このヒロインにもルートを!※更新停止※ 作:来世から本気をだす
深く考えずに読んでいただけると、ありがたいです。
◇手紙◇
・
・・
・・・
みんな元気か?
先に帰ってもらってから、そろそろ一週間が経つよな。
俺は元気だぜ。
クレアに怒鳴られたり、レインに説教されたりしながらも、アイリス達と毎日、慌ただしい日々を過ごしている。
そこで突然のことで申し訳ないのだが、俺は城に残ることにしたよ。
アイリスには、俺が必要だ。
幼いながらも、国の第一王女として重い責務を負っている彼女を支えたい。
本音を言えばもっと、あの子を甘やかしたい。
だから、この手紙をもってパーティーを解散したいと思う。
今まで色々と、助かったぜ!
貴族のダクネスにとっては少額かもしれないが、餞別として、俺の荷物や部屋に残してある幾ばくかの財産、屋敷などを自由に使ってもらって構わない。
最弱職である俺がいなくても、お前たちならきっと魔王を倒せると、陰ながら祈っている。
サトウ カズマより
・・・
・・
・
◇駄女神◇
「カズマさん、記憶喪失なの!!」
「正確には日本で死んでからの記憶がないだがな…」
眼を輝かせ喰いつき気味に問いかけて来るアクア。
「じゃあ…手紙の事は…」
「手紙?悪いがウィズに助けて貰った時より前の事は、な~んにも思いだせないんだ…って、おいコラ。なんで、そんなに嬉しそうなんだ?」
「えっ!?いや、そ、そんな顔してないわよ!<ゴクゴク!>ぷは~、美味しい~!!」
チィ、誤魔化しやがって。それに昼間から酒かよ…それも一升瓶をラッパのみ。一体どこから取り出したことやら…
魔道具店の裏庭に設置された、ウッドデッキに腰をかけ出前をつつく俺達。
あの後、モドキの再三のお願いに屈した俺はアクアを水槽の中から引き揚げた。
決め手は「ちゃんと私が更生させるから!?」の一言である。
「モドキ…本当にコイツを真人間…いや、真女神にすることは出来るのか?さっきまで入れ替わりに乗り気だったじゃねぇか?」
モドキは俺の言葉に、げんなりと暗い表情をする。
「それはマスターに反省してもらうための冗談よ…このまま牢屋で5年も過ごしてみなさい。女神としての成績は0だわ。その状態でカズマさんが病死でもしたら…辺境世界に飛ばされるのは間違いなし。そしてマスターだけならまだしも、今の主従契約状態じゃ私まで…」
おいおい、持った箸が震えているぞ…。
虚ろな目で青ざめていくモドキ。水槽に落ちてからの慌てようから不思議に思ったが、なるほど。保身のためと言うわけか。
「ねぇねぇ、ここのお店美味しいでしょ?お酒とよく合うのよ~」
「酒と合うかどうかまでは、飲んでないから解らないけど、確かに美味しいな。でも…ちょっと、しょっぱくないか?」
「私も同じく、しょっぱく感じるわ…」
「それは、あなた達が泣きながら食べているからでしょ」
お前のだらしなさが目に染みるんだよ…
箸を止めジト目でみてくるアクア。しかし、それも数秒の事。
頬に溜まったご飯をゴクリと飲み込むと、再び海鮮ちらしをかき込んでいく。
この野郎…カツカツと腹立つくらい音を立てながら旨そう喰いやがって…
「あのな、アクア。反省しているのか?」
アクアは、ラベルが張られていない一升瓶を、軽快に煽りながら。
「してるしてる~。ねぇカズマさん。1から18のうち、どの数字が好き?」
「はぁ?そうだな…「カズマさん、答えないで」」
アクアとの会話を遮ってくるモドキ。いきなり、どうしたんだ?
「玄武!なに邪魔するのよ!?」
「マスター…私は貴女と、ほとんど同じなのよ?今、考えていることぐらい余裕で読めるわ。馬よね?」
「チィ…じゃあ、赤白青黄色「船よね?」
「邪魔しないでよ!?歩く大金が目の前にいるのよ!?」
アクアは眼を¥にして血相をかく。
そんなアクアにモドキは盛大に頭をかき、天を仰いだ。
「あぁ~もう、腐りすぎよ!?私と別れてから何があったの!?」
「…玄武。あなたは決して賭け事を覚えちゃダメよ。綺麗なあの頃の私でいて」
「「なにがあった====!!」」
眼のハイライトが消えるアクア。本当に何があったんだよ、コイツ…
◇自然神◇
「えっ、ウィズの事が好きになったの?辞めときなさい。あの子はリッチーよ?ナメクジの親戚みたいな存在よ。カズマさんって、そういうキワモノが好物だっけ?」
この野郎…素っとんきょなマヌケずらで、なに当たり前のようにウィズを愚弄しやがる。
「やっぱり、牢屋にぶち込むはお前…」
「きゃ、玄武ちゃん。助けて!?」
俺が握り拳を作りボキボキと鳴らすと、アクアはモドキの背後に逃げ込んだ。
どうやら、この駄女神は自分の立場が分かってないようだ。骨の髄まで教え込んでやろう。
俺は席を立ち、モドキの背後に隠れるアクアに近づこうとすると、モドキは片手で俺とアクアの間を遮って来た。
「カズマさん…諦めて。この世界の人間に与する神様は、これが通常の反応よ。アンデットとかは問答無用で抹殺対象なの」
「なっ!?」
「そうよそうよ!私の恩情で見逃してあげているんだからね?カズマさんはリッチーに現を抜かしている場合じゃないの。はやく魔王を倒して貰わないと私、天界に帰れないじゃない!?」
アクアは、虎の威を借りた猫のように、玄武を盾にしながらにゃーにゃ―と騒ぎ立てる。
コイツの調教は後にして…だいぶ参った事になったな。
これではウィズとの式を挙げる事が出来ない。
リッチーのウィズが教会など言ったら、即刻浄化される。
そう思って元パーティーのアクアを上手く丸めこんで、形だけでも結婚式を挙げる予定だったのに…。
「カズマさん…付き合ってもない相手との結婚式を考えるのは、流石の私もどうかと思うわよ?」
「あっ、モドキ。また覗きやがったな?」
「そんな、気持ち悪い色ボケ顔を晒していたら見るに決まっているでしょ。変態」
「玄武ちゃん。それ、ホント?ひくわー。マジでひくわー、近寄らないでクズマさん」
こ、こいつら…
ジト目で汚物をみる様な眼差しをする二人。
こんな時だけ、同じリアクションしやがって。
自然と俺の口角は引きつり、奥歯に力が籠る。
勝手に人の頭を覗いておいて、その言いようはないんじゃなかろうか?
しかし、まいったな…
これでは世間一般に俺とウィズが受け入れてもらうには時間がかかりそうだ。
「カズマさんの中では、ウィズと結ばれる事が決定事項なのね…呆れるわ、まぁ。そんなカズマさんに朗報よ。この自然神たる私は応援してあげるわ。」
嘘だろ…。思わぬ援軍が現れた。
満面の笑みでモドキは、キラキラと後光をだす。
ことあるごとに俺とウィズの会話に横やりを入れて来るから、てっきり敵かと思っていたが…今は仏様に見える。
「カズマさん、仏様じゃなく神よ、神!」
「玄武、なにを言っているの!?カズマさんには、私の敬虔な信徒になってもらう予定があるのよ。アクシズ教を国教にしてもらう約束があるの!?<チン!>カズマさん…覚えていないでしょうけど貴方は私に生涯を捧げてくれたの。<チン!>必ず魔王を倒して女神アクアの威光を世界中に知らしめるって。<チン!>…その魔道具、壊れているわね」
「壊れているのは、お前の脳みそだ」
「うわ~~一ミリも信じてくれない…こんな魔道具と数々の冒険を共にした仲間の言葉!どちらが正しいかなんて考えるまでもなく「魔道具だな」なんでよ!?」
ほんと、この場にウソ発見器があって、よかったぜ…
元パーティーメンバーなのに何一つ信用ならん。
「はぁ…話を戻すわよ、カズマさん?私はこんな姿でも自然神よ。ある日…突然、吹いた風が誰かの追い風となり誰かの向かい風になる様に、時と場合によって人類の味方となり魔王軍の味方にもなる。基本的に私たちの行動は、どこかの陣営に与する事はないわ。あるとすれば世界の意志。より長く存続させようとするね。だから世界を壊そうとする者に天災を与え、守ろうとするものにちょっとした、ご褒美…鉱石とかを与えるぐらいしか本来はしないの」
ふ~ん…つまり、中立的な立場と言う事か…。
慈愛に満ちた表情で話すモドキ、後ろで飲むことを辞めないパチモン女神に説教をしてもらいたいものだ。…うん?
「この前のカエルの時は助けてくれたよな?あれは、いいのか?」
「ホントはダメ…と言うか人間と魔物の小競り合いとか、本来は興味が湧かないはずなの。世界を大きく変動させるほどの力を持つ立場ゆえに、自然神や大妖精は介入しないように個人的な感情が、希薄にされているのよ。だけど、ダメマスターのせいで私は異例の一つになったわ」
「だれがダメマスターですって!?」
「ふん。世界を背負っている代表的な立場が、ガチャ感覚で神器を使っていいわけないでしょ」
「うぐ…」
怒りに任せてモドキの肩を揺さぶったアクアも、モドキの追及の眼に肩をすくめてしまった。
「マスターのせいで、空っぽに近い器に人格と呼べるものが入ったわ。いつ治るのか。いつ消えるのかも解らない現象だけど、こんな機会だから人の神様らしい事をしてみようかな?って思っているの。そこでマスターの更生に手伝ってくれるなら、貴方の恋路を祝福してあげるわ」
「なぁ、アクア…おまえがモドキでしたってオチは…「あるわけないでしょ、私になにか不満!?」」
いや…不満だらけなんだが。アクアは犬歯をみせ、威嚇してくる。
「しかし…アクアの更生か…無理じゃね?」
「そうね、そもそもこの完璧な女神たるアクア様に治す所なんてなにも<チン!チン!チン!>壊されたいの、この不良品!<チン!>」
尋常でない鳴り方をするベル。まるで目覚ましだな。このベル、とんでもなく高性能だよ。
そんなベルの音に呆れるモドキは両手を組み、祈りをささげる様に俺を見つめてくる。
「カズマさん…お願い!マスターの更生に付き合って。このまま名も知らぬ辺境の世界にマスターともども左遷されるのなんてあんまりよ!」
本音はそっちだろうな…。
明らかにモドキ一人では、アクアを御しきれてない。
何時もの俺ならアクアの更生など、悩む案件だが…この取引は俺に充分なリターンがある。
なにせ、俺達の中を祝福してくれる神はモドキぐらいしか居ないだろう…
俺はつい、ニヤケそうになる口元を必死に抑え。
「しょうがねぇな…忘れないでくれよ、その条件。でもモドキは運が良い、俺はダメ人間の扱いには熟知しているからな!」
「ホント!?ありがとう、カズマさん!いや~私ひとりじゃ、この腐りきったマスターをどうやって真面目にさせようか泣きそうな所だったのよ」
「あんた達…本人目の前にして言うセリフじゃないわよ…」
◇警報◇
「ふぅ、一時はどうなるかと思ったけど、カズマさんの協力が得られて、ひと安心だわ」
胸を撫でおろすモドキ。
アクアは、そんなモドキを見てつまらなそうに酒瓶に口を付ける。
「なによ、なによ…<ヒック!>ちょっと失敗しただけじゃない。<ヒック!>ちょっとお金を借りただけじゃない。いつか返すつもりだったのよ<ヒック!>」
「マスター、飲み過ぎよ。そんなに飲んだら、また自分の吐瀉物の中で目を覚ます事になるわよ」
モドキは呆れながら、アクアを諭す。まるで姉妹のようだ。
「嫌よ、もう…飲まないとやってられないのよ!飲まないと手がまた震えてきそうで…」
「アル中じゃねぇか、馬鹿」
アクアは眼のハイライトが消え、虚ろに酒瓶を抱え込む。
「これは更生にかなりの時間が必要そうね…さぁ、マスター。まずは当面の金策を考えなくちゃ」
「そうだぞ、アクア。今後は俺の為に、馬車馬の如く真面目にコツコツと働いてお金を返して貰わないとな」
「あ~ん!?カズマさんは私に協力してくれないし、うるさい玄武は帰ってくるし、今日は最悪よ、うぇ~ん!」
地面を転げまわるアクア。
その姿はおもちゃを買ってもらえない子供と一緒だ。
どうにも、この駄々をこねるアクアをみると首が痛くなってくる。
なにかトラウマでもあるのだろうか…
「不公平よ…こんなニートが溢れんばかりの幸運を持っているなんて。その気になれば大金持ちになれるくせに!?」
「あのな…運って言うのは巡りものなんだ。そんな急にお金が降って湧いてくる事なんて…」
『緊急警報!緊急警報!!領内にサトウ カズマを確認。ただちに確保せよ!繰り返す。直ちに確保せよ!!』
街中に鳴り響く、警報アナウンス。
「「なにしたの、カズマさん…」」
「しらねぇよ…記憶を失ったって今さっきいっただろ…」
二人の視線が一斉に俺に集まる。いやいや…俺が一番に知りたいからな?
疑心感たっぷりな瞳を向けられても何も知らないからな?
『なお、この依頼は王家。シンフォニア家、ダスティネス家からの依頼である。確保した者には報酬20億エリスと今年度の納税免除の権利が支給されます。野郎ども狩りの時間だ!!』
「マジで何をやらかした“前の俺~~~”!!!」
はっ!?
今、とてつもなく冷たい視線を感じた。
狡猾に俺を仕留めようとする、悪魔のような視線を感じたぞ。
だが、その視線の持ち主は…
「ねぇ、カズマさん?」
「な、なんだ…アクア?目が怖いぞ。まるで獲物を狩る前の獅子のようじゃないか…」
「…ごめんね?」
『みなさん!!ここにカズマさんが居るわよ~~~!』
「この駄女神が!?」
町に響き渡る野太い野郎どもの雄たけびが、徐々に近づいてくる。
あぁ…俺の平穏はいつ訪れるんだ…
◇サイド モドキ◇
(結局、カズマさんってトラブルに巻き込まれる運命なのね…)
「はぁ」と浅いため息を一つ吐くモドキ。
緊急警報のあと、アクアの後を追って表玄関に向かって走り出したカズマ。
仲間を売るアクアに猛抗議しに行ったのだろうが、きっとこの後、大変な事になる。
モドキには能力や力を使わずとも容易に予想することができた。
そんな嵐の前の静けさに生まれた、僅かな時間。二人が離れた今。
彼女には何よりも優先して行おうとしていた事があった。
「この謎を先に説いた方がいいわね」
手に握られた高価そうな封筒。
それは王家の蝋印が押された、“記憶を失う前の”カズマからの手紙。
アクアを吊るしあげた時に神器を使われる前に、没収した所持品の一つである。
(カズマさんの記憶喪失を聞いた時の、“あの”反応。)
絶対になにかある。マスターは何かを隠している。でなければあんな笑顔は作らない。
コピー先だから余計にその変化が気になってしまう。
しかし、モドキには思い当たる節がない。
召喚されてからすぐに神器の強制命令を使われ旅立った。
アクセルを離れる以前までの事は全てを共有している。
故に、この別れてからの僅かな空白期で“何か”があったと言う事だ。
本当なら側にいた、めぐみんやダクネスに聞けるのが一番なのだが…生憎、所在がつかめない。
残された手掛かりは、神器や大道芸用具とあわせて出て来た、この手紙。
カズマさんにわざわざ聞いた、この手紙が一番あやしいのだ。
モドキは再び封筒を開け、カズマの筆跡を辿る。
マスターの、あの笑顔をみるまでは、何も疑問に思わなかった、カズマのワガママが書き綴られた内容も、今となっては疑問しかない。
(やっぱり、おかしいわ…この内容なら水槽に落とされる前に、カズマさんに見せればよかった。私なら、そうする。カズマさんなら手紙の内容に気恥ずかしくなって、恩情をもっと早くにくれたはず…なのに、マスターは水槽に落とされても見せようとしなかった)
絶対に、この手紙に“何か”ある。
モドキは、この手紙に確信めいたものが湧いていた。
手紙を太陽に透かし、臭いを嗅ぎ、撫でて紙の質感を何度も確認する。
この手紙を盾にカズマの口座から、金を引き出したことは、容易にわかる。
何せ王家の蝋印と自筆の手紙だ。
日本と違いアクセルのような機械化もされてない、地方末端の銀行では断るわけにはいかないと容易に想像できる。
だから、余計にマスターは何を隠したかったのかが謎が深まる。
この手紙でカズマさんに、ごねる事ができたはずだ。
「私のお金よ!何に使おうと私の自由のはずよ!」
それだけでカズマさんは許さないと思うが、一か八かに賭けてごねる事が出来た。私なら絶対にしている。
なのに、それを最後までしなかった。
絶対に後ろめたい何かがあるはず。
(うん?妙に余白が空いているような…もしかして)
目を凝らし太陽に透かすと薄っすらと見えて来る何か。
懐にしまっておいた鉛筆で余白を撫でる様に塗りつぶす。
(なるほどね…甘いわよ、マスター)
浮かび上がってくる白き文字。
・
・・
・・・
追伸
財産を好きにしてくれと書いたがアクアは例外だ。
紅魔の里を帰ってから、妙に金をせがんでくる、あいつは別だ。
特にエルロードに行ってから、明らかに酒癖と金遣いが悪くなった。
決定的なのは、あの酒を飲み始めてからだな…
いったい、エルロードのどこで手に入れたんだか…
今のアイツに大金を持たせると確実に身を滅ぼす。
めぐみん、ダクネス。悪いがアクアの事は任せたぞ。
アイツはなんだかんだで、寂しがり屋だからな。
落ち込んだ拍子に何をしでかすか…想像するのも恐ろしい。
手に負えなくなったら、あの酒瓶をたたき割ってやれ、大泣きするだろうがな(笑)。
・・・
・・
・
(追伸の部分を濡らして<ピュリフィケーション>を使ったのね…さすが私のコピー元と言うべきか…変なところでずる賢いんだから、まったく…)
<ピュリフィケーション>
それは、浄化魔法である。
身体についた汚れや対象物の汚染を除去する魔法。
水の女神たるアクアは“水”に対する能力に特化していた。
そこを熟知していたアクアは、カズマが書いたインク文字の一部を濡らし“汚れ”として除去したのである。
しかし、インクは消えても書いた跡までは消えない。
モドキは、周りを鉛筆で塗りつぶす事により書いた痕跡を、浮かび上がらせたのである。
(なるほどね…だから、マスターは喜んだの…)
新たに出てきた文に感心するモドキ。
文の内容はアクアだけお金の譲渡を止めるものであった。
勝手にお金を引き出したら、一緒に住んでいるダクネスとめぐみんに確実にバレる。
でも、このまま見せたらマスターだけお金を手に入れられない。
早急にお金が必要だったマスター…
だから手紙に細工する必要があった。
細工してカズマの了承のもととして、ダクネスとめぐみんに納得してもらう必要があったのだ。
(あの時、カズマさんに記憶がない事をマスターは知らない。所持品を没収された段階で、手紙を“読まれたかもしれない”と考えたはず。手紙の変化を咎められることにビクビクしていたはずだわ…)
書いた本人のカズマさんが読めば必ず解る事だ。
でも、なんの偶然か運よくカズマさんが記憶喪失になった。
それは、それは嬉しいはずだ。
あの長い尋問の間、ずっ~と言い訳を考えていたはず。
マスターは下手に話題をふったら、側にいる私に感づかれることで、藪からヘビの様な状況に陥る事に恐れていたはずだ。
立場が逆なら私も同じく沈黙している。
それが蓋を開けて見れば最後まで話題はフラれずに、記憶喪失と言う偶然に助けられた。
なら、この謎は“手紙の細工を咎められたくなかった”ってだけの話。
「おい、馬鹿女神!冗談にならねぇぞ!?」
「ふん!水槽に落としたお返しよ!みなさ~ん、カズマさんはここよ~!!」
「はぁ…喧嘩するほど仲がいいとマスターの記憶にもあったけど、喧嘩しすぎよ。いい加減に素直になったらいいのに…」
本当にそれだけなのか?
「おい、アクア!?さすがに、これは冗談にならねぇって…くっさ!?」
本当に手紙の細工を咎められたくなかった“だけ”の話なのだろうか?
「<ヒック!>お、乙女になんてこと言うのよ!?」
あのマスターなら、手紙の細工を咎められるより、お金を自分だけ渡さなかったカズマさんに怒るはず。
「お前飲みすぎだろ!尋常じゃないほど酒臭いぞ!?いい加減、飲むのを辞めろ。」
(お酒…?)
『決定的なのは、あの酒を飲み始めてからだな…』
どうせ怒られるのに変わりがないのなら、自分だけ渡さなかったことに話題をそらそうとするはず。
『手紙の細工以上になにか隠したい。もっと、マスターにとって重要ななにかがある?』
「<ヒック!>このお酒は絶対に渡さないわ!!<ヒック!>みなさ~ん、カズマさんはここですよ!!<ヒック!>」
地鳴りが近づいてくる。もう、時間がない。
「クッソ、モドキ!逃げるぞ。納税日が近いせいか目の色変えて住民が向かってきている!?」
「わ、わかったわ!?カズマさん!!」
モドキは手紙をしまい。カズマに手を引かれて裏路地を走り出す。
(マスター…エルロードで何があったの?)