チヨの幼馴染Tになれるなら、オワタ式ファイナルなんてなんぼのもんじゃい! 作:ansin
「あっ…」
トレーナーとの練習が終わった私は、寮には戻らずフラフラとどこかに出かけていました。寮に戻ったところで、アルダンさんは病院での入院で行ったり来たりで今では相部屋は私一人だけ占拠しているようなものです。
「………。」
気が付けば、私は散歩でよく行く神社に辿り着いていました。それでも誰もいません…夕方だから、もう誰も来る気配なんてないでしょう。
なら都合がいい。今の姿を、誰にも見られるわけにはいかないから。
忘れたくても、あの天皇賞秋のタマモクロスさんの走りは忘れられません。
今の自分が、
トレーナーは教えてくれました。あれは領域だ。
でもどうやって体得できるか、トレーナーもわかりませんでした。いや今まで甘えてた自分が申し訳ない。トレーナーにアキュートさんに背中を押されてここまで来たのに…またデビュー前の悩んだ自分に戻っています。
これがスランプ、そういうものでしょうか?
いや…今までが運が良かったかもしれない。これが、本来の自分の実力です。自分以上の強者なんて世界にわんさかいます。それが最高峰のG1なら尚の事。
ここまでなのかもしれません。ここからシニア期から入ればライバルなんてどんどん強くなっていきます。そうなってしまったら、自分はズルズルと下位に落ちていきます…
「どうしよう…」
トレーナーを仲間をファンを裏切りたくない一心で来たけど…やっぱり自分はここまでなんだ(プスッ)…………………あれ? なんだか、眠く……
???「さて、後は出会うのを頼むしかないわね…ご先祖様」
・・・
「!!!」
『落ち着けよストレンジャー。また会ったな』
「きゃあ!?!?」
眠りから目が覚めたら、春の時にいきなり出会ったフード男とのまさかの再会!? 再び出会うなんて思わなかったけど、場所も宇宙のようなところで夢じゃないことは確か…今は相手にする気力もない。
「わ、私に何か用ですか…もう帰りたいんですけど…」
『随分と落ち込んでいるようだな、自然と俺のテリトリーにきといてそりゃねぇぜ?』
「言っておきますけど力なんていりませんので帰してください」
「あらら随分と嫌われたな」と頭を抱える自称神様。でもこの人のことだ。私のことを何でもお見通しなんだろう。だからこそイライラしてしまう。ここまでグツグツと煮えたぎる感覚は久しぶりかもしれない。
『まあいいや。ここまで来たし少しは悩み事や会話ぉ「ふざけないでください!!」っ!』
相手が誰であろうと構わなかった。一刻も早く寮に帰って一人になりたかった。
「もう放っておいてください!! 貴方に打ち明ける悩みなんてありません!!」
「…。」
神様は黙って見つめていた。チヨは一頻り怒鳴った後、またもや俯きがちに今までとは打って変わって静かな調子で彼女は続ける。
「………分かって……るんですよ。今の私が……弱いなんてこと。この前だって……調子は…良かった筈なのに……最後なんて…全部ぐちゃぐちゃで」
ポロポロと大粒の涙が、宝石よりも純粋な煌めきを持った瞳から零れ落ちる。彼女のその様が…涙を堪えず出す幼子のように見えた。いくら実力があるウマ娘でも、根は二十歳にも満たない少女。人間とそこまで変わらない生命体なのである。そんな彼女に…
「なら、曝け出しな」
「悲しみも恐れも憤りも…何もかも全部、腹の中から吐き出してしまえ…」
その瞬間、何もかもが溢れ出した。
これまでの出来事、関わり…その全てが頭の中を竜巻のようにかき回した。
そこで感じたことは、自分とはどのような存在であるかということ。
今までマルゼンスキーに憧れた自分が、今度はライバルとして立ち向かうこと。
これまでも、そしてこれからも…トレーナーや仲間・ライバルと共に走り続けること。
「後はそれからだ。骨は、拾ってやるぞ」
そこからもう一度、彼女が光に包み込まれた。
・・・
「チヨノオーさん! 大丈夫ですか!?」
「ふぇ??」
気が付くと、心配そうにヤエノムテキさんがこちらに顔を覗き込まれていました。
いつの間にか陽は沈みかけており、寮にいつまでも戻ってこない私を心配していたそうです。いつの間にか神社の境内に寝ていた。私がこの辺り一帯で行きそうな場所で探してくれたとか。しかも彼女だけでなく、トレーナーもアキュートさんも心配していたとのこと。
「すみませんヤエノさん、ご迷惑をおかけしまして…!」
「いえ、チヨノオーさんが無事ならそれで…」
ここで不意に、スマホが鳴る。
どうやら、何かの通知できたようで……!
「あの、ヤエノさん」
「なんでしょう?」
「私を探してくれたお礼として…今度一緒に、猫カフェに行きませんか? 今さっき値引きの引換券が貰えまして! アルダンさんも誘って一緒に行きませんか!?」
「ふぇ!? あ、今かわいい猫がいる、有名なカフェで!?い、いや、その…」
「行きましょう!」
私はそう言って、ヤエノさんの手を握りながら神社の階段を下りていく。
来た時に比べて、なんだか随分と身体が軽くなったようなそんな錯覚を覚えました。たまに良い事があった気持ちが多少塗りつぶされても気にも留めませんでした。
いつの間にか私を圧し潰していた心配と絶望は、瞬く間に消えていました。いえ、これからはそんなことにはもう襲われません。だから、それがどうしたとなにくそと抗える自信がつきました。
手を伸ばさなきゃ蛇口すら捻れない、ゲートを恐れる者はゴールもできない。
まずは皆さんに謝罪しないと…ですね!
・・・
「チヨ、練習はいいのか?」
「はい、たまには休息も必要ですよ!」
いつもの練習風景だけど、私がここまでにすると言った時驚いていました。
「今日は大事な猫カフェ割引の日です!一緒に行きましょう!」
「そりゃいいが…」
「おやまぁ、私もええんかい?」
そんなこんなで急いで練習を終え、ジャージから制服に着替える。
「…一体、何があったんだ?」
不思議な感覚であったが、とりあえずいつものチヨに戻ってくれたと心の奥で安堵してくれたトレーナーがいたのは気が付きませんでした。
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