このヒロインにもルートを!※更新停止※   作:来世から本気をだす

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20話、トラブルだらけの逃走劇

◇逃亡者 サトウ カズマ◇

 

「あの野郎、どこ行った!?」

野太い声が薄暗い路地裏まで響いてくる。

「お前ら目に頼るな!あいつは冒険者の癖に盗賊職と大差ないスキル構成だ。壁伝いに探し出せ」

「「「「「おう!!」」」」」

示し合わせたかのように、一列に並んだ筋骨隆々の野郎どもは、見た目とは裏腹に繊細な連携をみせてくる。

その動きは、まるで歴戦の軍隊。

いったい何が彼らをそこまで駆り立てるのであろうか…

 

「この金で今夜は、いい夢を見るぞ野郎ども!!」

「「「「「おおおおおおお!!!!」」」」」

 

地鳴りがするような、雄たけびをあげる冒険者たち(男)

そんな彼らを俺は、裏路地の片隅に置かれた木箱の中で、体育座りをして覗き見ていた。

 

(ヒキニート、なにをしたのよ)

溶けたアイスのような芯のない声が脳裏に響いてくる。モドキだ。

「知らねぇよ…なんども言っているが記憶がねぇんだ…」

あの後、潜伏スキルを行使して路地裏を伝っていたら、モドキが「疲れた…」と一言ぼやき、童話のタヌキのようにポン!と煙をあげて子亀化した。

そして、フワフワと浮遊して断りもなく俺の頭頂部に乗ってくる。

なんと、いい加減な存在なのだろうか…

(そんなくだらない事を考えてないで、この後の事を考えなさいよ)

「チィ、そうは言ってもな…」

対策を練るにしても追われている理由がわからない。

それも額が20億と納税免除だ。魔王軍幹部を3人倒しても足りない懸賞金額。

余程の事をしていない限り、こんな金額になるわけがない。

下手に捕まれば打ち首、拷問、絞首台ぐらいは容易いだろう…なにをやらかしたんだよ、俺。

覚えのない、過去の自分の置き土産に、無性に腹が立ってくる。

 

「モドキこそなにか知らないのか?あの死にかけていた時って、お前も俺を見つけていたんだろ?」

俺の記憶が正しければ、エリスさんが何か呼びかけている最中に、モドキとウィズに邪魔された。現実ではウィズに精神世界ではモドキに、ほぼ同時に踏みつけられた。こんな偶然なかなか起きないだろう…。

 

(それは、自分の冒険者カードを見てからにしてくれる?幸運値だけはトップクラスなんだから…。あの時は、ウォルム山の火口で寝ていたの。そしたら見知った魔力が、近くの雪平原に現れたんですもの、興味本位に意識体ぐらいは飛ばして声をかけるわよ)

「…おまえ、アクアにカエルの駆除を命令されたはずだよな?」

(そ、それとこれとは別でしょ!?ちょっと休憩していただけよ。とにかく私は知らないわ!)

すっとぼけるモドキは八つ当たりとばかりに、頭頂部に前足を押し付けてくる。

こいつサボっていたな?

アクアより幾分マシだと思ったが、根っこの部分は同じ、ぐうたらだな。

(ヒキニートだけには、言われたくないわ!?)

いててて!噛むな。禿げるだろ!?

子亀の姿がカミツキガメに似ているせいか、やたらと噛む力が強い。しかし、まいった。

モドキも知らないとなると、完全に手詰まりだ。

こんな追われている状態では、ウィズとデートする事もできない。

かと言ってワザと捕まるのは危険すぎる。

 

「本当に俺はなにを仕出かしたんだ…」

(そうね、マスターも知らなさそうだったし、いったいどんな悪さをしたのよ…)

先の未来を想像すると、眉間にしわが寄り、頭が痛くなってくる。

 

 

 

(はぁ、ここに隠れていても仕方がないわ)

モドキは、気の抜けた張りのない声で訴えてきた。

(路地裏をつたってギルドに潜入しましょう。危険だけど、あそこなら一通りの情報が集まっているはずだし、野菜を納品しに行ったウィズが居るはずよ。私が念話を飛ばしてあげるから、あの子に内部から探ってもらいましょう)

「……おまえ、見た目によらず頭いいな」

(なに、気の抜けた声をだしちゃって…そんなに意外?)

頭部から謎の圧を感じる。きっとジト目で睨まれているのだろう。

思わぬ言葉に聞き入ってしまった。

「意外と言うか、さっきまでアクアの姿だったからな、違和感がハンパない」

アレは酒瓶抱えたダメ人間そのものだ。知性のかけらも感じない。

(あのね…召喚事故の影響で多少、マスターに引っ張られてステータスが下がったけど、それでも知能値はまだまだ高いわよ、私)

不満気な念話が頭に響いてくる。しかし、思わぬ策が降って湧いて来た。

虎穴に入らずんば虎子を得ずとは言うが、身を隠していても埒が明かない。

タイミングよくギルドには、商店街の商人たちと、待ち合わせをしているウィズがいる。

危険ではあるが、これを利用しない手はないだろう。

 

「しょうがねぇ…少し冒険してみるか!」

 

 

 

 

 

◇スキル異常◇

俺は音もなく気配を消し、裏路地を進む。

時たま、冒険者と出くわすが、俺の潜伏スキルはそう簡単に見破れるものではない。

なにせ、チャーリーとの一戦でも一切、見つかる事はなかった。

目と鼻の先にいたのにも関わらずにだ。

だから…

 

「来たな…」

 

また一人、明るい日の下からジメジメとした裏路地へと獲物がやって来た。

アーチャー職と思われる女冒険者。3人目となる次の獲物は、俺に気づく様子もない。

表通りから不安げに、俺のテリトリー(暗闇)に踏み入れてきた

千里眼を使用しているのだろうが、目の前にいる俺に気づかないあたり、俺の方が何枚も上手だろう。

短弓を持った見知らぬ彼女は、視線を右に左にと絶えず動かしながら、俺に近寄ってくる。

俺はひっそりと忍びより、皮の胸当ての隙間から脇を指でつついてみた。

 

 

ツンツン

 

「きゃ!?なに、虫!?いや!!」

肩越しに背中を覗き見て服を払い、慌てふためく女冒険者。

自分の衣服をくまなくチェックすると、泣きべそをかきながら路地裏を飛びだしていく。

 

「くくくっ…こりゃ、スゲェ…」

俺は手を握りしめ、彼女を触った指の感触を確かめつつ、再びギルドに向けて足を進める。

頬が自然と吊り上がってしまう。

ムクムクと良からぬ好奇心が湧いてきてしまう。

さっさと、ギルドに向かわなくてはいけないのだが…。この好奇心は止められなかった。

こんな事を始めてしまったのも、一人目の冒険者が悪い。

裏路地の曲がり角でバッタリと、出会ってしまった筋肉質の男冒険者。

隠れることも出来ず、万事休すかと思ったが、なんと素通りしたのである。

俺は半信半疑のまま、二人目と出会う。ローブを羽織った魔法使いの男冒険者だ。

俺を探しているようだが、目の前で変顔をしてみたり、息を吹きかけてみても反応がない。

そして今の3人目となる女冒険者。

俺は確信した。

もはや、この薄暗い路地で名もあげてない、ただの冒険者など俺の敵ではない。

チャーリーと戦った時にも思ったが、かなり有能なスキルだ。アサシンにでもなれるのではないだろうか…

スキルの想像以上の有用性に、心が躍ってしまう。

これなら敵を倒すだけではなく、女湯に…。

 

(おい、変態。私のことを忘れているでしょ!?サムイド―でちょっと成長したかなと思ったら、ヒキニートから変態にランクダウンしているじゃない。ウィズに言っちゃうわよ!)

「なっ?!ま、待って。冗談だよ、冗談!」

俺が犯罪に手を染めるわけがないだろ?たぶん…きっと…。

(意志が弱くなってきているじゃない!変態!!)

モドキの怒鳴り声が頭の中で鳴り響く。

わかったから、そんな肝の冷える恐喝はやめてくれ。

ウィズにだけは、どうかご勘弁いただきたい…

(はぁ、調子にのりすぎなのよ。そんなスキルの無駄遣いをして…私がいなかったら、すぐに死んでいるって事を分かっているの?)

「……はぁ?!」

今、ポロリと耳を疑うようなことを呟いたよな…

(やっぱり忘れている。エリスと一緒にいた時にも言ったでしょ?ヒキニートの頭がおかしくなっているって。ハッキリ言って今のカズマさんは異常よ)

「そう言えば…そんな事を言っていたな。異常って、どんな異常だよ…」

 

すると、モドキは「むぅ…」と考え込むような口調で話しだす。

(ろくに“魂の記憶”も集めてないヒキニートが、そこまでのスキル補正を受けているのが異常なのよ…今のカズマさんって、スキルを使ったら熟練者のように動けるでしょ?異常なのよ。異常。身体に補正量がまったく見合ってないもの)

 

モドキは、自分で伝えておきながら自信なさげに「う~ん、う~ん」とうなっている。

俺からしてみれば、また知らない言葉を突っ込んできてイラッとするだけなのだが…

だが、改めて言われてみると、確かにおかしいかもしれない。

異世界という未知の環境にきて数日。

なにも疑問を持たずスキルを使用していたが、考えずとも所作は達人のように動け、千里眼や潜伏スキルは想像以上の効果が発揮できた。

発動と念じれば、知らない所からナニカを受け取り、自動で身体を動かしてくれる。

スキルとは“そう言うもの”。

なんと、お得で便利な物なのだと受け流していたが…

 

「…不味いのか?」

(不味いわ。その補正量は、もっと鍛えた先にある領域だもの。どう言うわけか、カズマさんには器に見合わないキャパを超えた情報量が魂に供給されているわ。今は初級スキルしか使ってないし、私がヒールをかけて凌いでいるけど…もし、今の状態で中級魔法を覚えて使ったら…)

「使ったら…?」

もったいぶるモドキに、ゴクリと喉が鳴る。

なぜか用途外なのに発動している敵感知スキルが、冗談ではないと告げている。

これも、モドキが言う補正の過剰供給が、原因なのだろうか…。

鋭い刃を喉元に、突きつけられているような感覚に襲われる。

そして…

 

(使ったら…間違いなく“爆散”するわ)

「爆散!?」

(そう。北〇神拳を受けたモブの様に派手に弾け飛ぶわね。それも魂ごと爆散するわ。そうなったら蘇生も転生も出来ず無にかえすわね)

 

「そ、それは…不味いな」

背中に冷たい何かが走る。

北〇神拳を受けたモブって…あのひ〇ぶ!や、あ〇し!で有名なアレだよな…

ぜっっっったいに!嫌だ!?

どんな痛みが走るのか想像するのも嫌だ!

それも蘇生不可能どころか転生もできないだと!?ハイリスクすぎるわ!?

 

「な、なんで、そんな危険な状態になっているんだよ…」

(こういうチートみたいな事は、神より悪魔の方が得意なんですけど…カズマさんって三途の川を渡ってしまったり、天界のシステムにハッキングしちゃったりとかした?)

「あのな…ヤバそうな単語が沢山、聞こえたけど、俺がそんな大それたことを、出来る訳ないだろ?」

それに初級スキルがチートレベルになったところで所詮は“初級”。

蘇生不可&転生不可を天秤にかけて、初級スキルが上達するなんて、割に合わない事なんかしない。

「そうよね~…カズマさん程度じゃそんな事が出来るはずないし…。神器なしだと怪しいのは異世界人とかかしら…」

モドキは再び「う~ん、う~ん」と唸り始める。

 

「おいおい…やめてくれよ。これ以上、問題が大きくなるなら、冒険者を辞めたくなる」

(やめて、どうするのよ…ヒキニートに戻るつもり?)

「辞めてさ…遠くの町でウィズと一緒に、しがない商店をひらくんだ…トラブルが起きない平和な場所でのんびりと暮らすんだ…」

(はぁ~~~あきれた。あの子と一緒に行くことは決定事項なのね…)

「それは、当然だろ!」

彼女が居れば火の中、水の中、スカートの中だって行ってやろう。

ウィズが居ない未来なんて想像できな<ガッ!>」

 

<ドン!>

 

「痛っ~~~…」

つま先に引っかかる柔らかい感触。

突然の事に身体は対応できず、俺は盛大に地面とキスをしてしまった…

(マヌケね…私みたいに常に気を張ってないから)

「あのな…お前みたいにプカプカと浮けるわけねぇだろ!?」

痛む鼻頭を押え地面から顔を上げると、モドキは風船のように空中を漂い、俺を見下して来ていた。

「どうなっているんだよ、お前の身体は!」

羽もねぇのになんで浮かんでいるんだよ!?

あれか!?ガ〇ラみたいに両手両足を引っ込めた所から、何かだしているのか!?

俺の拳が震えている。

この物理法則に喧嘩を売っている駄亀を、ぶん殴りたくなってしまった…

 

(そんなに不思議?キャベツやレタスも飛べるわよ?)

あっけらかんとした念話を出して来るモドキ。

おぉ…理不尽すぎる。

この常識が通用しない理不尽な世界に、泣いてしまいそうだ…

 

(そんなに不思議なことかしら…トマトやメロンだって飛べるのに…)

「っち、だいたい…誰だよ、こんな所にモノを置いたやつは!」

薄汚れたベージュ色の塊は、至る所に泥や足跡がつき暗闇の中では、地面と大差がなくなっている。

要らなくなったカーペットだろうか?

(汚いわね…ドブみたいな臭いがするわよ。ほっといてサッサとギルドに行きましょう)

再び俺の頭頂部に乗ってくる亀…どうやって臭いを嗅いでいるんだよ。

俺は一瞬、浮かんだ疑問も「ふう」と一息吐き捨てて、考える事を辞めた。

きっと考えるだけ疲れるだけだろう…だが、ここを立ち去る前にやる事がある。

 

(なにやっているの、カズマさん…ばっちぃわよ)

モドキは生ごみでも触るときのような声をあげる。

「ここに置いておいたら、また誰かが躓くだろ?端に避けておくんだよ。」

何故こんな事をするかと言えば、俺のゲーム脳がどかせと訴えかけて来た。

とても幼稚な発想ではあるが、この路地裏を今一番に利用しているのは俺達だ。

先の未来で、この道を逃走経路に使う可能性もある。

そんな差し迫った場面で、あの時のゴミに躓いて捕まりましたなんて、悔いても悔い切れない。

危険なイベントフラグは少しでもへし折っとくに限る。

(ビックリするぐらい小心者ね。カズマさんの心臓って豆より小さいんじゃないのかしら…)

「うるせぇ!ゲームだったらな、こう言う小さな事が後の重要なイベントに影響がでて<ムニュ>くるん…だ…よ」

 

◇これはフラグではなく、イベントだったようだ◇

 

ゴミを路地の端に退けようと布に力を込めた瞬間、想定外の感触が手を包み込んだ。

この感触…数日前に味わったモノに似ている。

だがウィズのより主張せず、ほのかに手の平にフィットする安心感。

いつまでも手を動かしていたくなるような(ヒキニート、その先は豚箱いきよ)

「まままま、まった!?悪意はないんだ!偶然なんだ!!」

侮蔑のこもった念話に、俺は飛び上がり2、3歩後ずさりしてしまった。

 

(まったくもう…行き倒れの冒険者や泥棒かしら?そもそも生きているの?)

「さぁ…まだ温かかったし生きているんじゃないか?でもな…こんな薄暗い路地の奥で倒れていたんだ。ろくな生き方をしてる人じゃないだろ?」

 

ゴミだと思った塊は、フードが付いたボロボロのマントを羽織る、誰かであった。

千里眼をつかうと先ほど掴んだあたりの輪郭が、わずかに上下する。

俺はそっと仰向けに転がすと…

 

(予想していたけど…誰だか解らないぐらい泥まみれね)

「田んぼにでも落ちたのか?いや、そもそも…この世界に田んぼは存在するのか?」

跳ね回る米粒とか、トラウマになりそうなんだが…

表情がわからないほど泥が付き、ポニテになっている長い長髪も、黒髪なのか茶髪なのかもわからない。

そして革の鎧を付けた…女の子?

アレを触っていなかったら、男性と思うほどスレンダーな方だ。

 

(もう…。人の為に頑張るのは、私の仕事じゃないんですけど…)

「まぁまぁ、捨てる神あれば拾う神ありって言うだろ?優しくしておこうぜ?俺は女性限定だけど、上げられる好感度は上げとく主義なんだよ」

(だだのスケコましじゃない!?はぁ、最近はエリスも仕事をサボっているし、この世界は大丈夫かしら…)

モドキはブツクサ言いながらも、泥まみれの少女の胸の上にふわふわ移動する。

 

(とりあえず、ヒールで意識を戻すまえに汚れを落としちゃうわよ)

「おう!頼むぜ」

女性を取り囲む魔法陣。

白と青の粒子が蛍のように舞い始める。

次第に粒子は集まり大きな水泡となって、女性の身体をつつみこんだ。

 

(いくわよ、<ピュリフィケーション!>)

 

「(えっ…)」

スキル名を唱えた瞬間、青白く光る水泡。

光が消えると、現れた人物の意外さに俺達は数秒の間、言葉を失ってしまった。

 

 

 

 

 

「なに行き倒れているんですか“エリス”さん」

 

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