勇ちゃーん さん、☆9ありがとうございます。
原作は第17話、【硝子ノ風景】です。
「ねえお嬢、幽霊っているの?」
縁側で横になりながら読んでいた妖怪画集を閉じて起き上がり、少し離れて隣で折り紙を折っているお嬢にそう尋ねた。
「…………」
「私たちがそうでしょって言いたそうな顔だな……いやそうじゃなくて、俺……はどうか分からないしお嬢もそうなのか分からないけど、少なくとも輪入道と骨女は妖怪でしょ? この画集にも載ってるし」
一目連は神の名でもあるけど、と付け足して話を続ける。
「妖怪がいるなら幽霊もいるのかなって思ってさ。ちょっとした疑問」
「……いる。でも、滅多に見ない…………」
「へぇ、やっぱいるんだ。でも珍しいと」
「……よっぽど想いが強くないと、すぐ消えてしまうから…………」
「ふぅん、想いの強さ、ね。現世への未練が無いといけないわけか……」
幽霊が地獄通信に依頼してきたらどうなるのか尋ねてみたかったが敢えてそれは聞かない。今はオフの時間だからね。休みの日なのに仕事の話をされるのは誰だって嫌だろう。少なくとも俺はそうだ。
「…………想いが強ければ強いほど、現実にも影響が出る……」
「影響? ポルターガイストみたいなもの?」
お嬢が珍しく話を続けてくれたので聞き返す。
それに対して首を横に振って続ける。
「……自分に都合が良いように現実を変えるなんてことがある…………」
「現実改変能力……」
それポルターガイスト以上じゃん……
仕事の時、お嬢との契約で使えるようになった強力な認識操作等を使って色々とやりやすくすることは多々あるが、幽霊にもそういった能力があるのか。
いや、もしかしたらそれ以上か……?
「……でも、そういうことをするのは自分の状況が分かっていない霊ばかり…………」
「……逆に言えば、今の状況をキッチリ認識させれば現実改変能力は解けると?」
こくりと頷くお嬢。
「なるほどなあ、ありがと」
礼を言って再び画集を見始めた。
画集には、【山童】という妖怪が描かれている。解説によれば山に住む妖怪で、河童が山に入った姿とも言われてるとの事。西日本では、山で起きる怪異は天狗ではなく山童の仕業と言い伝えられている地域もあるらしい。
ふむ……山童と大天狗、か。もし本当にいるなら一度会ってみたいな。同じ山の妖怪としてシンパシーを感じる。最も、俺の名はお嬢がつけてくれたわけで実態はただの転生者なんだけど。
なんてことを考えながら画集のページをめくっていると、
「……できた」
お嬢の方へ目をやると、手元に折り紙で作られた蝶の立体があった。
「おお〜、流石お嬢よくできてる! しかも黒か。うん、ここにピッタリだ」
「……♪」
ピッタリと言った理由、それは彼岸花の蜜を吸いに来る蝶に黒いアゲハがいるからだ。モンキアゲハとカラスアゲハが代表か。
ここは彼岸花が無限に咲き乱れているからよくマッチしている。
「うーん、こうなったら彼岸花を折り紙で作ってそれと組み合わせてみたいけど……ハサミがあれば何とかなるのか……?」
今の時代じゃネットにはやり方載ってないだろうし動画なんて以ての外だからな。自分で開発するか? カタツムリ作れたんだからイケるだろ。
なんてことを考えていると、依頼が来たことを知らす通知音が鳴り響いた。
「……行くよ」
「了解」
そう言って家の中に入り依頼を確認する。
確認すると言っても、分厚いデスクトップPC越しに伝わってくる依頼者の思念から場所や簡単な動機を掴み取るわけだが……
「……なんだ? 何か分からないけど、何か変じゃない?」
伝わってくる感覚がいつもと違う。言語化するのが難しいが、大抵の場合はハッキリとした形として伝わってくる思念が、今回は煙……? モヤモヤとした感じで、『助けて』と伝わってくる。
不思議に思いお嬢の方を見ると、
「……魂からの依頼」
画面から目を離さず、そう言った。
⛩
「────最後にこうして……できた! 髪飾りできたよはじめちゃん!」
「見事なもんだなぁ、俺ほとんどやること無かったよ」
場所は変わり、ここは都内の柴田親子の家。
二人は以前会った烏鷹周からの彼岸花を使って髪飾りを作っていた。
そして、完成したそれをつぐみは頭に付ける。
「どう? 似合う?」
「似合ってる似合ってる」
「えへへ、でしょ〜」
「しっかし本当に枯れないもんなんだなあ。触った感じ造花じゃないし」
そう言いながら
「ちょっとやめてよ、はじめちゃん」
「悪い悪い」
彼岸花は開花期間が短く、一度踏まれたら次の年以降そこからは咲けないくらいには脆い。
そんな花なのに、根っこが無いにもかかわらず花瓶に入れて飾っていてもいつまでも枯れる様子を見せなかったのだ。
もっとも、それが烏鷹周もとい大天狗の妖術によるものとは、2人は知る由もない。
「けど、本当に良かったのか? 髪飾りにしてしまって」
「周おにいちゃんオススメしてたし良いのー」
「ほーん、それもそうか……よし! 飯にしよう」
そう言って
「『た、たすけて……地獄、少女』」
「────閻魔あい!? いや……」
「『良い子に……してるから……』」
「(なんだ……何を見ている……?)おい! つぐみ! つぐみ!!」
閻魔あいと意識が繋がり、うわ言を繰り返しているつぐみ。そんな娘を引き戻そうと
「────!! はじめ、ちゃん。また、視たの……」
「ああ、わかっている。何を視た」
「女の子の声がしたの。助けてって。良い子にしてるからって……」
「他は? 他に、場所が分かる手がかりはなかったか?」
そう言われてつぐみは先程視た光景を整理して話していく。
「…………霧に包まれた病院、なのかな。お家みたいな病室で、窓からはたくさんの木が見えるの。山の中だと思う。白い木が沢山生えていて、オルゴールが鳴ってた……」
「山の中の病院……隔離施設か、療養所か……白い木は恐らく白樺の木だろう。分かった、調べてみる! 地獄流しなんて、させるものか……!」
慌ただしく動き始めた父親を、つぐみは複雑な面持ちで見ていた。
⛩
「なんて言ったっけ……ええと、アクアリウム? だっけ」
「違う、【サナトリウム】だ」
突っ込んで来る一目連に俺は『そう、それ』と言う。
現在俺たちは依頼人【ニナ・スヴェンソン】がいるサナトリウム───療養施設『だった』建物の外、霧が立ちこめる森の中に待機している。
なぜ過去形かと言うと、この建物からは相変わらず今回も現れた柴田親子を除いて、一切の人の気配がしないのだから。
廃墟では? と思うが一見すると綺麗な外装で、内部を視ても人の手が行き届いているように見える。
だが俺たちは気づいている。これが現実のものではないと。人ならざるものになったからか感覚でわかるのだ。
この霧だってそうだ。自然発生ではないと分かる。
つまり、先程お嬢が言った通り魂からのアクセス。亡霊と化したニナが見せている光景なのだ。
彼女からの依頼内容は、自分を見捨てた父親を地獄に流して欲しいというもの。
金髪碧眼、まるでお人形のように可愛らしい容姿をしていて、現在柴田親子と親交を深めている。
「ここまで来ると、偶然という訳にはいかないね」
少なくとも5回、あの柴田一は行く先々に現れていた。骨女はこれが偶発的な出来事ではないと断言する。
「あの柴田とかいうジャーナリストは、間違いなく事前に手に入れた情報で動いている」
「やっぱりそれは」
「────お嬢」
一目連と骨女の台詞を継いで輪入道がそう言った。
これまでの依頼と違い、今回は魂からのアクセス。
こんなことを感知するなど、お嬢が情報を流している以外考えられない。
俺と同じ前世の記憶持ちかと思ったが、それならもっと上手く立ち回るだろう。
「大天狗、お前は何か聞いてないのか?」
「そうね、アンタしょっちゅうお嬢に絡んでるんだし」
一目連と骨女がそう俺に尋ねて来る。
「いいや、なんにも聞いてない。話しはするけど、お嬢の過去と地獄流し関連は絶対に上げないように気をつけているからさ。オフの時に仕事の話とかされるのは嫌だろうと思って……スマン」
二人のアテは外れたようだが、大して様子は変わらない。
「良いさ、謝らなくても。アタシでもそうするだろうからさ……はぁ。一体お嬢は、何のためにアイツらに知らせてるんだろうね……」
「……もしかしたら、お嬢本人も無意識でやってるのかもしれん」
輪入道が考察する。
「最近のお嬢はよく分からないよ、正直言ってさ……」
「……確かに分からないことだらけだが、恐らくは…………」
「「「……?」」」
3人から注目が集まる。
「あの柴田親子にはお嬢────いや、【閻魔あい】と何らかの縁がある」
⛩
しばらく監視していると、動きがあった。2人が席を立ったかと思えば、ニナと共に戻ってきた。
ニナの表情は、喜色に溢れたものになっており幸せそうだ。
おかしい。
先程お嬢が彼女の元に赴いて依頼を断ったはずなのに。しかもいつの間にか食堂のテーブルに美味しそうな食事が置かれているし。
ふと、意識を逸らすとお嬢がこちらへ来ていた。
「お嬢」
「どうだった、あのニナって娘」
輪入道が尋ねる。
「……あの2人を助けてあげて。今回の依頼には、関係ない」
「……? そりゃどういう」
骨女が尋ねようと言い切る前に、それは起きた。
急にサナトリウムの灯りが全て消えたのだ。
ああ、なるほど。
柴田親子の来訪。自身を見捨てた父親への復讐。依頼を断られたのに笑顔だった理由。
「────そういう事か。一目連、行くぞ!」
「ちょ、オイ!? ったく、しょうがねえな……!」
「なら俺達も」
「まっ、お嬢がそう言うなら」
俺と一目連、輪入道と骨女で二手に分かれてあの親子をニナの魔の手から守るべく行動に移す。俺たちはつぐみちゃん、輪入道たちは柴田一だ。
こんな依頼に首を突っ込んだあの親子の自業自得と言えばそれまでだが、地獄流しに関係ないにも関わらずそれ関連で被害に遭うのはやはり避けたい。
何よりお嬢の命令だからな。
「大天狗、お前はあの娘の保護を! オレはサポートに回ってやる。────気になってるんだろ?」
「……! スマン一目連、助かる」
一目連の気遣いには感謝するばかりだ。
俺と一目連の二重の遠隔視により、つぐみちゃんの場所は直ぐに割れた。
つぐみちゃんは父親と分断され、森を抜けて湖畔に出た。
彼女から少し離れたところに父親の姿が現れた。つぐみちゃんはホッとした様子で駆け寄るも、実態は服装と髪型だけ柴田一に似せた蔦の怪物だった。
その姿を見た彼女は意識を失い、ニナが怪物の傍に現れた。
怪物は彼女を捕まえようとするが、そこに空間転移で割り込みつぐみちゃんを片手で担いで離脱する。
「お前は!?」
「悪いね。君のためにも、この子に手を出させる訳にはいかない」
「何を!」
激昂し叫ぶニナ。彼女の想いを汲み取ったかのように怪物が蔦を伸ばしてくるがそれをひらりと交わし、お返しにと空気の刃を飛ばして切断する。
「一目連! あとは頼む!」
「OK! 任された」
やり合うつもりは無い。
俺と交代するかのように一目連が現れ、真の目を開眼した。そこから凄まじい閃光が放たれ、ニナと怪物をひるませる。
その間に俺はサナトリウムへと飛翔する。空間転移を使わない理由は、自分と身につけているもの以外は転移対象外になるからだ。
1分も掛からず受付に着いた。少しすれば柴田一がここに来るはずだ。それまでは見守っていよう。
備え付けられている長椅子に彼女を寝かせた。
「……この髪飾り、あの時のか」
サーカス団の一件の時にあげた花が目に付いた。
大事にしてくれている事に嬉しく思っていると、息を荒げつぐみちゃんの名を呼ぶ男の声が聞こえてきた。
段々声と足音が近くなってきたので気配を絶つ。
それと同時に柴田一が現れた。彼は娘の安否を確認して、胸を撫で下ろしている。
これで、俺たちの仕事は終わりだ。
後はお嬢に任せよう……
⛩
「あなたは、ニナの恨みを晴らしてくれなかった!」
金髪碧眼の端正な顔立ちを歪めたニナは、再び現れた閻魔あいに『もう用は無い』と言い放つ。
1度目は、数時間前の夕暮れ時。
ニナの病室に姿を現した閻魔あいは、『あなたの依頼を受けることはできない』と言い姿を消した。
ニナは、断られた事は腹立たしかったがそれでも良いと思った。なぜなら、新しい家族である柴田親子が来てくれたからだ。優しくて、ニナを見てくれるお父さん。可愛いつぐみちゃん。
復讐できなくても、今自分の周りには幸せに満ちている。そう思っていた。
だが、そんな柴田親子からも拒絶されてしまった。
激昂し、力づくで引き留めようとしていたところに閻魔あいは現れた。
「やめなさい、巻き込んではいけない」
閻魔あいは彼女を諭すが、ニナは聞く耳を持たない。
悪いのはつぐみ達だと。
ニナをまた一人にしようとしていると。
ニナのお父さんのように、またニナをひとりぼっちにと。
彼女の本音が垣間見える。
閻魔あいはその嘆きを聞き入れ、それでも彼女の暴走を鎮めるため真実を告げる。
「あなたはニナじゃない」
思い出してみなさいと言い、彼女の記憶を呼び覚ます。
重度の疾病を患い、父に見捨てられ孤独のまま亡くなったニナを『見ている』記憶。
深い悲しみを抱いたまま亡くなったニナを、硝子の瞳が見ている。
ニナの無念が生前大事にしていた人形に自我を与え、今の【ニナ】を作り出した。
今いる【ニナ】は、本物のニナの無念を晴らすべく行動していた人形だった。
その無念とは、
自分を捨てた父親への復讐。
──────────違う。
本当は、ただ誰かと一緒にいたいというささやかな願い。
「死んだのよ、あなたの主人は」
全てを思い出した【ニナ】に、閻魔あいは真実を告げた。
涙する【ニナ】
雨が降り出した。
⛩
「あのニナって娘、生まれ変われたかな……」
ここは夕暮れの里。サナトリウムでの一件を終えて帰ってきたところだ。今はお嬢と一緒に縁側に座って黄昏ている。
「……分からない…………でも……」
「でも?」
「……あのまま放っておいたら、ニナの魂は地獄に落ちていた…………」
お嬢曰く、既に死んだ者が現世で人を殺害するなど明確な悪事を働いた場合、地獄に落ちて永遠にさ迷うこととなるそうだ。
「でも、あの子は人形だったんでしょ?」
「……人間のニナの魂の一部が、あの子に付いてた」
「てことは……」
「……あの子が地獄に落ちたら、人間のニナもそれに引っ張られる…………」
「そっか……」
薄々そんな予感はしていたが、やはりあの子を止められて良かった。
「……彼女の来世は幸せに満ちたものであって欲しいな」
前世が悪かったなら、次はきっと良くなる。良くなって欲しいと思うのは当然だ。悪いままで終わるなんてのは、あまりにも悲しすぎる。
だから、彼女の未来に幸あれと願うばかりだ。
「……天国じゃないのね」
俺が言った言葉にお嬢が反応する。
「うん? ……まあ、そうだね。俺としては、天国より転生の方が良いからな。だって、転生したおかげで今があるわけだし」
あの子がどちらの道に進むかは分からないけど、と付け足す。
天国がどんな場所かは分からない。だが、少なくとも俺は転生できて良かったと思っている。お嬢がいて、輪入道、一目連、骨女がいる今が幸せだ。
だから、つい天国よりも生まれ変わりが良いと思ってしまう。
「……そう…………」
俺の発言に対し、お嬢はただ一言呟いたのだった。
お嬢の憂いを帯びた瞳は、朱く染まった大空を見上げている。
お読みいただきありがとうございました。
原作のこの回、非常にホラー要素強くて好きなんですよね。
ニナの苗字はこちらで勝手に付けさせていただきました。スウェーデン系のものです。
他にも前話の前半で骨女の偽名【恩田ヨネ】の【ヨネ】の方はこちらで捏造しました。二籠前なので【曽根アンナ】ではありません。
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