閻魔あいちゃんの笑顔が見たい   作:アラウンドブルー

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 アクルカさん、佐那木じゅうきさん、☆9ありがとうございます。


 また評価バーオレンジ、UA数1700超え、お気に入り数39ありがとうございます。

今回は遂に柴田親子と接触です。オリジナル展開挟んでいるのでよろしくお願いします。

原作は1期第16話【旅芸人の夜】です。

2023/09/09追記
四話が長かったので前後編で分割させて頂きました。よろしくお願いします。



邂逅-其之壱

 

 片岡の依頼から数週間ほど経った。その間に数件ほど地獄流しを行ったが、どれも気が滅入るような依頼ばかりだった。

 

 どの依頼をとっても善だ悪だで割り切れるようなものではなく、それぞれに複雑な事情があった。

 

 ある時は、現世に疲れた学校の教師*1を。

 

 ある時は、清廉潔白とは言えずとも町のことを第一に考える良き町長*2を。

 

 またある時は、島暮らしの精神を病んだ女性*3を流した。

 

 上記の3人は誰もが他者を想いやる事のできる人だった。

 

 だが、それが必ずしも相手が理解してくれる、理解できる想いとは限らなくて。

 

 そういった人たちを流す度に顔には出さずともお嬢は辛そうだった。

 

 ばあちゃんが慰めてはいたが、お嬢の心が晴れる様子は無かった。

 

 輪入道達は仕事の時以外は基本藁人形になっているし、ばあちゃんは姿を見せないからお嬢は実質一人きり。

 

 ばあちゃんでダメなら俺では何を言っても無意味なのは分かりきっている。前前世含めても、この中ではまだまだ子供だ。そんなガキが偉そうに何かを言ったとしても、むしろ鬱陶しがられるのは想像するに易い。

 

 だから、そういったことがある度にお嬢の好きな遊びに半ば強引に誘ったり、好物のサクランボや美味しい物を買って帰ったりしている。アルバイトという形で潜入することがあるから、金は持っているのだ。

 

 気持ちが沈んでいる時は好きなことをする、好きなものを食べる。それが手っ取り早い解決方法の一つだ。それくらいしか俺にはできないということなんだけどね。

 

 最初は『やらない』と断られもしたが、それならそれで考えがある。

 

 つまりは一人遊び。複数人用の遊びを一人寂しく遊んでみせた。

 

 お嬢の優しさに漬け込むようで罪悪感もあったが、暫くしたら参加してくれた。そしたら次第にほんのりとだが穏やかな表情になったから効果はあったと信じたい。

 

 だから今日も、

 

 

「……何してるの」

 

「ご覧の通り逆立ちだよ。ほっほっ!」

 

 

 片方の親指だけで逆立ちをして、支える腕を交互に入れ替えながら歩いているのだ。

 

 今の俺ならこんな重心制御もお手の物さ。

 

 

「……たのしい?」

 

「普通。────よっと。いやさ、本読んだりコマとかめんことかで遊ぶのも楽しいけどなんか身体動かすのもしたいなって思ってさ。竹馬とか無いよね?」

 

 

 クルッと回って元の体勢に戻りそう尋ねる。

 

 

「……無いわね」

 

「じゃあ今度買いに行こっか……で、お嬢もやってみない? 逆立ち。まあ特段楽しいわけでもないんだけど」

 

「……やる」

 

 

 そう言うとお嬢はなんの準備もせず地面に手を付け始めた。

 

 

「────!! いやいやいやいやお嬢それはまずいってちょっと待って……って、あれぇ?」

 

 

 お嬢の今の姿はセーラー服。それはつまり、逆立ちになるということは見てはならぬ聖域が顕になる……と思ったが、

 

 

「スカートが重力に逆らってる!! すげえ! 超合金製?」

 

 

 髪の毛も重力にガッツリ逆らってる。針金かな? 

 

 

「あっ、でも怪我したら危ないから支えるね」

 

 

 もちろんスカートの中は覗かないように……

 

 

「……もういいわ」

 

 

 お嬢がそう言ったので手を離す。すると元の体勢に戻った。

 

 

「……ちょっと両手出して」

 

「……?」

 

 

 首を傾げながら、土で汚れた手を差し出してくる。

 

 そこに、妖術で水を出す。勢いは一般的な蛇口よりか少し強い程度で、汚れを落としていく。もちろんお嬢の服にはかからないよう調整済みだ。

 

 汚れが落ちたら次は乾かすために風を出す。ジェットタオル程度の風量で、これも水滴がお嬢の方に飛ばないよう調整済み。

 

 少しして水気が飛んだのでこれで完璧。

 

 

「……今の、必要?」

 

 

 綺麗になった手のひらを見ながらお嬢は問いかける。

 

 地獄少女としてのお嬢はそれこそ絶大な力を持ち、あらゆることを能力で処理できる。本来なら、こんなこと一瞬で終わらせられる。

 

 

「まあ、お嬢には必要ないかもだけどさ。こういうなんてことない日常の動作も敢えて手間かけるのって大事だと思うんだ」

 

 

 だが、こういったことを疎かにすると人間らしさがなくなってしまうと思うわけで。

 

 この仕事に人間らしさは邪魔とも思うが。

 

 というのもオフの時に遊んでいるお嬢、楽しんでいるというより『暇を潰している』ようにしか見えないんだよね。せっかくの休日なんだから、ゆったりとした時間を過ごすのも勿論大切だが、楽しむことも大事だと思うのよ。

 

 だから、せめてオフの時くらいはもっと感情を出して欲しいなって思ったり。

 

 

「……そう」

 

「まっ、俺が勝手に思ってる事だから。『お嬢はお嬢なんだから』、嫌なら断っても良いからね」

 

 

 俺がそう言うと、お嬢の目が突然見開かれた。

 

 

「────────」

 

 

 開かれた目は、俺を静かに見つめてくる。

 

 イヤン、恥ずかしいィ……なんて、ふざけていいような雰囲気では無いみたいだ。

 

 ま、マズイ。なんか変なことでも言ったか? 

 

 俺を見つめてくるその目は俺を見ているようで、遠くを見ているようで……

 

 暫くこの状況が続いた後、依頼が届いた。

 

 

「あい、届いているよ」

 

「………………うん、今行くね」

 

 

 おばあちゃんにそう返事をしてお嬢は家の中に入っていった。

 

 中に入っていくのを見届けてから俺は大きく溜息をついた。

 

 正直、今の俺にとってはあの通知音は救いの鐘の音だったのかもしれない。

 

 

 何故ならさっきのお嬢、少し怖かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 さて、今回の案件のために俺、一目連、骨女はサーカス団【ハッピーサーカス】に潜入している。名前安っぽすぎない? 

 

 開催地は某県の奥檜谷村。巡業サーカス団のため、各地を渡り歩いてショーを開いているのだ。

 

 サーカスなんて前世も前前世でも見たことがないため新鮮だ。

 

 今回も気が滅入るような案件ではあるが、せめてショーの間だけは楽しませてもらおう。

 

 なんてことを考えながら資材運びをしていると、

 

 

「なあ大天狗。お前、お嬢になんかしたのか?」

 

 

 一目連がそう声をかけてきて、一緒にいた骨女も会話に入ってきた。

 

 

「そうさねえ。なんか最近のお嬢、様子おかしいわよねえ」

 

 

 仕事がオフの時は俺以外基本藁人形になって家の中に置かれているため、先程のやり取りは知らないのだ。

 

 

「いや、俺も分からないんだわ。一緒に逆立ちしてただけだし」

 

「は? 逆立ち?」

 

「それ、楽しいのかい?」

 

「普通。だから心当たりなんて全然無いんだよね」

 

 

 なんてことを話していると、

 

 

「はじめちゃん! 早く早く!」

 

 

 まだ小学生であろう女の子が階段を昇って上がってきた。少し遅れてその父親も。

 

 元気そうな女の子とは対照的に男はくたびれた様子だ。

 

 だがあの親子、特に父親の方はただの一般人ではない。

 

 

「またアイツだ」

 

「あの子は、猿月島*4の時にいた……」

 

「ったく、どうやって嗅ぎ付けて来るんだかね……」

 

 

 あの親子、というか父親────名は【(はじめ)】と言うらしい────の方はどういう訳か片岡の一件以来、依頼人やターゲットの周囲に現れては地獄流しを阻止しようと動いている。

 

 もっとも、最終的に糸は解かれてしまっているのだが。

 

 男の方もだが、女の子の方も気になる。というのも、以前お嬢がばあちゃんと話していた会話が頭に過ぎるからだ。

 

 

『あのね、おばあちゃん。女の子にあったの』

 

『なんだかすごく懐かしかった』

 

 

 お嬢が会った女の子=あの女の子だとしたら。

 

 俺たちの行く先々で現れるあの男と関係があるということは。

 

 この場にいるのは偶然ではないのだろう。あの2人には確実に何かある。

 

 そう思いながら2人を見ていると、

 

 

「おい、大天狗。気にはなるが今はさっさと資材運ぶぞ」

 

 

 気づいたら一目連と骨女は既に歩き始めていた。

 

 

「いけね、ちょっと待って!」

 

 

 暫くして、3人で資材を定位置に運び込む。これで開演前の仕事は完了した……と思いきや、

 

 

「おーい!! 誰か! 綱渡りできるやつはいないか!!」

 

 

 サーカス団の座長が叫んでいる。

 

 近くにいた人に聞いてみると、どうやら担当の人が本番前最後の練習で足を捻ってしまったようで、急遽代役を立てようと奔走しているらしい。

 

 

「あれま、災難なことで」

 

「まあ、演目一つ無くなるくらいならオレたちに影響は無いか」

 

 

 骨女と一目連は至極どうでも良さそうな様子だ。

 

 

「クソっ、このままでは……」

 

 

 一方の座長は焦燥しきっている。

 

 

 ────よし

 

 

「座長! 俺ならできると思います!」

 

 

 そう言うと座長がグルンと、勢い良くこちらに振り向いて詰め寄ってきた。

 

 

「ほ、本当かね!? いや、この際だ。こっちで見せてくれ!」

 

「はい、分かりました」

 

「あっ、おい! 烏鷹!」

 

 

 一目連が引き留めようとしてくる。今は潜入しているため名前は現世での呼び名を使っている。一目連は【石元連】、骨女は【恩田ヨネ】だ。

 

 

「大丈夫ですよ石元さん。それに、ちゃんとした理由もある

 

理由?  ……ったく、分かったよ」

 

 

 呆れた顔で一目連がそう言った。骨女もやれやれと言わんばかりだ。

 

 

「こっちだ! 見せてもらうぞ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 さて、そんなこんなでサーカスが始まった。

 

 ここまでは順調に進行している。

 

 一輪車に乗ってのジャグリングやファイアーパフォーマンス、投げナイフショーなどなど、お決まりではあるが、演者の腕が良いため見応えがある。

 

 この次が俺の番なのだが……

 

 

「烏鷹くん、君なら絶対に大丈夫だ。座長である私が保証する」

 

 

 俺は、舞台裏で座長から熱い激励を受けていた。

 

 先程、練習小屋で綱渡りの芸について軽くレクチャーを受けて実践してみせたら、

 

 

『こ、こんな隠れた逸材がいたとは……』

 

 

 座長や団員が、バランス棒を持たず震えることなくロープの上を歩く俺を見てどよめいている。

 

 フハハハハ! どうよ! 今の気分は某陸軍第七師団の薩摩弁を話す少尉だ。流石に彼ほどの軽業はできる気はしないが。

 

 

『こっ、これならいけるかもしれん! 期待しているぞ烏鷹君!』

 

 

 目を輝かせ俺の背中をバシバシと叩いてくる座長。

 

 

『まったく、あのお人好し……』

 

『何やってんだか……』

 

 

 一目連と骨女が遠くで何か言ってるようだが聞こえない。

 

 なんてことがあり、時間は今に戻る。

 

 

「さあさあ、お次は烏鷹周による綱渡りでございます!」

 

 

 バン! とスポットライトが俺に当たる。ロープと地面の距離は5m以上だ。ゆっくりと、ロープの上を歩いていく。

 

 真ん中まで歩いたところで立ち止まり、客席を見渡し手を振る。

 

 ワアア! と歓声が上がった。()()()()、あの親子もこちらに釘付けだ。

 

 いい気分になって歩くのを再開しようとすると、観客の中にお嬢がいるのに気がついた。ジッと、こちらを見ている。

 

 

(え!? なんでお嬢が!? あっ、ヤベ)

 

 

 心が乱れたためかバランスを崩しかけた。

 

 グラッと、体が傾く。

 

 観客から不安そうな声が上げる。

 

 

(ま、マズイ。体勢を立て直すか? いや、ここからただ歩いて向こう岸に渡っても大して盛り上がらない。であるならば!)

 

 

 ────ここまでの思考、0.01秒。

 

 

 ロープを強く踏み締めて、弾性を活かして大きくバク転の要領で飛び上がる。

 

 伸身三回宙返り一回捻り! クルクルと回転してビシッと着地。

 

 シンと、静まり返ったが途端に爆発したかのような歓声が湧き上がった。

 

 手を振りながらも俺の頭の中では、

 

 

(や、やばい。ついカッとなってアドリブしたけど、大丈夫か……?)

 

 

 恐る恐る、舞台袖の方に目を向けるとそこには、鼻水と涙をダラダラ流している座長がいた。控えめに言って汚い。

 

 

(なんか、怒っていないっぽいし大丈夫かな……?)

 

 

 観客にお辞儀をして、袖にハケた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 あの後もサーカスは問題なく進んだ。

 

 舞台裏に戻ったら、座長に新たなパフォーマーになるよう熱く勧誘されたがよく覚えていない。

 

 さて、ついに大トリ。

 

 演目は王道の箱抜けマジックで、ハラキリショーではないみたい。

 

 ヤ○ダ曲馬団じゃないからね、しょうがないね。

 

【ユキ】という名の女の子が箱から頭だけを出して、その箱にサポーターがグサグサと剣を刺して行く。

 

 それを見ている観客の顔は真っ青。

 

 対照的に、彼女の方は落ち着いた様子だ。

 

 一通り刺し終わると、大きな布を被して彼女と箱を隠した。

 

 観客の意識が完全に箱の方へ向けられているのを確認したら布を取る。

 

 すると、そこには串刺しになった箱だけが置かれており、ユキの姿はない。

 

 スポットライトが観客席の後ろに照らされると、そこにはいつの間にか彼女の姿が。歓声が沸きあがる。

 

 

 うーむ、流石だ。

 

 タネは分かっているが、一連の流れが非常にスムーズ且つ自然だ。

 

 きっと血のにじむような努力を積んできたのだろう。

 

 彼女は手を振りながら、壇上に駆け上がっていくが、そこでヒールの踵部分が外れて転んでしまった。

 

 一瞬どよめきが起こったものの、すぐに立て直してパフォーマンスを無事終えた。

 

 

「ハァ……全く」

 

 

 つい、そうこぼしてしまった。

 

 なぜなら今回の依頼、今のが原因と言っても過言では無いのだから。

 

*1
第十二話【零れたカケラ達】

*2
第十四話【袋小路の向こう】

*3
第十五話【島の女】

*4
第十五話【島の女】の舞台






 お読みいただきありがとうございました。

 第一期の頃の三藁は基本藁人形形態で待機しているんですよね。

 二籠からオフの時も人間形態でいて、お嬢の心境の変化なのかな?と思ったり。

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