このヒロインにもルートを!※更新停止※ 作:来世から本気をだす
◇ある日の夜、とある雪国のロッジで◇
「記憶喪失ですか…」
「・・・お互いの話をすり合わせると、記憶喪失と言って間違いなさそうですね」
ああ、なんて可愛いのだろうか。
彼女はベッド横の椅子に座り、腕を組みながらむ~と考え込んでいる
彼女の名前はウィズ。
可愛らしい名前をしながら魔王軍幹部のリッチーだと自己紹介された。
正直…キモが冷えた。
俺は、とんでもない痛い人を好きになってしまったと思ったね。
しかし、彼女の口から出てくる驚きの話しの数々は現実感がある。
異世界。魔王幹部討伐。女神。仲間達。リッチー。パーティー解散。etc…
そのどれもが記憶にない。
約1年間分ぐらいの、この世界に来てからの事を綺麗さっぱり忘れてしまっているらしい。
つまりウィズさんとの出会いも忘れてしまっていると言う事だ…ショック!
俺よりも年上でスタイルも抜群。
どことなく守ってあげたくなる雰囲気は正に俺好み。
これが恋と言うものだろうか?
今まで経験した事もない胸の高鳴りを感じる。
しかし、悶えている俺など気にも止めず彼女は告げる。
「でも・・・良かったです。怪我とか凍傷もなくて」
花が咲いたように笑みを浮かべる彼女に俺はイケボでささやいてみた。
「俺はあなたに出会えるなら何回でも雪に埋まっていいです」
冗談半分、マジ半分。
落とせるなら落とすつもりのキメ顔を決めてみたが、彼女は目を細めてジト目で見つめてくる。
「やめてくださいね、本当に驚いたんですから」
ブスッと一瞬、怒った顔をしたが、直ぐにニコッと笑顔に戻る彼女。
その何気ない仕草。
本気で俺の事を心配してくれているのだと実感できて、にやけそうになってくる。
だが…
(はぁ…)
俺は心の中で深いため息をつく。
アピールにちっとも頬を染めてくれないあたり、やはり前の俺との好感度は0なんだろう…
意識が戻った俺はベッドで目を覚ました。
不幸中の幸いにも俺は初めから体力の限界に達していた。
凍傷が進行する前に力尽き素早く救助されたのが功を奏したのだ。
周りを見渡せば室内の壁は木材で作られており、落ち着く木の香りを感じる。
どこかのロッジなのだろう。
15畳ほどの広さに部屋の一角には暖炉が備え付けられ、部屋の隅には山積みの彼女の私物が積み上げられている。
とても暖かく二度寝をしたくなって来た。
彼女に子守歌でも歌ってもらえるなら秒で寝られるだろう。
(いや…逆に目とかギンギンに冴えちまうかも・・・)
今も彼女はニコニコと笑顔を向けてきてくれる。
そんな笑顔が可愛い彼女に俺は相当、惚れてしまったようだ。
なにせ、ベッドで目が覚めてから、最優先に彼女を探してしまった。
まだ彼女はいるのか?
夢やマボロシじゃないだろうか?
起きてすぐ、うつら、うつらと身体が揺れ船を漕いでいた彼女を発見したから今、落ち着いていられるが。
あの時の激しく襲ってくる喪失感は思い出すだけで嫌になる。
いつもなら、5日ぐらい徹夜した時に画面の向こうの彼女が目の前に現れる。
そのまま夢心地にチヤホヤしてくれるのだが、絶望の朝日と共に霧の如く消えてしまう。
だが、今回は夢じゃなかった!
触れれる。いい香りがする。微笑んでくれる。
絶対に彼女を失ってなるものか。
俺はニヤニヤとしながら、ひそかに握りこぶしを作る。硬い決意をしたのだ。
「あの~カズマさん?」
おっと…軽く意識がトリップしていたようだ。
彼女は戸惑いながら頬を染め上目遣いで語りかけてきた。
◇虚勢◇
「どうしたウィズ?」
「先ほどの返事なのですが…。私、告白とか生まれて初めてで、いきなり結婚はちょっと…」
彼女は俺に告げるとスグに顔をそらす。
(断られたか・・・)
軽くフッとため息を吐いてみたが、あまりショックはない。
成果は上々なんだ。
断られはしたが、目の前の彼女は俺でもわかるぐらい頬を赤く染めているじゃないか。
クソ…目が潤み始める。
泣くんじゃない俺!?涙は、まだ早いだろ!!
確かに胸に風穴が空いた気分だが…予想していただろサトウカズマ!
出会ってすぐに告白が成功するとか漫画や小説だけだろう?
まだだ!
俺の物語はここから始まるんだ!
悟られるんじゃない。精一杯の虚勢を張れ!
自分自身を鼓舞する。砕け散った我が心を固めなおす様に通常の120%のスマイルを決めてみた。
「わかっています。俺は、まだウィズさんからの好感度が少ないようだ。もう少しウィズさんにアピールしてから、また告白させていただきます。」
慌てるな。まだ、この告白は様子見のジャブに見せかけたストレート。
試合は、まだ1ラウンドだ。
カウンター(お断り)を食らうぐらい想定済み。
一回のダウン程度が、どうした!?
あとで「えっ、ただのお友達だと思っていたのに」などと天然されて俺のアピールが無駄にならないようにするための布石。
ここはがっつき過ぎて好感度が下がる前に、素直に引いて好意があることを伝えておくだけで価値がある。
俺はKO寸前のフラフラなボクサーみたいな心に、並べられるだけの言い訳を自分自身に説いて震え立たせた。
俺の作れる最大級のキメ顔。
「ふふふ・・・次はドキッとさせてみせますから!」
「あはは…いつもと違ってだいぶ大胆ですね。その様子ですと記憶の混乱も影響しているようですし今回の告白は聞かなかった事にしておきますね」
クソ!なんか引かれている!
◇好みの女性◇
(早急に好感度を上げなくては…)
苦虫を噛んでいる俺に、少し困った素振りをするが微笑みを絶やさないウィズさん。
いや、前のおれは大胆にもウィズと呼んでいたようだ。今後は呼び捨てで呼ばせていただこう。
しかし、記憶を失う前の俺は何をやっているんだ!?
彼女の態度が妙に近しく感じていたから、もしかしたら…すでにゴールイン済み!?と甘い妄想を抱いてみたが現実は無情だった。
ウィズと俺は店主と客の関係でしかなく色恋沙汰に全く発展していない。
(こんなドストライクを放置して何しに異世界来ているんだ、馬鹿野郎!)
好みピッタリじゃないか!
それなのに俺はウィズをほったらかして、とんでもないことに巻き込まれている。
成り行き任せの魔王軍討伐をしながら、問題ばかり起こして事あるごとに借金を作る世間でも有名な問題パーティーのリーダーを務めていたらしい。
ことなかれ主義かつ効率厨で安パイばかり選ぶはずの俺が、どんな天変地異が起きたらそんな問題パーティーと旅をするのか我ながら想像もできない。
俺は表情をコロコロ変えながら腕を組んで考えていると。
「カズマさん」
「うん?どうしたウィズ。そんな真剣な顔しちゃって…やっぱり俺の告白を受け入れて「違います!」はぁ…」
「実は、カズマさんをアクセルにテレポートしようかと思うのです。」
なにか躊躇っているようにも見えたウィズの硬い表情は、少し頬を赤くしながら一瞬で崩れ去った。
ウィズは赤い顔で「ゴホン」と咳払いをした後、「どうでしょうか?皆さんカズマさんの事をきっと心配していますよ」と言ってくる。
こんな表情をしているのに、まだ好感度が足りないのかよ…なにかイベントやキッカケが必要なのか?
彼女から視線を外し、部屋を見渡す。
なにか、いいキッカケはないかと探してみたが何もない。ドッと肩の力が抜ける。
仕方がない。
今後、地道に好感度を上げていくとして…なんだっけ、俺のパーティーの話しか。
彼女に視線を戻すとニッコリと微笑みながら首を傾げてくる。あぁ…可愛い。
確かにパーティーの事は気になる。
ウィズから聞いた話ではアクセルで、パーティー解散の噂が出回っているらしい。
記憶になくとも前の俺が1年間ほど一緒にいた仲だ。
ウィズの説明を聞いただけでも会ってみようかな?って少しは気になる。
だが…
目を閉じて熟考の末に、とある疑問を彼女に投げかけた。
「ウィズはどうするんだ。一緒に来るのか?」
俺が今、一番重要視する事はここだ。
”ウィズと恋仲になりたいのだ”
ウィズが、こんな提案をしてくると言う事は…
俺はあからさまに鋭い目つきで彼女を見る。
すると、俺の問いに「あの~」と言いながら後ろめたそうに表情が曇る。
「その…私はしばらくアクセルに帰れない事情がありまして残念ですが」
それはダメだ。
ここで送り返されてしまったら好感度を上げるどころの話ではなくなる。
心配して言ってくれてるウィズには悪いが、まだウィズと一緒にいたいんだ!
なんとしても彼女を説得して見せないと。
◇ウィズ魔道具店◇
「べつに帰らなくていいですよ」
「えっ!?」
目をぱちくりしながら固まってしまうウィズ。
俺の冷めた反応にウィズの表情が固まってしまう。彼女からしたら予想外の反応だったんだろう。
「だって捜索依頼とか何も出されていなかったんですよね?」
「そ、そうですが…めぐみんさんやダクネスさんが心配していますよ?」
オロオロとしだす彼女。
しかし、俺もなりふり構っていられない。内心では表情を偽るのに必死なんだ。
パーティーの仲間には悪いが、どんな手段を使ってでも居残るつもりだ。
俺は、あからさまに興味ない冷めた返事をする。
「だいたい仲間が記憶を失って死にかけていても探しもしないパーティーとか仲間と呼べます?」
「でも皆さんは何時もなかよく…では、無いかも。そう言えば喧嘩ばかりしていましたね…」
尻つぼみに言葉が小さくなっていく。
思い当たる節があるのだろうチャンスだ。俺は畳みかける様に捲し立てる。
「俺は仲間に捨てられたんですよ。捨てた飼い犬が家に戻って来れなくするような感じで記憶を消されたんです。それに仲間と出会った時からの記憶のみ消し去るとか、そんな都合のいい記憶の飛ばし方が出来るのは俺の仲間”だった”女神くらいしか出来ないでしょ」
「だったって、すでに過去形ですか・・・でも確かにそうですね。」
ウィズは俺の冷ややかな態度に軽く呆れている。
旧仲間よ…すまん!。今の俺は使えるネタは何でも使うぞ。
それにウィズに言った事は冗談やジョークなんかじゃない。
俺は本当に女神の仕業だと思っている。
こんなことが出来るのは神ぐらいしか今のところ思いつかないんだ。
そして何故だか知らないが失った記憶の話を聞いてる時に話題にちょくちょく出る女神『アクア』の名前。
聞くと背筋に悪寒が走る。
ひそかにイジメられていたのか俺?
異世界に来てまでイジメられて部屋に引きこもっていたら流石に情けなさすぎるぞ。
もしかして、それが原因でパーティーから追い出された?
俺だったら地味にありえそうなのが恐ろしい…マジで捨て犬扱いではないか。
「それよりも、ウィズは何故こんな雪国に?」
俺はパーティーの仲間に、お手とおかわりをする悪夢を振り払うと強引に話を切り替えた。
ウィズはひきつった顔で「いっさい未練がないんですね」と言っているが当たり前だ。
正直、ウィズの話でパーティーにはかなり冷めてしまっている。
(今は昔のあったかも解らない絆より、目の前の恋だ!)
我ながら鬼畜だが帰るつもりは微塵もない。
帰るとしてもウィズと恋仲になってからだ。
こんな無駄な話はさっさと切り上げてウィズの好感度をあげる方法を考えたいのだ。
俺は硬い覚悟を決めてウィズを見つめると、恥ずかしそうに頬を人差し指でかきながら話し始めた。
「実はここ『サムイドー』に商いをしにきたんですよ。短期間のあいだウィズ魔道具店出張所を行う予定なんです」
「それだ!!!」
「えっ、な、なんですか!?急に大声をあげて…」
俺が声を張り上げたせいでアワアワしてるウィズだが待っていたものが来た!
チャンスは舞い降りた。
何せ次の一手はウィズの商い発言で閃いてしまったのだから。
「ウィズ!」
「は、はい!なんでしょうか!?」
俺は勢いよくウィズの両手を握りこむと目をパチクリしながら動揺している。
彼女はよく考え事をすると胸の前でモジモジとする癖があるので、その手を包みように握った。
顔と顔がだいぶ至近距離に近づいてドキッとしてくれただろうか?
まあ、俺の硬い決心を伝えるのだ。この柔らかく少しひんやりとした極上の手を握ることに大目にみて欲しい。
「俺をウィズ魔道具店に雇ってくれないか!」
<俺のパーティー?そんな事より今はウィズだ!>
このカズマ、めぐみんに爆殺されるだろうな…