このヒロインにもルートを!※更新停止※ 作:来世から本気をだす
◇ウィズの頼み◇
「「・・・・・」」
生活音のない部屋に時折、パチパチと音をたてる暖炉の火。
俺達は今、焚き火を見ている。
もしかしたら俺は、今からクビを宣告されるのだろうか。
それともバニルの事の相談か?
俺はウィズにお願いされて、彼女の隣にあぐらで座った。
そこまではいいのだが…
お互いに暖炉の火で少し赤く見える顔をチラチラと横目で見る。キッカケを探しては難しい顔をして再び火を眺めなおす。
そんな無意味な時間を繰り返している。
どうしたものか・・・
とにかく、なにか声をかけるべきだと思うのだが、昼間の失態を思い出すと”クビ”と言う文字が、どうしても脳裏にチラついてしまう。
他の転生者なら気軽に声をかけたり、肩を抱いてナデポでもするのであろうか?
無理だ。
俺に、そんな勇気はねぇ。
ウィズの事を思えば思うほど失敗が怖くなってきやがる。
バニルだったら簡単に解決できてしまうのだろうか…悪魔だもんな…
(はぁ・・・)
情けない自分に、心の中でため息をついた。
「・・・カズマさん」
「は、はい!?」
先に静寂を破ったのは彼女だった。
俺は意表をつかれ声が裏返ってしまった。
火の灯りで薄っすらと赤く見える彼女。
どこか遠くを見る様な目で焚き火を眺めたまま俺に話しかけて来る。
「カズマさんは昨日、私のことが好きだと言ってくれましたよね?」
「えっ・・・そ、そうです!ワタクシはあなたの事をお慕い申しております!」
やべっ。
緊張しすぎて変な言葉遣いになっちまった・・・
でも・・・この流れって。
告白?
いや、早まるな!?
これでクビを宣告されたら異世界でも引き籠もり始めそうだ・・・
そんな、テンパる俺を横目で見たウィズは「ふふっ」と笑みを浮かべ。
「カズマさんの恋心を利用するようで心苦しいのですが、もう一つお願いしてもよろしいでしょうか?」
今度は俺に顔を向けて告げてきた。
「どうぞ、どうぞ!一つと言わずに2個でも3個でも」
彼女は一瞬、目をつぶり意を決したような面持ちで俺に向かって正座に座りなおす。
その立ち振る舞いから俺の喉がゴクリと音を立てた。
余程の事なんだろう。
失態の後だ。
この際、どんなお願いでも聞く覚悟は出来ているぞ?
俺も彼女に向き直り神妙な表情を作る。
すると、ウィズは一世一代の告白をするかの如く。
『一緒に野菜の補填を手伝ってください!』
「はっ?」
野菜の・・・補填?
俺の神妙な面持ちは一瞬で崩れた。
拍子抜けして、すっとぼけた声が出てしまったが仕方がないだろう。
俺は昼の失態から「お店を辞めてください!」的なことを言われると思っていた。
まあ・・・恋感情の確認をしてきた辺りで、もしかしたら!?とも甘い考えもしたが・・・
野菜の補填?
そんな店の通常業務みたいなお願いを、ここまでもったいぶる事も「このままだとバニルさんに売られて、サキュバスのお店で働く事になっちゃうんです・・・」
「・・・・・どう言う事だ!?!?!?!」
◇問題だらけの彼女◇
サラッと重大事項を言うんじゃねぇ!
って、うっわ・・・やめてくれ~
サッっと血の気が引く。
ウィズは子供のようにボロボロと大粒の涙を出しながら鼻水を垂らしていた。俺が盛大に怒鳴った事で取り繕っていた表情が剥がれたのだろう。
その表情。
覚えてないはずなのに、めちゃくちゃ身に覚えがあるから・・・
貧乏神くさい!美の欠片もない!凄く嫌な予感が襲ってくる!泣きべそをかいた顔をされると今にも走って逃げたくなる。
絶対にろくでもない事が、この後に待っているって身体が叫んでいるもん!
冷や汗が止まらないし!
「かじゅましゃん・・・」
(奴の爪の垢でも誤飲したのか、ウィズ?)
「ごめん、ウィズ。やっぱり俺、アクセルに帰って「見捨てないで~~~!!!」」
絶対に逃がさないとばかりに俺の腰回りにクラッチを決めてくる。
くっそ、ウィズに抱きつかれているのに、まったく嬉しくねぇ!
あっ、鼻水が垂れた顔で服にくっつくんじゃない!
ウィズは俺の胸元に犬の如く顔をこすりつけてくる。
「カズマさんにまで捨てられたら。私、わたしは…」
「だぁ~・・・わかったよ!逃げないから説明してくれ」
俺は呆れて天を仰ぐ。
さっきまで共に戦い抜くと誓った覚悟くんは、俺を残して逃げて行ってしまったようだ。
彼女は俺の言葉を信じていないのか、いまだに抱きつく力を緩めない。
「実は・・・私の仕入れたオタマジャクシがカエルとなってアクセルの野菜を食べ尽くしちゃったんです」
「・・・・俺、カエル(帰る)!」
「あ~~!!お願いです!もう頼れる人が誰もいないんです!」
なんちゅう馬鹿力!?
この華奢な身体のどこに・・・いや、これがレベル差か!?
俺の全力の振りほどきを試みるもビクともしない。
(はぁ・・・)
心の中で過去一レベルのため息を吐いた。
売られる?サキュバス?カエル?
情報量が多すぎるわ!
「言っている事が処理仕切れないから、俺から質問していくぞ。野菜の補填って言っていたが、それは野菜をカエルが食ったからだな?・・・と言うか、カエルが野菜?」
カエルって草食だっけ?
この世界のカエルがデカい事は、サムイドーを探索していたときに知ったが、流石に野菜を食べるなんて情報は聞かなかったぞ?
いまだ俺の胸に抱きつくウィズの顔は見えない。
俺が、この手の話が嫌いな事を知っているのだろう。
覚えてない一年間から、離したら絶対に逃げると思っているのだろうな。
だが俺が聞くそぶりを見せたおかげで、子供が駄々をこねる様な声から、いつものウィズの声に戻っている。
「はい。まず、カエルの説明からしますね。このカエルは特殊で草食なんです。」
「一応、”特殊”なんだよな?草食が当たり前だったら俺の知っているカエルとは全く別物になっちまう」
そう。
俺の知っているカエルは手の平にのる小さな両生類。
決して野菜など食べず、ハエや芋虫を食べる。
「特殊です。買った時は、まだオタマジャクシでした。商人さんからは家畜用に品種改良した特別種。繁殖力が強く、子供を食べない様に草食にしたとの触れ込みで・・・。人気のカエル肉は売れると思って育てて売ろうと数匹、購入したんです・・・」
話して少し落ち着いたのか、ウィズは抱きつく力を緩める。
そして、上目遣いで俺の顔を覗いてくる
ウィズの泣き止んだ顔は、こんな事を聞かされていなければ、可愛く思えるのだが。
(通常種は子供を食うのかよ・・・もう、何でもアリだな。)
この世界の異常さに、嘆きたくなっていなければの話である。
そもそも、カエル肉が人気ってこと自体に、現代っ子の俺からすれば異常性を感じる。
あのピョコピョコ跳ねるカエルだぞ?
どうしてもイメージから嫌悪感が先行する。
まあ、昔は日本でもカレーの具材にされていたり、ウシガエルは食用目的で輸入された外来種って無駄知識を知っているからギリ許容できるが・・・
(・・・・)
「はぁ」
「どうしました?」
「いや、ニートっていう生き物は無駄知識ばかり溜めこむんだなって・・・」
ホロリと泣きたくなってくる。
だって、そうだろう・・・
異世界に来てから妙に頭が冴えるのに、入っている知識がゴミ過ぎる。なにも役に立たないのが悲しいのだ。
そんな憂愁を帯びた俺の表情に、ウィズは不思議がる。
無駄を積み上げた脳みそに呆れていると、ウィズは俺から目をそらした。
「それで・・・」
「おい・・・言いよどむな。顔をそらすな。俺の目をシッカリと見ろ。」
「ひ、ひたいです・・・」
ウィズが俺から顔をそらす。俺は手持ち無沙汰だった両手でムニュと彼女の頬をつねり、前を向かせた。
続きがめちゃくちゃ恐ろしいが、毒を食らわば皿までだ。
俺の鬼のような有無を言わせない態度に、ウィズは観念して言葉を選びながら
「その~・・・買ったオタマジャクシが・・・私の不手際で・・・”お祭りの出し物”として売られてしまったんです」
(・・・・・・・・)
あまりの事にスゥッと息をのむ。
もはや、なんて言えばいいのかわからない。
今にも意識がトリップしそうだ。
・・・いっそのこと意識を飛ばしたい。
俺は乾いた雑巾から水を搾りだすかの如く、むりやり言葉をひねり出す。
「ど、ど、どう転んだら、そ、そんな事になるんだ?」
まるで壊れたオモチャの様な俺に、ウィズは遠慮などなくトドメをさしに来た。
「本当は売らずに廃棄する予定だったんです。バニルさんに「そこら辺で簡単に手に入るカエルなど買う奴がおるか!」って言われまして他の処分予定の商品と一緒に『処分品』と札をかけて店先に出していたのですが・・・」
「どうなったんだよ・・・」
ここまで来ても言いよどむウィズ。
早くしてくれ。
俺は、この地獄ら今すぐに解放されたいのだ。
急かすようにウィズをひと睨みする。すると引きつった顔でウィズは。
「廃品回収の業者が来る前に、いつの間にかアクシズ教の信徒さんが持って行ってしまったんです。エリス祭の金魚すくいの品として売られていたと知った時には、店じまいが始まった時間で・・・すでに数匹が売られた後でした」
「どこのバカ信徒だ!?アクアを使って、この宗教の失態をアクシズ教主神の上司にチクってやる!」
俺をただの一般人と思うなよ!?
俺の知り合いには曲がりなりにも”神”がいるんだからな。
神に上司がいるなど、我ながら世俗まみれた考えだが、このやり場のない気持ちをぶつけてやる!
「カズマさん・・・残念ながら、アクシズ教の主神はアクアさんです」
「おう・・・」
あぁ・・・目から何かいっぱい零れてくる・・・
クビにされなかったのは良かったが…
(この山積みの問題。どうすりゃいいんだ~~!)
ウィズの冷酷な宣告は完膚なきまでに俺の心を粉々にしたのであった。