部屋に戻りベッドに横たわる。さっきの失言のせいで中々寝付けない。絶対変な奴だと思われただろう……あ、今更か。なら大丈夫か
そんな風に自分を納得させているとブリットが帰ってきた。少し顔が赤い、酒でも飲んだんだろう
「よお、ナナ。まだ起きてたか」
多少は酔っているみたいだが言葉はしっかりしている。アルコールには強いようだ
「寝付けなくて……なあ、ブリット。スナフさんのリストを読んだ後。俺変なこと言ったよな?」
「言ったな。ま、お前が変な事を言うのは初めてじゃないから気にする必要は無いんじゃないか?」
むむ……そう言われると傷つくが事実だから反論出来ない
「ついでに言えば態度も変だった。普通字が読めるかと聞かれれば肯定か否定の2択しかないんだがな。お前の場合はどちらでもなかった、強いていうなら保留か」
ん? あ、そうか……字が読めるかどうか自分でも分からないってのは確かに妙な話だ
何でそこまで思い至らなかっただろう。馬鹿だからか、仕方ないとは言えないぞこれは
「お前は予想以上に抜けてるらしいな」
「……反省する」
「それがいい」
そういやブリットがこの部屋に帰って来たという事は相部屋何だろうか。キャラバンの人数は多いし宿が全室埋まるという事も有り得るし
だがベッドが一つしかない。これはあれか? 一緒に寝るのか?
「ブリット、お前の部屋って此処なのか?」
「部屋が無くてな。不本意か?」
「いや、確認しただけ」
となると
「ナナ、何を考えてるのか分からないがベッドの端に寄りすぎると落ちるぞ」
「いや、お前も寝なきゃならないだろ? ならスペース空けないと」
カダイがいいブリットと一緒に寝るとなると俺がベッドのギリギリまで寄らなきゃ無理だろうし
ブリットは呆気に取られた顔をしたあとニヤニヤと嫌な笑みを浮かべた
「成る程、据え膳食わぬは男の恥か。喜んでご一緒させて頂こう」
「違うっ! 何でそっちに思考を持っていくんだ!」
「男と女が同じベッドで寝る意味を考えて見ろ」
む……いやまあ…分かっちゃいるけど
「す、座って寝たら体が休まらないだろ……護衛が調子を崩したら駄目だろうし……それに俺だけベッドてのは気が引けるし……何なら俺が椅子で寝るけど?」
しどろもどろに繕う俺を見ながら奴はクククと何時ものように笑う。だから悪役臭いって
「安心しろ、今のは冗談だ。気を使わせたようだな。分かったお前の言葉に甘えよう」
そう言うとブリットはベッドに入ってくる。予想通りベッドの殆どはブリットの体に占領された
「ナナ、狭苦しいだろうが我慢してくれ」
ほんの少し申し訳無さそうにブリットは言う
「俺は小さいからこれくらいでも十分なんだ、じゃお休みブリット」
「ああ、お休みナナ」
目を閉じると直ぐにブリットの寝息が聞こえてきた。寝付き良いにも程がある……人の事は言えないけどな
朝起きると……ブリットの腕の中だった
「はい?」
奴の顔が目の前にある。今までずっと見上げていたから同じ目線で顔を見るのは初めてだ
てか近い、近すぎる。かなり密着してるようでもう少しで顔が触れそうだ
「お、起きろブリット!」
起きる気配は無い
「ええと……どうすりゃいいんだ?」
こいつの腕は中々振り解けそうにない。起きるまで待つか
しかし落ち着かない。こんなに近くに人の顔があるのは初めての体験だし
こうして抱き締められているとブリットの体の逞しさがよく分かる。胸板は分厚いわ腕はムキムキ。恐らく体脂肪率は10%以下だろう。羨ましい話だ
「どう鍛えれば此処までになるんだろうな……」
「そりゃ、死ぬほど鍛えるのさ」
!
「お、起きてたなら早く言え!?」
驚いた、心臓止まるかと思った。何時起きたのか全く分からない
「気づけよ、お前が起きた時はもう起きていたんだが」
え? マジで?
「てか何で俺はブリットに抱かれてるんだ?」
「ああ、お前がずり落ちそうだったからな」
「む、ありがとうな」
「気を使わせたのは俺だ。気にするなよ。それよりそろそろ出発する準備をしたほうがいいだろう」
空が白んでいる。朝早くに出発する予定だから起きてないと拙いな
だがブリットは俺を抱き締めたまま動く気配は無い。なんだ? 何か考えているのか?
「…………ZZZ」
……寝てるし
ブリットを頭突きで起こしてから数時間後。どんよりとした曇り空の下を俺達は歩いていた
「なあ、ブリット、レガの街まではどれくらい掛かるんだ?」
「後2日だな。野宿を一回挟むんだが大丈夫か?」
2日か、結構と遠いんだな。野菜が悪くなったりしないだろうか
「ん、大丈夫。なあ、ブリット食料の保存ってどうやってるんだ?」
「氷の魔力で満たした箱の中に入れとくんだ」
……冷蔵庫じゃん。魔力すげえな
ブリットが言うには個人じゃ買えないくらい高いんだそうだ
「元々魔法は万人が使えるものじゃない。大量生産するには向いて無いんだ」
成る程、個人の資質に頼った品物なわけだ。そりゃ高い筈だ
「俺は魔法使えるかな?」
使えたら色々役に立てそうだし何より面白そうだ。どんな風に発動するのだろうか。やっぱり杖とか必要なのかな
「分からん。俺は魔法使いじゃないからな」
俺の問いを一刀両断するブリット。成る程、魔法を使えるかどうかは魔法使いに聞かないと分からないのか。レガの街にも魔法使いはいるとスナフさんは言ってたし何時か会えたら聞いてみよう
キャラバンは野宿の準備を始めていた。俺は芋の皮むきに駆り出されている、夕食の準備だ
炊事班長はたっぷりのジャガイモと野菜をぶち込んだスープを作ると行っていた。気温は涼しい程だからちょうどいいだろうな
「ナナちゃん。終わった?」
「あ、はい! これで全部です!」
箱に沢山入ったジャガイモを指し示すと炊事班長がうんうんと頷き俺の頭を撫でてきた
「結構手際がいいね。助かるよ。後はこれを煮込むだけだ。ナナちゃんはジャガイモの皮をソラプスに持って行ってくれ」
ジャガイモ皮はソラプスの餌に混ぜるんだそうだ。栄養たっぷりだからあの子らも喜ぶだろうな
スープは野菜からの出汁が良く出ていて旨かった。大鍋で作ったからだろうか。体もいい感じに温まってくる
飯を食いながらキャラバンの何人かは酒を開けていた、まだ暗くなったばかりだし寝られないのだろう。俺もそうだ
だが酒盛りには参加出来ないし……どうしようか
「なあ、ソラプス。お前に乗っていいか?」
ソラプスは黙って座り込んでくれた。ありがたい
背に乗るとソラプスが立ち上がる。意外に目線が高くなるんだな
「よしよし。いい子だ」
別に歩かせるわけじゃない。背中をブラッシングしてやろうと思ったのだ
力を込めて擦るとソラプスも気持ちよさそうに鳴いてくれる。かわいい奴め
ソラプス4頭にブラッシングを終えるとみんな寝る準備を始めている。俺も割り当てられた寝袋を取り出して適当な所に敷いた
よく考えれば野宿なんて初めてだ。安全が確保された屋内とは違い何か起こるかも知れないという恐怖感が襲ってくる
火の番兼見張り役としてブリットが起きているのだから過剰な心配は必要ないのだが……
心細い。とてもじゃないが寝られそうにない
近付いてくる足音を聞いたのはそんな時だった
身を起こすとブリットが立っている
「寝られないみたいだな」
見透かされていた。情けなくて顔が熱くなる
「……何か用か?」
恥ずかしさから無愛想になる返事を聞いてもブリットは嫌な顔をしなかった
「寝られないなら来い。1人で居るよりはいいはずだ」
「………わかった…ごめん」
スープを煮込む時にも使った焚き火の前にブリットと並んで腰掛けた
そのまま何も喋らずに一緒に炎を眺める。さっきは心細くてたまらなかったのに傍らにブリットがいるという安心感からか気分が落ち着いてきた
我ながら現金な性質だと思う
「……ありがとうブリット。俺、1人で……怖くてさ……情けないよな……」
ポツポツと口を開く。ブリットはただ黙って聞いていた。それが有り難い
(ホームシックって奴かな……)
多分そうだろう。本当に情けない
「……ごめん。色々愚痴愚痴言っちまって……」
ブリットは相変わらず何も言わない。さっきは有り難いと思ったがもしかして怒らせてしまったのではないだろうか
「あ、ブリット……?」
顔を上げると、目があった
「ククク……情けない声を出すな。大丈夫だ俺は気が長いからな、お前の愚痴くらいは幾らでも聞いてやるよ」
う、全部見透かされていた……勝てないな……
と、奴は俺の肩に手を回して抱き寄せた
「今夜は冷えそうだからな」
訝しむ俺にブリットが言う。確かに風が冷たい気はしていた
抱かれたままじっとしている内にブリットの体温と炎の暖かさで温まったのか眠気を覚えた
いや、暖かさだけではなく人と触れているという安心感もあるのだろう
何時の間にか俺は意識を手放していた