レガの街に足を踏み入れる。そこは正に都会だった。様々な服装の人々が通りを歩いている
「おおっ! 凄い人出だな!」
圧倒される。これより規模が大きな街とはどんな物なんだろうか
「はぐれると確実に迷子になるだろう。今は大人しく付いて来いよ」
確かに迷うな。黙ってキャラバンの列に戻る事にする
大きな石造りの建造物が並ぶ通りを歩く。どうやら殆どが4〜5階建ての集合住宅のようだ。1階部分は何らかの店になっている
「あれは服屋に…八百屋、焼肉みたいなの売ってるなあの店」
「ガゾフという。焼いた薄切りの肉と野菜に辛いソースをかけてパンに挟んだ物だな。手軽に食えて尚且つ旨い」タコスとかケバフみたいな感じなのか。あ、腹が減ってきた
ガゾフの匂いに後ろ髪を引かれながらも買う金も無いのでどうしようもない。残念だ
「あれがリューオン商会の本部だ」
そうブリットが指差した先にあったのは……城だった
いや、城のように馬鹿でかい建物だ
「うはあ……すげえ……」
唖然としてしまう
この街の中でも最大の規模の建築物なんじゃないだろうか
「初めてみる奴は大抵そんな反応するな。この街を実質仕切ってる家だから……まあ、城みたいな物だ」
成る程。この大きさにはそんな理由があるのか
キャラバンに並んで商会の中に入る。最後の手伝いだ
冷蔵庫から野菜を取り出しキャラバンの皆と一緒に倉庫に運んでいく
「ありがとうございましたスナフさん、ブリット。お陰で無事にレガの街まで来られました」
目の前に立つ2人に心の底からのお礼を言う。あの野宿の夜を思い返すと1人じゃ途中で挫けていただろうな
「いえいえ。私らの方こそ感謝をしなければなりません。トロルは強大な魔物です、ナナさんのお陰で被害を出さずに済みました」
自分で倒したという実感が無いためかスナフさんの言葉がむず痒く感じる。光魔剣が強かっただけなんだし
「私は訳も分からないまま剣に振り回されただけですから……そろそろ失礼します」
ゾーリンさんの知り合いをさなければならないし
「分かりました。ゾーリン殿の知人を訪ねるのでしたね。ブリットに案内させましょう」
「大丈夫ですよ。地図も貰ってますし……それに色々作業もあるんでしょうしご迷惑じゃ……」
「俺は暇なんだ。それにゾーリンから頼まれてるしな。キチンと最後まで面倒を見てくれ……てな」
ゾーリンさん……そこまで頼んでくれてたのか
「……分かりました、ご好意に最後まで甘えさせて貰います……スナフさん本当にありがとうございます、ブリットもありがとう」
「気にするな。ここで放り出したら寝覚めが悪いしな」
俺とブリットはリューオン商会を後にした。ゾーリンさんの知人ってどんな人なんだろうか
ブリットは迷うことなく足を進めている。リューオン商会のお得意様というのは本当のようだ
「ナナ! 珍しいのは分かるが遅れずについてこい。迷うぞ」
こういう街を見るのは初めてでつい周りを見てしまう。そのせいでブリットと結構引き離されてしまい慌てて後を追いかける
「悪い! でも凄いなこの街、規模もそうだけど活気に溢れてる。何だか居るだけで元気貰えそうだ」
「お気に召して頂けたようで何よりだ。だがスリや引ったくりも多いから気を抜くんじゃないぞ」
人が多ければその分犯罪も多くなるのは当然か。うん、気をつけよう
ブリットが足を止めたのは古びた石造りの建物の前だった。2階建てで1階は何かの店になってるように見えるが看板などは出ていない
「此処だ。居るといいが」
ブリットはそう言ってドアを叩く。暫くすると中からゴソゴソと誰かが動く音が聞こえた
「ブリットかスナフかは知らないけど開いてるわよ」
女性の声だ。まだ若い…ように聞こえる
「連れが居るんだ。女の子。年は15から16辺り。ゾーリンの紹介だ! 入るぞパーサ!」
ドアの向こう側にいるであろう人物に呼び掛けたブリットは躊躇なくドアを開ける。建物の中にはテーブルと椅子が幾つも置いてあり入って右手側にはカウンターと思わしき仕切りがあった。酒場だろうか
カウンターの中には20代半ばと思わしき女性が1人立っていた。背が高く綺麗な金髪を腰のあたりまで伸ばしている。そして何より…………でかかった。主に一部分が
女性はブリットを一瞥した後に俺に目を向けた。観察されているようだ
「黒目に黒髪ね……ゾーリンも中々面白い子を寄越すじゃない」
全員呼び捨てか。知り合いとは聞いていたけどどんな間柄なんだろう
「まだ、店を開けるには早い時間だけど……折角来たんだから何か飲む? そっちの子も」
「頼むパーサ。俺には麦酒を。コイツには果汁でも出してくれ」
「分かったわ。カウンターに座って待ってて」
言われた通りにカウンターに腰掛ける
昼間だと言うのに店内は薄暗い。わざと最低限の光しか入って来ないような設計にしているみたいだこの店は今が夜なんだろうか
「パーサはな、ハーフエルフという種族なんだ。あれでも200を超えてる」
「…………マジで?」
「マジだ」
呼び捨てなのは当然だった。パーサさんからしたらゾーリンさんもスナフさんも子供みたいなものなんだろう
「はい麦酒。貴女は林檎の果汁でいいかしら?」
「は、はい。ありがとうございます」
果汁を受け取りながら顔をマジマジと見てしまう。パーサさんは美人だった、元の世界でTVに出ていたアイドルや女優を思い浮かべても比肩する人は中々無いだろう……自分の事は忘れている癖にどうでもいいことは覚えてるんだな俺
「ハーフエルフを見るのは初めて?」
ガン見している俺に苦笑を浮かべながら話し掛けるパーサさん。しまった……やらかした
「あ、す、すいません……失礼な事を……」
パーサさんは特に気にした様子もない。器が大きな人で良かった……
「いいわ、慣れてるもの……貴女の名前を教えてもらえる?」
「は、はい。私はナナといいます。ゾーリンさんから此処を紹介されて来ました。これが紹介状です」
バッグから紹介状を取り出しパーサさんに渡す。彼女は中身に目を通し頷いた
「確かにゾーリンの字だわ。貴女、職を探してるのね」
「そうなんです……ゾーリンさんに職を探すなら大きな街の方が良いと勧められて……」
パーサさんは何か考えている様子だ
「残念だけど家は零細なの。貴女を雇う余裕は無いわ……」
申し訳無さそうに目を伏せるパーサさん。俺は慌てて首を横に振ってみせる
「いえ、パーサさんが気にする必要はないです! 自分の職くらい自分で見つけますから……私の方こそ突然お邪魔してすいませんでした」
今まで誰かに甘えてばかりで進めたのがおかしいのだ。俺はそろそろ自分の事は自分で何とかする事を覚えなければならないだろう
パーサさんに頭を下げて席を立つ。これ以上お邪魔しても迷惑になるだけだ
「待ちなさい。話は終わって無いわ」
再び席に座るように促され言うとおりにする。続きってなんだろう
「この店の常連にはお店を持っている人も多いわ。もしかしたら人手を必要としているお客がいるかもしれない……闇雲に探すよりは効率はいいと思うわよ? 勿論、採用されるかは貴女次第ね」
……成る程……確かにそうだ……でもこのまま居座るだけじゃ気が引ける
「ありがとうございます。でも私は無一文ですから……居座ると迷惑なのでは」
「ブリットが払えばいいのよ。最後まで面倒を見てくれと言われてるんでしょう貴方」
突然話を振られ、いい気分で麦酒を呷っていたブリットが咳き込んだ
「な、なんで分かるんだ……仕方ない。今日の分だけだぞ。今日中に見つからなくても面倒は見切れないからな」
「え……いいのか?」
本人も予想外だったようだけど
「さっき言ったろ? このまま放り出したんじゃ寝覚めが悪いってな。ま、気が引けるなら後でちゃんと金を返してくれればいい」
「……分かった、後で必ず返す」
何故か渋い顔をするブリット。何か悪いことでも言ったかな?