パーサさんのお店の片隅で待つこと数時間、パーサさんが看板を出した
「今から店を開けるわね」
外は薄暗くなっていたがランプがつけられた店内は逆に明るかった、この店は今から昼なのだ
「私も出来るだけ協力するわ。貴女字を読んだり計算する事は出来る?」
「はい、計算も字を読むことは出来ます。書くのは無理……です」
多分書くのは無理だろう。読みは不思議と出来るみたいだけど……何故だろうか。偶然なわけないよな
「それだけ出来るなら仕事なんて直ぐに見つかるかもね。頑張りなさい」
「はい! ありがとうございますパーサさん」
夜がふけるにつれて店内は賑やかになっていく。このお店は人気があるようだ
店主が若い女性だからか女の客も見られる
「野郎共はパーサが目当てでもある。ま、見りゃわかるだろ?」
そりゃあそうだ、パーサさん美人だし、美人だし、ついでに美人だし
「料理も上手いしな。この揚げ物とか野菜の煮物とか」
夕食兼麦酒の摘みにとブリットが頼んだ鶏肉の揚げ物は薄くパリッと揚がった衣を噛むと中から肉汁が溢れ出る
野菜の煮物は薄味なれど野菜本来の甘味や旨味が存分に引き出されているのは勿論だが、パプリカっぽい野菜を始めとして色鮮やかな野菜がふんだんに使われており見た目が非常にカラフルだ。これは女性が喜ぶだろう
「料理も上手いし……パーサさん人気なんだろうなあ」
「そりゃな。まあ、200歳はハーフエルフとして見ても結構な高齢なんだが。見た目には若いままだから騙されるがな」
そうなのか! ハーフエルフって不老なんだ。まあ、半分精霊なんだし人類の常識は通用しないのだろう
「俺としちゃ中身も若い娘の方がいいな」
何時ものような悪役笑いではなく締まりのない顔で笑いながらブリットが言う。随分と上機嫌だ
「ブリット、お前……酔ってるな?」
少しずつとは言え数時間も飲めばそりゃ酔うか
「仕事も一段落したんだ。今日くらいはいいだろうよ」
護衛役であるブリットは街へついた時点で仕事は終わりなわけか。呑みたくなる気持ちも分からなくはない
というか俺が関わらなければもっと自由に遊べたのか
「悪いな……付き合わせて……」
俺が言うとブリットは溜め息をついて呆れたように俺をみた
「な、なんだよ?」
「お前……意外と面倒な奴だな」
いきなり何だと……思い当たる節は結構ある
「自覚してるなら何も言わん」
そう言って奴はまた酒を呷る
結構ショックだった。これから直して行けるだろうか
豊かな髭を蓄えた筋肉質な男が酒を飲みながら愚痴を言っている
「最近の若い奴は根性無くてな。ちょっとキツい事があると直ぐにやめちまうお陰でずーっと人手が足りねえ」
人手不足……話しかけてみる事にする
「あの……人手が足りないと聞いた…
「ダメダメ! 嬢ちゃんには勤まらねえよ!」
とりつく島もない
何か派手な服を着た大柄な人物が溜め息をついている
「誰かいないかしら。優しくてかわいい子は」
あれ……男だよな……
「あいつは。男色趣味の酒場の経営者だ」
ブリットが説明してくれた。ゲイバーって事か。今の俺には無理だな
この後も人手が足りないと嘆く人達を目ざとく見つけて話しかけていたのだが全て断られてしまった。こんな行き当たりばったりで上手くいくわけもないんだろうけど……
かなり焦っている俺に中年の穏やかな物腰の男が話しかけてきた
「ちょうど貴女みたいな若い子を探していたんですよ」
なに!
「本当ですか!?」
まさかの逆指名に俺は食いついた。正直怪しくはあるが四の五の言っている余裕はない
「ええ。此処では何ですし一緒に来ていただけませんか」
どうするべきだろうか……いや、着いていくのは拙いだろう
「此方で話をするわけには……」
そう聞いたら中年男性は急に興味を無くしたようだった
「ではまたの機会にということで」
そう言って男性は店を出て行った。連れて行くのが目的だったのか
「アイツはお前を手込めにして色町で働かせるつもりだったんだな」
やっぱりそっちの仕事だったのか。仕事を選んでいる余裕は無いけど出来るだけ体を売るのは避けたい
「なあ、ブリット。奴らがいる場所は分かるか?」
「……行く気か?」
「念の為な。もしどうしようも無くなったら何でもやるしか無いだろ?」
ブリットは答えずに麦酒を呑んだ
そんな俺達を見ていたパーサさんが口を挟む
「貴女。スナフやブリットの伝手でリューオン商会で使って貰うことも出来たんじゃない?」
……確かにそうかも知れない。その手を考えた事もある……がそれじゃ駄目だと思った
「……俺はずっと誰かの好意に甘えてばかりなんです……旅の間も今も。スナフさんやブリットの口利きでリューオン商会に入れたとしても……それじゃ意味が無い。結局誰かにおんぶ抱っこされてなきゃ何も出来ない半端者でしかありません……だから……」
「職くらい自分の力で見付けようと思ったわけね。その考えは悪くはないと思うわ。自立をしようと考えるのは良いことよ」
パーサさんは頷いて俺の肩に優しく手を置いた
「いい仕事先紹介してあげる。ただ難しい人でね。貴女次第ね」
そう言ってウインクするパーサさん。ブリットは何故か呻いている
「奴か……」
何だ? ブリットも知っている人なのか? 何か嫌そうな顔をしているぞ
「あってみれば分かるわ。ブリット。案内してあげて」
無精無精と言う雰囲気でブリットは立ち上がった
「まあ……文句言うなよ、ナナ」
訳が分からない俺に付いて来いと言い放ちブリットは店から出て行く。俺は慌てて後を追った