閻魔あいちゃんの笑顔が見たい   作:アラウンドブルー

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 ラスト付近を書き直したものを再投稿しました。これだけでなく台詞を変えている回はありますが、ここまで変わってはいません。

 原作は1期第11話、【ちぎれた糸】です。



在処

 

 最近、お嬢の様子がおかしい。

 

 いや、仕事がオフの時は昔ながらの遊びをしたり花畑を見つめたり、ただ畳の上で無為に横になっていたりと穏やかな時間を過ごしているのには変わりないが、目が違う。

 

 ここじゃない何処か、遠くを見ているような。そんな物憂げな感じがここのところ多い。

 

 1年程度の付き合いでしかないが確かに雰囲気が違うと分かる。

 

 

 ……

 

 

 

 

 …………

 

 

 

 

 

 ………………ハッ!? 

 

 

 まさか、好きな人でもできたか!? 

 

 誰だそいつは。羨ましすぎるだろ。

 

 まあお嬢もお年頃。見た目の年齢は大体中高生っぽいし? そういうのはあるだろう。

 

 きっとお嬢はその男の顔をただジッと眺めたり、静かにそっと肩に頭を預けたりしてるんだろうなぁ……良いよねえ、まさにプラトニックラブ。憧れるよねえ。

 

 ……なんてね。まあお嬢に限ってそんなことは無いだろう。

 

 大体、それならまず一番手近な一目連がどうなるって話だ。

 

 あんなイケメンを差し置いて現世の、いつ死ぬかも分からない人間と関係を持つとは思えない。

 

 そもそも、原因はわかっている。

 

 この前家の中で借りてきた本を読んでいたら、外からお嬢とばあちゃんの話し声が聞こえてきた。

 

 

『どうしたんだい、あい』

 

『……あのね、おばあちゃん。女の子に会ったの』

 

『……女の子』

 

『……うん。なんだかすごく懐かしかった』

 

『懐かしい……ふふふ、変なことを言うねえ』

 

『……変…………そっか……変だね』

 

 

 ……ふむ。お嬢って一応人間だった、で良いんだよな? 輪入道たちのような妖怪では無さそうだし。

 

 でも苗字が【閻魔】って……もしかして閻魔大王の娘、とか? 分からんなあ。

 

 

 まあそれは置いておいて。

 

 

 懐かしい、というのはお嬢が人間だった時に関わりがあった者の血筋とか、地獄少女として活動を始めた初期の頃に会った者の子孫、だろうか? 

 

 それなら確かに、時を隔てた邂逅と言えるぐらいには運命的なのかもしれない。

 

 しかし、俺ってお嬢のこと全く知らないんだなって。

 

 まあ、まだ1年程度だしね。輪入道たちに比べたら天と地の差よ。つーか、これからっしょ。

 

 なんてことを考えると、

 

 

「……この後どうするの?」

 

 

 お嬢が折り畳まれすぎて奇妙な形になった立体を見せてきた。

 

 

「えっとね、この次は後ろから押し出す感じで折り畳んで……」

 

 

 そう、今はお嬢と折り紙で遊んでいるのだ。

 

 先程までは家の中で現世から借りてきた本を読んでいたが、飽きたので外に出た。

 

 目に映るは永遠の夕暮れに染まる、燃えるように朱い彼岸花が咲き乱れる景色。

 

 ここに来て1年経つが、未だに感動してしまう。

 

 美しい光景にしばしの間黄昏ていたが、ふと縁側の方に目を向けるとお嬢が折り紙を折っているのに気づいた。

 

 

『俺も一枚折っていい?』

 

 

 近づいてそう尋ねると無言で一枚紙をくれた。

 

 お礼を言って、早速折っていく。と言っても、作るのは折り鶴ではない。

 

 

 さて、話は変わるが俺のチート能力は魂と融合して手足のように使えるようになっているというのは以前説明したと思う。

 

 それはつまり、その能力を使用するための俺自身のスペックが上がっているということだ。

 

 空を飛んだり、各種妖術をスムーズに使えるということは、その動作を瞬時に行えるよう、空間把握能力だったり判断能力、瞬発力と言った各種基礎能力が向上しているということを表す。

 

 試しに前世、前前世でも不得意だった理数科目や触れたことの無いスポーツ等々に少し挑戦してみたところ、あまりにもアッサリとできてしまった。それも高い水準で。

 

 

 なので、こういった些細な事にもこの力を使ってみると、

 

 

『じゃん! どうよ、お花が作れた』

 

 

 こんなことも出来てしまう。

 

 しかも、花と言っても平面的なものではなく、立体的で花弁が六枚あるのをサッと作って見せた。

 

 人間だった頃は折り鶴がやっとだったのに、今ではイメージするだけで折り方が分かってしまうくらいにはできるようになってしまった。流石に少し怖いぞ。

 

 お嬢はと言うと、相変わらず表情は変わらないが、折り鶴を作る手を止めて目を丸くしている。

 

 

『……すごい』

 

『フフン、でしょ? もう一枚貰える?』

 

 

 紙をまた受け取ると、さっきとは別の形に折っていく。

 

 お嬢の目は折られていく紙に釘付けだ。

 

 花よりかは時間がかかったが、次はこれだ────! 

 

 

『……カタツムリ』

 

 

 …………自分でもここまで作れるとは思ってもいなかった。ていうか、折り紙でカタツムリって作れたんだ……

 

 

『……お嬢もどう? 鶴以外にも何か作ってみない?』

 

 

 てな感じで今に至るのだ。

 

 

「……できた」

 

 

 お嬢の小さな両掌に紙でできた一輪の花が咲いている。

 

 まさかこの短時間で作り方を物にしてしまうとは。全工程のうち半分も教えていないのに完成させてしまった。

 

 やっぱすげぇよ、お嬢は…… 思わずパチパチと拍手をする。

 

 

「……♪」

 

 

 それを受けてなのか、薄らと笑うお嬢。

 

 やった! お嬢が笑った! 俺の前で! 

 

 しかし、無情にも家から依頼が来たことを知らす通知音が鳴った。

 

 すると、お嬢の表情はいつもの無表情に切り替わってしまう。

 

 

 ああ、もう少し見ていたかったのに……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 さて、依頼者は【片岡雅哉】、ターゲットは【稲垣隆史】。

 

 現在は稲垣の方を観察している。

 

 片岡の方は藁人形を受け取って3日経つが大した動きがないためターゲットの方に切り替えた。

 

 一目連が会話を盗聴、俺と骨女は【投影】で映し出した映像を見ている。

 

 何やら呼び出した男とターゲットの二人で話しているようだが、次第に雲行きが怪しくなった。最後は男がターゲットにタバコを投げ返して会議室から出ていった。

 

 

「────────稲垣があの男に仕事を依頼したけど、証拠が抑えられないならでっち上げてもいいって言って、それで出ていったんだ」

 

 

 一目連が能力で聞いた話を俺たちにも共有する。

 

 そう、ターゲットの稲垣は週刊誌の編集長だ。依頼人は議員の父を持っていたが、その週刊誌に自身の麻薬所持疑惑をでっち上げられた。

 

 それ自体は全くの無実と証明されたが、芋づる式で父の収賄が明らかとなってしまい父は逮捕。

 

 財産は全て差し押さえられて一家離散。その復讐でお嬢に依頼をしたというわけだ。

 

 難しい話だ。『悪を為して巨悪を討つ』と言えば聞こえは良いものの、それによって人生をめちゃくちゃにされた片岡雅哉にとってはたまったものじゃない。

 

 まっ、俺個人としてはこういう手合いは好きじゃないからね。流すとなったら罪悪感無く執行できそうで助かる。

 

 

「なるほど……稲垣と違って、あの男はそれなりのプライドがあるわけだ」

 

 

 その点、出ていったあの男は好感が持てる。捏造という一線は超えないのだから。

 

 

「でも、ああいうやつって出世できないんだよねぇ」

 

「アイツはどうでもいいんだよ、アンタ達」

 

 

 俺と一目連がターゲットそっちのけで先程の男について話していると骨女から釘を刺される。

 

 一目連と骨女は引き続きターゲットの調査、こっちは再び片岡の担当に割り振られた。

 

 片岡の方へ転移すると、出版社の警備員から追い出されていたところだった。

 

 ……めっちゃ近いじゃん。

 

 そして、警備員を殴ろうとした片岡を先程会議室から出ていった男が止めた。

 

 男と共に片岡は場所を移し、広い公園の屋根があるベンチに2人は距離を置きながら座っている。片岡の手には、男の奢りである缶コーヒーが握られている。天気はあいにくの雨だ。

 

 俺は屋根の上に座って、身体に妖力を薄く纏うことで雨を弾きながら話を聞いている。

 

 話しの内容は概ね先程と同じだ。麻薬所持疑惑は訂正記事を出したらしいが、男の方はそれを知らなかったようだ。

 

 

「アイツがのうのうと暮らしているのが許せない! 俺たちから全てを奪ったアイツが……! だから……!!」

 

「だから、殺そうとしたのか」

 

 

 男は片岡の復讐を止めようと説得をするも失敗。

 

 片岡は走って行ってしまった。

 

 缶コーヒー奢って、話を聞いてキレられるとは……

 

 

「一目連の言う通り、こりゃ貧乏くじを引くタイプの男だわなあ……追うか」

 

 

 あれからしばらく片岡を尾けていたら、いつの間にか夜になっていた。

 

 片岡は稲垣がスナックの女2人を連れて路地に入ったところで襲撃をかけた。

 

 稲垣は酔いが回っていたため誰だかわからないようだが、片岡が近くに置いてあった空き瓶を割って凶器に変えたところで酔いが覚め気がついた。

 

 数度の問答の末、激昂して襲いかかる片岡。だが稲垣の空手で軽くのされ、その場から立ち去られた。

 

 倒れ伏す片岡の元に現れたのは先程の男。

 

 

(あのオッサン、なんでここが分かった)

 

 

 彼らの様子を建物の上から見ている。稲垣もここに来ていたということで、一目連と骨女も合流している。

 

 公園で別れた後、片岡の後を俺は尾けていたがあのオッサンは周囲にいなかったはずだ。気が付かなかっただけか? 

 

 

「お前が依頼したのは、地獄少女か?」

 

 

 ────!! 

 

 

「アイツ……」

 

「邪魔だねぇ……」

 

 

 俺たちの、お嬢の仕事を邪魔しようとしている男に2人は敵愾心を抱く。度が過ぎることをするならば容赦はしないといった様子だ。

 

 その後、場所を移して男は片岡に地獄少女について聞く。片岡は黒藁人形を見せて、これが契約の印だと言う。結ばれている糸を解けば、相手を地獄に流すということも教えている。

 

 それを聞いた男は稲垣に謝罪させると言った。これまでしてきたことを全て明るみにする記事を書くと宣言し、『だから糸は解くな』と言い残して男は稲垣の元へと走って行った。

 

 

「……俺としては、あのオッサンが解決してくれるならそれでも良いんだけどね」

 

「おい大天狗、何言ってやがる」

 

「いやさ。そうすればお嬢の手を煩わせることもないし、お嬢が辛い思いしなくて済むじゃん」

 

「まあ、それはそうだが────あっ」

 

 

 一目連に突っ込まれたから弁解してると片岡が糸を解いてしまった。

 

 あーあ。またお嬢に苦労をかけてしまう……

 

 まあ、あの男が言っているのって割と厳しそうだしなあ。

 

 稲垣の人柄的にも、そもそもしがないフリーのライターがデカイ出版社を相手取るなんて現実的じゃないよな。

 

 

「ハァ……結局こうなるんだね。さっ、準備するよアンタたち」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 稲垣の地獄流しは無事執行された。

 

 今は俺だけ片岡の様子を見に来ている。

 

 

「糸を解いたのか……何故!?」

 

「今更全てが公になって何になる……! 壊れたものはもう元には戻らないんだ!」

 

 

 あんたにだって家族はあるだろ、分かるはずだ。そう男に吐き捨て、片岡は去っていった。

 

 再び雨が降ってきた。その雨は、まるで片岡の心を表しているかのように重く、冷たかった。

 

 

 俺も帰るか……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「あれ、お嬢? どうしたの?」

 

 

 里に戻るとお嬢が縁側の前で立ち尽くしていた。

 

 俺が帰ってきたことに気づくとこちらに振り向き、縁側に置かれている花の折り紙を無言で指差す。

 

 

「うん? 花の折り紙がどうかした……って、ああ」

 

 

 持って見てみると、裏側が破れていた。

 

 これはお嬢が作ったやつだ。

 

 完成した後すぐ依頼が来たから、破れていたことに気が付かなかったか。

 

 お嬢はジッとオレが持っている折り紙を見つめている。

 

 持っている折り紙をスイーっと右に動かすとお嬢の頭も連動して右に動く。左に動かすとまた連動してお嬢の頭も左に動く。

 

 ……かわいい、何だこの生き物。

 

 

「ン゛ン゛! まあ、作り直せばいいよ。折り紙なんだから、また一緒に作ろう」

 

 

 その言葉にお嬢はこくりと頷く。

 

 

「そういえば、さ。お嬢って家族────」

 

 

 そう言いかけて気づいた。

 

 表情こそ普段と変わらないが、空気が冷えたように感じた。

 

 

「────! ああ、ごめん。変な事聞いた。なんでもないから」

 

 

 あの片岡の言葉がまだチラついていてうっかり聞いてしまった。いかんな、これでは。

 

 

「……いいの?」

 

 

 自戒しているとお嬢が不意に口を開いた。

 

 

「大天狗は、ここでいいの?」

 

 

 真っ直ぐにお嬢がこちらを向いて尋ねてきた。

 

 しばしの間、沈黙が流れる。

 

 聞こえてくるのは糸車が回る音だけ。

 

 

 

 

 

 ────ここでいい、か。

 

 

 

 

 

「……まあ、なんだ。現世にいた頃はずっと漠然とした違和感、疎外感があってさ。自分だけ地に足着けられていないっていうか、浮いてるみたいな感じで……」

 

 

 これは本心だ。前世、いや前前世を持っているからなのか、どうしても心は言いようのない寂しさを感じていた。

 

 

 だが、それだけじゃない。

 

 

 家に置いてある家電のメーカー、テレビで流れるゲームのCM、外にあるコンビニエンスストア、様々な名前が微妙に違っていた。前世と変わらない地名もあれば、聞いた事のない地名が地図に書かれていたり、だけど大陸の形が違うまではなかったり。知っているのに知らない、なんて世界で頭がおかしくなりそうだった。

 

 極めつけは、前世で住んでいたところに一度行ってみたときのことだ。キッカケなんてものはない。ただ、自分が知っているところに行きたかっただけ。同じ家がある筈ないということは分かっていたが、それでもだ。

 

 

 そして、いざ行ってみると懐かしさを一切感じられなかった。

 

 

 最寄り駅の構造が違う。家にたどり着くまでに立っている建物が違う。あったはずの道がなく、なかった所に道があって。前世から20年ほど昔なら街並みの変化は当然あるだろうが、それでも少しは面影を感じることができるはずだ。しかし、目に映ったのは全く違う街並みだった。何もかもが知らなかった。

 

 本当に怖かった。これが仮に剣と魔法の世界に転生したのなら一から人生を再スタートできただろう、全く知らない世界なのだから。

 

 だが、地球で日本で見知った世界、常識も全く同じなのに、何かが違う。その中途半端さが、この世界で宙ぶらりんになっている感覚にさせていた。

 

 

 だから、友達と話していても『違う』。家で両親と食事をしていても『違う』。明るく振舞っていても、ふとした時に『自分は異物』という感覚がドッと押し寄せることもあった。

 

 

 これが、俺が【烏鷹 周】だった時の事。

 

 

 でも、と言葉を続ける。

 

 

「今は違う。ここがしっくり来ると言うか、落ち着くと言うか、在るべき場所に落ち着けたと言うか……上手く言えないな。だから、心配してくれるのは嬉しいけど、俺は大丈夫」

 

 

 俺が異界の住人になったことで、現世から烏鷹周の記憶、記録、痕跡は跡形もなく消えている。その事に寂しさは覚える。ここまで育ててくれて、衣食住を満足に与えてくれた優しい両親、なんだかんだ言って仲の良かった高校までの友達。そんな人達の記憶から消えているのは、悲しい。

 

 だが、今はそれ以上にここの居心地が良い。輪入道、一目連、骨女。そして、お嬢。4人と共に居られるのが、気持ちいいのだ。

 

 

 そう伝えるとお嬢は『……そう』と言って、家に入っていった。

 

 素っ気ない対応だが、今はこの素っ気なさが有難かった。

 





 お読みいただきありがとうございました。

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