このヒロインにもルートを!※更新停止※ 作:来世から本気をだす
◇距離◇
「あの・・・カズマさん、大丈夫ですか?」
「ああ。ちょっと、胃がな」
体育座りをしながら火を眺める俺の背中を、壊れ物でも触るかのように優しくさするウィズ。あの後、俺は休憩を申し出た。
何故なら、俺の許容量をやすやすと超え、胃が”待った!”と訴えたからだ。
チリチリと痛む左腹部。
一旦、火でも眺めて現実逃避でもしなきゃ胃に穴があく。
確かに2個でも3個でもお願いを聞くとは言ったが、ここまで複雑奇っ怪な事は想定していなかった。
この後の事を考えると、首筋がブッルと震えてしまう。
バニルの事とか、まだまだ問題があるのだが…果たして俺の胃袋は最後まで持ちこたえられるのであろうか?
(無理じゃない?)
…どこかから、青髪の声が聞こえた気がするが無視だ無視。
一瞬、思い浮かんだ奴の顔を振り払い、もう一度揺れる炎に目を向けると。
「私のせいで・・・ごめんなさい」
彼女はシュンと力なくうつむき謝ってくる。
「いやいや、気にしないでくれ。ことの大きさに日和っちまっただけだから。」
クビと言われなかっただけ100倍マシだ。
それに、こんな大事な事を話してくれるなんて、信頼してくれているって事だよな?
昼間よりも、くだけた感じで接して来てくれる気がするし。
俺の勘違いかも知れないが・・・そう考えると、やる気が湧いてくる。
俺は火を眺めるのを辞め、スッーと息を吐き、気合いを入れ直した。
◇カエル騒動◇
とりあえず、あのアホをけなしてから本題に入るか。
「・・・駄女神が絡むとホントろくな目にあわないな。それで話の続きだが、売られたオタマジャクシが野生化して繁殖したわけだな?」
ウィズは目を伏せてため息を吐く。
「はい。あれはお祭りが終わってから、しばらくしての事です。野良キャベツを追いかけて200~300匹が群れをなしてアクセルに向かってきました。ギルドや軍の出動もあって幸い人的被害は出なかったんですが町中の野菜が食い尽くされて・・・」
カエルが大群で押し寄せるとか・・・想像しただけで恐ろしいな。
昼間、街で調べたかぎりでは熊よりデカいと聞いた。
そんなモンスターが大軍で押しよせたら、人を襲わなくても街には必ず被害が出る。
俺は、一面を埋め尽くすカエルを想像して戦慄していると、ウィズが「そう言えば・・・」とつぶやく。
「その時もカズマさんに間接的に、助けられましたね。砦の魔王軍を倒してくださったおかげで、軍が素早くカエル騒動に対応してくれましたから」
ウィズは頭をさげ「ありがとうございます」と言ってくる。
しかし、俺は難しい顔をするしかなかった。
なにせ記憶が無いので実感がない。
「本当に、そいつは俺か?街を散策している時に住民に、冒険者カードを見せたんだが・・・悲惨だったぞ」
営業がてらに、そこら辺の住民に冒険者カードを見せた。
比較対象がいないと自分が強いのか、弱いのかも分らなかったからだ。
魔王軍幹部を倒した俺の冒険者カード。さぞかし驚かれるステータスなのだろうと、そこら辺のオジサンにみせたのだが…
そしたら「トウモロコシに負けるだろう」の一言。
嘘偽りがなさそうな真剣な顔で言われて、かなりショックだった。
「カズマさんの凄さは冒険者カードじゃ分かりませんよ。その凄さは一緒に冒険してみないと」
ウィズはどこか誇らしげに言う。
まるでパーティーの仲間を自慢する様に。
しかし、その対象は俺自身だ。
なんとも、むず痒くなる。
(俺の知らない俺か・・・日本なら、どこにでも居そうな。ただの学生ニートなんだがな・・・)
腕を組みながら、いまだに信じられず訝しげな顔をしているとウィズは
「それで軍が動き事態が鎮圧したあと、私はカエル騒動の管理責任を問われ捕まったんです」
「はぁ・・・だからサラッと重大事項をぶっ込むな」
◇発信機◇
こんな事は慣れたくない。俺はあからさまにため息をつく。
「それにウィズは魔王軍幹部なんだろ?捕まるなんて一大事じゃないのか?」
普通は、そのまま絞首台の様な気がするんだが・・・
「アクセルでは大丈夫ですよ。それに私がダクネスさんの友人と言う事で、今回のカエル騒動も領主様が温情をかけてくれたんです。これを見てください」
(これって・・・)
ウィズはローブの裾を少しつまみ上げる。
右足首辺りに、変わった金具がついたバンドが巻かれていた。
「私も渡されて始めて見たんです。装備した人の居場所を伝えるハッシンキ?って名前の魔道具なんです」
「ああ・・・だろうな」
よく知っている。
日本じゃ創作物とかでたまに見かけるな。
海外じゃ色々と実用化されているようだけど・・・
「これを巻いておけば街の外に出る事も許されたんですよ。それに野菜の補填を終えれば、これも外してもらえます」
嬉しそうに語るウィズ。対して俺はこの魔道具に嫌悪感がでる。
確かに、幾ら故意的じゃないとは言えウィズの所有物で被害が出てしまっている以上、無罪放免とは行かないんだと分かるが、女性の行動を逐一把握するっていうのは・・・そりゃ、牢屋で暮らすよりマシだが。
(う~~ん・・・複雑)
俺は彼女の足に顔を近づけ、巻かれているバンドを舐めるように見回す。
「か、カズマさん・・・そんなに見られると恥ずかしいのですが・・・」
「あっ、ごめんごめん」
女性の生足って言うのは、ちょっとした魅了の魔力があるな・・・
ウィズは、俺の舐めるような視線に、少し頬を赤くして戸惑っている。
◇野菜◇
「それで、カズマさんには明日、私と一緒に村長さんの説得を手伝って欲しいんです」
「もしかして・・・かき氷を売って、実力を認めて貰おうとしていた相手って、その村長さんか?」
「そうなんです!サムイドーの野菜を取り仕切っていて、ここの野菜を仕入れるには村長さんの許可がどうしても必要なんです。」
真剣な表情で言ってくるウィズ。その必死さから、サムイドーの野菜への執念が感じられる。だが・・・。
「野菜は補填のためだろ?別にサムイドーの野菜にこだわらなくてもいいんじゃないか?」
そうなのだ。
サムイドーの野菜じゃなくても、いいのではないだろうか?
野菜は他の街でも手に入るはずだ。
わざわざ実力を認めてもらってでも、ここの野菜にこだわる理由があるのだろうか?
俺の指摘にウィズは
「その・・・この事件で顧客が離れてしまったんです。そこで、サムイドーの野菜の美味しさで顧客を呼び戻したいのです!」
「野菜の美味しさね・・・」
サムイドーの野菜に余程の自信があるのだろう。自信満々に告げてくるウィズに対して俺は訝しげな顔になっている。
幾ら美味しいって言っても、本来はそこら辺のお店で手に入る野菜だぞ?
そんな疑う態度の俺を察したのかウィズは力強く
「サムイドーの野菜を、アクセルで取り扱っているお店はまだありません。そこに補填品として各店に野菜を配れば皆さんの口に入ります。もう一度食べたいと思うはずです!これはチャンスなんです!」
「おっ・・・おう。」
「ウチがサムイドーの野菜を独占的に売り出せばウィズ魔道具店は復活間違いなしです!」
彼女の勢いについ尻込みしてしまう。そんな目を輝かせて力説しなくても・・・
「でも、野菜の美味しさで顧客を呼び戻すなんて夢を見すぎているような・・・」
「むっ、では。これを食べてみてください。」
ウィズは駆け足で部屋の隅に行く。天井に届きそうなほど高く積み上げられた、私物の山から赤い実が入ったタッパを取り出した。
「おひとつ、どうぞ」
「プチトマトか…」
彼女がタッパから取り出したのは日本でもよく見たプチトマト。
ビー玉ぐらいの大きさで噛めばブニュと中身が出てくる、あのプチトマトだ。
違いはプチトマトがプルプルと震えているぐらいだろう。
(・・・・)
今、一瞬。震えているトマトの異常さを疑問に思わなかった自分が嫌になった。
慣れって怖いな。
少し落ち込みながらウィズからプチトマトを受け取り口に運ぶ
「プチトマトの噛んだ感触が、あんまり好きじゃな・・・いんだよ…な!?」
「どうですか?」
ウィズには珍しいニヤリ顔で俺を見てきた。しかし、この顔をするのも食べた後なら納得できる。
「これは売れる。間違いなく売れる」
感動の域だ。
よく瑞々しいとか、果実の如く甘いなどと旨さを表現するが。
この野菜はそう言う域ではない。
野菜の価値観が壊れるレベルだ。
そして何か満たされる感じがする。
「どうですか?ここの野菜の美味しさは。蓄えている経験値も豊富で食べると魔力がちょっと回復する性質があるんです」
「経験値・・・俺の知っている世界観で、このトマトを語ることはできないな…」
まさに驚愕の旨さだ。
唖然としている俺に、満足げに笑みを浮かべるウィズ
「悩みに悩み抜いた末の案ですから、私がこんな素晴らしい案を立てたのにバニルさんは…」
さっきまでのヒマワリのような明るい笑みから一転、彼女は怒りの表情を見せる。
「…嫌なら、話さなくていいぞ?昼間はすまなかった。」
俺は深々と頭を下げた。
「いえ、カズマさんには関係ないのに、当たり散らしてしまった私の方が悪いんです。」
ウィズは苦笑して誤魔化しているが、また気まずい空気が流れ始めてしまった。
昼間の事を流れで謝れたのはいいが、この空気はご免こうむりたい。
俺は急いで他の話題を探す。表情を七変化させて悩んでいると、ウィズは再び私物の山から何かを漁り始めた。
「カズマさん、一緒にこれを触ってくれませんか?」
◇魔道具◇
「なんだこれ、水晶玉?」
取り出してきたのは占いで使いそうな透き通る水晶玉。
「これは魔力を注いだ使用者の見せたい過去を、水晶に触っている方に見せる魔道具です。」
「凄くとがった魔道具だな・・・用途が限られすぎじゃないか?」
いまいち用途が思いつかない。
何かに使えそうな気がするが・・・
今のところ俺の脳みそじゃ、知り合いに自慢話する時や、逃亡犯の似顔絵制作ぐらいしか思いつかない。
俺が真剣な表情で利用方法を考えていると、ウィズは困った顔で。
「作って貰ってから気づきました。」
「だろうな…」
頬を引きつり苦笑するウィズ。
「本来は二人一組で魔力を注ぎ、互いの恥ずかしい過去をさらけ出すと言う商品だったのですが売れなくて…それで問題点を改良していったら、用途がなくなってしまったんです」
「本末転倒じゃねぇか!だいたい改良する前も何の用途があるんだよ・・・?」
俺はウィズに訝しがる視線を送ると、ウィズは嬉しそうに。
「お互いに恥ずかしい過去が知れたらより仲良くなれると思いませんか?」
「まわりくどいわ!?」
ついつい、ツッコミを入れてしまったがウィズの商品は一度、すべてチェックした方がいいな。
品選びのセンスが壊滅的すぎる。
今後、一緒に働くのだったら教育的指導が必要そうだ・・・
「これでバニルさんと喧嘩した時の事を、カズマさんにお見せします。これだったら客観的になれて怒りが湧くことも少ないと思いますし」
「いいのか!?」
そりゃ、バニルの事は知りたい。
なにせ”バニルに売られる”と、トンデモない事をウィズが告白したものだから余計に事情が気になる。
しかし、それは彼女が悲しまない前提だ。
傷口をえぐる様なことはしたくない。
水晶玉に触るのをためらう俺を見てウィズは熱いまなざしを送ってくる。
「カズマさんには知って貰いたいんです…私の未来はカズマさんの手腕にかかっているんです!」
「そんなに期待されても困るが・・・まあ、かき氷を売るセンスのウィズより、マシな自信はある」
ウィズは、わかりやすく落ち込む。
本人は本気で悩んで勝負した結果なのだ。慰めてやりたいが、それでも彼女のために言葉は濁さず真実を告げていくつもりだ。
しかし、不思議なほどウィズは俺の手腕を相当信頼してくれている。
俺はまだ、サムイドーに来てから何もしていないんだが・・・
まあ、俺の知らない俺を知っているから、頼りにしてくれているんだろう。
だったら、前の俺に負けてらんねぇな。
どっかに逃げていた覚悟くんは、今このタイミングでご帰還なさったようだ。
目をつぶり覚悟を決める。水晶玉に触れるとウィズは真剣な表情で魔力を込め始めた。
「それじゃ、行きますよ」