このヒロインにもルートを!※更新停止※ 作:来世から本気をだす
雲一つない。
澄んだ夜空に浮かぶ宝石の様な満月。
ふわりと降りそそぐ月明りは優しく雪平原を照らしている。
その柔らかな月光は俺たちの足元を支える高さ20メートルほどの氷の大木を鮮やかに輝かせる。
夜だと言うのに隣で目を細めて月を見つめる彼女の顔がハッキリと分かるほどの月明り。
ウィズは神秘的な雰囲気を漂わせている。
風が吹けば忽然と、俺の目の前から消えてしまうのではないかと不安に思ってしまう。
そんな淡く儚げな彼女は俺に。
「月がきれいですね」
月から俺に視線を変えた彼女。
この空の様な透き通る瞳が俺を真っすぐに見つめて来る。
「・・・・はぁ。そうだな。あいつらが居なければ、もっと綺麗なんだがな」
偶然、生まれたロマンティックな雰囲気をぶち壊してくる不規則な振動音。
耳に伝わる度に不愉快が湧いて、つい奴らを見る目が鋭くなる。
雪平原のど真ん中。物見やぐらの代わりに魔法で急ごしらえに建てた氷の柱。
さながら氷の大木の様になった足場から、眺めると奴らはすぐそこまで迫ってきている。
夜闇をゆらめく群れの影が見えるほどにだ。
千里眼スキルを使えばハッキリと見えてくる、乗用車ほどの緑の巨体にぎょろッとした黄色い眼光。
あと数分で俺たちまでの距離が2キロをきるだろう。
平原を埋め尽くす緑の両生類。
金曜の夜に、よく見た王蟲の軍団を思い出す。
写真で見た時は3万匹ぐらいと思っていたが自分の眼で見て、ようやく正確な数字が見えてきた。
「ウィズ、カエルは10万匹以上いる。今ならまだ引き返せるぞ?」
俺の貧弱な足が震えだす。心の弱さに苛立って唇を噛んだ。
想定していたよりも遥かに多い。
見誤ってしまった。
奴らがラグビーのスクラムでも組むかの如く驚くほど密集しているからだ。
速度は速くない。
しかし先頭のカエルを踏み台にして後ろから次々と新たなカエルが湧いてくる。
奴らを俯瞰してみれば、瓦礫や土砂を巻き込んだ。
まさに津波や洪水。
俺なんかが飲まれれば数秒で圧死だろう。
変温動物よ…冬眠はどうした!?とツッコミたくなる。
(チィ…頭が痛くなりそうだ)
すぐに逃げ去りたい。今すぐあったかい、お布団に潜り込みたい。
でも隣の彼女はカエルを睨む。歴戦の魔術師の様な面構えで自信に満ち溢れた表情をしている。
「逃げる必要なんてありませんよ。だってカズマさんの作戦ですもの」
ニコッと俺に向けてくれる満面の笑み。
はぁ、その優しさが染みるよ・・・
俺のどこを?なにを?
さまざまな疑問で混乱する頭を右手で搔き回す。
何故、そこまで信用しているのかわからないが、ここまで来たら先ほどウィズに伝えた自分の策を信じるしかない。
(やるしかないか…)
俺は重い足取りでウィズから離れ、あらかじめ用意しておいた稲穂畑へと歩みを進める。
それは氷に突き刺しておいた矢の稲穂畑。冷たい夜風に揺れる羽の中から一矢を引き抜く。
「無理だけはするな。この作戦はウィズの負担がかなり大きい。必ず逃げれる分の体力は残しておけよ?」
(って言っても聞かないんだろうな…)
俺は顔だけ振り向き横目で背後をみる。
彼女は小さくガッツポーズを作り「はい、わかってます!」と闘志滾らせる返事。
彼女の悪い所だが熱中すると無我夢中になり周りが見えなくなる。そしていつの間にか”無茶をしている。”
この作戦で周囲が見えなくなるのは厳禁だ。
ちくしょう…異世界で初戦闘だと言うのに難易度が高すぎるだろ!?
俺は目だけでウィズと手元の矢を交互にみる。ガクッと肩の力が抜けた。
危険だが俺も彼女のスポッター(観測手)として最前線に立つしかない。
「カズマさん・・・」
余計な考え事をしていると背後から感情が凍ったとでも言いたいぐらい冷たい声が聞こえてきた。
視界の端で彼女を再び見れば、鋭い目つきで静かに。しかし、尋常じゃないほどの魔力光を身に纏っている。
その氷の様な目につられてウィズの視線の先を追うと。
夜闇の果てからカエルの輪郭がクッキリしてきた。千里眼を使わなくても視認できるぐらいに。
「もうすぐ射程距離に入ります」
「くっ…わかったよ!?」
見るからに逃げる気なんてサラサラない。
クソが!?もう、後には引けねぇ!
踏まれて死ぬか、生き残ってデートか。
なんとしても生き残ってウィズと付き合うんだ!!
俺は足元にある村長宅に飾られていた2メートル近い弓を手にとる。
こんな大弓を撃てるのか?なんて不安は弓を握った瞬間に消散した。
そこしかないと体が覚えている足の位置、一切のブレが起きてこない身体の所作、意識をしなくても丹田から下腿を伝い地面に根を張る重心。
スキルは知りもしない型動作を鮮やかに作り上げていく。
いつの間にか矢をつがえ澄んだ空に構えていた。
手が痛くなるほどの弦を、もう一引き。
俺の千里眼は狙うべき位置を射抜いたぞ。
<ティンダー>
口ずさむと矢尻に巻き付けた薬剤付きの布が輝きだす。
湧き上がる感情のままに盛大に叫んだ。
「ウィズ!頼むから俺、以外に「月が綺麗」なんて言わないでくれよ。っても意味が分かる奴なんて、この世界に居ないだろうがな!」
「はい、カズマさん以外に言うつもりはありません!」
「・・・うん?」
「射程距離に入りました!撃ちます!!」
「お、おう!?」
冷たい声から一転、闘志滾らせ威圧を感じる。くわえて激しい魔力光の上昇。
今、なにか引っかかる事を言われた気がするが…後回しだ。
「ウィズ、敵は見るな。俺の照明弾に向かって盛大にブチかませ!」<狙撃>
光の放物線が夜闇を照らしながら群れのど真ん中を目掛けて突き進む。
そう。
非力な俺に出来るのは主砲を支える観測手であり、人類に許された最大火力魔法を導く案内人。
<<<エクスプロージョン>>>