原作は1期7話、【ひびわれた仮面】です。
お嬢の使い魔になって1年が経った。
この1年間、様々な怨みを見てきた。俺たち使い魔の仕事は依頼者、ターゲットの身辺調査がメインだ。
地獄通信は主に噂で広まっているからか依頼者は中、高校生が多い。イジメられて〜とか、ムカつく教師が〜とか、うるさい親を〜なんてのはしょっちゅうだ。
男色家であることを親友にカミングアウトしたら気味悪がられてその怨みから……なんてのもあったり。
社会人だとパワハラ上司を流してくれとかもあるし、そもそもターゲットが見当違いだったり……
酷いケースだと、あの子が地獄に落ちて俺も死ねば永遠に一緒になれるんだー! なんていうイカれた動機も2、3件だがあった。多分無理だよ。
ちなみに、俺みたいな理由で流された人はこの1年ではいなかったが、そういった理由でアクセスされることはそこそこあった。一目連曰く、割とありがちな理由らしい。人の心とかないんか?
ていうか、お嬢が懇切丁寧に、藁人形渡したついでに地獄の幻覚を見せているにも関わらず、お構い無しに糸を解く奴の気が知れん。
と言っても、実際に糸を解くまでに行き着く者はそうそういない。大抵はビビってやめてしまう。だけど、それを乗り越えて解く者は皆一様に底知れぬ怨みを抱いている。
けどなあ……
きっと流した後の人生、キツイだろうなあ。何をしていても、ふとした拍子に自分の運命が確定しているのを察してしまうのだから。
とにかく、たった1年で嫌というほど多種多様な人の業を見た。
だけどお嬢や3人はもっともっと長く見てきたんだよな……それこそ数百年も。
そこのところをお嬢に聞いてみるとただ一言、
『慣れなさい』
素っ気ない。けどやさしい。気を遣ってくれたのかな?
お嬢は無表情だが感情が無いという訳では決して無い。この間も、仕事が入っていない暇な時に藁人形状態の3人を使ってタワーを作ろうとしていた。
輪入道たちは、仕事が入っていない時は基本藁人形になって待機しているのだ。
もっとも、そのタワーは何度建ててもすぐに崩れてしまって、お嬢はほんの少しむくれていた。かわいい。
うん? 俺はどうしていたって?
もちろん俺も藁人形になれるがどうにも落ち着かないから、お嬢から命令されるか地獄流し執行で移動する時くらいでしか変身はしない。お嬢も許してくれている。
ちなみに藁人形の色は白。雰囲気に合わねえ。
閑話休題。まあ慣れる、慣れないはあまり問題ではない。
というのも、どれだけ依頼人やターゲットに心を痛めたとしても次の日には『ああ、そんなことがあったな』程度で済む。
例えるなら、バッドエンド物の映画を見終えた感覚。その日の間は暫くその事で頭がいっぱいになるけど、次の日には回復してるって感じ。
もっとも、人間だった頃と違い睡眠が必要ないから寝てスッキリというわけにはいかないが。
しかし、実際に身辺調査を行うことが多々あるから映画を見るのとは訳が違う。
にも関わらず、こうして切り替えられるのは俺の精神と肉体が人間ではなくなった影響なのだろうか。
だが一方で、理不尽な目にあっている人を見ると何とかしたいと思う気持ちも残っているようで、その度に飛び出しそうになってはお嬢に咎められ、輪入道たちからは呆れられる。
糸を解いちゃダメなのに……! なんて光景は頻繁に目撃した。だが糸を解く、解かないは生きている人間だけで決めなければならない。
生者ではない俺たちがそれに関与するのは許されない、当然だよね。
だけど、お嬢は結構融通が利くタイプのようで、地獄流しに関係ない人をやっていい範囲で助けるのを許してくれたことがあった。
あれはそう、確か────────
⛩
依頼人は【紅彩花】。ターゲットは【紅翠】。
彩花は劇団所属の女優であり、翠はその母。と言っても義理ではあるが。
大女優の義母による厳しい指導に耐え兼ねての依頼だそうだ。
現在は彩花の様子を伺っている最中で、一目連と骨女もいる。輪入道は藁人形になっているため不在だ。
どうやら彼女はガラの悪いチンピラ2人と接点があるようで、そのチンピラ共を使って地獄流しせずに義母へ復讐をしようとしている。気色の悪い仮面を付けさせて。
だが彼女は、義母が格闘技を身につけていることまでは把握していなかったようで、チンピラ1人がのされてしまい、もう1人は仕方なくといった感じの依頼人によって追い返されてしまった。
「すげえ女」
「今どきの若い男は骨が無いねえ」
「ターゲットは芝居だって気づきそうだけど、どう出るか」
目の前で起こった意外な光景に俺たちは口々に感想を言う。
「しかし、アタシら使わずになんとかしようとしてるのはどうしたもんかねえ」
「とりあえず、お嬢に知らせなきゃな」
翌日、お嬢自ら調査に乗り出した。
「……私が行く」
何が彼女を突き動かしたのかは知らないが、帽子にツインの三つ編み、マフラーを首にかけたクールなファッションで劇団に乗り込んで行った。
俺たちは里で待機命令を貰ったため、今は3人でお嬢の様子を伺っている。
どうやってだって? 俺の妖術の一つに、近くの場所をスクリーンで映し出せる技があるのだ。
そしてこれはバグ技みたいなものなんだが、この里はどこにいても許可さえあれば入れるし、好きな場所に出ることも可能。
つまり、現世のすぐ傍に存在しているためあらゆる場所をこの里からなら映し出すことができるのだ。
「しっかしお前がこんな事も出来るなんてな。これじゃオレのお役御免じゃないか」
「まあそうは言ってもこれは声が聞こえないんだから。生で見て聞くこともできるそっちの方が調査としては良いと思うけど」
ボヤきながらも映像から目を離さない一目連に俺はそう返事した。この妖術────投影とでも呼ぼうか────は使い勝手は良いが色々と欠点はあるのだ。
まず、音声が聞こえない。例えるなら、監視カメラのようなものだ。そのため、表情やジェスチャー、口の動きからやり取りを推測するしか無いのだ。
次に、妖力を使用することだ。一目連のそれはもはや能力というよりも権能に近いため、一切の疲労なく扱えるがこっちは疲れる。
それに今の場合、世界を跨いでの使用のためか余計に消耗する。
更に現実と映像で何秒かの遅れが発生する。リアルタイムで見れないというわけだ。これも、世界を跨いでいるからか時間差はより激しくなっている。
要するに、一目連のそれの方が力として完成されているのだ。
「ていうか、お嬢の服装……」
「ふふっ、驚いたかい? セーラー服と振袖以外にも着ることがあるのさ」
「まあ知っての通り、身辺調査はオレたちがするからな。ここ数百年間でもああやってお嬢自らってのはそこそこ珍しい」
「へぇ〜……」
この1年、お嬢の服はセーラー服か振袖しか見た事がなかったから非常に新鮮だ。
普段着の黒いセーラー服は一般的な白の正反対、つまり明らかな『異質さ』を感じさせる。まさに『地獄少女』の名に相応しい『都市伝説』を思わせる装いだ。
片や仕事着である漆黒の振袖はお嬢の透き通る肌、濡れ羽色の長い髪、朱い瞳といった『良さ』を極限まで引き立たせつつ、『閻魔あい』としての一本の芯を感じさせられるものだ。端的に言えば、美しくカッコイイ。
だが、今回のは現世の日本に溶け込むこともできる現代チックな装いだ。
つまり、とってもかわいい。
危うく煩悩に支配されそうになるが今は仕事の最中。ずっとお嬢を眺めていたい気持ちを抑えて、依頼人が映るよう画面を調整する。
ここは……稽古場っぽいな。壁に大きな鏡がある。劇団の演者全員を集めているようだ。
やがてターゲットの翠が現れた。何を言っているのか分からないが、大事な発表なのだろう。彩花の方を見てみると口元が緩んでいる。主役がどうとかの話か。
すると、翠が入口の方へ目を向けると、
「うん? 誰か入ってきたね」
「あ、この人」
「知ってるのか?」
「いや、知り合いじゃないけど。確か生前見てたドラマに出ていたような。誰だっけ……」
この1年が激動すぎて、瑣末事はほとんど忘却の彼方だ。見ていたテレビドラマのことなんて全くと言っていいほど覚えていないが、なんか見覚えはある。
そうこうしているうちに彩花の端正な顔が次第に般若の如く歪んでいった。
「おお怖」
「大事な役を取られたってとこかねえ」
「これ、怨みの矛先があの女性に向かわない……?」
しばらく映像を眺めていると空気が揺れたのを感じた。俺たちは映像から目を離し、顔を上げるとお嬢が帰ってきていた。服装はセーラー服に戻っている。
「おかえり、お嬢」
「収穫はどうだった?」
「……今日はもう無い」
相変わらず端的だが、『今日は』ということは要するに、
「動きがあるのは明日って訳か」
俺の言葉にお嬢は頷く。
「んじゃ、次はオレ達も」
「行かせてもらうよ?」
一目連と骨女がやる気を出している。当然俺もだ。今日は眺めていることしか出来なかったからな。
「そういえば、さっき着てた服はどうしたの?」
多分幻術かなんかなんだろうけど気になったから聞いてみるも、あっけなく無視された。かなしい。
骨女からはどつかれて、一目連からは『ドンマイ』という有難くもないお言葉をいただいた。
翌日、再び一目連、骨女と共に依頼人の調査を再開した。
紅彩花は上手いこと自分の役を奪った【来島薫子】と仲良くなった。薫子はタレントだそうで、テレビドラマにも出ているそうだ。だから薄ら見覚えがあったのか。
彩花は薫子の靴に大量の画鋲を仕込んで、『私のためならやめて!』と周りの演者に言い放ち、彼女を庇い立てるという三文芝居を繰り広げ、見事信頼を得た。
普通こんな芝居、すぐに見抜かれると思うだろうが、もともと彩花は大女優の養子でありながらも決して偉ぶらず、演劇へのひたむきさが周囲から認知されているから疑われなかった。
2人は場所を移しカフェでお茶をして親交を深め、ゲームセンターへ遊びに行った。薫子はゲームセンターは初めての様子で、キョロキョロと辺りを見渡し、目を輝かせている。
クレーンゲームで遊んでいた2人だが、薫子は門限が近くなったということで帰ろうとする。
すると、彼女の背後をあのチンピラコンビがとった。
元からこうすると彩花は決めていた。全ては薫子を潰すための策略。
その事にようやく気づいた薫子だが、体格の良い男2人相手に抵抗できず廃墟へと連れて行かれてしまった。
俺たちはその様子を黙って見ているだけ。一目連や骨女は帰ってしまった。
薄情、という訳では無い。人間と変わらない感情を持ち合わせている。
だが、薫子は地獄流しに関係ない。依頼人でもターゲットでも無いため、おいそれと手出しはしないのだろう。嫌な光景だしな。
だが、
「お嬢」
返事はない。
「……彼女は地獄流しと関係ない。そうでしょ?」
「……好きにすればいい」
「スマン、ありがとう!」
時たまこうして、俺は地獄流しに関係の無い人間が巻き込まれてしまうのを見過ごせず飛び出してしまうことがある。
良くないことであるのは分かっているがどうしても止められないのだ。
一目連たちのように夕暮れの里へ戻れば良いのだろうが、それだと後味の悪い感触がしばらく続いてしまう。
きっと俺が妖怪としても人間としても半端者だから、一目連たちと違って自制が効かないのだろう。
一度、依頼人とターゲットのすれ違いが原因で地獄流しを決行しようとしている現場に勝手に飛び出して場をめちゃくちゃにしてしまったことがある。
その場はなんとか記憶処理などをお嬢がしてくれたが、仕事が済んだ後一目連たちにしこたま叱られた。お嬢は何も言ってこなかったが無言の圧力をかけられた、気がする。
だからそれ以降はこうして、地獄流しと関係がない場合に限り、お嬢から許可を貰って行動するようにしている。
もちろん、その場合お嬢との契約によって使用できる能力は使わず、自前の妖術だけで事を成すのだ。
俺は、様子を伺っていた建物の屋根から飛び降りるのと同時に、妖術を使用。身に付けているものが警官の制服に見えるよう幻術を発動する。
音もなく着地し、さも通報を受けたような足取りで現場へ急行する。
「コラ! そこで何をしている!」
「や、やべ! 警察!?」
「逃げろ!」
チンピラ2人が逃げ出すが、今は彼女の方だ。
「君! 大丈夫か!?」
「あっ……は、はい……大丈夫、です……」
声がかすれている。なにか飲まされそうになっていたが。
辺りを見回すと、粉々に割れたガラス片と、液体が飛び散っている。
「アレ……私、飲まされて……綺麗な声が出るようになる薬だって……」
全部じゃないのが救いか……もう少し駆けつけるのが遅かったら、どうなっていたことか……
「とりあえず、あなたを家まで送ります。事情は後ほど」
「ありがとう……ございます……」
彼女の家までの道中、会話は無かった。薬を少量とは言え飲まされているし、あんな連中に詰め寄られていたんだ。無理もない。
「ここ、です……」
「分かりました。では本官はこれで。落ち着いたら警察に通報を」
「はい……ありがとうございまし……え? じゃあ、あなたは……あれ……?」
できるのはここまでだ。彼女の俺の記憶だけを消して辻褄を合わせる。しばらくポカンとしていたが納得したようで、家に入っていった。
翌日、藁人形の糸が解かれた。
解いたのは彩花ではない。俺が昨日助けた【来島薫子】だ。ターゲットは元・依頼人である【紅彩花】。
家に着いた後、溜まっていた恐怖と怨みが爆発したのだろう。このままでは自分の身が危ないという理由で、半ば衝動的に地獄通信にアクセス。藁人形を受け取った。
翌日、薫子の糸が解かれたため、紅彩花が持っていた藁人形は無効となり、地獄に流された。
恐らく、俺が介入しなくとも来島薫子は彼女を地獄に流していたのだろう。だが、その場合彼女には肉体的、精神的に深い傷が残り、復讐を果たしてもタレント生命は絶たれたままと想像するのは容易い。
だから、まだマシなのかもしれない。
⛩
────────なんてことがあったな。
幸いにして、厳しいだけで悪人じゃない人間が地獄に落ちる、なんてことにはならなくて良かった案件だ。
そんなことを思い出しながら夕暮れの里に帰ってくる。
仕事が入っていなかったため少し現世に降りていたのだ。
「ただいま、お嬢」
「……おかえり」
見ると、けん玉で遊んでいたみたいだが飽きたのか畳に転がされていて、本人も寝そべっている。
輪入道たちは藁人形になって無造作に置かれている。
「はいこれ、お土産」
「……?」
「お嬢、さくらんぼ好きって聞いたからさ。良さげなチェリーパイ買ってきたんだ」
持っていた洋菓子箱を見せる。
「お嬢の口に合うかは分からないけど、この店の商品はどれも美味しかったよ」
以前、パティシエ関係の案件*1があった。
姉妹で店を開業したという心温まる話だが、姉が開発したアイデアを師匠が奪い、店が潰され、妹がソイツを地獄に流して欲しいという依頼だった。
身辺調査の一環で、その姉が作った洋菓子を買って食べてみたがまさに絶品。俺が最後の客になれるようタイミングを狙っていたため、ついでということで色々話を聞けた。
そんな姉は現在別の店で仕事をしているのだが、これはその店で買ったものだ。だから信用できる。
パカッと箱を開けて、チェリーが沢山乗っているこんがりと焼けたパイを見せてみる。
しばらく無言で見つめるお嬢だったが、
「……食べる」
表情こそ変わらないが、少し声のトーンが高い気がする。
「良かった。みんなの分も買ってあるから食べない?」
床に無造作に置かれている黒、蒼、紅の藁人形に声をかける。すると藁人形が人型へ変化した。
「ほお、西洋菓子かい」
「オレたちは別に食わなくても問題ないが……」
「ま、折角なんだ。有難くもらうよ」
味の好みとかまでは分からないから3人には無難にショートケーキにしたが反応は悪くないようだ。
だが、ここにはもう1人いる。
「ばあちゃん。ばあちゃんには、羊羹を買ってきたからね。嫌なら突っ返して良いからね」
「ありがとうねぇ」
少しだけ障子を開けて中に差し入れる。ばあちゃんと同じ老人であり、行動を共にする輪入道はある程度どんな人物かは分かってる。
そんな彼と違い、このばあちゃんはどんな人物かさっぱり分からない。だから適当にそれっぽい羊羹を選んだ訳だが、問題は無さそうだ。糸車が止まっているから食べているのだろう。
ふと振り返るとお嬢は既に食べ始めている。
「……おいしい」
表情は相変わらず変わらないが、その言葉が聞けて良かった。
「あっ、なんかお茶出すね。て言ってもここ緑茶くらいしか無いけど」
「おっ、悪いな」
その後、みんなで他愛のない話をして一時の団欒を楽しんだ。
お嬢とばあちゃんは会話の輪に入らなかったが、決して仲間はずれという訳ではなく、自然な形でこの空間に溶け込んでいた。やっぱ楽しいな、こういうの。
「……おいしい」
お読みいただきありがとうございました。
高評価、お気に入り登録、ご感想よろしくお願いします。
以下、軽くオリ主のスペック
・名前:大天狗(
・年齢:17歳(前前世含まない、地獄流し執行時の肉体年齢)
・身長:一目連よりかは低い
・誕生日:9月20日(乙女座)
・服装:生前の学生服(ブレザー)
・利き手:左
・ウェーブ掛かった黒髪、黒目の日本人
・好きな物:みかん、彼岸花
・能力:様々な事象を引き起こせる
・藁人形時の色:白
・座右の銘:疾風に勁草を知る
チートを貰って転生したのに再び死んでようやく使えるようになった。その特異な成り立ちから人間としても妖怪としても半端者。
大天狗という名前には少し引け目を感じている。
お嬢万歳。