このヒロインにもルートを!※更新停止※ 作:来世から本気をだす
◇
「アクセルに引き続き、また我々の邪魔をする気ですか!」
オレンジの空に赤、黒、黄色。
空をひしめき旋回する、さまざまなワイバーン。
体長が3メートルぐらいの個体が大半を占める中、一回り大きい一匹の背から、小太りのおっさんが、なにかを叫んできている。見るからに小物そうなおっさん。
今にも血管が切れそうなほどに、顔を真っ赤にして脂ぎった額に青筋を立てている。
”また”ってなんだよ…?
俺はここ2~3日の記憶しかないし、頼りのウィズも隣で首を傾けて「う~ん」と唸っている。
「ウィズ?なにか心当たりはあるか?」
「いえ、残念ながら。」
はぁ。案の定か…
情報なしだ。俺はため息を一つ吐き捨てて、おっさんを見る。
今の状況と情報を天秤にかけてみた。
敵感知スキルで、すでに敵意がある事は分かっている。
でも、理由が分からない。
状況だけみれば、ウィズは立っているだけで息が切れている。逃げるのが最適解だ。
だが、現れたタイミングが、タイミングだ。
こんな朝方の辺境の地で偶然などありえない。狙ってだろう。
どうする?
このまま未知の奴に狙われ続けられるリスク。素直に逃げる訳にもいかないんじゃないだろうか?
数秒の自問自答の末に、俺は都合のよい選択を選んだ。
(仕方がない)
俺は空を飛ぶワイバーンの背に乗ったおっさんに向けて、力のかぎり大声で叫んでやった。
「おっさん、とりあえず降りて来いよ!そんなに離れていたら話すのが大変だろ~」
「お、お、おっさんだと!?」
おっさんは、プルプルと小刻みに体を震わせ、顔を怒りに染めあげていく。
よしよし…そのまま降りてこい。
頭上を取られたまま戦闘なんて、始めてたまるもんかよ。
おっさんは、ワイバーンの背で跨っていた重そうな腰を浮かせ、今にも殴りかかって来そうになっている。俺の口車に乗る程度の雑魚だな。
俺は”戦闘”を選んだ。
見るからに小物そうなおっさんだ。
こちらには疲弊していても、リッチーのウィズがいる。
勝って情報を得れればよし。負けそうならテレポートで即時離脱だ。
交戦すれば手掛かりの一つぐらいは手に入るだろう。
俺は内心でほくそ笑みながら、小太りのおっさんに口撃かましていく。
だが、この選択は間違っていたかもしれない。
おっさんの怒り方が、俺の予想を遥かに超えていたのだ。
「私はおっさんなどではな~い!!」
とうとうワイバーンの背に立ち上がり、激怒するおっさん。
体から吹き上がる魔力。身体は膨らみ始め、手足がその膨隆に合わせて伸び始める。
筋肉はさらに盛り上がり、服は弾け飛ぶ。おっさんの体が変質していくのと同時に、皮膚も徐々に緑色に染まり始めた。そして地味に体の変化につれて、敵感知スキルの反応も上昇し始めている。
なんだこれ。
これでは……まるでモンスターじゃねぇか?
一通りの変化を終えるとワイバーンから飛び降り、豪快に俺達の目の前に着地した。
そして大声で名乗りあげてくる。
「私はダニエル様直属の部下。トロールエリートのチャーリーだ!!」
獣の咆哮のような名乗りあげに俺は耳が痛くなる。
しかし、ウィズは目をパチクリさせながら、何か納得したようにトロールのチャーリに話しかけた。
「ダニエルって…もしかして、トロールロードのダニエルさんですか?」
「いかにも、そのダニエル様だ!」
胸を張りながら、上司の名を誇らしげに語るトロール。
なんだ…ウィズは知り合いなのか。なら、どうにか話し合いで解決できねぇかな…
そんな疲弊しきった身体の甘いささやきに、心が揺れ動いたが。
「ウィズ、知り合いなら戦闘は…って、おい!?」
俺の気の抜けた返事を待たず、ウィズは右手を突き出し、膨大な魔力を集め始めていた。戦闘態勢を取り始めているのだ。無茶だ!
「ウィズ!そんな上級魔術はよせ。身体がもたないぞ!?」
俺は急いで彼女の突き出した、右手を押さえる。
幾らドレインタッチで回復したとはいえ、先ほどまでの激闘の後で上級魔術は厳しすぎる。
それでもウィズの眼はチャーリーから離れない。
そして、手に触れて気づく。
いつの間にか重心が落ちているのだ。
武人の袴は、足さばきや重心の位置を隠す為のものだと言う説を、ゲームで聞いた事があったが、目の前で実践されると肝が冷える。
手から感じる感触。
歴戦のリッチーは風ではためく、黒いローブの内では既に戦闘を開始していたのだ。
なにが来ようとも瞬時に、飛びのける体制を取っているのだ。
そんな百戦錬磨のリッチーに、それほどの危機感を持たせる相手なのか?
脳裏に鳴り響く警報音。早まっていく心臓の鼓動がうるさく感じる。
俺もウィズに合わせるように、ゆっくりと視線を緑の巨体に目を向けた。
するとウィズは俺の耳元で静かに呟いた。
「気を付けてくださいカズマさん。彼は元魔王軍の一員です」
「魔王軍!?」
「はい。それも、かなりの武闘派です」
俺達の発言を聞いてか、トロールはニタッと不気味な笑みを浮かべた。
◇
「そこのリッチー。魔王軍にしては、わかっているではないか。」
トロールは、醜悪な笑みを浮かべ、品定めするようにジロジロと見て来る。
戦うつもりだろうが。
俺の中では次の手が、すでに決まっている。
逃げの一手だ。
魔王軍あいてに疲弊した俺達では、あまりにも分が悪い。
「ウィズ、テレポートの準備をしてくれないか?」
俺はトロールに聞かれないように口元を手で隠して、ウィズの耳元に囁きかける。
しかし、彼女はトロールを睨みつけながら渋い顔をする。
「すみません。テレポートをするのは辞めといた方がいいです」
俺はウィズの言葉に動揺して数秒、頭が真っ白になった。
予想もしない。信じられない言葉が返って来た。
トロールに聞かれるのも承知の上で、語気を強めて彼女に問いかける。
「なんで!?」
すると、彼女は言いにくそうに語りだした。
「間合いが近すぎるんです。テレポートは魔力の消費量が多いうえに、詠唱が短いほど大した距離が稼げません。あわせて、この隠れる所のない雪平原では意味を成しません。」
彼女は言い切ると、悔しそうに歯を噛みしめている。
なんてこった…俺の失策だ。
おっさんだと、見くびって”戦えるかも”と思ったのが、そもそもの間違いだったか。
お互いが攻防できる間合いに呼び込んでしまった。
チャーリーは、ほくそ笑みながらニチャと喋りかけて来る。
「さぁ早くテレポートをしたらどうです?」
あのデブ、あからさまに催促をしてきやがって…
疲労困憊の俺達。頭上はワイバーンの群れ。遮蔽物のない雪平原。
あまりにも奴らにとって都合がよすぎる。
日が昇る、今のいままで姿を現さなかったのも。
どこかから、カエルとの戦闘で疲弊していく俺達を見物していたに違いない。
◇
「ヌハハハ、逃げないのですか?なら、こちらから<カースド・クリスタル・プリズン>ぬを!?いきなり不意打ちですか!」
チャーリーが話し終える前に、ウィズが放つ上級魔法。
俺にプライドなんて大層なものは無い。不意打ちでもなんでもしてやるよ。
周囲が一瞬で氷の針山へと変貌する。
等身大の氷柱が、いくつも地面から生え、後ろに飛びのくチャーリー。
でも、この氷は…
「っつ。ナメられたものですね…こんな、やわな氷では私に傷一つ付けられませんよ!」
チャーリーは涼しい顔をして、片手で次々と氷柱をへし折っていく。
ウィズが作った氷は大して魔力が込められていない、見た目だけの氷。見せかけなのだ。
(はぁ…はぁ…ありがとうございますカズマさん。潜伏スキルに助けられました)
(別に構わねぇよ。この状況を作り出したのも、俺の判断ミスのせいだしな)
肩で息をするウィズ。彼女の表情からして意図的に、見せかけの氷にしたのではないと解る。
たぶん、全力で魔力を込めた結果だ。
俺は彼女が魔術を放った瞬間に、すぐに潜伏スキルを発動させて、俺達は近くに出来た氷柱の影に隠れる事に成功した。成功したはいいものの…
(ウィズ。テレポートは…)
(ごめんなさい。魔力を集積させると、きっと気づかれます。)
だよな…。あのデブとの距離は、たかだか3~4メートル。
気配を遮断してるとは言え、魔術など唱えようものならば一瞬で気づかれる。
たとえ俺が、おとりになってウィズが詠唱を終える時間を稼ごうとしても、あのデブがウィズの魔術から飛びのいたスピードを鑑みれば、顔を出した瞬間に捕まって、首の骨を折られるのが関の山だろう…
今の俺達は息を殺して、氷柱を転々とする事しか出来ない。
どうする。どうしたらいい。どうやったら乗り越えられる。
風邪を引いたようにズキズキと脳が痛み出す。
モドキにも言われた、おかしくなっている頭。
サムイド―に来てから無駄に冴える思考を、より鋭利に働かせる。
なにかないのか?
あのデブは元魔王軍だ。
一挙手一投足を追え。話した会話を思いだせ!
考えなしに襲ってくるモンスターとは一味、違うんだ。
起死回生の策を練らねば、ここで間違いなく死ぬ。
なにか…揺さぶりをかけられないのか?
「ウィズ。チャーリーの弱点とか知らないか?」
俺はウィズがすぐに戦闘態勢に移った事を思い出す。
彼女は”ダニエル”と言う名を聞いた瞬間から、すぐに構えた。
そして元魔王軍だと知っていた。
今は、少しでもチャーリーの情報が欲しい。しかし、ウィズは悔しそうに顔をしかめる。
「いえ…トロール、一派は名声を挙げる前に城を去ったので…わかる事は目立った強さが無い分、特に弱点もない方々と言う事しか…」
チィ…状況的には最悪の相手だな。
「そもそも、なぜ俺達を狙う。元とは言えウィズと同僚だろ?」
初見は小物と感じたが、俺達と対峙する姿は、そこら辺の雑魚とは違う。
そんな実力者が、なんで魔王軍に務めていないんだ?
ふと思った疑問を口にするとウィズはトロールに目を配りながら、気まずそうに答えた。
「それは…私が魔王軍に所属してるからだと思います」
「うん?どお言う事だ」
「ダニエルさん率いるトロール一派はクビにされた事を恨んでいるんです。でも、仕方がないんですよ。”踊り子の追っかけ”の為に軍事費を無断にしようしたので…」
「はぁ!?」
「カズマさん、シィー!」
口元に人差し指を立てて、俺の声音を下げる様に言ってくるウィズ。
俺は開いた口が塞がらなかった。
今、ウィズから信じられねぇ単語が出て来たぞ。踊り子の追っかけ?
「踊り子って…儀式とか祭りごとで踊る、あの踊り子の事か?」
「そうです。トロール一派は無類の踊り子好きでして、”投げ銭?”と言うものに使い込んだらしく一派ごとクビになったのです」
「馬鹿どもじゃねぇか!!」
「カズマさん、声が大きいです!?」
慌てて俺の口を押えて来る彼女。
あのデブ…横領じゃねぇか。それも投げ銭かよ!?
俺は自然とチャーリーを見る視線が、鋭く冷たくなった気がする。そんな俺の表情の変化にウィズは苦笑した。
「どこに居るか分かりませんが、聞こえているぞ!ゴミみたいなアイテムを、大量に買い込んで城の宝物庫を空にさせたあげく、魔王に城から追い出された、そこのリッチーだけには言われたくないわ!」
(・・・ウィ~ズ?)
俺はチャーリーに向けていた、冷たい眼のまま視線を隣にスライドする。
(あはは…)
そこには滝のように汗を流しながら。俺から顔をそらすポンコツリッチーがいた。
とりあえず…彼女の逃げた視線の先に、満面の笑みで覗き込んでみる。
(生きて帰れたら説教だからな?)
(はぅ!?)
涙目になる彼女。バニルほどの奴が手を焼く理由のも納得しそうだ・・・
◇
「我々は魔王に復讐する。そのためにキサマ達は邪魔なのだ!」
つんざくような怒鳴り声。大して距離を取れてないせいで、耳がキンキンしてきやがる。
(くそ!?魔王軍に恨みがあるなら、俺達なんか無視して魔王城に殴り込みに行けばいいのに…)
いや、もしかして…魔王城に入れないのか?
俺は一瞬、隣のウィズに目を配る。ポカンと「何も分かりませんよ?」と言いたげな裏表のない無垢な表情を浮かべている彼女。
狙いはウィズか?
そう言えば彼女は、魔王城にはウィズを含めた幹部たちによる障壁が張られているって言っていた。やっかいな奴に目をつけられたもんだな。
俺はウィズの肩に手を置き同情の眼差しを送る。彼女は魔王軍なんて殆ど足を洗っているのに…「やっぱし…私が口を滑らせて魔王さんに、すぱちゃの事を伝えてしまったのが不味かったんですかね」同情撤回。それは十分に狙われる理由だわ。
自然と彼女の肩に置いていた手に、力が籠ってしまう。
(か、かずまさん…目が怖いです)
◇
「うぉぉぉおおお!!」
(な、なんだ!?)
手当たり次第に周りの氷柱を砕いていたチャーリーが、はち切れんばかりの咆哮を叫んだのだ。
そして怒りに呼応して激しくなっていた身体をピタリと止める。
「これでは埒があきませんね…」
冷静になったような口ぶり。しかし、奴の眼をみれば怒りが更に上昇している事がよくわかる。血走って目が真っ赤だ。
『仕方がありませんね。隠れる所など無くしてしまいましょう』
(これは!?)
チャーリーから湧き上がる魔力に呼応するように、大地に描かれていく無数の魔法陣。
これには見覚えがある。テレポートの魔法陣だ。
そして陣から現れたのは忌まわしき…
「「カエル!?」」
ついウィズとハモってしまった。
今、一番見たくない生物の登場だ。
ギョロっとした眼光にヌメヌメしてそうな黄色い巨体。
現れたのは俺を喰った忌まわしき黄色いカエルであった。
なんで、魔法陣からカエルが…まさか?
「おい…そこのデブ」
「ようやく姿を見せましたか…」
ニタッと笑みを浮かべるトロール。当然だろ。
今この瞬間にも秒単位で20匹から40匹。40匹から80匹へと増していくカエル。
隠れているだけ時間がもったいない。一か八かに賭けるしかなくなった。
俺は潜伏スキルを解き矢をつがえる。ウィズにもマナタイトを渡し次の一撃に賭ける様に伝えた。
「おまえが裏でカエルを手引きをしていたのか?」
俺は声色を出来るだけ下げ威圧を込めて、あのデブに言い放つ。
怪しいとは思っていたが、魔法陣からカエルが出てきた段階で、ほぼ黒なのは間違いない。
この騒動、奴の仕業か。
そうすると”また”と言っていた意味も、アクセル襲撃の事だな?
俺は矢尻の先を奴の眉間にへと構える。爆薬は多めに括り付けた。
決着の時だ。
絶対に外してなる物かと、より手に力が籠る。
しかし、チャーリーは顔を真っ赤にしながら信じられない事を告げて来た。
『手引きだと?ふざけた事をぬかすな魔王の手先め』
◇
「前回、アクセルに引き続き我々から、カエルの指揮権を奪って、町を襲わさせているのは分かっているんだぞ!」
「はぁ?どお言うことだ?」
今にも放たれそうだった、張り詰めた弦が徐々に力を失っていく。
なに言っているんだコイツ…
となりのウィズも集めていた魔力を消散させて、目が点になっていた。
すると、頼んでもいないのにデブは語り始める。
「この”カエル型キメラ”は我々のとっておき。密かに戦力を増やすため、人を襲わない様に高い金を払って、草食化させた特注品なのだ!なのに…キサマらのせいで、カエルが村に向かう!」
「ちょ、ちょっとまて!」
キメラだと!?でも、しかし…言われてみると合点がいく。
コロコロと変わる体色。変温動物なのに寒さをものともしない。伸びる舌。
ただのカエルでは無いと、思っていたがカエルですらなかったのか。
じゃあ、キメラの口の中に飛び込んでいたのか!?
最悪すぎる。となりのウィズも目からハイライトが消え視点が定まっていない。
すぐにウィズを正気に戻させたい所だが、先に奴に言っとかなければならない事がある。
「俺達がカエルを使って、村を襲わせるわけないだろ!」
当然の事だが、俺やウィズに村を襲わせる動機は無い。そして利点もない。
しかし、チャーリーは鼻で笑い。蔑んだ目で俺達を見て来る。
「嘘つけ、貴様たちが持つ尋常じゃないほどのマナタイトが何よりもの証拠だ。本来、このカエルはダニエル様の指示か、国家レベルの膨大な魔力反応に誘発されない限り人類を襲わないはずなのだ」
「あっ…だから、あの時カズマさんが黄色いカエルに食べられたんですね」
「納得してる場合か!?」
ウィズは未だ放心しながら、乾いた笑みを浮かべている。
だが、現実逃避をしている場合じゃない。状況はかなり不味くなったぞ。
たった今、ウィズはマナタイトを…
<ゲコ、ゲェコ、ゲェ!!!>
始まる大合唱。
俺達を取り囲むように魔法陣から現れていたカエルは、緑から黄色。黄色から赤へと変化していく。
ボコボコと肉体を変化させ獣のように変化する個体。上空のワイバーンの様に翼が生え始める個体。象ほどの巨体に体長が膨らむ個体。
なにより不味いのは、一同そろいも揃って、牙が生えている。
これでは、ドレインタッチは使えない。ヤバい!?
そんな窮地の俺達をみてか、チャーリーは勝ちを確信したのだろう。
腹立つほどの笑みを浮かべてくる。
「ふん。捨て駒扱いのキサマらには、説明されてないんでしょうが…おおかた、我々の脅威に怖気づいた魔王が人類と我々を争わせて、漁夫の利を狙うつもりだったのでしょう」
そしてチャーリーは一言、俺達に指をさしながら呟く。
「行け」