閻魔あいちゃんの笑顔が見たい   作:アラウンドブルー

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 ストーリーは変わっていません。長かったので分割しただけになります。



邂逅-其之弐

 

 無事サーカスは終了した。観客は帰って行き、資材の片付けも終えてもう夕方だ。

 

 この周辺にはもう団員しかいない……と思われたがやはり、あの男がいた。

 

 取材をするという名目で探る様子だ。そちらの方は一目連に任せてある。

 

 

「じゃ、アタシはあの子に……」

 

「いや骨女。ここは俺に任せてくれ」

 

 

 俺が舞台に上がった理由はあの親子に接触するつもりだったからだ。凄いパフォーマンスをすることで俺に興味を持ってもらい、更に演技中に顔を親子に覚えられるよう視線誘導の妖術も使用した。

 

インパクトのある演技+妖術。二重に仕掛けることで2人は俺の印象が強く残っているだろう。

 

そして、印象に残っている人が声をかけてきたとなれば余り警戒はされず、色々聞けるだろうと考えた。

 

 後は、俺の方が女の子と年齢が近いというのもある。骨女の場合は同性というメリットがあるけれども。

 

 そういった理由を説明して、1人車に寄りかかっている少女の元へ向かう。

 

 

「や、お嬢ちゃん。こんなところでなにしてるんだい?」

 

 

 俺の声に気がついてこちらに振り向く。

 

 

「お父さん待ってるの……って、綱渡りですごいことしてた人だ!」

 

「そういう君は最前列で見ていた子だね。いい反応だったから、よく覚えているよ」

 

「わっ、覚えててくれたの!? ねえねえねえ! ここでも何かやってやって!」

 

 

 先程までは寂しそうにしていたが、今は打って変わって子供らしい無邪気な笑顔で芸を見せてとねだってくる。

 

 

「よーし良いとも! じゃあ軽いマジックと行こうか」

 

 

 そう言って少女に両手を開いて突き出す。

 

 

「ではでは。ご覧の通り、手には何も持っていません。ズボンの左右のポケットと後ろも……ほら、何も無いことを確認できたかな?」

 

「うん」

 

 

 真剣に手とポケットを凝視している。

 

 

「さてさて。何にもないのにあら不思議! 君の頭にこんなお花が咲いてるよ」

 

 

 少女の側頭部に手をやって、一輪の赤い花を摘んで見せる。

 

 

「わあ! すごいすごい! どうやったの!?」

 

「フフン、秘密だよ。種の無いマジックさ」

 

 

 そう、種などないのだ。夕暮れの里に手だけ突っ込んで彼岸花を一輪拝借しただけだから。

 

 お嬢から摘んでも少しすれば元通りになると聞いていたから使わせてもらった。

 

 

「これを君に……名前はなんて言うの?」

 

「つぐみ! 【柴田つぐみ】!」

 

「つぐみちゃんね、良い名前だ。俺は烏鷹周って言うんだ。よろしくね」

 

 

 となると父親のほうは柴田一ね。

 

 

「このお花をつぐみちゃんにあげるよ。ちょっとした加工がしてあるから、枯れたりはしないからね」

 

 

 妖力を流し込んであれやこれやしただけだが。

 

 

「ありがとう! なんていうお花なの?」

 

「彼岸花って言うんだ。俺の好きなお花でね、気に入ってくれると嬉しいよ」

 

「へえ〜、なんだか不思議な感じ。つぐみ好きかも」

 

「それは良かった、髪飾りにでもすればきっと似合うよ……お父さん、帰って来ないね。何してる人なの?」

 

 

 そう尋ねるとつぐみちゃんの表情が曇る。

 

 

「……記者さん」

 

「へぇ! 記者、ジャーナリストなんだ。すごいね! じゃあ、うちに取材来たんだ。なんで?」

 

 

「…………知らない」

 

 

 先程まで見せていた快活さとは打って変わり、俯いてこちらを見ようとしない。

 

 

「……何か悩み事でもあるの? お兄ちゃんに話してみなよ」

 

「えっ、でも……」

 

「お父さんやお友達には話せなくても、他人の俺になら逆に話せることってあるんじゃない?」

 

「う──ん……」

 

 

 考え込み過ぎてなのか、眉間にしわがよっている。

 

 

「……じゃあ先にお兄ちゃんの悩みを話そう!」

 

「へ?」

 

 

 キョトンとこちらを見上げて来るつぐみちゃん。

 

 

「うちの……あー、家の近くにね。姉のような妹みたいな、いやお姫様みたいな女の子が住んでるんだけどね」

 

「姉と妹とお姫様ってどれも全然違うと思うんだけど……」

 

「気にしない気にしない。で、その子なんだけど、全然笑わないんだよ! いつも無表情でさ。いや、良い子なんだけどね? それを悪いとは言わないんだけど、もっと笑って欲しいなあって思っててさ。どうすればいいかな?」

 

「え、えー……つぐみ分かんないよ」

 

「だよね……」

 

「うーん……嫌がっていないなら一緒にいっぱい遊んだりとか?」

 

「それはもうやってる。その甲斐あってか少し冷たさは無くなってる気がするなあ」

 

「じゃあもうそれでいいんじゃない? とにかく楽しくなるようにすれば良いよ!」

 

 

 投げやり気味にそう言われた。

 

 

「やっぱそれしかないかあ……うん! ありがとうね。ほい、じゃあ次はつぐみちゃんの番だよ。ホラホラ、聞かせて聞かせて」

 

 

「えぇ〜!? ……んもう、仕方ないなあ周おにいちゃんは。特別だよ?」

 

 

 ちょっとお姉さんぶった態度でつぐみちゃんはそう言った。そして、ポツポツと話し出した。

 

 

「あの、ね……例えばだけど。悪いことしている人がいて、その人のせいで嫌な思いをしている人が絶対に逮捕されない方法で復讐をするっていうのは悪いことなのかな?」

 

「絶対に逮捕されない?」

 

 

 十中八九、地獄流しのことだな。 深くは聞くまい。

 

 

「う、うん。証拠とかないから絶対捕まらないの」

 

「なるほど」

 

「でね、お父さんはそれは悪いことだって言ってるんだけど、つぐみは良いことだと思っているの。だって、悪い人が懲らしめられるのって良いことじゃん」

 

 

 そう言い終えると俯いてしまった。

 

 この様子だと、父親は反対でつぐみちゃんの方は賛成と言った所か。

 

 

「そうだね……まず、悪い人ってなんだと思う?」

 

「え? ……そんなの、人の物を盗ったりとか嫌なことをしたりする人でしょ?」

 

「うん、うん。じゃあ例えば、ある人がつぐみちゃんのお小遣いを盗みました。これは?」

 

「悪いに決まってるよ!」

 

 

 プンスカと、バカにしないでと言わんばかりに頬を膨らませている。

 

 

「そうだね。じゃあ、盗んだ人には病気の妹がいて、お医者さんに診てもらうためのお金がどうしても必要で盗みました。これは?」

 

「え……それ、は…………」

 

 

 言い淀むつぐみちゃん。ちょっと意地悪かったかな。

 

 

「法律では悪い人ってなるけど、その妹から見たら決して悪い人じゃないんじゃないかな?」

 

「う、うん……」

 

「ごめんね、こんな意地悪な質問して。まあ要するに、分からないってのが俺の答えだな」

 

「分からない?」

 

「そう、分からない。誰かからの良い人が、必ずしも他の人からの良い人とは限らないからね。逆もまた然り」

 

「そっか…………」

 

 

 地面に膝をついて、つぐみちゃんの目線に合わせる。

 

 

「つぐみちゃんは頭が良いね。今いくつ?」

 

「……7歳」

 

「7歳でこんなにハッキリと考えられるんだ、凄いな。ならこれからは、もっと広く色んな所から物事を見てみよう。何が良い、悪いとすぐに決めつけないで考えて、それから答えを出せば良いよ」

 

「考える……?」

 

「そう、考える。迷路の中を進むようなものだけど抜け出せた時、今のつぐみちゃんのでも、お父さんのとも違う答えが出せると思うよ」

 

 

 そう言ってつぐみちゃんの頭を撫でる。それを受けてか顔が赤くなった。

 

 やべ、事案になるか? まあ、嫌な顔されてないし大丈夫だろう。

 

 

「…………うん、ありがと。ちょっと、スッキリした」

 

「それは良かった」

 

 

 この後、表情が晴れたつぐみちゃんとなんてことない他愛のない会話をしていたら、いつの間にか太陽が完全に沈んでしまった。

 

 

「────でね! この前喫茶店のマスターと一緒にカレー作ったの! すっごく美味しくできたんだ!」

 

「へぇ〜、カレーかぁ。久しく食べてないなあ……いつか、つぐみちゃんお手製のカレー食べてみたいな」

 

「もちろん! いっぱい食べさせてあげる!」

 

「ふふっ、それは楽しみだ……ん、お父さん帰ってきたみたいだよ」

 

 1人の男性がこちらに向かって歩いて来ている。

 

 片岡の一件から度々目にしたあの男だ。

 

 

「はじめちゃん! ……あっ」

 

 

 俺と話している時はお父さん呼びだったのが、気が抜けてかはじめちゃんと呼んでしまったつぐみちゃん。

 

 背伸びしていたのがバレて顔を赤くしている。

 

 

「おや、君は……綱渡りの時の」

 

「烏鷹周といいます。あなたが戻ってくるまでちょっとつぐみちゃんとお話していたんですよ。取材はもう終わったんですか?」

 

「ええ、まあ……」

 

 

 俺からの質問に柴田一は歯切れの悪い返事をした。思うように行かなかったってところか。ま、そう簡単には分からないよな。

 

 そこに、つぐみちゃんが割り込んで来た。

 

 

「ねえ見て見てはじめちゃん! 周おにいちゃんがマジック見せてくれてね。手に何にも持ってないのにお花出したの!」

 

「へぇー、そいつはすごいな。……彼岸花、か」

 

「す、すみません。贈り物としてはあんまり良くなかったですよね」

 

「いやあ、つぐみが喜んでいるので別に大丈夫でしょう……では、俺たちはこれで。行くぞ、つぐみ」

 

「う、うん」

 

 

 そう言って柴田一は運転席に、つぐみちゃんは助手席に座った。

 

 エンジンがかかり、車が発進しようとしている。

 

 その時、助手席のパワーウィンドウが開いた。

 

 

「バイバイ! 周おにいちゃん! また会おうね!」

 

 

 つぐみちゃんが窓から顔を出して大きく手を振っているので、こちらも振り返す。

 

 

「もちろんだよつぐみちゃん! 元気でね!」

 

 

 車は徐々に速度を出して、あっという間に見えなくなった。

 

 

「おつかれさん」

 

「一目連……それに骨女も」

 

 

 振り返ると、そこには一目連と骨女が立っていた。

 

 

「あの子、どうだった?」

 

「名前は柴田つぐみ。7歳。あの男と違って、つぐみちゃんの方は俺たちの仕事を積極的に止めようとはしていないみたいだ」

 

「なるほどな。どうやってオレたちの依頼を嗅ぎつけているかってのは聞けたか?」

 

「すまん、流石にそこまでは……」

 

 

 本当はそこが聞ければ良かったんだが、つぐみちゃんの悩みや雑談で聞くタイミングが無かった。

 

 

「まっ、気にするんじゃないよ。この場にアタシが行っていたら……今頃あの箱の中さ」

 

 

 そう言って角に積まれている木箱を指さす。

 

 ああ……なるほど。自分の身体を折り畳んで、箱の中に入る芸を見せていたってことね。

 

 

「一目連の方は?」

 

「アイツがターゲットを無理やり連れ出そうとしていたから追い出した」

 

「事案じゃん」

 

 

 つぐみちゃんの父親は結構ヤバイ人なのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「じゃあ、その子じゃなかったんだ」

 

 

 つぐみは大天狗から貰った彼岸花を見ながら父親の話を聞いている。

 

【ユキ】に取材と称して接触を図った(はじめ)だが、地獄少女との契約の証拠を確認できなかった。

 

 

「間違いないと思ったんだけどな……とにかく飯だ、また後で行ってみる」

 

 

 父の言葉につぐみは反応できない。先程の青年の言葉が思い出しているからだ。

 

 

『誰かからの良い人が、必ずしも他の人からの良い人とは限らない』

 

 

 父は地獄少女を否定している。理由は分からないが、強く拒絶している。

 

 だが、つぐみは地獄少女は良いことをしていると思っている。

 

 これまで父の考えは間違っていると思っていたが、あの青年から言われた言葉が強く刻まれていた。

 

 父が間違っているのか、自分が間違っているのか。答えを見つけ出せないでいた。

 

 

「…………」

 

「どうしたつぐみ」

 

「……別に」

 

 

 運転中のため顔は向けず横目でつぐみの方を見るが、彼女の方は手に持った彼岸花をずっと見つめている。

 

 

「…………年の差婚はお父さん反対だぞ」

 

「な、何言ってるのはじめちゃん!?」

 

 

 冗談で言ったセリフだが、その甲斐あってか暗い顔だったのが幾分かマシになった。

 

 

 もっとも、まだ7歳の娘をやるつもりなど欠片もないがな。

 

 

 そう、(はじめ)は心の中で呟いて運転を続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「『また』やってるのか」

 

「ああ。『また』やってるな」

 

「なんでこうなるのかね……」

 

 

 俺と一目連、骨女は言葉を交わす。

 

 俺は【投影】を使わず、一目連が千里眼を使って事の成り行きを覗いている。

 

【彼女】が日々受けている仕打ち。教育、ましてや調教とは程遠い、ただの拷問。

 

 箱を串刺しにして観客席にテレポートするという演目。その種はあまりにも使い古されたものであるが故に逆にバレにくい。

 

 一卵性双生児の姉妹を使うという単純極まりないものだ。

 

 妹の【ユキ】が箱に入り、姉の【ユミ】が観客席後方にスタンバイする。ただそれだけのことだ。

 

【ユキ】と【ユミ】、2人揃って初めて完璧なパフォーマンスができるというのに、姉の【ユミ】のせいで一人前になれないという理由から【ユキ】は【ユミ】に様々な妨害をして自分だけ座長から寵愛を受けた。

 

 一方の【ユミ】は暗い倉庫に閉じ込められ、今回のような失敗をしたら弁明も受け入れられず座長からムチで叩かれるという仕打ちを受ける。

 

 通報すれば一発で座長はブタ箱行き確定だが、そうなればサーカス団は確実に解散。妹との関係修復は不可能。居場所がなくなってしまう。

 

 日々追い詰められ限界が来て、お嬢に依頼をしたというのが今回の発端だ。

 

 と、振り返っていると倉庫のドアが開かれる音がした。座長が出ていき、外から鍵をかけたようだ。

 

 

「おい大天狗、分かっていると思うが……」

 

「皆まで言うな。だから【投影】を使わないでいるんだ」

 

「なら良いんだ……おっ、輪入道」

 

 

 一目連と話していると輪入道が突然現れた。

 

 先程まで輪入道は黒藁人形となり、ユミが持っていた。

 

 それはつまり……

 

 

「さあ、お前たち仕事だ。準備と行こうか」

 

 

 輪入道の掛け声と共に、俺たちはこの場から姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 地獄流しは完了した。あの後サーカス団の様子を見に行くと、俺がいないことに泣きながらもユミを可愛がっている座長がいた。

 

 

 ユキがいなくなり、代わりにユミが、か。2人で1人だった姉妹の片方がいなくなり、これから彼女の歩む人生がどうなるかは俺たちの知るところではない。

 

 

 ……一応、ハッピーエンドで良いんだよな。

 

 

 夕暮れの里に戻ろうとすると柴田親子がいるのに気づいた。

 

 どうやってかは知らないが、事態を察知して戻って来ていたようだ。

 

 まあ、もうこの一件は終了した。まるでそれを暗示するかのようにサーカス団は巡業のため、この地を後にした。

 

 彼らが旅立つのを見届けて、俺もお嬢のいる里へと帰った。

 

 

 

 

 

 ────姿を消す寸前、つぐみちゃんがこちらへ振り返ったことに気づかずに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「ただいま」

 

 

 返事は無い。聞こえてくるのは糸車を回す音だけ。

 

 

「お嬢、中入ってもいい?」

 

 

 トントンと、家の扉を軽くノックする。

 

 

「……いいよ」

 

 

 返事を受けて中に入る。

 

 まず目に入ってきたのは、衣紋掛けにかかっている着物を無為に眺めているお嬢だった。こちらには向いていない。

 

 

「……お嬢」

 

 

 一歩踏み出す。俺からの気迫を感じたのか、お嬢は振り向いた。

 

 

「……ごめん!」

 

 

 頭を下げる。

 

 

「いや、何が悪いのか分かってないんだけど、何か言っちゃいけないこと言ってしまったんだろ? だから、謝りたくて……

 それと、俺もこれからは仕事が無い時は藁人形でいようかなって思って。こないだみたいに、お嬢を嫌な気持ちにしたくないから……」

 

 

 1分か、2分か。しばらく無言の時間が続いた。

 

 

「……別に良い。気にしてないから……それに、藁人形になる必要も無い」

 

 

 それより、と言葉を続ける。

 

 

「……私にも、手品見せて」

 

 

 お嬢からのリクエストを受けて、この後いっぱいマジックを披露した。

 

 ていうか、つぐみちゃんとのやり取り見てたんだね。

 

 なんてことを思いはしたけども口には出さず、心の中にしまっておいた。

 





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