このヒロインにもルートを!※更新停止※ 作:来世から本気をだす
◇…頭冷やそうか◇
昼間にもかかわらず、薄暗い路地裏は建物の影が路地を覆い尽くし、光と影のコントラストが不気味な雰囲気を醸し出していた。
ネズミに猫、浮浪者やチンピラ。
そんな、ありきたりなエンカウントだったら、さほど困る事もなかっただろうに…
「…カズマ君」
俺の腕に腕を絡め、見惚れてしまいそうなほど、慈愛に満ちた満面の笑みを向けてくる彼女。
大衆に向けて一声かければ、きっと宗教ができあがり。
手を振られただけで、卒倒する者も現れる。
そのスマイルだけで、大金が稼げるであろう。
そんな価値ある笑みを、真横から一身に受けている俺はまったく喜べていない。
こんな美少女が元ニートの腕に抱き着く理由なんて、たかが知れている。
「あたしが、なんで怒っているか…わかる?」
単純に逃がさないためだ。
「はい、あのバカが無詠唱なんかでテレポートを使ったので、座標が狂ってオークの群れのど真ん中に転送させられたんですよね」
「そうだよ~、本当に怖かったんだからね」
あ~…エリスさん?そんなに強く腕を握らないで。痛いです…
身ぐるみを剥がされて、危うく大事なモノを喪失しかけた女神様。
路地を歩きながらも、俺の腕にまとわりつき、ねっとりとした眼差しを向けてくる。
「だからさ、カズマ君。責任を取ってよ」
「せ、責任ですか?困ったな…俺にはウィズと言う心に決めた人が…」
「違うよ?!なんで、そんな話になるのさ」
ちぇ、誤魔化すことは流石にできないか…
俺の幸運力に一か八か色恋沙汰に賭けてみたが、さすがに万能ではなかったようだ。
「君は、あたしをオークの群れにほりこんだ罪滅ぼしをして欲しいのさ」
「異議あり!それは、モドキが原因であって、俺には責任がないと思います!」
「だ~め。先輩が玄武さんを召喚したんでしょ?それなら君のパーティーの問題だよね?キッチリと責任を取ってもらうよ!………それとも、カズマ君も逃げるつもり?」
「ひっ?!」
(覚えてろよ…モドキめ)
可愛らしい顔で、威圧的で脅迫的な瞳を向けてくるエリス様
道端で倒れていた彼女は、目覚めたあと泣き出してしまったのだ。
俺の胸に飛びつき、顔をうずめて必死に漏れそうになる声を抑えながら、流れる涙。
そんな様子の彼女に、何かを察したのか、いつの間にかモドキは姿を消していた。
なんと逃げ足の速い奴だ。
その結果、俺まで逃げると思ってしまっている。
強い力で腕にしがみつき、片時も離れようとしない。
俺はつくづく信用がないんだな…
「もう一度聞くけど…カズマ君は逃げないよね」
エリスさんの声は、怒りを滲ませていた。
彼女の眼差しに一瞬、身が凍りそうになる。
目が笑ってないですよ…。
「あ、あたりまえじゃないですか…レディーを置いて逃げるなんて、男が廃ります。でも、オークが“メス”で良かったですね。大事なモノは奪われ…痛い!痛い!!つねらないで!?」
抱き付いている俺の二の腕を、ぐにっと摘まんでくる。
思わず身を捩る俺に、彼女は真剣な顔で睨みつけてきた。
「ちっとも良くないよ?!なんて言われたと思っているのさ?!男に見えたから襲った。なぜ付いてない。まぎらわしい!谷間を作って出直せ、まな板、ぺっ。……あたしの自尊心と乙女心はメチャクチャだよ!!」
彼女の怒りの理由は納得できる。
襲われた時の事が、トラウマになっている事も分かるのだが…
だからって、俺に八つ当たりしてくるのはいかがなものだろうか?
ここは適当に理由をつけて逃げるしか…いたたた?!
「今、無粋なことを考えたでしょ?顔に出てたよ」
「………ごめんなさい」
◇盗賊の女神様◇
「まったく…君のパーティーはいつも問題を起こすんだから………。どうしたの、あたしの顔になにか付いているの?」
「へっ?いや、その…」
エリスさんはぷくっと頬を膨らませて、不満そうに呟く。
その様子がリスのように可愛くて、つい見惚れてしまった。
こんなジメジメと薄暗い場所ではなく、どこかの喫茶店であれば楽しくお話もできたであろうに…
「そ、そうだ!エリスさん。どうして路地裏で行き倒れていたりしたんですか?それに服装も変わった格好をしていますし…。まるで盗賊のような…」
「はぁ…なにも覚えていないんだね。」
エリスさんの言葉に、俺は眉をひそめた。
彼女の言葉には何か深い意味が含まれているようだった。盗賊のような格好をしている理由が、俺の失った記憶と関係しているのだろうか。
「この格好はね、あたしのもう一つの姿。クリスって言う下界で義賊をする時の姿を模しているんだよ。下界で出回る危ない神器とかを回収する時に、この格好になっているんだ」
片手でマントをひらいて、服を見せてくる。
女神様らしくない、素肌の面積が多い身軽そうな格好だ。
「へぇ~、義賊ですか…普段そんな事を…。もしかして行き倒れていたのって、警察に追われていたからですか?嫌ですよ。巻き込まないでください。タダでさえ理由も分からずに追われる立場なのに、これ以上厄介事が増えるなんて。いくら美少女で女神のエリスさんでも助けませんよ?」
俺は眉間にしわを寄せて嫌悪感を明らかにして見せたが、エリスさんは軽くウンウンと頷いてから、少し笑みを浮かべた。
「えへへ、美少女なんて嬉しい事を言ってくれるね。それに、いまさらだよ。君は唯一、あたしの正体を知っている協力者。銀髪盗賊団の助手君なんだよ。一緒に城に忍び込んで神器を盗んだ仲じゃないか」
「はへ…」
開いた口が塞がらない。
なにを、やってんだよ…俺?!
命のやり取りとか、もっとも敬遠していると思っていたが…
まさか、彼女の色香に誘われて共犯になってしまったのだろうか。
夢見ていた、ウィズと二人でしがない魔道具店経営の夢が、ガラガラと音を立てて崩壊していく。
俺は信じられない気持ちでエリスさんの顔を見つめた。
◇準神器◇
「それでね、実はこの前、仕事を失敗しちゃって、天界に帰るどころか、スキルや魔法も使えなくなっちゃったんだよ。これのせいで…」
「あっ…」
嫌そうに渋い顔で、自分の足首についたモノに目を向け、肩を落とす。
腕に伝わる、ほのかな弾力に気を取られていたが、エリス様の足首には見覚えのあるモノが付けられていた。
「それって…発信機ですよね。やっぱり警察にパクられたんじゃないっすか?!」
「違うよ!?あたし、その程度の相手に、そんなヘマはしないし…」
ヘマしないって…ご厄介になるような事の自覚はあるんだな…
エリス様は口を尖らせて突っぱねてくる。
足首に付いている、それはサムイド―でウィズに見せてもらった発信機だった。
ウィズは野菜の補填を終えるまでの間、罰として領主様に付けられたと言っていたが…
「これはね、装着させた人物の指定した範囲か、条件を逸脱すると発動する魔道具なの。発動したらスキルや魔法の魔力を奪って効果を阻害する。そして奪った魔力で居場所を伝えるのさ」
「はぇ~…見ため以上に厄介そうですね」
力なくうなだれるエリス様。あの時、ウィズからは詳しい原理を聞けなかったが…そうか、使用者の魔力を横取りするのか。
だとすると、やっかいだな…
「それは女神さまの力をもってしてでも、外すことは出来ないのですか?」
「…ダメだった。かなり強力な魔道具だよ。準神器って言っても良いくらいに」
「なっ…こんなヘンテコな魔道具にそこまでの力があるんですか?!」
布製のバンドに、変わった金具がついただけにも見える。
しかし、エリスさんの目には焦りの色が浮かんでいた。
「これは大昔に滅んだ魔道技術大国ノイズの遺物なんだ。ここ最近ね、全国各地の遺跡からノイズ国の遺物が沢山、発掘されているの。王家に全て回収されているんだけど…危険性の薄い物は、各地の貴族や権力者に褒美として渡されちゃっているんだよ…」
「なんて迷惑な…」
俺は呆れてモノが言えない。
そんな準神器と呼べるような強力な魔道具が、あちこちに散らばっているなんて、迷惑極まりない話だ
「うん…ここ最近、王家は財政難だったから苦肉の策だったと思う。それでね、私は散らばった準神器と呼べるような魔道具たちを回収している最中に…」
「失敗して魔道具を足に付けられてしまったと…」
「そうなの。だから、オークから逃げる事もできなかった。それにクリスにもなれないから、女神だとバレないように逃げ回る生活になるし、天界にも帰れない…帰れたとしても、仕事ができないから、このままだと女神をクビになっちゃうよ…」
彼女は目を伏せて、表情を読ませてくれない。
しかし、頬を伝う輝く雫がことの重大性を、知らしめてくる。
彼女はこの発信機をどうにかしないと、日常生活どころか職を失いかねない状況だった。
「……………………はぁ」
俺は多額の借金を抱えて、理由も分からず追われる身。
こんな事にクビを突っ込んでいる場合ではないのだが…
腕に伝わる彼女の震え。
空いている手で、ガリガリと頭をかきながら天を仰ぐ。
上を見上げると、薄暗い路地裏の狭い青空が見えた。
青い空には雲がゆっくりと流れ、悩んでいるのが馬鹿らしくなってくる。
「しょうがねぇな…」
俺は自身の幸運に身をゆだねる事にした。
「そんな話を持ち掛けたと言う事は、俺に状況を打開するアテがあるんですよね?」
エリスさんは、少し驚いた顔をしたが、すぐに微笑みを浮かべる。
「君って…そんな、ヒーロー気質だっけ?いつもなら、もう少しごねていたような…「そんなこと言っていると、気が変わっちゃいますよ」あっ?!まった!まった!」
どいつも、こいつも、まったく…
「ウィズもアクアも同じ様な反応をしてきましたが俺が、そんなにやる気をみせたら変ですか?」
「ごめん、ごめんって!本当に意外だったから…いつもだったら、あと半日は乗り気になってくれないし。でも…カズマ君、ありがとう。」
その微笑みには、わずかに希望の光が差しているようだった。
「どういたしまして…それで、俺が何をすればいいんですか、お頭?」
「えっ、記憶が戻ったの?!」
「なんとなく、言ってみただけですよ…」
「ムッ…キミって人は、まったく…もう…」
エリスさんは肩をすくめ、ため息をついた。だが、その表情にはどこか安心したような微笑みが浮かんでいた。
「冗談はさておき、具体的に何をすればいいんですか?」
『それはね、ダクネスを縛り上げて、「ごしゅじんさま、イヤらしい私を虐めてください」って言わせて欲しいのさ』
「……………………は?」
自信たっぷりの笑みから放たれる、女神さまが決して言ってはならないような言葉。
俺の苦難はまだまだ、増していきそうだ…