昏き海都は黄砂に沈む   作:非単一三角形

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 この時期の原作シャリステラ「や、やります! わたし、何でもやります! ですから…」
   同じく原作シャルロッテ「じゃあお願いします! 何でもします! 師匠!」

 ……テキスト確認作業中、己の心は汚れているなと感じた作者がいたり。



第6話 昇る月日

 

 

「…………事情は、わかったが、なぁ……」

 

 

 シャリーちゃんが目を覚ました日の翌日。財協組合本部。

 あたしから諸々の報告を聞いたラウルさんは、そう呻きながら腕を組んで座り込んでしまった。

 

 あたしがシャリーちゃんから聞き出した事故──まあ事故だよね、そりゃ──当日の状況。

 それはステラード東の『海域』を主な縄張りとする『サンドドラゴン』の突然の襲撃が原因で。

 

 これについては、「…まあ事故だってんなら、しゃあねえわなあ」と、溜め息を吐くだけだったラウルさんの様子が次第に変わっていったのは、その先の報告を話し始めたところからだった。

 

 

「……『水涸れ』、か」

 

 

 昨日、シャリーちゃんが涙を堪えながらも力強く言っていた『使命』。

 それは彼女の故郷、『ルギオン村』を今も襲っている『災害』の解決だった。

 

 『水涸れ』──読んで字の如く、水が涸れていく現象。

 

 水源から得られる水がどんどん減っていて、村では既に深刻な水不足に苦しんでいるのという。

 僅かな水を一生懸命節約しながら使って、どうにか日々を過ごしているのが現状だそうだ。

 

「あの…なんとかならないんですか?」

「…確かにこの街は砂漠のオアシスだ。昔からの話をすりゃ、干上がった土地から移り住んできた奴らだって少なくねえ」

 

「ですよね? だったら……」

 

 そんなシャリーちゃんが──ルギオン村が助けを求めたのが、あたしたちの街ステラード。

 街の中にある『水源管理装置』から湧き出す水を湛える、『水の街』。『海の都』。

 水の豊かなこの街になら、村を救う方法が見つかると信じて…『族長代理』のシャリーちゃんを名代に、少人数を乗せたあの船で『黄昏の海』を越えてきたんだと彼女は言っていた。

 

 水不足……この街で生まれ育って、一度も遠くへ行ったことが無いあたしには想像し辛いけど、大変なことになってるってことだけはよくわかる。

 今も苦しんでいる人たちがいるなら助けてあげたいし、このステラードにならその力がある……と、思うんですけど、あの…ラウルさん? どうしてそんなに渋い顔を──

 

 

「…………シャリー。今から俺が話すこと、滅多な奴に喋るんじゃねえぞ」

「…うえっ!? は、はい……?」

 

「ああ、いや、この組合に出入りしてる人間は大体知ってんだが……まあいい、とにかく大通りで話す内容じゃねえことだけは覚えとけ」

「は、はあ…」

 

 なんだか色々と悩んだ顔をしながら、そう前置きするラウルさんに、思わず背筋が伸びた。

 …な、なになに? なにごと? そんな真剣な顔しなきゃいけない話があったんですか!?

 

 

 

「──このステラードでも始まってんだよ、『水涸れ』は」

 

 

 

 …………え?

 

 

「まだ、シャリステラ嬢ちゃんの村ほど深刻化はしてねえ。事が大きくなる前にどうにかしようと動いてるが……俺は、時間の問題だと思ってる」

 

 

 え、あの……そ、それって……!

 

 

「だから、お前は嬢ちゃんに伝えてくれ。……テメエの尻に火がついた状態で、他人に力を貸してくれようなんて奴、この街にゃいねえ…ってな」

 

 

 っ! …それ、じゃあ……

 

 

「村のことは、確かに大変だと思う。だが、俺もこの街を預かる身だからな。まずは街のヤツらを助けなきゃいけねえんだよ…!」

 

 

 そ、んな……ラウルさん……っ!

 

 

 

「…………悪いな」

 

 

 

▲ ▽ ▽

 

 

 

「…………」

「…………」

 

「…えっと、その……ごめん」

「…どうして、シャリーさんが謝るんですか」

 

「…………ごめん」

「…………」

 

 

 あたしからラウルさんの言葉を聞いたシャリーちゃんは、そう言って黙り込んでしまった。

 声を荒げることも、あたしを責めることもなく、ただただじっと静かに手を握りしめて。

 

「…あ、あたし! こんなの、知らなくて……ラウルさんも、いつもはこんな事言う人じゃ──」

「いえ、その人の言うこともわかりますし……()()()()()()()も頂けましたから」

 

 ……シャリーちゃんの言葉に、驚かされたのはあたしの方だった。

 指針って…? え、あれ、何か言ってたっけ?

 

 

「さっき教えてくれたじゃないですか。『財協組合』の精神は相互扶助。それは一種の契約であり不履行はありえない…でしたよね?」

「え、あ、うん。そういえば…」

 

 …それは、さっきのラウルさんの言葉の後に続いた、ソールさんの発言。

 シャリーちゃんの言葉を機に、直前の衝撃で忘れかけてたやり取りが頭の中を一気に駆け巡る。

 

 

 

『──身寄りも力も無い少女…となると難題でしたが、幸い彼女は錬金術という力をお持ちです』

 

『伝手さえこちらで用意して差し上げれば、ある程度ご自分で身を立てることは可能でしょう』

 

『彼女が街の役に立つならば、こちらとしても彼女に力を貸せる名分も立ちます』

 

『ただ問題は…ルギオン村、でしたか。どうやら古くにステラードとの交流が絶えて久しい集落、ということのようですし、援助に動こうにも情報を探すところからになってしまいますが…』

 

『…まあそちらは、一朝一夕に目処が立つものではない、とだけお伝えください』

 

 

 

「──錬金術で街の人たちの助けになれれば…遠回りかもしれないけど、村を救うことに繋がる。そのソールさんという方は、そう言ってくれてるんだと思うんです」

「そ…そっかあ、そういうことだったんだ…」

 

 ソールさんの言葉にそんな意味があったなんて、あたし全然わかんなかったよ…

 …あの人って、見た目はツンケンしてるけど案外いい人だったりするのかな?

 

 

「それに…仮に今、『水涸れ』を解決する方法が見つかっても、村に帰ることもできませんし…」

「……えっ」

 

 続けて聞こえたそんな呟きに、納得しかけていたあたしの頭が疑問符を浮かべた。

 そんなあたしの顔に一度瞬きをしたシャリーちゃんは、ちょっと困り顔になって口を開く。

 

「あ、その……もし、この街の船に乗せて頂いたとしても、村まで案内するだなんて、わたしにはとてもできませんから」

「…あ、ああ、そっか。……あ、それじゃシャリーちゃん、帰る方法も…」

 

 

「あるとしたら…………あの船の中、ですね。そこになら、村と街とを繋ぐ航路の情報も……っ」

「…!」

 

 平気なように話そうとして、それでも耐え切れなかったらしくて。

 唇を噛みながら俯いてしまったその姿に、あたしはまた余計な事を言ったと謝りたくなった。

 

 

 家に帰ってくる途中で見てきた『現場』は、まだ「ちょっと瓦礫が減ったかな」程度だった。

 聞いた限りだと、変に形が残っちゃった周りの家屋が崩れてくる前にどうにかしないとだとか、崩れた建物に寄りかかられてる建物を先に……とかで、時間も人手も取られてるそうだ。

 おかげで、一番下に()()()()()()の船に手が入る目処は、まだまだ立ちそうにない、らしい。

 

 あの船の中のモノ……あの男の人とかが()()()()()()のは、ずっと先に、なるんだろうな。

 

 

「……やれることがあるのなら、今はそれを一歩ずつやっていこうと思います。…シャリーさんやナディさんには、ずっと迷惑をかけてしまいますけど──」

「め、迷惑なんてことないよ! いやホントに!」

 

「…そ、そうなんですか?」

 

 またどこか辛そうに謝ろうとしたシャリーちゃんを慌てて引き留めた。

 いやいや迷惑なんて言わないでよ、これはホントに、うん。

 

 なにしろ、シャリーちゃんのおかげで……いや、『おかげ』って言っちゃダメなんだけど──

 

 

「そのお……あたし、ほんと錬金術士としては大した事なくってさ。今まで碌な仕事も受けさせてもらえてなかったんだよ」

「……?」

 

「あの日だってゴミ拾いしてたぐらいで……で、でも今回の事で、シャリーちゃんにって錬金術士らしい依頼をいっぱい紹介してもらえちゃったりなんかしててさ……」

「……え」

 

「その中には、あたしにもできそうだなー、って思うヤツなんかも……いや、ごめん! 喜んじゃダメだってわかってるんだけどね!?」

「え、あ、いえ、そういうことなら……わたしも気が楽になりますから、はい」

 

 

 うう~…笑ってくれるシャリーちゃんがやさしい。

 いや、もう、なんというか……あたしは現金なあたし自身にダメージ負ってます、はい。

 

 

 ──変わらない毎日を、変えたい。

 

 どうすればこの毎日を変えられるんだろうって、あたしはずっと考えてた。…願ってた。

 

 ……自分の中じゃ、特に何の努力もしてなかったくせにね。

 

 

「…それに、素材の採取は当分シャリーさんに任せきりにするしか……なんですよね?」

「う、うん。もうちょっと街が落ち着いてくるまでシャリーちゃんには出歩かないで欲しいって…でも、それぐらいは任せてよ! なんたって、あたしの取り柄は元気なことぐらいだしさ!」

 

 

 そんな願いを、どこかの迷惑な神様が叶えちゃったんじゃないか…なんてくだらないことまで、よりによってシャリーちゃんの前でちょっとでも考えちゃうあたしの頭が憎い。

 

 

「でも、きっとそこまで錬金術の腕前に差は無いと思いますよ? わたしも作れる道具はそんなに多いわけじゃないですし…」

「それも大丈夫だよ! …きっと! 承知して貰ったときは、あたしだけだったけど──」

 

 

 そんなモヤモヤを振り払うためにも。

 シャリーちゃんと村の人たちを助けて、一緒に笑い合えるようになるためにも。

 …あたしにしかできないでっかいことをして、いつか胸を張れる大物になってやるためにも!

 

 

 

「一緒にウィルベル師匠に教わって、一人前の錬金術士になろうよ!」

 

 

 

▽ ▽ ▲

 

 

 

「──事故の要因は、『サンドドラゴン』だそうですね」

「……ああ」

 

「どうするつもりですか」

「……何がだ」

 

「サンドドラゴンの被害を受けた船……()()()()()は、あったのでしょう?」

「…………」

 

「あの船という証拠があれば、『商会』も討伐隊の結成を──」

「なあ、ソール」

 

 

 

「……どうすりゃ、正しいと思う?」

 

 

 

「答えのない質問ですね。正しさなど、どの立場で見るかによって如何様にも変わりますから」

「…はは、冷てぇ野郎だなあ」

 

 

 

「ま…でも、お前の言うことがすべてだよな」

 

「俺は、ステラードを誰もが住みやすい街にする。そう決めたじゃねえか」

 

 

 

「…………恨むなら俺を恨んでくれよ、シャリー嬢ちゃん」

 





 加速する無茶振り。
 ハードル棒高跳び。なお


※原作既プレイの方へ

 原作初期ステラは焦り由来の傲慢(お姫様気質?)が見え隠れしてますが、本作では……ね?
 任意強制の違いはあれどステラードという地に腰を下ろしている理由さえあれば、本来の輝きを見せられる子だと作者は思ってます。

 また彼女の価値観について現時点で既に原作から大きく変化している箇所が一点。
 これも以前言及しました、波及により生じた小さな変化の一つです。


 そして、わりとドサクサ紛れにストーリーに関わるようになる原作初期ロッテ。
 他人の不幸に便乗する形で立身していく彼女には、ちょっとばかり良心を痛めてもらいたく。
 まあ暗めな話の中で、ひとりギャグ世界に生きてる彼女は貴重な癒しでもあるんですけども。


※原作未プレイの方へ

 原作でも物的被害は出ています。
 …が、事故だからという理由からか、金銭による補償を迫られている描写はありません。
 わりとでっかい商船一隻潰れたっぽいんですけどね。

 本来シャリステラが直接聞かされる話がシャルロッテ経由の伝言という形に。
 それによっても色々と細かな変化はあるのですが……気になった方は原作を、どうぞ。

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