このヒロインにもルートを!※更新停止※ 作:来世から本気をだす
◇サムイド―市街◇
早朝、雪が弱まりあたりが見渡せるようになった。
第一印象を一言で言ってしまえば日本の田舎だ。
それもすこし昔の日本にあったノスタルジックを感じる田舎。
先ほどウィズから説明を受けた。
この村は、四季など関係なく一年通して雪がふり、常に寒い。
聞いたところ冬将軍という大妖精が、この地域に住み着いているのが原因らしい。
町の住人も少し特殊で、ほとんどが動物的な特徴を持った獣人。
村の主な産業が野菜の養殖と聞いたが…
野菜を養殖?と疑問が尽きない。
村の名前が北海道と似通った北の大地『サムイドー』の事は後回しにするとしよう。
そんな異世界の田舎にも商店街があった。
舗装もされてない砂利道の道路沿いに寂れた商店が100メートルほどならぶ。
世界を超えたと言うのに、店先にならぶ物はラベルや容器がついてないだけで見慣れたモノばかり。
雑貨に食品。酒に…武器はちょっと興味惹かれたがな。
日本と大して変わりがない事に拍子抜けしてしまった。
ウィズ魔道具店は、この商店街の一角に出店したのだが…
そこには目を背けたくなるような光景が待っていた。
道を隔てた向かいの青果店の爺さんはガラガラとシャッターを開きながら
隣の精肉店の婆さんは雪かきをしながら
そして道行く獣人たち
さまざまな人から浴びる冷たい視線に俺は居てもたってもいられない。
彼女の名を猛獣の雄たけびの如く叫んでやった。
「ウィズ~~~~!!!」
「ご、ごめんなひゃい!!」
俺は心を鬼にして彼女の両頬を引っ張る。
子供の様なモチモチと柔らかい頬。
好きな人の頬を引っ張るなどタブーだ。
しかし、やらねばならぬ。
例えるなら悪さをする子供を我が子可愛さで叱らずに放置することは親として愛なのだろうか?
俺は違うと断言する。
愛すべき者の為に時には厳しく叱りつけ恨まれようと道を正さなければいけない。
今はそれと同じだ。
この馬鹿リッチーに鉄槌を下さねばならぬ時だ。
『この雪の中でかき氷が売れるか!!!』
俺は叫んだ。
「い、いたいれしゅ~~!」と俺の両手を必死に引きはがそうとするウィズ。
メチャメチャ痛いのだろう。涙目で足をジタバタさせてくる。
それでも離してはやらないがな。
本来、リッチーの彼女は物理無効で頬をつねるくらい痛くも痒くもない。そんな事は想定内。
手を聖水まみれにしてる。
幾ら物理無効でも少しはダメージがあるはずだ。
とうとう泣き始めたが俺も目の前の屋台の恥ずかしさに泣きたいのだ。
何を間違ったらこんな所に出現するであろうか?
雪の降る商店街の片隅。
夜鳴き蕎麦の如く、車輪のついた屋台にはデカデカと『かき氷』の看板が掲げられている。
冗談?ジョーク?ウケ狙い?と思いたくもなるが店頭に恥ずかしげもなく鎮座した『かき氷機』が、そのどれもを否定する。
売らねばならない本命の魔道具に関しては壁に数個ほど飾り?と思わせる程度しか飾られてない。
ウィズ魔道具店出張所
魔道具店なのに魔道具が無いとは不味いだろ!
昨夜、ウィズに告げた後、オロオロとしだし色んな理由で止められた。しかし、最後には了承してくれた可愛いリッチー。
雇ってくださいと言った手前。ウィズをサポートして、華麗に売りさばき、頼りになるところを見せたかった。
それに俺にはゲーム代を稼ぐ為のバイト経験がある。あわせて、その手のシミュレーションゲームは飽きるほどやってきた。
培った知恵を見せつけたかった。
あわよくば商いをしながら良い雰囲気になりたかった!
そんな完璧な作戦を考えていたのだが…
昨夜。
雪雲が晴れ月明りが窓から差し込む薄暗い部屋の中。
スヤスヤと向かいのベットで寝ているウィズの顔をみながら(眼福だ~)とか考えていたら脳裏に、また青髪の『奴』が現れた。
(ぷーくすくす!天然のウィズはヒキニートの事なんて発情した犬程度にしか思われてないわよW)
(現れたなクソ〇ッチ!)
雪の中でもチラッとイメージに沸いて出てきたアイツだ。
たぶんアクアと言う女神だろう。
今やってる事が空想上のおままごとだと理解してるのだが…
頭でわかっていてもコイツの売る喧嘩は無性に腹が立つ。
(テメーは一体、何なんだ。見た目は美少女の癖に毒々しいのオーラをかもし出しやがって!)
(毒々しいとか言った!?謝りなさいよ、この至高の芸術のような完璧女神〇〇〇様に土下座しなさいよ!)
(お前みたいな奴を神と認めるか!?1000歩譲って貧乏神だ!)
(はぁ!?いま言っちゃいけない事いった!私あんなに老けてませんから!)
(ふん!どうせ見た目を取り繕ったババアなんだろ!俺の思考から出ていけ、悪鬼退散!!)
脳内の貧乏神に砂塵の風を吹きかけてやったら「め、目が!目が!」と叫びながら転げまわり落ち着くや否や「天罰よ!今に見てなさい!」と捨て台詞を吐きながら思考から消えていった。
これがいけなかったんだろうか?
貧乏神を怒らせたのがいけなかったんだろうか?
雪が残る砂利道を自信満々のウィズに案内され、俺はノコノコとあとを付いていったのだが…
その屋台は不用心にも施錠せず路肩に駐車されている。
だが物取りをしようとする者などいない。
それどころか、あまりの異様さに通りすがりの獣人たちが迂回するように離れていく。
そりゃそうだ年中、雪が降るこの村に露店販売のかき氷屋など出現するはずがない。
常人の発想ではないのだ。
俺も最初は何かの間違いだと、ごくわずかな可能性にかけてウィズに問いかけてみたら。
なんて言ったと思う?
「今回はカズマさんの意見を参考にしてみたんですよ、繁盛間違いなしです!」
鳩が豆鉄砲を食らうと言う言葉はあの時の俺の様な顔をさすのだろう。
一瞬、記憶を失う前の俺は病んでいるのではないかと思った。
そうでもなければ、こんな意見は天地がひっくり返っても言うはずがない。
それに、この惨事を作った原因は俺になっちまう。
あの貧乏神が大笑いしているイメージが浮かんだが事情を聞くことに専念した。
なにせ今から開店だ。ウィズの雰囲気からして開店初日だろうがすでに設備費や材料費は発生している可能性が高い。
これは泥船に乗ったカチカチ山のタヌキとかのレベルではない。
なのに彼女は本気で儲けるつもりでいる。その自信はどこから湧いてきているのだろうか?
彼女は聞いてくれるのを待っていました!と言わんばかりに興奮しながら胸の前で小さくガッツポーズをとり力説し始めた。
「実はですねカズマさんが前に『冬場にこたつで食べるアイスは旨い、背徳感がたまらない!』と言っていたのを思い出して、より冷たくて持ち帰りしやすいかき氷の露店販売を考えついたんですよ!氷も質にこだわり水の都アルカンレティアの聖水を凍らせた特注品です!売れます売れますよ!!」
『売れるか―――――!?!?』
俺の怒号が飛び出したあたりからようやく冒頭に戻る。
彼女は大業を成し遂げましたよエッヘン!褒めてくださいと両手を腰に添え何もしてなくても主張している胸を、これでもかとさらに張り上げる彼女をみて俺の優しさの限界が来たのだ。
昨日から妙に冴える頭はとっさに聖水を凍らせた氷の一かけら掴み、手に塗り込む様に溶かして彼女の頬をつねり上げた。
◇貧乏神の助言◇
あれから2時間。
店は閑古鳥が鳴いている
二人で店頭に立つも当然ながら誰一人として客が来ないのだ。
「うぅ~・・・こんなはずでは…」
半泣きのウィズ。
それもそうだろう。
エリアマーケティングやライバル店舗の調査などはしたのかと聞いてみれば、何それ美味しいの?みたいな顔して聞いていたし・・・
「寒い中で冷たいものを買おうとなんて誰もしませんよ」
コタツでアイスは、あくまで暖かい部屋で軽くのぼせるからこそ欲しくなるんだ。
ウィズは俺のジト目を感じてかガクリと肩を落として落ち込む
だいち、ここは魔法がある世界。
冷たい物ならフリーズで作ってしまえばいい。
俺ならコップと牛乳と果実でもあれば10秒足らずでアイスキャンデーを作れる自信がある。
「だいたい初めての飲食の出店なのに酔っぱらいの馬鹿に相談するから・・・」
「それは・・・はい。反省しています」
必死に言い訳を考えようと目を泳がすが結局、見つからず素直に謝るウィズ
先ほどから呼び込みも馬鹿らしくなって来たので隣にいるウィズと駄弁っているのだが。
かき氷なんて惨事に至るまでの経緯もついでに聞いてみた。
案の定、予想通りヤツがからんでいた。
女神アクアである。
聞くまでは、ただの直感だが相当な自信があった。
自信の理由なんてない。
問題がある所に奴が居そうな気がするのだ。
(なんでよ!)
えい!出て来るな!?ちょくちょく思考に介入してきやがって…
さっさと簀巻きにして思考の外に追い出してやったが、覚えもしない考えたくもない奴なのに勝手に出てくる迷惑な奴だ…
話しを戻そう。
彼女は今、まとまりもなく泣き言まじりに話をするので俺なりに会話の要点をまとめてみると。
事の発端はサムイドーでの仕入れ失敗だ。
ウィズは半月ほど前に、ここで何かを仕入れたかったらしいが取引相手から「商才を見せろ!」と断られたらしい。
俺もかき氷を見せられた後だ。彼女に商才が無いのは一目瞭然なのだが交渉でも彼女は何か失敗したのだろう。
ウィズは、落ち込みながら店にテレポートすると、そこには女神アクアが酒盛りをしながら待ち構えていたのだ。
大金が譲渡された!と自慢しながら豪遊しに来たらしい。
強引に酒を注ぎ、長々と講釈を垂れたそうだ。
その際に落ち込んでいるのを見抜かれ、事の経緯を話したら「私に案があるわ!」と一升瓶を掲げながら豪語して来たのだと。
ウィズも最初は乗り気じゃなかった。
しかし、「今は夏だしアルカンレティア水のかき氷を売れば大繁盛間違いなしだわ!!今こそクソ悪魔を見返すのよ!」とアクアに力説され乗り気になってしまったのだ…
話しを聞いたときマジでパーティーに戻りたく無くなった。
しかも、俺のコタツでアイス発言もアクアとの会話で思いだしたのだと。
確かに商才をみせるなら繁盛しているところを見せるのが一番。
しかし、それは売れたらの話である。
それに、べろんべろんに酔っぱらったバカを断り切れなかったウィズも問題だ。
結局、未経験の飲食に興味を惹かれアクアと共に始めてしまった。
次第にウィズも熱が入り無我夢中で準備に取り掛かってしまったのだから、よりたちが悪い。
そして気づけば雪が降る商店街。
俺の隣で一生懸命にかき氷を売ろうとするポンコツリッチーの出来上がりである。
(よりによって、なぜ貧乏神なんて信じるかな・・)
今も、道行く人に「かき氷!美味しいですよ!」と呼び込みをしているが正直、辞めて欲しい…
となりで聞いている俺が恥ずかしくなってくる。
◇宿敵?その名はバニル。◇
もう、そろそろ昼だ。
露天販売にとっての最も客が多くなる時間なのだが…
俺は、とろけたスライムみたいに、店のテーブルに腕枕を作ってぐたっている。
ウィズは一生懸命に客寄せをおこなっている。しかし、俺はやる気が消散してしまったのだ。
「バニルか・・・」
(どんな奴なんだ?あっ、また一人にげられた)
呼び込んだ客はかき氷機を見た瞬間、逃げるように去っていく。
これで8人目だ。
ウィズも、5人目くらいから落ち込まなくなって来た。
心のどこかで足掻いても無駄だと悟ったんだろう。
まあ、俺はそれどころじゃないのだがな…
先ほどから雑談をしていると途中で、誤魔化して来る。
俺が今、最も気になる人物の話題に、繋げようとすると早々に切り上げてくるのだ。
その人物の名はバニル。
ウィズ魔道具店のバイトで、元魔王軍の同僚。
とても商売上手で、〈見通す目〉と言うチート能力も持っていると教えてくれた。
そんな優秀そうな悪魔なのだが。
ウィズにバニルの事を、聞くと気まずそうに顔を引きつらせる。
そしてハッキリと答えないまま、誤魔化されて話題を変えられてしまう。
(あやしい・・・)
俺の視線に気づいたのか逃げるように目をそらす。
ウィズと、どんな関係なのか?
聞くかぎり俺が苦手とする、天才系のタイプだな。
ケッ。あ~ぁ、嫌だね。
俺が汗水たらして得た成果を、聞いて見ただけでちょちょいと成しえてしまう奴。
ニートの宿敵だよ。
でも話を濁すってことは…親密な中なのか?
俺のあからさまな視線に耐えかねたウィズは「あ~」や「その~」と悩んだあげく絞り出すように慌てて話題を振ってくる。
「も、もっと早くカズマさんに相談しとくべきでした」
(どうせバニルの事を聞かれると、思ったんだろう?)
・・・仕方がない。
また日をあらためて聞くとするか。
疑心感を「はぁ」と、ため息と一緒に吐き捨てて、ウィズの話題に乗ることにした。
「・・・アクア以外に相談できる奴は居なかったのか?」
アクアの人物像はウィズの話と俺の妄想でしかつかめていない。聞いた限りチャランポランだ。
「近所の八百屋や花屋の方が、まだマシな話をしそうなものだが?」
そこら辺の猫に語りかけている方が、よっぽどマシだと思う。
俺の問いにウィズは視線をそらして気まずそうに。
「アクアさんにバレなければ、誰にも相談するつもりはなかったので・・・」
「あのバカは余計なことを…」
俺は天を仰いだ。
火に油を注ぐ天才だな。それも注ぐ物はガソリン級の爆発力ときた。
やっかい極まりない。
「それに・・・私も途中から楽しくなっちゃって」
あっ、可愛い!って、いかん、いかん!
軽く頭をかきながら微笑んで少し舌をだすウィズ。
これがてへぺろって奴か。
恐ろしい武器だ。
こんな時じゃなきゃ、すぐに口説きはじめるのだが。出来る男は時と場合をわきまえる。
ゴホン!と咳払いをきめて。
「それで無我夢中になってしまったのか?」
「はい」
ウィズは叱られた子供のように肩を落とす。
「アクアに商売の相談をするのは二度とやめとけ。俺ならいつでも相談にのるから」
励ますつもりで微笑してみせた。伝わったのか落ち込んだ表情からニッコリと笑みが戻る。
「ありがとうございます」
良かった。彼女は笑顔が似合う。
「いつもならアクセル商店街の皆さまと、よく相談するんです。ただ・・・」
「ただ?」
ウィズは言いよどみ少し考え込むも、一瞬チラッと俺をみて重そうな口を開く。
「いろいろとサムイド―に出店するにあたって、他の込みいった事情がありまして…こんな事を相談できるのが、すでに私がリッチーだと知っているアクアさんやカズマさんぐらいしか居ないのです。とくに魔王軍の事を話せないのが後ろめたいと言いますか…出来るだけ商店街の皆様にリッチーである事を話したくないと言いますか…」
力なく答えるウィズ。リッチーの身体の事とか、気にしてない様にみえていたが、心のどこかで世間とのズレを感じているのだろうか?
確かに、いくら本人がただの人になりきろうともリッチーで魔王軍って現実は覆らない。
「隠し事の後ろめたさから、本音で語れる相手が少ないと?」
「・・・はい」
素直に認めるウィズ。しかし、それでは・・・
「もしかして、ウィズってボッチ?」
「ち、ちがいますよ!ゆんゆんさんと違ってちゃんと友達がいますよ!」
掴みかかって来るんじゃないかと言う勢いで否定してくる。
ウィズがここまで焦るとは結構、気にしていたのだな…
「カズマさんとかアクアさんにめぐみんさんダクネスさん・・・」
おい。だんだん尻つぼみに自信が消えているぞ。
それに今、言った数人は全部、俺のパーティーじゃねぇか…
「と・に・か・く!ゆんゆんさんのようにボッチではありません!」
捲し立てたせいか少々、息が荒くなっているウィズ
誰しも自分より下がいると、まだ私は大丈夫!と安心を求めてしまう気持ちは分かる。しかし、言っている事がゆんゆんって人にかなり失礼だぞ?
「第一、私にはバニルさんって言う長年の友人が・・・あっ。」
「はぁ・・・自爆しているし。もう隠すのは辞めないか?」
俺の呆れ顔に観念したウィズは、手をモジモジしながら気まずそうに。
「べ、べつに隠していたわけじゃ…はい。話題をそらしていました」
「いったいバニルとはどんな関係なんだよ・・・彼氏か?」
物凄く嫌だが、彼氏や夫と言われる覚悟はしている。
あきらかに、ただの友達関係ではないだろう。
意図的に話題をそらしたり、気まずそうにしているあたり流れ的には元カレとか?
俺の恋も、ここまでか・・・さらば青春
ウィズは落ち込む俺をみて顔を真っ赤にする。
「な、なにを言っているんですか!?バニルさんは、ただの友人です。」
盛大に否定して来る。少し赤い頬が余計に疑わしいのだが・・・
「ホントか?」
「本当です、それに・・・」
『バニルさんはクビにしましたから・・・』
<このリッチー・・・ポンコツでした。>