話をスッキリさせるため、デザスターの投票に関しては省いています。
オーディエンスという観覧者がいたことを明かし、デザイアグランプリは次のステージに入った。
新たに二人のライダーを参加者に加え、生まれ変わったDGPは第二回戦の始まりを待つ段階を迎える。
新生DGP一回戦「学園ゲーム」を終えた参加者は、
それはゲーム参加者の日常をも、オーディエンスへの見世物とする運営の意向によるものだ。
「これ、景和の手作り?」
テーブルに所狭しと並べられた朝食を見て、鞍馬祢音はビックリしたように言った。
白いご飯と豆腐とワカメのみそ汁、焼き魚に納豆、漬物、さらに焼きノリまで添えられて、朝一の食事としては十分にすぎるボリュームだ。
「まさかとは思うけど、下剤とか入れてないでしょうね?」
「そんなことする訳ないでしょ。さ、冷めないうちにみんなで食べようよ」
新たな参加者の一人である我那覇冴がいぶかし気に、朝食を用意した桜井景和を見やる。
当の景和は、疑われていることなど気にも留めず、他の参加者を食事に誘った。
今ゲームの参加者の中には、他プレイヤーを妨害する役目を秘かに与えられた「デザスター」が紛れ込んでいる。
そのため冴を始めとした参加者は、他のプレイヤーに対して疑心暗鬼になっているという訳だ。
「もしお前がデザスターならあり得ることだ。さすがに腹を壊しちゃ、変身してもすぐには治らないからな」
「もう、英寿まで。単に料理が好きなだけだよ」
最ベテランの浮世英寿も景和を疑るようなことを言うが、その発言はどちらかと言えばからかいに近い。
なので景和も笑って流すことにした。
そんな中で、冴と同じく新メンバーである五十鈴大智が、食卓の椅子に着きながら眼鏡を光らせる。
「なぜ君が突然、朝ごはんをつくるなんて言いだしたのか……興味深い問いだ」
あらゆる雑学を網羅し「クイズ王」とまで呼ばれるようになった大智は、こういった謎をにおわせる事に答えを求めずにはいられない男なのだ。
そして、誰もが怪しんで手を付けようとしない景和のつくった料理を、なんと大智はあっさりと口にしたではないか。
焼き魚を一口、おっかけて白飯、咀嚼したあとで味噌汁を飲みノドを潤す。
「……うん、美味しい」
大智はシンプルな言葉で、景和の料理の腕前を褒めた。
そして、続けて自らの推理を披露する。
「この味噌汁は、きちんと煮干しと昆布から出汁をとっている。焼き魚もコンロじゃなく、七輪で炭を使って焼かれたものだ。どちらも料理の素人が楽に手を出せるものじゃない」
そして
「納豆に焼き魚、焼きノリという組み合わせは実に日本人好みの献立だ。これだけで家族というものへの想いを強く引き起こさせる。
それに、どれも育ち盛りの子供に適した、健康かつ栄養の豊富なメニュー……」
大智は立ち上がり、景和の方に顔を向ける。
「答えはこうだ。桜井景和、君は……こども食堂でボランティアをしている」
自信満々に景和の料理好きの由来を推察した大智。
他のメンバーの視線が景和に注がれる。
「すごい、当たりだよ!」
景和は心底驚いたように、大智の推理を肯定した。
そこに、自分の私生活の一端を除き見られた、というような嫌悪感は微塵も感じられない。
英寿やほかの面々も、改めて大智の推理力の高さに感心した表情を見せた。
大智はみんなの反応に対し、満足そうに笑みを浮かべ言葉を続ける。
「となると、次の疑問が浮かんでくる。なぜ君はDGPのかたわらで、今もなおボランティアに精を出しているのか……」
「あ、そんなに気になるならさ、大智くんも一緒にこども食堂に行ってみない?」
「僕が?」
「うん! きっと子どもたちも喜ぶと思うからさ!」
こうして景和の勢いに押され、五十鈴大智は共にこども食堂を訪れることとなった。
別に、子どもたちに会ってみようと思った訳ではない。
ただ、景和についてよく知れば、それだけ対抗相手である彼への対策になると思っただけのこと……。
大智はそう、自分への言い訳のような理由を浮かべ、景和に続いて食堂のドアをくぐった。
「みんな、久しぶり!」
「あ、景和お兄ちゃんだ!」
桜井景和の姿を確認した子どもたちは、ワッと歓声を上げ彼の周りに集まる。
子どもたちはみな景和にとてもよくなついている様子で、その様子を後ろで見ていた大智は、ちょっとした疎外感を味わっていた。
「景和お兄ちゃん、こっちの眼鏡のお兄ちゃんは誰?」
「僕は……」
「友達! ……かな?」
なんと名乗るべきか、関係性が難しく少し言葉に詰まる大智を、景和はとっさに友人だとみんなに紹介した。
友達じゃない、言うなれば……敵だ。
大智はそう思ったが、そうするといよいよ説明がややこしくなるので、この場は流されるに任せることに。
「この人は、五十鈴大智くん。クイズがとっても得意なんだよ」
「クイズって、なぞなぞ? ぼくも得意だよ!」
「……なぞなぞじゃない。クイズとは……そう、言うなれば知識の戦いだ」
大智は無邪気な子供の言葉に、ほんのちょっとだけムキになりながらそう訂正する。
「なぞなぞ出して! なぞなぞ!」
「だから違うと……まあ、いいさ」
小学生ほどの年齢の子どもたちには、大智の思うなぞなぞとクイズの違いは分からない様子。
そんな子どもたちに対してクイズ王らしく振る舞うべく、大智は過去に参加したクイズ大会の時の様に、問題を出すことにした。
「問題。二人の人間がいて、一人は正直者。もう一人はウソつき。一度だけの質問で、どちらが正直者か当てるには、どうすればいいかな?」
子どもたちは質問の仕方をいろいろと考えるが、どれも正解ではない。
隣りで景和も頭をひねるが、チンプンカンプンである。
やがて十分ほどの時間が経過し……子どもたちは
「正解は……」
大智の答えを聞いても、子どもたちは不満気だった。
大智は、しょせん子どもの知識ではこの程度か、と内心ため息を吐く。
そんな大智に大して景和は耳打ちで注意した。
「ダメだよ、大智くん! こういうのは、参加者のみんなを楽しませてあげないと!」
「……そういうものなのか?」
「そうだよ!」
景和はニカッと笑顔を見せる。
そして、大智の問題を聞いた上で、自ら出題することにした。
「問題です。パンはパンでも、食べられないパンってな~んだ?」
難易度をグッと下げたクイズに、子どもたちは再び声を上げる。
「わかった! フライパン!」
「違うよ! カビの生えたパンだ!」
子供たちは景和の出した問題に口々に意見を言い合う。
景和は自信満々に口を開く。
「正解は……
答えを聞いた子どもらが、ドッと笑う。
隣りで大智はあきれ顔だ。
「それはクイズじゃない。子どものなぞなぞだ」
「でも、みんなは喜んでくれたよ?」
景和の言うように、子どもたちの表情はとても明るく、まるで太陽のように輝いていた。
「なるほど……子ども相手にあまり生真面目なことを話しても仕方がない、ということか」
「う~ん、ちょっと違うんだけど……まあ、そういうこと!」
景和の顔もまた、子どもらの笑顔によって柔らかな表情を浮かべている。
そんな桜井景和という男とこれまでになく近くで接したことで、五十鈴大智は自分でも認識できないほど小さなレベルで、彼に対する心境を変化させつつあった。
と、そんな時である。
食堂のある建物の外から、けたたましい破壊音と人々の悲鳴が聞こえてきた。
景和と大智はとっさに外に飛び出る。子どもらも後に続いた。
「ジャマトだ!」
景和が叫ぶように言う。
外では、彼らデザイアグランプリの参加者が闘うべき相手──怪人「ジャマト」が暴れまわっている。
「どうやら、この周辺が次のゲームの開催地に選ばれてしまったようだね」
「そんな……!?」
大智の推測通り、新生DGP第二回戦「ジャマーボール」の開始が宣言される。
「いこう、大智くん!」
「ああ。次のゲームも、トップになるのはこの僕だ」
二人は腰に機械的なベルトを巻き、正面のバックルにアタッチメントを装着した。
「「変身!!」」
『セット。レディ・ファイト』
掛け声とともに両者の姿が、デザイアグランプリのプレイヤーとしての正装へと変わっていく。
景和は緑色の忍者を思わせるアーマーを、大智は青い怪物を思わせるアーマーをまとう。
これこそ、DGPを勝ち抜くために参加者へと配られる戦闘用の装備──名を「仮面ライダー」と言う。
「あ! 景和おにいちゃんが、なんかスゴいのに変わった!」
「クイズのおにいちゃんも! 二人ともカッコいいー!!」
子どもたちの歓声を受けて、仮面ライダータイクーン・ニンジャフォームと仮面ライダーナッジスパロウ・モンスターフォームが、戦いの場に躍り出た。
同じ姿をした大量のポーンジャマトを蹴散らしていく二人のライダー。
そんなライダーを無視して、数体のポーンジャマトが二人の横を走り抜けていった。
よく見れば、ジャマトの一体はバスケットボールの様な球体を抱えている。
ジャマトはボールを放り投げた。
空中にリングが現れボールがそこを通過すると、ジャマト側にポイントが入ったことが告知される。
「なんだ、今の?」
タイクーンが疑問を浮かべる。
DGPのナビゲーターから説明が入った。
どうやらジャマト側とライダー側でチームに分かれ、ボールを相手ゴールに入れ合うのが今回のゲームの趣旨のようだ。
「要はドリブルの無い、足が使えるバスケみたいなものか」
ナッジスパロウこと五十鈴大智が、参加者の誰よりも早くゲームのルールを把握する。
「次はこっちの番だ」
ゲームエリアに転送されていた英寿他のプレイヤーも仮面ライダーに変身。
改めてジャマーボールが開始された。
序盤はライダーたちのパス回しのおかげで順調に事は進み、我那覇冴が変身した仮面ライダーロポがシュートを決める。
次はジャマト側にボールが渡り、ライダーたちは防衛戦となった。
ボールを持つジャマトの一体が走るコースの先には、あろうことか子ども食堂が。
タイクーンはすぐに動き、ジャマトの進行を阻止する。
「この食堂に近づくな!」
ニンジャバックル専用の武装であるニンジャデュアラーを振るい、ルークジャマトの体を斬りつけた。
ダメージを受けたルークの手からボールを奪い返すタイクーン。
今度はこちらが攻勢に出る番、と思った景和の動きが止まる。
「相変ワラズ勝手ダナァ。人ノ物ヲ横取リトハ……」
植物を思わせる異形の怪人──ルークジャマトが、言葉を発した。
その体がほつれるように解け、中から現れたのは一人の成人男性。
それは景和も面識のある人物だった。
「まさか、シロクマさん……!?」
桜井景和が初めてデザイアグランプリに巻き込まれた時、彼を救った仮面ライダーこそが今、目の前のルークジャマトが姿を変えた男なのである。
しかしシロクマさんこと仮面ライダーシローは、景和を救った直後にジャマトの攻撃を受けゲームから脱落──すなわち、この世界から消滅することとなった。
ならば、今景和の前に立つこの男はいったい……。
思わぬ再開に動揺し動きが止まったタイクーンを、再び怪人の姿に変化したルークジャマトが攻撃する。
「なにをやっているんだ、桜井景和!!」
ナッジスパロウも駆けつけたが、タイクーン共々ルークの触手による殴打を受け吹っ飛ばされてしまう。
過剰なダメージによってドライバーの動作が停止。二人の体は変身が解け、共に地面を転がる。
景和が奪い返したはずのボールも地面を転がり、ルークジャマトがゆっくりと拾いに向かう。
「……あのジャマト、シロクマさんだった……!」
「以前君を助けたというライダーか……。だが、今のあれはジャマトだ」
「もしかして、ジャマトに体を乗っ取られてるんじゃ……!?」
「さっき奴は人の言葉を喋っていたが、あの言い方はまるで人間の真似をしているってだけで、そこに人の意思は感じられなかった。
おそらく、ジャマトが人間に擬態しているだけだろう。ダマされるな」
「そんなこと!」
「かりに怪物に乗っ取られていたとして、君に彼を元に戻す策はあるのか?」
「そ、それは……」
大智の指摘に景和は言いよどむ。
確かにその通りだったからだ。
「ここで問題だ。今、君がすべきことは? ジャマトである
大智は背後にある子ども食堂と、そこで景和たちの姿を見つめる子どもらの気配を感じた。
「君を慕う子どもたちを助けるか? 答えは一つだ」
「……そんなの、決まってる!」
景和は立ち上がり、ドライバーに手をかける。
彼の意図を察し、大智も同じ行動をとった。
「「変身ッ」」
二人は再び仮面ライダーへと変身し、ルークジャマトへ立ち向かう。
ルークはボールを拾うのを止め、ライダーへとその矛先を変えた。
タイクーンはルークの伸ばす触手を分離させたニンジャデュアラーで切り払い、接近し怪人の胴体に組み付き、動きを封じる。
「大智くん! 今だ!!」
『モンスター・ストライク』
ナッジスパロウがモンスターフォームの必殺技を発動するがしかし、技が放たれるより先にルークジャマトの妨害攻撃が撃ちだされる。
ナッジスパロウは構わず右腕のモンスターグローブに力を込め……
「うわああぁぁ!?」
背後から子供たちの悲鳴が聞こえた。
ルークジャマトの放った火炎弾は四方に飛び、その内の一発がライダーの後方で彼らを見守る子どもらの列に向かって行くではないか。
「みんなぁーっ!」
「クッ!!」
タイクーンが叫ぶ。
ナッジスパロウはなにかを考えるより前に、とっさに駆け出していた。
百メートルを八秒で走り切る脚力はルークの火炎弾を追い越し、ナッジスパロウは盾となってその攻撃から子どもたちを守った。
背中を燃やされ膝をつくナッジスパロウを、子どもらは心配そうに見つめる。
「クイズのおにいちゃん、大丈夫!?」
「……ああ、平気だ。君たちは早く逃げろ」
「うん。ありがとう!」
足早に去っていく子どもらの背を見送りながら、五十鈴大智は自分の行動を心底不思議に思った。
全人類の記憶という途方もない情報を欲し参加したデザイアグランプリ。
すべてのライダーが自らの欲望のために闘うこのゲームで、大智はまさか自分がその願いを叶えることとは無関係に、赤の他人の子供を助けるという行動を起こすとは思いもしなかった。
これも桜井景和というお人好しの影響か……。
だが、不思議とそれは心地よい感情を、五十鈴大智にもたらしていた。
「フッ……これだから、人の心は面白い」
大智は自分の心の変化を、呆れたように笑った。
直後。
ゴトンという音と共に、彼の目の前にアイテムが収納されているミッションボックスが投下された。
ナッジスパロウはボックスを手に取り開封。
中にはライダーを強化する、強力な新アイテムが納められていた。
「これは……。面白い、使わせてもらおうか」
モンスターバックルを外し、代わりに「コマンドツインバックル」を装填。
再変身した姿はシルバーの堅牢なアーマーに身を固めた、「仮面ライダーナッジスパロウ・コマンドフォーム」だ。
「離れろ! 桜井景和!!」
『コマンド・ツイン・ビクトリー』
タイクーンがジャマトから体を離し、しかし怪物が自由に動き出す前に、コマンドフォームのナッジスパロウは両肩のトロンキャノンを発射。
水色の荷電粒子をまとった二筋のビーム光は、まるでロウソクの火を吹き消すようにあっさりと、ルークジャマトの体を消し飛ばした。
一番の強敵を降し、あとはライダー側に優勢のままジャマーボール対決の前半戦は終わった。
後半戦の前にハーフタイムが設けられ、参加者は思い思いの場所で休息をとっている。
大智と景和は、子ども食堂に残った。
景和は子どもらのことが心配だったからだが、大智も残ったことを景和は内心で少なからず驚いていた。
そんな二人は、食堂の椅子に並んで座っている。
大智は、小さく景和に問うてみた。
「怒らないのかい?」
「怒るって、なにを……?」
「僕があのジャマトを倒したことさ。君の恩人かもしれなかったのに」
景和は即座に首を横に振った。
「怒らないよ。大智くんのおかげで、子どもたちが助かったんだから」
「僕が君を騙したとは思わないのかい? あの時はあれはジャマトだといったが、本当は怪物に乗っ取られていただけで、やはり彼は人間だったかも……」
「大丈夫! 大智くんはそんなこと、するような人じゃないから!」
迷うことなく断言する景和に、大智は面食らった。
互いを出し抜くデザイアグランプリの参加者の中で、そのような信頼を寄せる言葉を、正面きって言われるとは思わなかったから。
今度は景和が問いかけた。
「なんでだと思う?」
「…………」
考えても、大智には答えが思いつかなかった。
景和はおかしそうに笑う。
「クイズ王でも分からないことってあるんだね」
「からかわないでくれ。……それで、答えは?」
「君が俺の作った朝ご飯を、真っ先に食べてくれたからだよ」
そんなことで? と大智は思った。
だが、そんななんてことない出来事一つで、人は他人を信じられるようになるものなのだ。
事実、五十鈴大智の中で桜井景和という男もまた、ただのDGPのライバルプレイヤーという枠には収まらない人物となっていた。
大智自身はそれを指摘されたとしても、きっと否定するだろうが。
二人の持つ携帯型通信機──スパイダーフォンに、ジャマーボール後半戦の開始が通知された。
しばらくすれば、大智と景和はまた仮面ライダーとなり、戦いに身を投じることになる。
今はまだ協力者として共にゲームクリアを目指す中だが、いずれは互いに蹴落としあう敵対者ともなるだろう。
その時が来たとしても、デザイアグランプリの外ではいい友達でいられれば……そう思ったのは、二人の内の一体どちらだろうか。
コマンドバックルはケケラが景和のために送った物ですが、ナッジスパロウが使ったため「バカお前じゃねえ」となってます。