「俺は餌じゃない! 喰うな!」
現在髪を恐竜君(ソラプスと言うらしい)ハムハムされている。俺の髪の毛が草に見えるんだろうか
村を経ってたから4時間程が経過している。宿場までの道のりの半分程進み現在は小川の畔で休憩中であり俺はソラプスの世話に駆り出されている
ソラプスは気性の大人しい種類で人にも良く懐くんだそうだ。世話もし易く馬に比べて力もあるので重用されてるとブリットから聞かされた
餌となる草を大きなバケツ一杯に詰め込む。車は4台ありそれぞれに一頭ずつソラプスが割り当てられている
「よし。大人しくしとけよ。今綺麗にしてやるからな」
ブラシで皮膚についた泥や砂を落としていく。皮膚は硬くちょっと力を込めて擦っても問題ない
「大人しく草を食べていれば更に問題は減るんだけどな……って言ったそばからやめろ! 禿げるだろっ!」
悪戦苦闘しているとクククと悪役臭い笑い声が聞こえてきた
「折角の黒髪が台無しか。随分と懐かれたみたいだな」
ブリットだ。何がそんなにおかしいのか。こちとら髪を死守する攻防忙しいというのに
「懐かれたって。餌と間違われてるじゃないのか?」
「コイツらは頭が良い、髪の毛を餌と間違えはしない。お前の髪の毛を綺麗に繕ってやろうとしているんだ」
そう言えば馬なんかもブラッシングの返礼として人間にも毛繕いしてやる事があるとか。成る程同じ理屈か
懐かれているなら悪い気はしないんだが……頭がベトベトなのはどうにかしたい
「水汲んで来てやったぞ。これで頭を洗うといい」
「おおっ! ありがとうなブリット!」
「何、髪は女の命と言うからな。涎まみれは不憫だろう」
む……そう言われると複雑な気分だ
髪を洗っている俺をブリットはしげしげと眺めている。何か変な事をしただろうか?
「どした?」
「この辺りじゃ黒い髪は珍しい。遠くの地方から来たにしては旅慣れている様子もない……お前って何なんだ?」
……ストレートに聞くなあ。本当の事を言うのは避けたいが上手い嘘はつけない……むう
「知りたい?」
「まあ、気にはなるな」
「どうしても?」
「教えてくれるのか?」
「………………教えてあげない」
「………………」
かなりイラッと来たようだ。嘘つくの苦手だから仕方ない
さてバケツを片付け……ようとしたら肩を掴まれた。振り返ると額に青筋を浮かべたブリットの顔がある
「なら力付くで吐かせてやろうか? ん?」
そう言いながら俺を引き寄せるブリット。いやーな予感がする
「ま、待て! 話せば分かる……あっ! あははははっ!」
「しぶとい奴め」
あれから数分間体中を擽られた。何て事しやがる
「……死ね……どさくさ……に……紛れて…変な所まで……触りやがって……」
息も絶え絶えだ。後で絶対仕返ししてやる。覚えてろよ
じゃれている内に休憩時間は終了したようだ。ソラプスが車に繋がれている
「よし。俺達も行くか。お前は動けるか? 疲れてるなら手を貸すぞ」
疲れさせといて良く言う
「大丈夫。お前の手だけは借りないよ」
何してくるか分かったもんじゃないしな
街に向かって歩みを進めていると石で出来た犬みたいなのが見えた
「なあなあ。ブリット、あれなんだ?」
「ん? ありゃゴーレムの一種だ」
ゴーレムとは…またファンタジーな代物だな。ブリットが警戒もしていないという事は危険性は無いわけだ
「ゴーレムって事は……作り物なのか?」
「今から数百年前の異種間戦争時に作られた魔法生物だな。まあ今じゃただの犬……人を襲わない分野犬よりも安全だな」
異種間戦争か。やっぱりエルフとかオークとか居るのかな。会えたら楽しそうだ
ゴーレム犬は何をするでも無くただ座って風景を眺めていた。飯も必要ないのだろう。暇そうに見える
「ゴーレムも知らないって事は相当遠くから来たのは間違いない……か。本当何なんだお前」
「それは秘密です」
この世界だとゴーレムみたいな不可思議現象も普通にあるわけだ。魔法も珍しくは無いんだろう。魔法に関する事は独学で学ぶべきか
夕方になり宿場の近くまで来た時急にソラプスが立ち止まった。何かに怯えているみたいだ
「…………ブリット」
「ナナ、お前…武器何か持ってるか?」
ブリットの声にも緊張が混じっている。後少しだというのに……
「一応はある……使った事ないけど」
俺が持っている武器といったらラ○トセ○バー擬きしかない。役に立つだろうか
「一応出しとけ。積極的に戦わなくていい。逃げられないと思ったら使え」
指示にしたがいマルダさんが作ってくれたバッグからラ○トセ○バー擬きを取り出す。ブリットは既に駆けだしていた
敵はでかい二足歩行の猿人だった
「と、トロルだあああ!」
商人の一人が絶叫を上げる。トロルというと力が強い妖精だったか……あれは普通に獣とか魔物の類だな
ブリットは腰の剣を引き抜いて走る。とんでも無く速い。一瞬でトロルの懐に潜り込み
「はあっ!」
気合い一閃トロルの脇腹を真一文字に切り裂いた
トロルは片膝をつく。その隙を逃がさずに今度は首を狙う
死にたくないトロルも大振りなラリアットのような攻撃で対抗するがブリットには掠りもしない。逆に致命的な隙を作り出す事になった
その隙を逃すブリットではない。再び剣を振りトロルの首を斬り飛ばした
時間にして1分も経っていないだろう。瞬殺だ
「つ、強すぎだろ……」
あまりの強さに呆然としていた俺の背後から大きな足音が聞こえた
「!?」
慌てて振り返ると……憤怒の表情を浮かべたトロルが物凄い勢いで突っ込んで来ている
「あ……」
避けなければならないのに足が竦んで動けない
「っ! ナナ! 横に飛べ!」
無理だ……
周りがヤケに遅く見える。交通事故の瞬間も同じく周りがスローモーションに見えるらしいから……俺死ぬのかな……
トロルはもう直ぐそこまで迫って来ている。どうしようもない
目の前に青い光が見えた
次の瞬間俺の体は宙に浮いている。トロルに吹き飛ばされたんだろうか
足が大地についた……生きているみたいだ。怪我もない
背後からドサリという音が聞こえ振り返る。頭を失ったトロルが倒れていた
「は?」
ブリットを見るとまだ遠くに居る。じゃあ誰があのトロルの首を斬ったのか
皆が俺の方を見ている
てかあの青い光はラ○トセ○バーだよな……ん? てことは
「あれ……俺がやったのか……?」
キャラバンの皆が一斉に頷いた