このヒロインにもルートを!※更新停止※   作:来世から本気をだす

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6話、俺の掴んだモノは・・・

 

俺は恐る恐る、ウィズの手にのった水晶に触れると。

一瞬、視界が白く染まり徐々に、どこかの店内へと周辺が変わってしまった。

 

(どうですか、この魔道具は)

(お、おい。俺達浮いてるぞ。それにウィズ、身体がすすけているじゃねぇか!?)

天井付近をふわふわと漂う俺達。

(カズマさんも自分の手や身体を見てください)

(おっ!?俺もすすけてる!)

幽霊の如く半透明になったウィズが語りかけてくる。

視線に釣られて自分の手を見ると彼女と同じく半透明になっていた。

反応が期待通りだったのか、そんな動揺してる俺をみて彼女は楽しそうに笑った。

 

(これは、ちょっとした幻術みたいなもので、この空間は私の記憶で出来たアクセルの魔道具店なのです)

(へぇ~、本当に店があったんだな)

(むっ・・・当然、ありますよ)

 

ウィズは少しむくれている。

ただの冗談のつもりだったのだが…

子リスの様に少し頬を膨らませてる彼女が可愛い。

仕方ない。今後も適度にいじって行くことにしよう・・・

俺はニヤニヤしながら、しょうもない決意を決めてるとウィズはジト目で睨んできた。

 

(そろそろ本題に入りますよ。あと水晶から手を離さないでくださいね?幻術が解けてしまうので)

ツンとした態度で拗ねている姿が、これまた愛らしい…

ウィズは手に持った水晶に再び魔力を込め始める。

すると、店内に透明じゃない、もう一人のウィズが現れた。

現れた彼女は手慣れた手つきで棚の商品を整理し始める。

なるほど・・・神様や幽霊になった気分だ。

 

(凄いな、この魔道具)

(そうでしょう!なのに、ちっとも売れないんです…)

半透明な彼女は力なく肩を落としてションボリとし始める。

しかし、これは売り方次第だな。

俺の覚えている映画やアニメの一つや二つ放映すれば商売として成り立つんじゃなかろうか?

何せ、この世界にはテレビやインターネットどころかモニターがないからな。

そんな金儲けの事を考えていたらウィズは訝しんだ顔でみつめて来た。

(カズマさん…なにか顔が怖いですよ?)

(ふっ、俺の事は気にするな。それでバニルと何があったんだ?)

(そ、そうでした。あれは、夏の午後。私はいつものように店で品出をしていたんですが)

 

「ダメ店主よ、サキュバスの店で働く気はないか!」

「へっ?」

 

おい・・・まじかよ。あれがバニルか?

店の入り口と思われる扉が開かれると同時に、白黒の仮面を付けた男がふざけた事を叫んだ。

バニルが開口一番に発した発言。

それを聞いた品だしをしていたウィズは固まってしまう。

受け止めきれなかった様子だ。

 

「い、言っている意味が…?」

「先ほど理想のダンジョンを求めて山岳地帯を散策していたのだ。ここら一帯のサキュバスの店を統括するサキュバズクイーンに会ってな。貴様の事を話したら雇いたいと申してきたのだ」

「サキュバスのお店って・・・ロリーサさんとかが働いてるお店ですか!?」

 

(サキュバス?もしかして…えっ?ウィズって、そう言うお店知ってるの?)

(・・・お店の商品を買って下さるので。よく買ってくださる品はヌルヌルする魔法薬です)

(お、おう・・・)

半透明のウィズは俺から視線を外し、顔を真っ赤にして答えてくれた。しまった…これは事案か?

軽く血の気が引く俺など無視して店内のウィズとバニルは口調が激しくなっていく。

 

 

 

「そうだ。紹介料として、かなりの額を提示されてな。その金で野菜を買い付けてきてやろう。なに夜間業務だけで構わないと申している。魔道具店と掛け持ち出来るぞ」

「い、いやです!?だって、その・・・サキュバスのお店の夜間業務って・・・」

「リッチーも淫夢系のスキルは多少、覚える事が出来たであろう。まあサキュバスクイーンの狙いは貴様のドレインタッチでアレを集めることだと思うが「絶対に嫌です!」」

 

(悪魔かアイツは・・・)

(はい。正真正銘の悪魔です)

比喩のつもりで言ったのだが・・・。

こいつはヒデェ・・・

店内のウィズは顔をトマトの様に赤くして激怒している。

そんなウィズに「美味!」と連呼するバニル。長年の同僚を、そんなイカガワシイ店に売り飛ばすとか正気か?

口論?はより激しさをます。ウィズは品出しをしていた棚から離れ、いつでも飛び掛かれるような戦闘態勢になっていた。

 

「花も恥じらう乙女になにをさせる気ですか!?」

「乙女・・・プッ。賠償金で元手が無い今、野菜を買い付ける事も出来ん。それも貴様に残された時間は少ないのだぞ、来月末はなにが待っていると思う?」

「来月末ですか?来月は8月ですから・・・あっ」

 

乙女の部分に笑われて魔法をぶっ放そうとするウィズ。

しかし、8月末と言う発言で何かに気づいたのか真っ青に青ざめていく。

 

(いったい8月末になにがあるんだ?)

(みんな嫌いなものです)

後ろめたそうに目をそらす半透明のウィズ。答えはバニルが高らかに叫んだ。

 

「そうだ・・・納税日だ!」

 

(納税日!?)

半透明のウィズに俺は勢いよく顔を向ける。

訝しげな視線で睨むと、またアクアみたいな顔になりそうな雰囲気を醸し出したので黙ってバニルに視線を向け直す。

 

「で、でも!いつものように街の外に逃げれば」

 

(逃げる!?)

(や、やめてください!視線が怖いです!)

バニルに向かってオロオロとしだした過去のウィズが、とんでもない事を言いやがった。

そりゃ怖くもするさ。

日本だったら税金の種類によって、カラフルなラブレターが役所から届く。

俺のネトゲ仲間も、このラブレターが写った画像を一緒にみて「とうとう届いちゃったよWWW」とボイスチャットで一緒に笑ったのを最後に音信不通となった。

 

税金と言うのは恐ろしいのだ。

 

(わ、私はまだ冒険者で申告してるので、納税日を逃げ切れば払わなくていいんです!だから鬼の形相で顔を近づけないでください~)

 

どうやら彼女はアクア菌に侵されているようだ。

そうでなければ俺の好きな人が、こんな世迷い言を言うとは信じられない。

でも一応好きな人だ。

問い詰めたくなる気持ちを必死に押さえて”逃げれば払わなくていい”と言う世迷い言を、この場は信じてみようと思う。

 

 

 

「ダメ店主よ、保釈中の身で逃げるつもりか?」

 

 

 

(ウィズ・・・時には諦めも肝心だぞ?俺も手伝ってやるから)

(わあああああ!諦めないで下さい!今年だけは、今年だけは不味いのです~~)

くそ!アクア菌め・・・すでにウィズを乗っ取りかけているな?

早くワクチンを作らないと・・・

アクア化し始めてるウィズに戦慄する俺だが、この場にはもっと戦慄の表情をする者がいる。

 

過去のウィズだ。

 

大汗をかき。ガタガタと震え。壊れたラジカセの様に小声で「どうしよう・・・どうしよう・・・」とつぶやいている。

 

「このまま保釈の身で逃げれば全国指名手配。それも捜査権はアクセルから国に移るからな・・・魔王軍の幹部として高額な報奨金がかけられるであろう。かと言って納税日に役人に捕まれば、どうなる?」

 

「今年度の収入の半分・・・やばい」

 

「そうだ、今年の収入は坊主から提供された商品の収入分がある。我らが納めなければならない額は約15億だ」

 

(なぁウィズ?手元に残っている、お金は幾らなんだ?)

出来るだけ優しく聞いてやろう。彼女は菌に侵された、ただの被害者なのだから。

満面の笑みでウィズに問いかけてやった。

 

(マ、マイナス二千万ですかね・・・)

 

(???)

 

(その・・・言いにくいのですが、かき氷屋と野菜を仕入れるお金が必要で・・・街の壁に貼られていた張り紙の住所に・・・)

 

(ばかもんーーーーーーーー!?)

 

(ごめんなさ~~~い(泣))

借りたのか!借りたって言うのか!?

日本なら電柱によく貼られていて誰が連絡するんだよ・・・って馬鹿にしていたアレを利用したのか!?

利用したあげくにやった事が、かき氷屋なのか!?

 

(・・・ウィズ。お祓いに行こう。この国にはエリス様って優しい神様を祀っているそうじゃないか。俺が土下座で教会に頼み込んでみるから邪神を払ってもらおう)

(私、成仏しちゃいますよ~~!)

 

ボロボロと泣く半透明のウィズ。

昼間は彼女の涙に心を痛めたが、そんな些細な事で悩んでいた俺が馬鹿だったようだ。

そして、店内でテンパりまくるウィズをなだめるバニルにも、ちょっと同情し始めてきた俺がいる。

 

 

「ど、ど、どうしましょう!?」

あわあわと目を回すウィズを、バニルは腕を組みフンっと鼻で笑った。

「だから売られろと言っておる」

「とうとう、”売る”ってハッキリいいましたね!」

「わがまま言うな。納税日までに野菜の補填を終えて納税日を逃げ切らねば貴様はおしまいだぞ!」

「嫌です!それだけは嫌です!!そ、それに・・・」

辛辣なバニルの言葉に過去のウィズは一瞬、語気が強くなったものの。すぐに口調に勢いがなくなり視線をバニルから外して、人差し指を合わせてモジモジとし始めた。

そして、ちょっと頬を赤らめている。

答えが気になってチラリと横を見てみれば過去のウィズ以上に、真っ赤なゆでダコになっている彼女。

答えは過去のウィズが消え入りそうな声で呟いた。

 

「今でも結婚を諦めていませんし・・・」

 

(やっぱり…ウィズは可愛いな)

(や、やめてくださいカズマさん!恥ずかしくて成仏しちゃいそうです)

俺はニヤニヤと横目で隣のウィズをみたら、恥ずかしそうにムッ~と唸っている。

可愛い奴め。過去のウィズも気まずそうに顔を赤くしている。

しかし、そんなウィズを見たバニルは。

「いい年して諦めが悪い行き遅れ店主よ、我の目を使わんでも見通せる未来がある。貴様が結婚できる確率は無に等しいと見通す悪魔の名にかけて宣言してやろう(笑)」

 

どこからかブチッ!とした音が聞こえた気がする。

店内のウィズは静かに、しかし圧倒的な”魔力”を集め始めた。

 

「・・・おい、暴走店主よ!?店内でそんな魔法を放ったら」

 

『知りません。バニルさんなんてクビです!わたし一人で納税日を乗り切って見せますとも!』

 

<カースド・クリスタルプリズン>

 

 

一瞬で氷漬けになる店内とバニル。

俺には影響ないはずなのだが、圧倒的な気迫に身体が縮こまって水晶から手を離してしまう。

その瞬間、まわりは元のロッジに戻っていた。

ウィズはつぶらな瞳で、うるうると潤ませながら俺を見てくる。

「お願いです。もう、カズマさんしか頼れる人がいないんです!」

「いや…しかしな…」

頼る相手を間違えていないか?

俺は異世界人と言う事をのぞけば、そこら辺であぶらを売っている村人Aだぞ?

「う~ん…」と時間稼ぎに、とりあえず渋ってみる。っておい!?

すると、ウィズは俺と目と鼻の先まで詰め寄って来た。

 

「お、おいウィズ!?」

近い!近いってウィズ!?

彼女から甘い香りが漂ってきて、鼻を刺激してきやがる。

素人に、この近さは厳しいから!

しかし、慌てふためく俺など関係なしに、彼女は話すことに夢中になっている。

 

「バニルさんをクビにしてから事態が悪化するばかりで・・・納税日までに野菜を納品して税金から逃げ切るしか私の明日はないんです!」

「いや、借金ならまだしも…脱税はダメだぜ」

「脱税じゃありません!正式な免除の仕方なんです!」

 

俺の覚悟くんは二度目の逃走をしてしまった。

ウィズは「信じて下さい!」と連呼してるが脱税はダメだろ・・・それも15億。

先ほど何でもかかってこい!ぐらいの気持ちだったのに・・・弱気になりそうだ。

 

とりあえず交渉が失敗した時の事を考えておくか。

選択肢のなかで一番マシに思えるのは、いかがわしい店で働く事だろうか?

地獄の公爵と呼ばれるぐらいの奴のオススメだ。

言うほど悪い待遇にはなってないと思いたい。

 

 

「ウィズ・・・ちゃんとお店に行ってやるからな」

 

「うわぁぁ~~~」

 

どこかの女神の様な顔で、俺の襟を掴みぶんぶんと前後に揺らしてくるウィズ。

俺に出来るのは彼女を毎晩、指名して他の男にツバを付けられないように独占する事ぐらいだろうか?

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

俺は呆れながら渋々と言う。

 

「しょうがねぇな・・・」

「カズマさん!」

 

ウィズはこの言葉を待ってましたと、言わんばかりに勢いよく俺の手を握って来た。

よくみたら彼女は泣きすぎて目の周りが腫れているじゃねぇか。

はぁ…可愛い顔が台無しだよ・・・

なんだか、昨日より表情が豊かになったと言うかボディタッチが増えたと言うべきか・・・

この数時間で彼女との距離が近くなった”気”がするのは誠に嬉しいんだが・・・

 

「脱税やお金を借りるのも、これで最後にしろよ」

俺は冷ややかな目で告げるとウィズは。

「ははは・・・善処します」

彼女の目が泳いでいる。反省してねぇな、コイツ・・・

 

「はぁ・・・ウィズ、紅茶でも飲むか?」

俺は強張った身体を伸ばしながら暖炉の前から立ち上がり、そして見上げてくるウィズに問う。さすがに叫びすぎた。

この荒んだ心を落ち着かせるためにも、一杯欲しくなる。

 

「へっ?・・・あっ。いただきます」

「りょ~かい」

彼女は目をパチくりしながら一瞬かたまり、我に返ったように「いただきます」とつぶやく。俺はウィズを部屋に残し、一人、炊事場に向かった。

流し台に置かれていたヤカンを、手にとり水をいれ始め。同時に再び「はぁ・・・」深いため息が漏れ出る。

 

(どうして、こうなった?)

 

今日の事を走馬灯のように振り返る。

ホントなら昼間の商いで格好いい所を見せて今頃、イチャイチャ、チュチュする予定だったのに・・・

脱税、逮捕、借金と。

よくも、まぁ・・・これだけの事を。

今後の事を考えると気怠くなる。

気分が落ち込んでるせいか?

いつもよりズッシリと感じるヤカンをコンロに置き。

魔力を流し込むとボッと火が付く。

湯が出来上がるまでの数分の静寂。

魔力を流し続けながら俺は、今日の彼女の喜怒哀楽を思い返す。

 

笑って、怒って、しょげたり、泣いたりと…

この数時間でたくさんの彼女を知った。

 

ハッキリとわかる。

 

俺は命の恩人である彼女が好きだ。

いや、命の恩人でなくても好きだったと思う。

そばに居るだけで嬉しくなるほどに。

 

 

だから・・・

 

 

『これ以上、好きになる前に身を引くべきではないだろうか?』

 

 

そりゃ、キッチリと彼女は助けるつもりで交渉に挑むし、彼女の悲しむ顔を見るのは論外だ。

 

 

だけど、俺程度が彼女を幸せに出来るのか?

 

なんとなくだが…わかってしまった。

記憶を失う前の自分がウィズに手を出さなかった理由。

身の丈に合わないと、逃げたんじゃねぇかな?

分が悪いと思ったんだろ。

俺のことだ。

自分が勝手に落ち込むだけならともかく、ウィズまで嫌な思いにさせてしまったら…とか適当な理由を立てて逃げに走ったんじゃないか?

隣に完璧な悪魔がいればなおさらだ。

挑戦することもなく身を引いたんだろ。

 

自分の保身のために。

 

(あ~…傷つくのが嫌だもんな、俺)

 

情けない。

彼氏でもなんでもない、ただの従業員が考えるには贅沢な悩みなのだが。

 

彼女の記憶でみたバニル。

どう考えても奴の方が俺よりも有能そうだし、聞いた限り色んなチートを持っている。

 

そのバニルが手を焼き、ウィズを売ろうとしてるんだ。

 

 

俺にバニル以上の事が出来るのか?

 

自分が嫌になる。

 

今、頭では「地雷だぞ?」「素敵な女性は他にもいっぱいる!」「戦略的撤退しとけ!」と語りかけてくる嫌な自分が沢山いる。

 

彼女の為にできる事をやったら関係を自然な感じでフェードアウトしていくべきじゃないだろうか?

 

何より俺になにが出来る?

 

ウィズが頼ってくれるのは嬉しい。

でも、俺はチートも異能力も貰っていない。なりゆきの転生者だ。

明日の交渉だってウィズがするより自信があるってだけだ。

 

(よく考えれば俺みたいなニー・・・学生が彼女と釣り合う訳がないんだよな)

 

 

ニートの性と言うべきか・・・気質というか。

 

一度、始まったネガティブな思考は止まらない。

 

 

そんなマイナス思考の自問自答を、繰り返していたら。

 

ヤカンが鳴った。

 

熱気を感じるヤカンを持ち上げ、空の小さなティーポットを見て。

(あぁ・・・しまった)

別のことを考えながら動くもんじゃないな。

茶葉を用意するのを忘れていた。

軽く炊事場を見回すが茶葉らしき物はない。

しばらくヤカンと、にらめっこを始めてみる。

 

すると彼女の声が聞こえてきた。

振り返ると入口から、ひょっこりと炊事場に顔を覗かせるウィズ。彼女は微笑みながら。

 

「カズマさん、これ使います?」

「それって・・・ティーパックじゃねぇか」

「カズマさんが考案なんですよ?ウチの人気商品の一つです」

 

ウィズは俺の隣に来て、空のティーポットにパックを垂らす。

俺は糸が垂れたポットにお湯を注ぎ始めると。

彼女はボソリと呟いた。

 

「カズマさんって不思議です。」

「えっ?」

 

不意にかけられる言葉。

横目で見ると、ウィズは、どこか儚げな表情をしている。

 

「カズマさんと一緒に居ると不安がなくなるんです。」

「そ、それは嬉しいな…」

(な、何をいきなり口走っているんだよウィズ!?)

顔から火が出そうだ。鼓動がいっきに速くなる。

完全い不意打ちを食らった。

俺は内心動揺しながらもそれを悟られない様に注意する。

口が震えて次の言葉が出ない。今にも醜態を晒してしまいそうだ。

なのに彼女は…

 

「倒れていたカズマさんに会うまで『もうダメかな』って心のどこかで諦めていたんですけど、今は・・・それが無いんです。」

 

ぽつり、ぽつりと一言づつ零れていく言葉。

俺には絶対に言えない言葉だ。

しかし、彼女は「これが私の平常運転」と言わんばかりに臆することもなく、こんな俺の様子をジッと見詰めながら呟いてくる。

 

 

言い切ったウィズは、少し恥ずかしそうに微笑んだ。

そんな彼女に俺は、気恥ずかしくなる。

照れる感情を誤魔化すように、俺はお湯が注がれたポットに視線を戻す。

 

「・・・情けない事を言うが明日の交渉が上手くいく保証なんて、どこにもないぞ?俺、取引とかした事ないし」

 

 

「カズマさんなら大丈夫ですよ。それに・・・もし、ダメだった時は、また一緒に悩んでくれませんか?」

 

 

チラッと視線だけ動かして彼女を見ると満面の笑みをしていた。

彼女が何故、俺こと『サトウ カズマ』なら何とか出来ると思っているのか分らない。

俺自身の事なのにな。でも。

 

ウィズの嬉しそうな声は、俺の心にスッ染み渡った。

 

やっぱし・・・彼女の事が”好きだ”。

 

彼女のどこが好き。なにが好き。

 

いまだに明確なものは無い。

ただウィズを他の男に渡したくない。

野郎の恋なんて、こんなもんだろ。

どんな問題を抱えていようが『関係ない!』と冷静な自分を殴りつける馬鹿な俺がいる。

 

俺は出来上がった紅茶をマグカップに注ぎ、ウィズに渡す。

 

「明日は全力を尽くすよ・・・ほらよ、熱いから気をつけて持てよ?」

「・・・カズマさん。ありがとうございます」

 

彼女が今、見せてくれているニッコリとした笑みが好きだ。

俺って、こんなチョロ甘な馬鹿な男だったけな~

ウィズと会ってからの俺は何処かおかしい気がする。

 

俺達は意味もなく見つめ合っていると・・・

 

それは突然きた。

 

 

(だっ~~~甘い!仲間ほったらかして、イチャイチャしてんじゃないわよ!?)

 

「・・・はっ?」

 

どっかの、飲んだくれ馬鹿が叫んだ気がした。そして・・・

 

カタカタと音が鳴り出す、ティーポット。

足下から伝わってくる振動。

日本にいた頃は、時と場合を読まず何度も味わったものだ。

 

「お、おい。揺れてないか・・・地震?」

地震大国日本で暮らした俺からすれば慣れた程度の揺れだ。震度4ぐらいか?

慌てることはない。

俺は冷静に机の下に隠れようとすると

 

「ま、不味いです!?」

慌てふためきながら、リビングに駆け込んでいくウィズ。

おいおい・・・地震の際に重要なのは冷静な避難だぜ?

俺は半笑いしながらテーブルの下でウィズを視線で追う。

 

彼女の向かった先は、俺が目を覚ました時からずっと気になっていた山。

無造作に積み上げられた荷物の山。

ところどころ下着の様な物が見えるので無視し続けてきたが、トマトや水晶玉を取り出したりと・・・何の山だ?

 

「ウィズ・・・あぶねぇぞ?早く隠れないと「この中に強い衝撃を与えると爆発するポーションが入っているんです!」」

 

『それを先に言えーーー!』

俺は机の下から飛び出だし、ゆらゆらと動く荷物の山を必死に押さえるウィズに加勢する。

しかし、無造作に積み上げられた山は押さえる支点を与えてくれない。

 

「この山はなんなんだ!?」

「これはお店にあった商品の全てです!私がアルカンレティアに氷を仕入れてくる間、臨時バイトで雇ったリアさんにサムイドーに行くための荷造りを頼んだら、こんな感じにまとめられちゃって・・・」

「荷造り!?積み上げただけの間違いだろ!?」

「私も思ったんですけど、自信満々で「出来ました!」って言われて・・・とりあえず、まとめてテレポートしたんです」

 

 

 

わたわたと、掴み所の無い山を押さえながら目尻に涙をためるウィズ。

俺も無視してなければ良かったと後悔するが今じゃ後祭りだ。

かっ~~!なんで俺達の交友関係は問題児ばかりなんだ!?

イラつく感情で無性に頭をかきたくなるが手を山から離す余裕はない。

ちょっとでも振動が強くなれば山は崩壊する・・・あっ、これってフラグ?

 

ドン!

 

「「あっ・・・」」

 

下から突き上げるような振動と共に山の頂上は俺達に向かってなだれ込んでくる。

俺は咄嗟にウィズを覆い被さる様に抱え込む。

背中に様々な痛みを感じながらも爆発の衝撃はいつまでも来ない。

 

俺の幸運は健在だった。だが・・・

 

揺れが治まっても周りを見渡す余裕は訪れない。

なぜなら、右手に感じるマシュマロの様な柔らかい感触。

何を掴んだか確認するつもりで、軽く揉んでしまったのが事態を悪化させた。

ウィズの表情は七変化していき最後はトマトの様に真っ赤に染まる

この後に起きるであろう”お約束”に戦慄しながら俺は静かにその時を待つ。

 

(・・・・とらぶるって起きるんだな)

 

「きゃーーーー!?!?」

・・・ああ。意識が遠のく。

たぶん、ドレインタッチだろう。

死なない程度に加減してくれよウィズ。

薄れ行く意識の中。

俺はわずかな生存の望みに賭けて、手の感触を脳裏に刻み込みながら視界は暗転した。

 

<俺の掴んだモノは・・・とても柔らかかったです・・・>

 

 

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