チヨの幼馴染Tになれるなら、オワタ式ファイナルなんてなんぼのもんじゃい! 作:ansin
「…やはり、筋肉疲労ですね」
それは何もかもが突然の事だった。
日本ダービーはチヨの2冠達成で幕を閉じたが、ライブ終了後にメジロアルダンが倒れたとの知らせが入った。こちらが制止する前、チヨはアルダンを放ってはおけずそのまま救急車に乗り込む。
メジロアルダンの身体が弱い事は知っていた。だからこそ、人一倍敏感であった。ここまで走れたのは奇跡であると。しかしその代償として、意識は知らず知らずのうちに蝕んでいた。それ以上踏み込んではいけない域へと達していたのだ。暫くは入退院の繰り返しの生活になるが、復帰の目処はたっていない。学生寮に戻ることはほとんどないだろう。
その影響の元はチヨだ。普通に逆らう彼女を見て、足掻く彼女を見て限界の先に触れることが出来た。
それでもう、彼女にはこの世界に未練はないと。走る舞台から降りる事、既に準備も進めているとの事だ。だが…
「…忘れません。私というライバルがいることを、必ず後悔させて見せますから」
ライバルの存在は大きいものだ。特別な相手に負けたくないと思うと、普段の何十倍も力が沸いてくる。それは、ダービーのゴール前で感じたはずだった。まだ壊れかけの脚で、再び勝負を挑みたいと思うはずだ。そう言って、チヨは先に病室を出る。
「…私に未練はありません」
「別に逃げてもいいさ」
逆に残った俺は少し後悔したかもしれない。それでも、俺の目を見て同じようなことを言いそうだと錯覚したアルダンはそう言ったが、次の俺の言葉に少しは驚いた。
この業界に引退理由なんて山ほどある。学費が払えず辞退した者、結果が出ずに絶望した者、アルダンのように病気など長期的な理由で引退した者。それを無理に引き留める気はない。本人の意思が固い分、後味に悪い結果に繋がってしまう恐れがあるからだ。最も、一度休業して復帰できたウマ娘なんて指で数える程度しかいないが。
「それでアルダンが後悔しないなら何も言うことはない。だが…万が一でも復帰して勝負するとしたら、99%チヨが勝つぞ」
「!」
例え復帰したとしても、1年のブランクというものがある。1年間ずっと練習してきたウマ娘とリハビリなど無理をしない範囲での練習をしたウマ娘では天と地の差だ。長ければ長くなるほど、元の世界に戻れた時の絶望感が凄まじいものだ。それに耐えきれず引退するウマ娘だっている。だが…
「………あれ? 今言ったことの真意に気づかなかった?」
「えっ?」
「復帰すれば
こちらが油断でもしない限り勝負は何が起こるかは誰にもわからない。新人だというのに、ここまで無敗で勝ち進めてきたこのトレーナーの真意をアルダンは一欠片程度だが理解した。世の全トレーナーは、教え子を100%勝てる作戦を立てている。それは当たり前だ。だがそれなのにこのトレーナーは、再戦に限っては…。別れた時、その男の背中には何か異様な力を感じたとアルダンは病室に取り残されたのであった。
・・・
「すまない、待たせたな」
「大丈夫ですよ。
「まさか。おめぇみたいに強引にはいかねぇよメジロ家のお嬢様の手前で」
「もぅ!」
そんな他愛もない話をしながら帰路につこうとした俺とチヨ。だが、脚に異常があったのはこちらも同じだ。
「私、もっと強くなって見せますから…!いっそのこと3冠でも!!」
チヨはそう張り切るが…問題はこの後、どうするかだ。
史実ではレースの後に屈腱炎が発覚して長期の離脱、テイオーに負けないくらい約1年ぶりで安田記念・宝塚記念に復帰したが、故障で屈腱炎が再発してそのまま引退となった。
しかし、今回は単なる筋肉疲労であまり重症ではない。
だが流石に安田記念・宝塚記念は無理だ。ライブの後に話したが、天皇賞秋か三冠の菊花賞が狙い目だろう。世間は無敗の3冠馬、その欲望が渦巻いていた。
チヨはどちらかというなら、将来のキタサンのように断れない性格だ。世間が菊花賞で三冠目指せと言われたら無理してでも狙うかもしれない。だがそれで、脚に負担がかかったら目も当てられない。だがそれでも、三冠を目指したい理由があるのだ。
「…"スターオー"さんのこと、まだ想っているんだな」
「!!」
サクラスターオー。
サクラ軍団の一人であり、皐月賞と菊花賞の2冠を達成したウマ娘。母親は生まれて間もない彼女を残して天に召され、父の男手一人で育てられた彼女。弥生賞から勢いを上げ、そのまま皐月賞を勝利。だが皐月賞の後、スターオーは繋靭帯炎を発症してしまい、日本ダービーの断念を余儀なくされ、夢は潰えることとなった。
そこで約半年ほどのリハビリを続け、クラシック最後の鬼門となる菊花賞で復活を遂げた。あの
だが
「俺は正直、"今のまま"でチヨに無理をさせたくない。スターオーさんのことを想っているのなら尚の事だ。…このままだと、あの人の雷を食らうだろうしな」
「…………。」
「…菊花賞、クラシック3冠は諦めようと思っている」
この先、チヨの選手生活のことを考えれば無理はさせたくない。菊花賞は3000mの長距離レース。身体だけでなく脳や全体に負担が重く圧し掛かる。それにチヨは長距離向きのウマ娘ではない。
世間は間違いなく俺にバッシングを向けてくるだろう。こればかりは俺の責任だ。もしチートを使えば乗り越えたかもしれない問題だが、ここはチヨの意思を尊重して手を出さずにいた。言い訳になってしまうかもしれないが、記者会見を開いて
「それで「なら、その代わり…」…?」
ここで、チヨが口を開く。
「その代わり、天皇賞(秋)に挑戦してもいいですか?」
俺は黙って理由を聞く。聞くところによると、チヨの本心としては、まだ憧れであるマルゼンスキーに火が灯っていないのではないかと思っていた。マルゼンスキーから見れば、チヨは自分の夢を託してくれた後輩。
聞こえはいいかもしれないが、それでは違う。2冠を達成したチヨは今、更なる飛躍と成長を貪欲に願っている。その意思は彼女の目標を変えた。憧れの対象から、目に焼き付けるライバルに変化したのだ。だからこそ、クラシック級だけでなくシニア級のウマ娘も出走し更なるレベルアップを目指すための天皇賞(秋)なのである。
だがここで、俺はとんでもない見落としをしてしまった。
「色んな人たちが参加する中で、マルゼンさんの完全な参考ではないんですが…
今度は俺からチヨの言葉を遮って、
そして、その嫌な予感は見事に的中した…。
XXXX年11月1日…日曜日…天皇賞(秋)…俺は心で叫んだ。
「(史実競馬史上最大の
やっているのを見たい奇妙なトレーニング方法は?
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