このヒロインにもルートを!※更新停止※ 作:来世から本気をだす
(夜明けか…)
背後を光に照らされて、輪郭が見えて来た黒い山々。
連なる山脈の隙間から、太陽がひょっこりと顔を覗かせて来る。
身体に染みる朝日は、この大地の夜闇を払い。暗闇に隠れていた激戦の爪痕をあらわにしていく。
俺は照らされた雪平原に、震えるような感動を覚えた。
見るも無残なクレーターまみれの雪平原。だが憎い奴ら(カエル)の影は何処にもない。
やったんだ、俺たちは…
あの数のカエルを全て倒したんだ!
痺れるような勝利の余韻。俺は思わず天を仰いだ。
そして、オレンジの朝焼けに向かって高らかに叫んでやった。
「よっしゃ~~~!!!」
◇
俺達の勝利だ!
身体がむず痒くなるような高揚感!
このやり場のない感情。とりあえず、あの太陽に向かってガッツポーズを決めてみる。
(なにバカみたいに、叫んでいるのよ)
チィ…モドキめ。
人がせっかく、いい気分で叫んでいるのに。
脳内に響く憎たらしい声。そして脳裏によぎる青髪。
アクアもどきだ。
虫でも見るかのような蔑んだジト目でみてきやがる。
(憎たらしいってなによ!)
(文句があるならお前のマスターとやらに言え。その姿で指摘されると無性に腹が立つんだ)
ほら見てみろ、お前をみていると知らず知らずの内に拳を握っているんだよ。
チラリと自分の右手を見てみれば、プルプルと震える拳が、今にも殴れと叫んでいる。
…気分を変えよう。
俺は今、最高に気分がいいのだ。こんな、どうでもいい事でイライラしていたら時間がもったいない。
俺は一息「ふぅ」と吐いて荒ぶる右拳を鎮めた。
(そんな事よりヒキニート。いつまでそんな馬鹿づらを晒しているつもり?)
(……仕方ねぇだろ、寒いんだよ)
確かに今の俺は凄くマヌケな姿である。半身がカエルの口内だ。
しかし、半裸で雪平原に突っ立っているわけにもいかないだろ?
一回、凍死もしているんだ。
寒さをしのぐために使った苦肉の策であるが、流石の俺も後悔している。
腐った生ごみのような臭いがするのだ。
はやくウィズにテレポートして貰おう。この鼻がひん曲がる粘液を洗い流したい。
◇
「ウィズ、そろそろアクセルに行こうぜ。風呂から上がったら、さっそくデートでも…」
俺は浮かれる気持ちのまま、背後にいる彼女に顔を向けてみたが。
次の瞬間。湧き上がる熱い高揚感が一瞬で冷めてしまった。
…しまった。
俺の口元の表情筋がヒクっき始める。笑って誤魔化せと言わんばかりに。
目に入ってくる情報の全てが「やらかした」と脳に訴えて来る。
バカに構っていたせいで、完全に失念していた。
振り向いた先。
そこにはカエルの粘液まみれで、ネロネロのテカテカなウィズが、ジト目をしながら睨んできていた。
見るからに・・・不機嫌そう。
(よく考えれば…そりゃ、カエルに喰われるなんて作戦は怒るよな…)
もはや、あと祭りでしかないが…どうしよう。
◇
「あの〜…ウィズ様?」
俺は爆破物の解体処理を挑むか如く、震える手をウィズに振ってみる。
俺は未だに、彼女から人として認識されているのであろうか?
やってしまった内容が内容だけに。
ゴミや虫などと同列の存在として、認識されている可能性がある。
今のウィズは未知だ。
会ってから、まだこんな表情の彼女を俺は知らない。
恐る恐る話しかけてみると、ウィズはいつもの甘く優しい声で返事をしてくれた。
「なんですか変態さん」
かはっ!?
今、目には見えない鋭利な刃が、心臓を貫いたぞ。
変態と言う言葉の刃が、俺の心をぶちぬいたのだ。
あまりのショックに視界が潤んできやがる。
しかし、そんな俺を彼女は天使の様な微笑みで見つめて来る。
その目には光(ハイライト)がない。
澄み切った深淵の黒だ。
「ウィズ様…そうとう怒っていらっしゃいます?」
「いえ、まったく。カズマさんがカエルの口の中で、さり気なく私の胸やお尻を触った事なんて、これぽっちも怒っていませんよ」
訪れる絶望の静寂。
たった数秒ではあるが、俺を絶望に叩き落すには充分すぎる時間だった。
(うわ…サイテー。ヒキニートって生まれてきた価値あるの?)
(不可抗力だ!)
脳裏に響いてくるモドキの軽蔑。
決して意図したわけで触った訳ではないのだ。
粘液でヌルッと滑っただけなのだ。
(でも、触れて嬉しかったんでしょ?)
(・・・・)
考えるな。考えるな。考えるな・・・
考えれば読まれる。弱みを握られる。今だけは悟りをひらけ俺!無になるんだ!!
(沈黙は肯定よ?このクズ)
(ちくしょ~~~!)
◇
「申し訳ございません」
「ふん、知りません」
全力の土下座だ。
俺はカエルの口から飛び出して、ウィズの眼前で雪に、何度も頭突きをかます。
必死に謝り倒しているのだが、彼女は俺を見てくれない。
明後日の方向にプィと顔を背けて、視線を合わせてくれないのだ。
(プププ…ウィズに嫌われてザマァないわね)
今、お前に構っている余裕はねぇんだよ。
こんだけ頑張ったのにウィズに、嫌われるとかあんまりだ!
まだウィズと甘い思い出の一つも作れてない。
始まる前に終わるなんて、そりゃねぇぜ!
(あなた…そばで見ているのが悲しくなるほど、頭が逝っているわね)
(うるさい!!)
こうなったらヤケだ!
俺は震える声で叫んだ。
「ウィズ、何でもするから許してください!」
「……何でも?」
そこで初めて、ウィズがこちらに顔を向けた。
「はい、焼き土下座でも何でもしますので!どうか…どうか、へっくしゅん!!」
(哀れね…本当に誠心誠意、気持ちを込めて謝っているの?)
くそ…このモドキめ。ニヤニヤと笑いやがって。
もう一回、言うけどな…寒いんだよ。
痛みを通り越して、手足の感覚がなくなって来た。
でも、頑張れ俺!
もはや、俺に残されたカードは誠心誠意を示すほかない。
文字道理、死ぬ気で謝り倒すしかないんだ!
「ウィズ、申し訳ございませんでした!!」
「…ばか」
えっ?ウィズが…言ったのか?
ボソリと声が聞こえた。聞き間違えじゃないかと思うほど小さな声で。
俺は土下座しながらチラリと彼女の顔をのぞいてみれば、ブスっとはしているものの、先ほどとは違い、どことなく優しさが感じられる。
「はぁ、では…記憶が戻っても時々でいいので、お店を手伝ってください」
「そ、そんなことでいいのか!?」
俺は飛び跳ねる様に立ち上がり、ウィズの両手を握りこむ。
彼女のわずかに赤らんだ頬。
ウィズと一緒に居られるなんて願ったり叶ったりだ!
俺は再び湧いてくる高揚感に身震いしていると、彼女は不安そうに上目遣いで、俺の顔を覗き込んで来た。
「めぐみんさんに何を言われても、必ず来てくださいね?」
「OK!言われなくても毎日、出社するさ!」
「絶対ですよ?約束ですからね?」
「任せとけ!」
◇
(あら~カズマさんたら、そんな安受けしちゃっていいのかしら?)
あぁ?どう言う事だよ?
ニンマリと笑みを浮かべているモドキ。
いちいちムカつくな…
(別に~困るのはカズマさんなわけだし面白そうだから、これからも近くでじっくり観察させてもらうわ)
はいはい。そうですか。ご自由にどうぞ。
モドキには、出来る限りなげやりに言い放つ。
俺のプライベート剥奪宣言をしてくるのだから、これぐらいしないと気が収まらない。
いざとなれば全力でR18のどエロい事を考えてやろうか。
(ちょっと、やめなさいよね!?)
慌てふためくモドキ。嫌なら覗くな。
(ヒキニートの癖に…それに私に対する感謝の念が足りないんじゃないの!?私のおかげで何度も生き返れているんだから、もっと感謝しなさいよね?)
…まぁ、確かにコイツ無しでは、成しえる事の出来なかった偉業だ。
感謝の言葉ぐらい考えてやってもいいか。う~ん…あざっす!
(踏みつけられたいの!)
じゃ…さんきゅー
(もっと崇めなさいよ!!)
贅沢な奴だ。
俺の精一杯の言葉なのに。
それじゃ、なんて言えば言いんだ?
(それはもちろん、〇〇さま~~って!…アレ?)
…おい。確かカエルを殲滅したら、喋れるようになるんじゃなかったのか?
(そのはずなんだけど…生き残りがまだいるのかしら…)
おいおい…流石に、これ以上は無理だぞ。
もう手足に力がはいらない。立っているのがやっとだ。
そう、思っていると───
殺気…?
肌がビリつくような違和感。
俺は念のために発動させていた敵感知スキルに、さらに魔力を注ぐ。
すると、先ほどまでなかった無数の反応。いつのまにか俺達を取り囲んでいたのだ。
しかし、周りを見渡しても、どこにも対象が見当たらない。
どう言う事だ?
「カズマさん、上です!」
ウィズが勢いよく空に向かって指をさす。
俺は指の先を追うように視線を向けると、そこには無数のワイバーンが俺たちの頭上を旋回していたのだ。
そして群れの中の一匹に、敵感知スキルが激しく反応している。
この反応。無作為の捕食行動をしていた、カエルとは違う。
俺達に向けられた明確な敵意だ。
「また邪魔をしてくれましたね。今度こそ許しませんよ!」
一回り大きいワイバーンの背を、千里眼スキルで見ると…
そこには不健康そうな小太りのおっさんが、跨っていたのであった。
「かなり拍子抜けなんだけど…ウィズ…知り合い?」
「さぁ…?」
<朝焼けの勝利、新たなる影(おっさん)>