このヒロインにもルートを!※更新停止※ 作:来世から本気をだす
外が騒がしくなってくる。
村長が避難の指示を出しに部屋から出て、おおよそ一時間は経っただろうか?
ウィズは先ほどから窓辺に佇み村長宅の前に集まりだす村人を眺めている。
時折、彼女は結露して曇る窓ガラスを手で拭うのだが、その度に窓に薄っすらと映る彼女の素顔。
窓に反射して映し出された物悲し気な彼女の頬を結露の雫が流れる。
まるでウィズの心を映し出している様な…
「ウィズ、大丈夫か?」
「えっ?…あっ。ごめんなさい、ぼーとしちゃって…これから皆さんを避難させなきゃいけないのに」
振り向いたウィズは、どこか上の空。心ここにあらずと言うのが適切だろう。
原因が自分であるのに気にするなと言う方が無理だが、避難が完了するまでは気丈に振る舞わないと村人が不安がる。
俺は少しでもウィズの気が紛れる様に軽口を叩くつもりで陽気に声をかけた。
「そうだぜ、ウィズが避難の要なんだから明るく堂々としてないとな。それに経緯はどうあれ野菜が手に入ったんだ、アクセルについたらすぐにギルドに納品してカエル討伐の仲間を募ろう」
「ええ。そうですね…」
ウィズはぎこちない笑みを作るとスグに視線を落としてしまう。
「私って野菜一つマトモに仕入れる事もできず、こんな事態を招いてしまうなんてダメな商人ですね…」
おいおい・・・俺は明るくなれと言ったんだが。より落ち込んでどうする。
表情は陰り、虚空を見つめる、その視線。
視線の先には床しかないのだが。
彼女が今、見ているものは真っ暗な未来予想だろう。
こりゃ…ちょっと揺さぶる程度では彼女の心は動かない。
こんな時、何か気の利いた甘い言葉でも言えれば転生者らしくカッコイイのだろうが、残念ながら俺は凡人のようだ。
どうしても、こお言う場面になると体が後退したくなる。
俺が何を言おうか悩んでいると、彼女は躊躇いながら時折、唇を噛みしめある言葉を口にする。
「これを機に”廃業”しようかと思います。」
◇
「か、かじゅましゃん。な、なにを!?」
俺はウィズの顔を覗き込みながら両頬を軽く摘む。
「変な事を言い始めたから、この暗い表情から変えてやろうと思って…相変わらず柔らかいな」
摘まむことを辞め、手の平でモチモチとした肌をムニムニと動かしてみる。
情けないが…正直、転生者らしい事は何も思い浮かばなかった!
今この瞬間も何をすればいいのか頭は真っ白。
だから、ここから先は勢い任せの破れかぶれ。
肉体言語など、我ながら愚かな選択だと思うが…これ以上、彼女の落ち込んだ表情は見たくない!
「なぁウィズ。アクセルってどんな町なんだ?」
彼女は予想だにしない質問に目をぱちくりさせる。
「ア、アクセルですか?いきなりどうして…」
「デートするのにいい場所かなって思って」
「デート!?」
あわあわと口を震わせながら頬が赤く染まっていく
「そう、デート!ギルドに依頼しても最終的に軍か紅魔族の力を借りないと厳しいだろ?だけど、すぐに彼らが動いてくれる事は厳しい。だったら半日ぐらい気分転換でデートしないか?」
俺は満面の笑みで彼女に提案してみたが、気まずそうに目をそらす。
「でも、サムイド―の皆さんが大変な時にデートなんて…」
「こんな時だからだよ。避難したら十中八九、サムイド―とアクセルの両方に一番かかわりのあるウィズが表立って動いていくことになるのに、暗くなっていると村の人たちも不安になるだろ?まずはウィズが明るくならないと!」
(まぁ…いい加減、ウィズとイチャイチャしたいのが本音だがな…)
ウィズはハッと一瞬、目を見開き俺の手に添える様に頬に手を当てる。
「私。そんなに暗い顔をしていましたか?」
「してるな。挙句の果てに大事な店を手放すなんて馬鹿な事を言い始めるし…」
「ですが…私のせいで「コラ!だから暗い顔はするんじゃない!」ひぃ、ひぃたいです!(痛いです)」
再び頬を摘まむ。
彼女がネガティブな事を言う度にツネってやるつもりだ。
しかし、面白いように期待通りの反応をするウィズに少し悪戯心が湧いてくる。
しばらくウィズの顔を観察するように至近距離で覗き込んでみるとウィズは視線をしきりに変えながら徐々に赤くなっていく。
「か、かじゅましゃん…そろそろ放してください。その顔が近くて恥ずかしいです」
「ウィズがデートしてくれるなら放してやってもいいぞ」
「はう!?…そ、そんな!?」
俺はさらに顔を近づける。
俺も少し恥ずかしいが、ウィズがこんな反応をすると悪戯心がムクムクと湧いてくる。
にらめっこを初めて数秒。
彼女は表情をコロコロと変えながら時たま「ぁ~」や「ぅ~」と唸ると
「わ、わかりました!デートしますから放してください!?」
「よっしゃー!俺、ウィズとイチャつかせてる所をパーティ-の奴らに見せびらかしてえんだよな。特にアクアの鼻を明かしてやりてぇ」
「め、めぐみんさんにも見せつけるんですか…」
ウィズは赤を通り越して引きつった顔で青くなる。
「もちろん。ギルドにも見せつけて外堀を埋めるつもりだぜ。ケケケッ…」
俺は悪魔の様な笑みを浮かべてみたら、ウィズは盛大に慌て始めた。
「や、やっぱりデートは早いですよ。もっとロマンティックに段階を踏んで…「このまま唇を奪っちゃおうかな…」わかりました!約束しますから顔を近づけないでください!?」
「ようやく観念したか・・・」
手を緩めると脱兎のごとく、ウィズは後ずさりをする。
「カズマさん卑怯です!それにサムイド―で会ってから大胆すぎませんか!?」
「そうか?まぁ、ウィズが元気になってくれるならなんでもするさ!」
「うぅ~~、そういうセリフを吐くのもカズマさんらしくないです!」
「それだけ君に惚れたってことだよ」
俺はウィンクを決めるとウィズは顔を真っ赤にしながら牛の様に「も~~!」と唸った。
◇
ウィズの気を紛らわせるために、あの手この手で悪戯していると古ぼけた玄関の扉が開かれる。
そこには、にやにやと楽しそうな顔をしている村長がいた。
その表情で理解してしまう。
(聞かれた!?)
ウィズと一瞬視線が重なると、すぐそっぽを向いてしまう。
彼女の顔は真っ赤だ。
まあ、俺も同じだろうが…
「もうすぐ村人が全員、集まるぞ」
村長がとても穏やかに告げて来る。向けて来る優しい視線に俺は面と向かって喋れない。
今すぐにでも逃げ去りたいほど気恥ずかしいのだが。
「ど、どこから聞いてましたか?」
「そうじゃのう~君が彼女を心配しだすあたりじゃ」
(だいぶ前からじゃねぇか!?)
村長の話しを聞いたウィズは両手で顔を覆ってしまう。
この爺さん。油断ならねぇ…
口を細めて出来もしない口笛を吹く村長。
空気がフーフーと漏れ出てるだけなのが余計に腹が立つ。
俺は怒りで握り拳を作っていると
「儂が心配せんでも君が居れば大丈夫じゃのう」
俺に向けられる足元から値踏みをするかのような視線。
不敵な笑みを作りフッと鼻で笑うと背を向けて玄関の戸に手をかける。
「なにが?」と言いたくなるが村長は俺とウィズに向かって手招きをしてきた。
村長の後に続く俺達。
玄関を出ればワラワラと村長宅の前に集まった村人が一斉に俺達を見る。
その視線にウィズは一瞬、後ろにたたらを踏んで気圧されたが一人の「ウィズ~~!!」と言う底抜けに明るい声が村人の集団をかき分け皆の視線を奪っていった。
集団の中をかき分けながら現れたのは、一人の子供。先ほど村長にカエルの写真を渡して来たミーアと言う子供だ。
「ウィズ!村のみんなを集めてきたぞ」
「ミーアさん…色々と助けていただきありがとうございます。」
「へへ。なまら大変だったけど最後はみんな”納得”してくれたぞ」
「…納得?」
「えっ?ソンチョ―もしかして…カンコウレイだっけ?まだ解かれてないの?」
箝口令だと?
俺が村長に視線を向けると温かい目でにやりと頷いている。
一人で何か納得しないでくれ。
俺を見ながら柔らかい笑みを作り頷き始める村長。
状況を飲み込めないんだが…
俺は眉間にしわを寄せて目を細めてみると村長はシミジミと語りだした。
「実はカエルの出所を皆、知っておるのじゃ。」
「・・・はぁ!?」
あまりの事に開いた口が塞がらない。
変な声をあげてしまった。
苦笑しながらサラッと言った、その言葉を俺達は数秒呑み込めなかった。
村長は村の皆がカエルの出所を知っていると言った。
つまり、この場に集まった村人は、この事態を引き起こした張本人を目の前にして涼しい顔をしてるいるのだ。
まったく理解が及ばない。
ことを起こした張本人なら、なおさらだ。
呆然と立ち尽くすウィズ。
すると、ミーアは人差し指で鼻を擦りながら自慢げに笑みを作る
「黙っててごめんね?だいぶ前から村の皆にはミーアがウィズの事を話していたんだ。カエル騒動の事情も詳しくね」
「な、なら!なんで皆さん私を責めないんですか!?私のせいで村が滅ぶんですよ」
声を張り上げて村人に問うウィズ。しかし村人は渋い顔をしながら互いに顔を見合わせる。
「言えよ」とでも言いたげに肘で横の男を突く男性や目線を我が子に変え撫で始める奥様方。
そんな気まずい沈黙を破ったのは年老いた爺さんだ。
それも見覚えがある。
昨日、かき氷屋を白い目で見てきた。向かいの青果店の爺さんだ。
「そこの嬢ちゃんが納得するまで毎日、来るんじゃよ」
人差し指で頬をかきながら渋々と言う青果店の店主。ウィズは自然とミーアを見つめる。
「ミーアさんが・・・」
「一人残らず説き伏せたもんね!」
ミーアはない胸をこれでもかと張る。それを見た村人は一同、苦笑した。
「こんな小さな子供が熱心に毎日、毎日来るもんじゃからな…それに話を聞けばまた、あのアクシズ教が悪さをしたのじゃろ?」
「それは…そうですが。元はと言えば私が軽率な判断でオタマジャクシを仕入れたから…」
「そうじゃ。だから今後、気を付けてくれれば、それでかまわん。皆、それで納得しておる。」
うん、うんと合わせたように首を縦に振る村人たち。
集団のいたるところから「アクシズ教が悪いんだ!」「お嬢ちゃんが気負う事はねぇべさ!」「いい加減、あの邪教潰すべきだろう!?」とウィズの擁護と圧倒的なアクシズ教に対する憎悪の声が溢れかえる。
その不思議な光景に俺は小声で村長に尋ねる。
「村長。アクシズ教に対する増悪がやたら激しいんですけど、アクシズ教となにかあったんですか?」
「…実は前回、カエルに襲われるより前に金髪のアクシズ教徒が”撒くと野菜が元気になる聖水”と言うものを売りに来たのじゃ。」
なんか、オチが読めたぞ。
再び頭痛が襲ってくる。
馬鹿どもが、また馬鹿をしたパターンだろ。
「奴ら、ワシらに許可もなく「お試しで撒いておきますね!翌日にはビックリ仰天の結果が待っていますから!」と言い残して帰っていったのじゃが。翌日の朝、畑を見に行ったら本当に腰が抜けたわい」
「枯れたりしたんですか?」
あの邪悪な神の水だ。除草剤より効果がありそうな気はするのだが村長は首を横に振る。
「野菜が元気になりすぎて、柵を破って逃げ出してしまったのじゃ。前回のカエルに襲撃を受けた際に、村に被害が無かったのは紅魔族のおかげじゃが、野菜の被害がほとんど出なかったのは食われる野菜が無かったからじゃ。」
はぁ~~~・・・・
肺の空気が空になるまで、ため息が止まらない。
俺も野菜と同じく地の果てに向けて逃げてしまいたい。
気怠くなる体。引きつってしまう顔。アクセルについたらサッサと奴をぶん殴ってパーティー解散を言い放ってやろう。
目の前で号泣してるウィズをなだめる村人たち。ミーアに至っては、ねずみ花火の様にアタフタしながらウィズを心配している。
そんな様子の村人たちを村長は見て俺に向けてニヤリと口元を歪める。
「見ての通り彼女を責める村人はおらん。ウィズ殿がカエルの原因として捕まったのを聞いてから若い衆に身辺調査をずっと行わせていたからのう。彼女が悪人ではないと言う事を若い衆は特に知っておる。」
苦笑いをする村長は横目で俺からウィズに視線を移す。
目を細めて笑みを浮かべるた顔。その視線にはなんとなく温もりが感じられた。
しかし、俺には一つ腑に落ちない事がある。
「ところで、なんで箝口令など出していたんですか?」
「それはウィズ殿が、かき氷とか的外れな事ばかりするからのう。ちょっとでも成長の機会を与えてやりたかったんじゃ・・・商才を見せろ!など、試すような事をしてすまんかったのう。」
あ~…やっぱり気遣われていたのか。
俺は片手で顔を覆いながら肩を落とす。そんな俺を見て目をそらす村長。
「孫ぐらいのウィズ殿が、あそこまで熱心に野菜の情熱を伝えられると儂らは弱いんじゃよ…どんな形であれ渡すつもりじゃったから、ついでに店と契約を結んで彼女の今後を見守りたかったのじゃ」
気まずそうな村長。
カエルが来なければ全て村長の手のひらの上だったと言う事か…
肩の力が抜ける。思いつめていたのが馬鹿らしく感じて来た。
でも村長からすれば、これで悩むことも試練の内なんだろうな。
俺は天を仰いで「はぁ~」と深いため息を吐くと。
「しかし、儂らが近くで見守らんでも君が居れば大丈夫じゃろう」
村長は再び不敵な笑みを向けてきた。
その言葉に、むず痒さを感じてしまう。
だが、ウィズとアクシズ教で、ここまで印象の差が出るとは…
この差は真面目か不真面目かの差だろうか?
ウィズも色々と問題を起こしているが解決に向けて東奔西走している姿が認められたのだろう。
俺も、こんなウィズだから好きなんだ。
今、彼女は目から溢れて来る雫を必死に拭っている。
日本に居ていた先日までだったら、こんな状況はサッサと逃げている。
でも、今は違う。
少しぐらいは、一緒に頑張ろうと思える気持ちになれる。
これがもし、青髪の馬鹿だったら…柱に括り付けて野菜でデコレーションしてる。
(食われるじゃない!?)
・・・おいでなすったな駄女神。
お前にはおしとやかさと真面目さが足りねぇんだよ。
食われてヌメヌメになってサキュバスの店で無料接待でもして反省しとけ。
(ふっっっざっけんじゃないわよ!?)
◇
ドン!!
揺れ動く視界。
足元から体を突き上げる様な衝撃。
村人は、お互いに身の安全を確かめ合っているが。
俺は、それどころではない。なぜなら…
『脳内のイマジナリーアクアが、地団駄を踏んだ瞬間に地震が起きたからだ』
止まらぬ冷や汗。
次々に湧き上がる疑問。頭が埋め尽くされて周りの喧騒が遠のいていく。
海に沈んでいく気分だ。
嫌が応なしに眉間にしわが寄り、顔がしかめっつらになる。
思いだせば昨日も奴がキレた瞬間に地震が起きたんだ。
そもそも、なぜアクアだけ鮮明に思いだせるんだ?
考えれば考えるほど。
だんだんと血の気が引いていく。
その時、イメージの中のアクアが俺を見ながらニヤリと笑った。
・
・・
・・・「カズマさん、カズマさん!」
暗い思考の海に彼女の声が響く
「お、おう。どうしたウィズ」
「それはこっちのセリフです!急に黙り込んでしまったのでどうしたのかと思いましたよ」
ウィズはいつのまにか、俺の目の前に立っていた。
知らぬ間に海のだいぶ深いところまで潜ってしまっていたようだ。
「ご、ごめん。ちょっと考え事をしていた」
いまだに腑に落ちないが、今は避難を優先させないと。
それにアクセルにはアクアがいる。
詳しいことは本人に直接聞けば済む話だ。
俺は青髪の馬鹿の残像を振り払うように頭を左右に振る。
「先ほどエイミーさんが最後の住人を連れてきました。私はこれから準備に入りますね」
「ああ…頼むよ。みんな落ち着いているけど、これから故郷がなくなるんだ。心のどこかで不安に思っているだろうし」
故郷がなくなる。その言葉を発した瞬間、彼女の表情が曇る。
俺はアクアの事で少し油断していたんだ。
しまった!?と思ったが、彼女は直ぐに物悲し気な顔から微笑みへと表情を戻した。
「カズマさん、私…いえ。わかりました。すぐに準備に取り掛かりますね」
一瞬、口を開いて何かを言おうとするものの、その言葉を飲み込んでしまう。
俺は会ってからの2~3日、ウィズの表情を舐める様にみていたんだぞ。
「なあ、ウィズ。ドタキャンとかデートもせずにフラないでくれよ。」
「…ええ、わかってます。」
俺に一瞬、笑みを作ると人込みに向けて歩みを進める彼女。
大人数をテレポートさせるために魔法陣を描く杖を借りるとウィズは言っていたが…
村人たちに歩みを進める彼女は何かを思い出したかのように立ち止まる。
振り返って横目で俺を見て来る、その姿。
視線が重なるとウィズは儚げに微笑む。そして再び人込みへと紛れていった。
(・・・・・はぁ、絶対にわかってないだろ)
「しょうがねぇな」
<避難とアクア(???)>