!」

 

「もう若くないのにそんなの書けるの?」

 

「イヤイヤ、主人公は見た目学生なんだけど実は前世の記憶を持っていて、心を閉ざしたヒロインが再び笑えるようにあの手この手を尽くすんだけども、そのヒロインが実は数百年前から生きている妖怪って設定で……」

 

「「ブ────ーッ!!」」

 

「…………」

 

「「「??」」」

 

 

 根来の発言に大天狗と骨女が吹き出したりと、気づけば2時間近く6人で会話が盛り上がっていた。

 

 そして、やって来る別れの時間。

 

 

「────それで、網走監獄に来たはずなのに、周りに観光客一人もいなくって。受付の人に聞いたら『面会の御用でしょうか』って困った顔で言われてしまいまして。ようやく気づきましたよ、ここ網走刑務所だって!」

 

「ダーハッハッハ! 観光地と現役の刑務所間違えちゃったわけだ!!」

 

「うふふ……って、てっちゃん。そろそろ車出さないと、福岡着くの夜中になっちゃう」

 

 

 雪村久美子が腕時計を見ると、時刻は15時を過ぎていた。

 

 根来哲郎ら4人は用を済ませた後車に乗りこみ、窓を開けた。

 

 

「本当に乗って行かなくて良いの?」

 

「5人用の車なんですから、お気になさらず。それよりも、映画頑張ってください。上映されたら必ず見に行きます」

 

「……! ウン、もう少し頑張ってみるよ! キミたちも、末永くね」

 

 

 大天狗は根来と、

 

 

「君、大人しそうだから敢えて言っとく。もっと積極的になると、男は喜ぶよ」

 

「応援してるからね、あいちゃん」

 

「……わかった」

 

 

 あいは歌江と久美子に別れの挨拶をしていた。

 

 やがて、窓が閉まり車は走り出す。高速道路本線に合流し、見えなくなるまで2人は見送り続けた。

 

 

「────なんか、ごめんね。お嬢」

 

「……ううん、楽しかった」

 

 

 車が走り去った方角を見ながら、2人は静かに会話する。

 

 しんみりとした雰囲気、もう二度と自分たちと彼らの人生が交差することは無いだろう。そう、あいも大天狗も感じていた。が、

 

 

「まあ、骨女頼りにすればいつでも会いに行けるよね」

 

「……それは言わない」

 

 

 2人とも気づいていた。骨女経由で再会できるということを。

 

 

 その後、2人は夕暮れの里に戻ると一目連が帰っていたため、大天狗は私服のレクチャーを受けた後、六文燈籠祭りへと出掛けたのだった。

 

 

「オレやお前くらいになれば、変に飾らずシンプルが良い。白のワイシャツとデニムにしとけ。てかそれ以外考えるな、お前センス終わってるから」

 

「ハイ……」

 

「……よしよし」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ⛩

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いつかの夕暮れ時。ある町の河川敷にて。

 

 

「────君、こんな所で何してるの?」

 

 

 黒く少しウェーブのかかった髪。優しげで、かつ凛とした眼差し。

 

 別の地域の学生服を着た青年が、一人寂しそうに地面に座っている7歳ほどの少女に声をかけた。

 

 

「…………」

 

 

 少女は何も言わない。全てを諦めた藍色の目を向けるだけ。

 

 

「………………じゃあ、これを君にあげよう!」

 

「えっ……? キャッ…………!」

 

 

 おもむろに、青年は少女の側頭部に手をやる。

 

 叩かれるのではないか、そう思い反射的に少女は目を瞑るがいつまで経っても衝撃は来ない。

 

 恐る恐る目を開けると、青年の手には青い花が摘まれていた。

 

 

「えっ……お花?」

 

「マジックだよ。しかも種のない、ね。ビックリした?」

 

「…………! うん……!」

 

 

 少女は目を丸くして、青い花と青年を交互に見ている。

 

 

「この花は彼岸花って言ってね、しかも自然界には存在しない青色! これを、えーっと……君のお名前は?」

 

「【ゆずき】……!」

 

「ゆずき、ね。うん、覚えた。俺は烏鷹周って言うんだ。これを、ゆずきちゃんに」

 

 そう言って、青い彼岸花をゆずきの前に差し出した。

 

 

「わあ……ありがとう…………!」

 

 

 ゆずきの左手には青の彼岸花が、右手には烏鷹周に会うよりも前に出会った、同い年の少女から受け取った1つのキャンディーが握られていた。

 

 

「……っと。ヤべッ、そろそろ戻らないと。じゃあね! ゆずきちゃん!」

 

「あっ、うん…………」

 

 

 笑顔を浮かべ、大きく手を振り烏鷹周は去って行った。ゆずきは、彼の背が見えなくなってもずっとその方角を見つめていた。

 

 

「バイバイ…………」

 

 

 

 

 それから、ゆずきが生きている間に、再び烏鷹周と会うことはなかった。

 

 

 

 

 ────────青い彼岸花は妖しく光輝いていた。

 





 お読みいただきありがとうございました。

 恐らく二籠で一番の存在感を放つゲストキャラ、根来哲郎。CVからして強烈で、覚えている方は多いでしょう。オススメのエピソードでもありますので、未視聴の方は是非。

 最後に登場した少女は一体……?

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