このヒロインにもルートを!※更新停止※   作:来世から本気をだす

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14話、秘策

私のせいだ…

 

私が意固地になったからだ…

 

私のせいでカズマさんは…

 

ウィズは雪平原に降り立ち、一人カエルを切り伏せ続ける。

 

 

「カズマさん!」

<ライトオブセイバー>

ウィズの張り裂けんばかりの叫びが雪平原に響く。

彼女は焦っていた。

なぜなら、時間がない。

もう、時間がないのだ。すでにカズマが喰われて数十分がたった。

刻一刻とカズマが消化される、その時が迫ってきている。

今まで何回も死んでは生き返るを繰り返して来たカズマでも、跡形もなく消化されてしまっては生き返る事ができないのだ。

稲妻のように輝く上級魔法。魔法の剣は夜闇を舞う。

ウィズが右手を水平に薙ぎると右手から伸びた、<ライトオブセイバー>がカエルの首を3つ切り飛ばす。

 

カズマが喰われてから状況は一変してしまった。

 

突如、音もなく表れた”黄色いカエル”はカズマを呑み込み、そのまま物見やぐら代わりの氷の大木を飛び降りた。

 

黄色いカエルは緑の波の中へと落ちて行く。

群れに飛び込むと、一斉に変異し始めたのだ。

緑から黄色へと。水に落とした絵の具の如く。

1匹から10匹。10匹から100匹へと波紋が広がっていくように。

カエルは変異した瞬間から、村に向かう事を辞めてウィズに襲い掛かる。

爆裂魔法を受けても、カズマ達に見向きもせず一心不乱に村を目指していたカエル達が、いきなり『人』を襲い始めたのだ。

 

想定外に次ぐ想定外。

ウィズは、突然の変化に今にも泣き出しそうな表情を浮かべている。

無理もない。

ついさっきまで、他愛もない会話をしながら心のよりどころにしていた彼と、二度と会えなくなりそうなのだから。

無尽蔵に湧き上がる負の感情が心を支配していく。

 

「嫌です…いやですよ…」

一匹、また一匹と、次々にカエルの腹を切り裂き雪に鮮血をまき散らす。

ローブから滴るほどの返り血を浴び、死角から黄色い巨体に突撃されて体中がズタボロになろうとも、決して手を止める事はない。

焦りは彼女が感じていた限界をゆうに超えさせていく。動かない体が動いてしまう。

 

「返事をしてくださいカズマさん!お願いです!!」

叫びは時間が経つにつれ、いつの間にか悲鳴になっていた。

わずかな生存に賭けた張り裂けんばかりの叫び。

しかし、そんな甘い可能性にすがる声もカズマには届かない。黄色いカエルのドスドスと跳ねる地鳴りによってかき消されてしまうのだ。

黄色い奴らに連携はない。

仲間意識もない。感情も多分ないだろう。

死んだ仲間をグチャグチャと踏みつぶし。

開いた口からしたたり溢れ出る大量の粘液。

ひたすら食欲に突き動かされているような挙動。

ギョろっとした黄色い眼光を光らせて飴(ウィズ)に群がるアリの様に襲いかかっていく。

 

 

<ゲコ…ゲコ…>

 

 

 

 

「はぁ…はぁ…返して!!」

一閃。ウィズの左手から伸びる光の剣が横一文字に振るわれる。

夜闇に残る光の軌道。

眼前のカエルの腹がパックリと開かれる。切り口から吹きあがる血しぶき。

ウィズは眼光だけで殺せそうな視線をカエルに向ける。

だが、そんな視線に臆することなく、切り裂かれたカエルだったモノを再び踏み台にして次から次へと波の如くウィズに押し寄せていく。

ゲコと喉を鳴らしながら迫るのだ。

(嫌だ!イヤです!!)

刻一刻と迫るその時。

早く見つけなければ…速く!早く!もっと、はやく!!

ウィズの思考は、どんどんカズマ一色に染まっていく。

この先の事など”どうでもいい”と思いながら魔力のありったけをふり絞る。

自分の手や足がすすけ始めている事など『些細な事』と思考の隅に追いやって無我夢中で剣を振り続けるのだ。

首から脇へと袈裟に切り落とし、振り返りざまに背後の一匹を横一文字で斬り裂いていく。

だが、おぞましき化け物は。

 

斬れども斬れども。

 

次々に。

 

代わる代わる迫り来る。

 

終わりの見えない戦いは彼女に絶望を叩きつけてしまう。

なんとなく分かっていてても、考えない様にしていた。

考えてしまえば心が折れてしまう。

 

 

もう、カズマさんと会えないかもしれない。

 

彼女は、ふと思ってしまった。

とうとう、考えてしまった。

光の剣は夜闇に溶けて消えていく。透ける手が震えだす。

止めどなく目から熱いモノが流れだした。

「嫌だ!失いたくない!!だって私は彼が!!カズマさんが!」

 

 

 

 

 

「ふむふむ…俺の事が?早く続きをプリーズ。もしかして俺にホレちゃった?」

 

 

 

 

 

「えっ…」

「よっ、待たせたな!」

恐るおそる背後を振り返ると。

そこには全身が粘液まみれで、上半身が半裸の変質者(カズマ)が立っていた。

「きゃあああああああっ!!??」

<バチィン>

「ふんぎゃ!?」

振り向いた勢いのままカズマの左頬に突き刺さる平手。

ショートフックの如くコンパクトかつ的確に放った平手打ちはウィズとの圧倒的なレベル差とも相まって、カズマはキリモミ回転をしながら吹っ飛んでいく。

2~3回地面を跳ねた後、頭から雪に突き刺さったカズマは…そのまま動かなくなってしまった。

「・・・あ」

雪から二本の足が生えたカズマだったものに口を押えて我に返るウィズ。

「あ。じゃねぇ!?今、死んだぞガチで。アクアもどきに「また死んだの?」って言われたからね!?」

「……うわあああああ!よがっだああああ!私っ……わだじ」

「あ~また、アクアみたいな顔しやがって」

 

 

 

「うっ…うっ。よかったです。生きていたんですね」

「いや、死んだからね?残機の概念があったら間違いなくウィズの一撃で一機減ったからな?」

ウィズの溢れ出る涙を肩に感じながら、カズマは顔を引きつらせる。

カズマはウィズと出会ってすぐにドーム状の氷壁を作る指示を出した。

泣いているのか、喜んでいるのか、それとも怒っているのか…

出会った衝撃で感情をコントロールできなくなっているウィズに、戦闘の継続は困難と判断した。

カズマ達を中心とした半径10メートルの周囲に、上級魔法で作られた分厚い氷の壁が生まれていく。

空まで氷で覆いつくすと、ウィズは勢いよくカズマに抱き着いた。

わんわんと泣き始めた。

思い浮かんだ言葉を躊躇いなしにカズマにのべていく。

耳元でひたすら謝り、自己のワガママな行いを思い出すたびにウィズの抱き着く力は増した。

そんなウィズにカズマは、ただただ黙って固まる事しかできない。

いや、ちょっと両手の指をワキワキとさせている。

手の置きどころが見当たらないのだ。

元ヒキニートに気の利いた言葉など思い浮かぶわけもなく。

押し当てられる柔らかな圧力に動揺する事しか出来なかった。

 

 

「ウィズ!ちょっと離れてくれ。ほら、温まれば少しは落ち着くだろ?」

無垢なチェリーボーイの限界だ。

テンパりながらウィズの肩を掴み距離を置く。

離れざまにウィズに預けていた、腰に吊りさがるズタ袋に手を伸ばす。

マナタイトを一石いただき、ウィズの目の前に手の平を差し伸べた。

 

<ティンダー>

 

カズマは自慢げにハニカム。

高価なマナタイトを惜しげもなく初級魔法に費やし、手の平の上に火の玉を作りだしたのだ。

手の平の上に湧き上がる小さな炎は、ひと時の安らぎを生む。

ウィズのこわばった不安げな表情が、徐々にほぐれていく。

 

「あ、ありがとうございます」

ウィズはニコッと微笑むと、カズマの火に手をかざす。

しかし、その手を見たカズマは驚きで眼を見開いた。

 

 

「だいぶ、無茶をしたんだな・・・」

手の向こうがくっきりと見えるほどの薄くすすけた手。

カズマの目線はウィズの手から頭へと移り、そして足へと視線を滑らしていく。

時間が経った返り血が黒く変色をし、髪についた血が硬くなってウィズの麗しい髪がバサバサだ。

そして服は所々が破けてる。見るからに満身創痍を体現している。

 

「えへへ、カズマさんの為ですもの」

照れながら首を傾け、この程度の事「大したことじゃありません」と言わんばかりの笑顔を作る。

そんな健気なウィズにカズマは目頭が熱くなっていた。

腕でごしごしと目を擦るカズマ。

「くっ~、やっぱし俺のヒロインはウィズだよ。エリスさんも中々の高得点だったけど出会いの差かな?運命的な出会いのイベントは重要だよな」

「あはは…」

わけの分からない事を熱烈に語るカズマに、ウィズは苦笑した。

 

「ところでカズマさん。よく無事でしたね?てっきり体の半分は溶けているかと…」

ウィズは口元を手で覆い、考える仕草をとる。

それを見たカズマは荒んだ表情で、視線を明後日の方向に向け、口元を引きつらせた。

 

「まったく、無事じゃありませんよ。捕食で1回、ウィズに会うまでの間にカエルに轢かれて2回、半裸でうろついた為に凍死で1回、ウィズの一撃で1回。計5回もこの短時間で死んでいますからね。」

「やっぱり、さっきので死んでしまったんですね」

「俺とのレベル差をよく考えてくれよな。特に、この数時間でウィズのレベルは20レベルほど急成長しているんだし」

カズマの追求する様なジト目に、ウィズは気まずそうに視線を外す。

「まあ、今の俺は無限残機みたいなものだから幾ら死のうが平気だけど、ウィズはダメだからな?リッチーはリザレクションを使う事ができないんだから」

「勘違いするなよ?」と念をおして注意するカズマ。

「でも、アクアさんが居ないのにどうやって生き返ったんですか?」

「それは、この氷の向こう側にいる奴らを殲滅したら教えてやるよ」

カズマは、ニヤリと自慢げに口元をゆがめる。

ドームの外にいるカエルに目線を向けると、ウィズは驚きのあまり空いた口が塞がらない。

なにせ、ウィズはすでに討伐することを諦めていた。

今からカズマと共にテレポートを行おうと考えていたからだ。

 

「む、無茶ですよ。変異してからこのカエル達は私を襲ってくるんです。それに私も、あと2~3回爆裂魔法を使ったら…」

ウィズは悔しそうに薄くなった自分の手を見てうつむいた。だがカズマは自信たっぷりに言い放つ。

「大丈夫だ。魔力しか回復できないマナタイトや、その場しのぎの栄養剤より、もっと”いいモノ”がある。とりあえず、この壁を破壊するから少し下がってて」

「は、はい?」

不敵な笑みを浮かべるカズマにウィズは疑問符が次々と湧いて来る。

ウィズの不思議がる視線を無視して、壁際まで下がるカズマ達。すると、カズマは向かいの氷壁に向かって爆薬を投げつけた。

 

「カズマさん。それで…いいモノって?」

「ほら、そこにおびただしいほどの補給源があるだろ?」

氷に張り付くカエルを指さすカズマ。

「よく考えれば簡単な解決策だったんだよ。ドレインタッチで奪ってしまえばいい。魔力も体力も根こそぎ全部だ」

「えっ…でも、その案は最初に取りやめたじゃないですか。時間がかかり過ぎて厳しいからと」

そうなのだ。

ドレインタッチを使えるカズマ達は体力や魔力の補給源としてまず最初に、この案にたどり着いていた。

高価なマナタイトや栄養剤を使わずとも敵から奪えるリッチーの特有スキル。

敵を倒しながら魔力体力ともに全快を見込めるチート能力なのだ。

しかし、戦闘開始直前で群れの勢いと密集具合に断念したのである。

何故なら。

 

「あの巨体だと、どこから触っても吸収するとしたらかなりの時間がかかりますよ?」

ドレインタッチの大きな問題点。

それは心臓から離れれば離れるほど吸収時間がかかるのである。

全体的に丸くクマよりも大きいカエルから、吸収するとなると一匹につき2~3分の間かかると解ったのだ。

数万匹が密集するカエルの中で2~3分の間、無防備になる事は圧死に直結する。

戦う直前で案を断念するしかなかったのだ。

しかし、不敵な笑みを崩さないカズマ。

「ああ・・・普通に吸収したらな?だが…”皮膚が薄く心臓に近い部位があるだろ?それも長くいすわらなければ、この場の何処よりも安全だ”」

 

ガシ!

ウィズが少し息苦しさを感じるほど。

カズマはウィズを絶対に放さないとばかりに、力いっぱいに抱きしめた。

彼女は「えっ!?、あ、あの。いきなりどうしたんですか!?」」と顔を赤くして動揺を隠しきれない。

カズマはウィズの肩口で小声でささやく。

「…たぶん抵抗されるだろうなと思って」

カズマは更に小さく<ティンダー>とつぶやくと盛大に氷壁がはじけ飛んだ。

 

「発案者だし一緒に逝ってやるよ。俺は生臭くヌメヌメになったウィズも好きだぞ」

「・・・ウソですよね?」

イケボでささやくカズマと真っ青になるウィズ。

「いくぞウィズ!口の中は結構、生暖かくて癖になるぞ」

「えっ、ま、待って。い、いや~~~~~~~~~!!!」

その後、日が昇るまでリッチーの悲鳴と爆裂音が雪平原に響くのであった。

 

 

 

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