このヒロインにもルートを!※更新停止※ 作:来世から本気をだす
「どういう事なんですか!?」
ウィズの声が部屋に響き渡る。
勢いよく席から立ち上がり、机に身を乗り出す彼女。
瞳は大きく開き、体は若干震えている姿から焦りが見て取れる。無理もない。
いきなり村が滅びると言われて、動揺してしまったんだろう。
それは、俺も同じ気持ちだ。
先ほどまで交渉が上手くいきそうだったのに。
村が滅びるとは…何が起きたんんだ。
俺たちが訝しげな表情で村長を見つめると、村長は重い口を開く。
「カエルじゃよ。カエルの大群がサムイド―に向かってきているのじゃ・・・」
申し訳なさそうに目を伏せる村長。
神妙な面持ちで告げる、その言葉。
聞いた瞬間、悪寒が走った。
カエルが襲って来るなど他の者が聞けば鼻で笑いそうな内容だが・・・俺達は違う。
その両生類の名は昨日、嫌と言うほど聞いた。
全身から汗が止まらない。
背中なんてすでに、びっちょりだ。
あ~・・・面と向かって村長と目を合わせられねぇ。
あっ。
伏せた顔で視線を動かしていると、ウィズと目が合う。
隣のウィズも俺と全く同じ行動をするもんだから、お互いに横目で視線が重なりあってしまった。
(なんちゅう顔してるんだよウィズ・・・)
顔に助けて!って読み取れそうな程、青ざめて目がチワワの様に訴えかけてくる。
無理だから。
ジェスチャーで軽く首を振ってみるとウィズはもう一度、スゥと息をのみ目のハイライトが消える。
彼女も感づいたんだろう。
血の気が引いて青ざめた顔が、その証拠だ。
俺も苦虫を噛んだ様な表情になっているだろう。
カエルが村を襲ってくるなんて今の俺達には最もホットな話題だ。
頼むから違ってくれ!と心の中で神に祈るが、あの貧乏神はどこまでも俺たちに試練を与えたいようだ。
「世にも珍しい草食のカエルじゃよ。昨日、地震があったじゃろう?」
眉間にしわを寄せながら深刻な表情で見てくる村長。
ああ、よく覚えてますとも。
あの地震のせいで天国と地獄をいっぺんに見た。
干物にされるところだったが、俺の右手がとらえた感触は未だに鮮明に思いだせる。
俺は深く頷く。
「ありましたね…」
「昨夜の地震で胸騒ぎがしたのじゃ。一ヶ月前も同じカエルが地震の翌日、カエルが村を襲ってきたからのう。今朝から村の若い衆を使って周囲を探らせておったのじゃが・・・」
一瞬、言いよどむ村長に俺は
「今、サムイドーに向かっているのですか?」
村長は、目をつぶり一拍の間を置いて口を開く。
「そうじゃ、前回とは比べものにならないほどの数が向かって来ておる」
俺の疑問に村長は重々しい空気で語る。
しかし、昨夜の話に続き、またカエルとは・・・
俺は軽く頭痛がしはじめ右手で頭を抱えていると、隣から戸惑ったウィズの声が聞こえてきた。
「で、でも、カエルなんですよね?いくら多くても迎え撃つことも出来るのではないでしょうか?」
俺は彼女の提案にハッとした。視界が明るくなった気分だ。
そうだ。幾ら数が多いとはいえ”カエル”だ。
初心者冒険者でも練習がてらに狩る獲物
昨夜、カエル騒動の話しのついでにウィズからカエルの特徴を聞いていた。
弱小ステータスの俺でも記憶を失う前は狩れていたとウィズから聞いたカエルだ。
しかも、人は襲わない”草食”。
村人と団結すれば迎撃できるのではなかろうか?
(いける!いけるぞ!!)
それに、こちらにはリッチーで魔王軍幹部のウィズがいる。
アクセルでは後手に回り町中で一匹づつ狩ることになったらしいが先手が撃てるのであれば策はある。
村に被害が出ない平原などで遠慮せずに大規模魔術を放てば200匹だろうが、それこそウィズなら500匹でも仕留めることが出来るのではなかろうか?
暗いムードで虚脱していた手に力が籠もる。
俺は沸き上がる自信に自然と握り拳を作っていた。
非現実(ゲーム)で使った戦術や戦略に計略など、あの手この手が無尽蔵に湧いてくる。
(ようやく俺の見せ所じゃねぇか!)
ウィズに会ってから、まだ格好いい所を何も見せられていない。
これは絶好のアピール機会にできる!
希望が見えた気がした。
だが。
そんな俺の甘い考えは、村長が真剣な表情で見せてくる一枚の写真で粉々に消し飛んだ。
「これを見てもか?」
村長は先ほどの子供から貰った写真を机の上に並べていく。
「この写真を見てくれ。ほれ、近くのウォルム山脈の岬から撮った写真じゃ」
そこに映し出されていたものに絶句した。
あまりの光景に俺達は、なんと言っていいのか分からない。
高台から撮られた写真は、村が写真の端に小さく写っており主に数キロ離れた山を遠巻きに写しているのだが・・・どう考えてもオカシイ。
その山が一面”緑”なのだ。
常に雪が降る地域なのに、その山に白色は無く緑色なのだ。
「そして、この写真が一時間後の写真じゃ。たぶん3万匹以上は確実に居るのではないかの・・・」
村長は、手に持った最後の一枚を机の上に置く。
陸を進む緑の津波。
写真の経過からして移動速度は速くはないだろうが確実に写真の端に写っている小さな村に向かっている。
ウィズは若干、指を震わせながら写真を持ち
「な、なんで、こんなに・・・」
写真という目に見える証拠を前にしても信じられない。信じたくない様子だ。
だが、カエルは今、この瞬間にもサムイドーに向かっている。
このままジッと呆けて居るわけにもいかない。
彼女もそれを分かっているのか、ゆっくりと口を動かし始める。
険しい表情で絞り出すように紡ぐ
『今すぐに紅魔の里に救援を求めましょう』
ウィズが必死の表情で紡いだ言葉。
紅魔族。
遙か過去、魔王軍と戦うために人体改造を受け入れた一族
紅の眼を両目に宿し、生まれ持って魔法を扱うことに秀でた戦闘民族。
俺のパーティーの一人。めぐみんも紅魔族であり、俺のパーティーの最大火力として魔王軍幹部を倒してきたとウィズから聞いている。
確かに彼らと組めば、もしかしたら倒しきれるかもしれないが。
しかし・・・それは無理なんだウィズ。
俺も一瞬考えた。だが村を散策してる時に偶然、聞いてしまったんだ。
「ウィズ殿・・・残念だが、それは無理じゃ」
俺が言うのをためらっている内に村長が代わりに告げる。
「まだ諦めちゃダメです。村はまだ守れます!」
感情が徐々に高ぶっていくウィズ。絶対に諦めたくないと言う気持ちが嫌と言うほど見てわかる。でも…そうじゃないんだ。
俺はウィズを落ち着かせるつもりでゆっくり諭すように話す
「ウィズ。村長は紅魔族の救援も検討した上で無理と言っているんだ。今、紅魔族は戦争中なんだよ」
「えっ・・・」
呆然とするウィズ。冷や水をかけられた様に勢いが消失する。
そんなウィズを見て優しく微笑む村長は
「ウィズ殿。その気持ちだけで十分じゃ。最初の襲撃で被害を最小限に抑えられたのも村に野菜を買いに来ていた紅魔族の数名が偶然、居合わせてくれたおかげじゃ。しかし、今回は紅魔の里が魔王軍の襲撃を受けて戦争しておる。魔王の娘も参戦して一進一退の苛烈を極めた激戦じゃと伝え聞いておる」
「俺も村を散策していた時に聞いたんだ。サムイドーを守るために派遣できるほど紅魔族に余裕はないと思う」
「そんな・・・」
ウィズは唇を噛み泣きそうな程、悔しそうにしている。そんなウィズを見かねてか村長は笑みを浮かべる村長。
「儂らの野菜が必要なんじゃろ?持って行きなされ。元々、ウィズ魔道具店と農具の契約ができれば譲るつもりじゃったのじゃ。それも村が無くなるとなれば契約する必要もない。儂らの最後の野菜をカエル共に食われるより、君らの助けになる方が村の皆も納得するじゃろう」
「気にするな!」とでも言いたげな笑顔で話してくれる村長にウィズの頬を伝う雫。
彼女は気の抜けた返事をすると、とうとう泣き始めてしまった。
困った様子でウィズをなだめる村長。
そんな光景をみて俺は少し。
ほんの・・・少し。
俺はやり場のない空しい怒りが湧いてくる。
俺は”無力”だ。
この世界に来てから何も成せていない。
今だって悔しさで奥歯を噛みしめ、握り拳を作るぐらいが精一杯だ。
それにサムイド―の人たちに真実を告げる事も出来ない。
ここでカエルが現れた原因を話せば争いが起きる。
それは最悪の事態だ。
確実に避難が遅れ人的被害が出る。
俺は目を静かに閉じ。一拍、間をおいてから村長に真摯な思いを告げる。
「全力で避難のお手伝いをさせて頂きます」
俺達は深々と頭を下げた。
彼らのために出来ることを頑張ろう。
転生者なのに異能やチートの一つも無い。
好きな子を喜ばせるどころか、悲しましてばかりの情けない俺だけど・・・
きっと、まだ出来ることが・・・
(プークスクス!超うけるんですけど!ヒキニートがマジ顔になってるの超笑えるんですけど!ほら、サッサと私に謝って助けを請いなさいよ。「ヒキニートの分際で調子のって誠に申し訳ありませんでした!」って)
・・・とりあえず。
複雑奇っ怪な問題を山ほど抱えてるが。
まず最初の目標を俺は今、決めたぞ。
チートの一つも寄越さなかったクソ馬鹿貧乏神のアクアをアクセルに到着次第、ぶん殴る。
脳内で腹を抱えながらゲラゲラと爆笑する奴を市中で泣き叫ぶまでスティールして、チートの一つでも渡させる固い決意を誓うのであった。
<緑の災害(カエル)>