目が覚めると森の中だった
「……なんで?」
寝る前は確かに自宅に居たはずなのだが何故こんな所にいるのだろう
夢だろうか。試しに頬を抓ってみた
「痛いな……しかし……」
もう一度頬に触れてみる。やけにスベスベしている気がする
おかしい。俺の頬はこんなに滑では無いはずだ
視点を下げると2つの膨らみが目に入る。というか服は着ていないようだ。どうりでスースーするわけだ
膨らみを触ってみる
「む、柔らかい」
下半身にも違和感を感じ手を伸ばす
「む、無い」
記憶している限り俺にはついていた筈なのだが
腕も細い上にシミ一つ見あたらない
「これは。女の体だな」
男だった筈の体が女になっていて自宅で寝ていた筈がこんな森の中に居る
理解不能な状況だ
「クシュン」
寒くなってきた。体感では20度前後といった辺りか。裸だとちとキツい。何らかの方法で暖をとらねば風邪をひいてしまう
それ以前に人にも会えなければ訳の分からないまま森の中で餓死する事になるかもしれない
このまま森の中に立ち尽くしていても事態は好転しないだろうし兎に角歩いてみる事にする
適当な方向に向けて一歩踏み出した瞬間足に何か固いものが触れた
「ん?」
再び視点を下げると銀色の筒のような物が目に入る。拾い上げてみると金属製で結構重かった
(これ……どっかで見たことあるな)
何処だったろう。思い出せない
金属製の筒を片手に持ち森の中を歩き回ること数時間。傷だらけになった足の痛さと歩いても歩いても変わり映えのしない景色に辟易し始めた頃
「きゃああああ!」
悲鳴が聞こえた
声が聞こえた方向に走る。かなり痛むが我慢する
暫く走ると遠くに広場が見えた。広場の中心で緑色の皮膚をした子供程の大きさをした二足歩行の生物が3体で金髪の中年女性を囲んでいる
俺は茂みの中から緑色の生物に向けて金属製の筒を全力で投げつけてやる
「キイイイ!」
金属製の筒は緑色の生物の頭に見事に命中し緑色の生物は甲高い悲鳴を上げ倒れ込む。他の2体は俺の方を向いた
その辺に落ちてた手頃な枝を拾い緑色の生物を迎え撃つ体制を整える
と、金属製の筒をぶつけた個体がフラフラと立ち上がるのが見えた
(やる気か?)
枝を構えて緑色の生物を睨む、こういう時は目を逸らさずじっと睨みつけなければ駄目なのだと聞いた事があった
俺も向こうも微動だにせず睨み合う事数分、俺の目力が勝ったの3体は森の奥へ消えて行った
茂みを抜け広場に出る。襲われていた女性に怪我は無いようだ
「大丈夫ですか?」
未だにへたり込んでいる女性に声をかけてみる。女性は直ぐに反応し顔を上げ……固まった
「どうしました?」
女性は信じられぬ物を見たという表情だ。一体何が
「あ、アンタこそ何があったんだい! 傷だらけじゃあないか!」
…………裸体でこんな森の中を彷徨っている奴をみればそりゃ驚くよなあ
腕や体を見ると剥き出しの体のあちこちが切れて血が滲んでいた。草や木々で切ってしまったらしい
足の痛みで気づかなかったのか
「これには訳が」
「と、とりあえずアタシに付いて来ておくれ。この先に村があるんだよ」
助かった。どうやら餓死という線は無くなったようだ
「助かります」
金属製の筒を拾い女性の後に付いていく
「アタシの方こそゴブリンを追い払ってくれて助かったよ」
あれはゴブリンだったのか
「いえ、これも何かの縁ですから」
しかしあんな危険な生物が彷徨いているというのに一人で森に入るのは無謀ではないだろうか
「ゴブリンは数が多いんですか?」
「いや。滅多に見ないんだけどねえ。運が悪かったよ」
成る程……比較的安全な森のようだ
それにしてもゴブリンとは架空の存在では無かっただろうか。どうやら異星か異世界かは知らないが地球の常識が通じない場所に来てしまったらしい
「ああ、アタシはマルダというんだ。アンタは?」
ん? 名前か……俺の名前は……………あれ?
「まさか……」
マルダさんの顔が引きつる。どうやら察したらしい
「覚えてません……」
それっきり会話が途切れ歩き続ける事小一時間。森が開け小さな集落が見えてきた
「あれがアタシの住んでる村だよ。アンタはちょっと此処で待っといてくれ。流石に何も着ないで村を歩かせるわけにはいかないよ」
当たり前だ。言われた通りに此処で待つ事にする
手持ち無沙汰で金属製の筒の観察を始める。やはり何処かで見た覚えがあるんだが
暫くいじってると……カチリと言う音と共に側面のカバーが外れた
中には赤いボタンが見える
(これ……もしかして)
赤いボタンを押すと青い光が伸びた
「ラ○トセ○バーじゃないかこれ?」
某有名SF映画で主役が使っている光の剣と殆ど同じだ
もう一度ボタンを押すと空気中に光の刀身が消え去る
ボタンにカバーを被せておく。うっかり押したら足を切ったりしそうだ物騒な拾い物をどうしようかと考えてるとマルダさんが布を抱えて帰ってきた
「待たせたね。ほらこれを着な」
マルダさんが持ってきたのは麻で出来たワンピースのような服だった。女物を着るのは正直抵抗があるが背に腹は代えられぬ
さらりとした着心地は気持ちがよかった。これなら部屋着にも持って来いだろう
「ありがとうございます」
「怪我の治療するからついてきなよ」
頷いてマルダさんの後に続く。マルダさんの村は木造の家が点在している小さな村だった。各家の煙突からは煙が立ち上っている
「ここがアタシの家だよ。入っとくれ」
「お邪魔します」
マルダさんの家に入るとまず目に飛び込んで来たのは大きな暖炉、どうやら玄関から直ぐ居間になっているようだ
奧に三部屋があるようで扉が3つ見える。窓は木が格子状に組まれているだけのようだ。どうやらガラスは貴重な物らしい
「さ、座っとくれ」
言われるがまま用意してくれた椅子に座る。素朴な木の椅子だけど座り心地は悪くない
「一度脱いでくれるかい?」
ワンピースを脱ぎ裸体を晒す。マルダさんが渋い顔をした
「酷いねえ。痕が残らなきゃいいけど……ちょっと沁みるよ」
自家製らしい傷薬が体中に塗られていく。ちょっとどころでは無くかなり沁みたが良薬は口に苦いものなのだと自分に言い聞かせ我慢する
「よし。これで終わりだよ」
「ありがとうございました。助かりました」
傷薬の効果は絶大で痛みは既にひいている。さっきより随分楽になった
「そろそろ家の旦那も帰ってくるし今日は泊まっていきなよ」
「いえ…そこまで世話になるわけには」
旦那さんも迷惑じゃ無かろうか
「何言ってんだい。アンタみたいな可愛い子を放り出すわけにはいかないよ。遠慮せずに泊まっていきな」
マルダさんは譲る気が無いようだ。ここは素直になるべきか
「わかりました…お言葉に甘えて今夜はお世話になります」
「そう。子供は素直が一番だよ」
子供か……そういえばまだ自分の姿を確認出来ていない。一体他人から俺はどんな風に見られているんだろうか
「さて。夕飯の支度をしなくちゃね」
「あ、手伝います」
世話になりっぱなしというわけにはいくまい。少しでも恩を返さねば
「あはは。律儀な子だねえ。でも怪我人を働かせるのはちょっとね……今日は大人しくしときな。疲れているだろうしね」
む……そう言われると…仕方ないか
今日の夕食は塩漬け肉と野菜のシチューのようだ。マルダさんは手慣れた手付きで野菜を刻んでいく
ぼんやりと料理の進行を眺めていると玄関の戸が勢いよく開いき威勢の良い声が室内に響いた
「おう! マルダ! 帰った……ぞ?」
最後の方は尻すぼみ気味だった
「お邪魔してます」
立ち上がり一礼する。マルダさんの旦那さんは戸惑うばかりだ
「ま、マルダ! この嬢ちゃんは…?」
旦那さんはジロジロと俺を観察している。明らかに不審に思っているな
「ああ、お帰りあんた。このお嬢さんはねゴブリンに襲われていたアタシを助けてくれた命の恩人さ」
「なにい!? 嬢ちゃん。家内が世話になったみてえだな……ありがとうよ…」
「いや……俺の方こそマルダさんには世話になりっぱなしで……」
旦那さんが訝しげな顔をする。今の容姿で一人称が俺というのはおかしいだろうな。言ってから気がついても遅いが
「ちょっと訳ありの子のようでね……さ、出来たよ!」
「おおっ! さ、嬢ちゃんもたっぷり食えよ! マルダのシチューはうめえからな!」
「はい。いただきます」
確かにシチューは美味しかった。この世界に来てから飲まず食わずだった俺の体にマルダさんのシチューは沁み渡るようだ
「ごちそうさまでした」
体の芯まで温まると急に眠気が襲ってきた。成る程…かなり疲れていたようだ。耐えられそうにない
「すいません……あの…寝る場所を貸してくれませんか?」
「ああ。いいよ。右の息子が使っていた部屋で寝とくれ」
何から何まで世話になりっぱなしなのは情けないがどうしようもない
上手く動かない頭で礼を言い。右の部屋に入る。簡素なベッドに倒れ込むように横たわると俺の意識は一瞬にして刈り取られた