昏き海都は黄砂に沈む   作:非単一三角形

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 久し振りの三人称視点。

 果たして彼女はブチ上がったハードルを無事に潜り抜けられるのか。
 …………あれ?



第7話 凄腕錬金術士?

 

「――というわけであたしは…いえ、あたしたちは一日でも早く、師匠みたいな立派な錬金術士にならなきゃいけないんです! ご指導よろしくお願いします!」

「お、お願いします……?」

 

 

「…………待って。ちょっと、待ってってば聞いてな……ん゛んっ!?」

 

 

 新たにできた――相手の勢いと自身の衝動に負けてできてしまった、弟子の実家。

 随分と若々しくほんわかした母親と挨拶を交わし、通された部屋で。

 

「(……重い! おっっっもい!? 抱えてるモノも、あたしの責任も!?)」

 

 たった今聞かされた()()()()の事情に、頭を抱えて蹲りたい想いから必死に抗う若き()()使()()、ウィルベル・フォル=エルスリートの姿がそこにあった。

 

 

 

 

 初め、戸を開けた瞬間に彼女が感じ取ったのは、素材と称して詰め込まれた雑多な物々が放つ、嗅ぎ慣れた()()にほど近い匂い。

 次いで視界に入ったのは、どっしりと鎮座する姿に安心感すら漂う錬金釜。

 

 ああ、結構ちゃんとしたアトリエだな、と。

 見慣れた器具に近い物もしっかり揃っているな、等々と考えて。

 

 これならイケる、なんとかなる――そう思い、そう信じ。

 前方に視点を戻した彼女は、そこで予想外の()()に首を傾げることになる。

 

 

 弟子にすることを了承した少女の両脇に控える、初めて見る()()()()()

 謝る弟子から人数増加の経緯を聞き、まあそれならしょうがないか、と彼女は納得した。

 

 ……納得は、した。

 

 

 錬金術士というだけでも需要引く手数多であると、特に彼女は実体験を伴い深く知っていた。

 そのため、聞かされた状況に置かれている少女が実力ある錬金術士との縁を前に飛びついてくるというのも、極々自然なことだと彼女は理解した。

 

 ……理解は、した。

 

 

 問題は。

 その、()()()()()()()()こと、ウィルベルにとっての最大の問題とは。

 

 

「(今さら、あたし錬金術士じゃないから、なんて絶っっっ対に言えないじゃないっ!!?)」

 

 

 ……誰のせいかと問うなら、間違いなく出会ったその場で否定しなかった己のせいだろう。

 後ろめたさからそう考えてしまう彼女は、心中で叫びを漏らしつつ益々懊悩する。

 

 

 ──そして更に、そんな彼女にとっての試練は続く。

 

 

「…本当に、錬金術士?」

 

 なんか疑り深いのがひとり混じってる。

 

 

「…どう見ても錬金術士というより魔法使い、ですよね?」

 

 なんならもうひとりも疑いだしてる。そして鋭い。

 

 

「(そう思うなら弟子(こいつ)が説明始める前に言ってやって!?)」

 

 それならまだ引き返せたかもしれないのにと、彼女は喉の奥で聞き取れない呟きを溢す。

 身寄りも何もかも失い、唯一その身に残った錬金術で生きようとしている少女の、一縷の望みを託された先、などという背景を聞かされる前ならば、と。

 

 

「……やっぱり、勝手に人数増やしちゃまずかった、ですよね……?」

「い、いやっ!? …ひ、ひとりやふたり増えたところで、どうってことないわよっ!」

 

 叫んだ言葉は脊髄反射。

 勢い任せに答えてしまった後で、しかしウィルベルは胸中で吠える。

 

 

「(……そこまで聞いて見捨てられるわけないでしょうが!? 寝覚めが悪すぎるわ!!)」

 

 

 ──女、ウィルベル24歳。職業(?)魔法使い。

 当人の自覚は薄くも、旅から旅へ訪れた先々にて自ら骨折り仕事に携わる程度には、お人好しな性根の持ち主なのであった。

 

 

 

▲ ▽ ▽

 

 

 

「……どうなの、シャリー?」

「……いえ、ちゃんと錬金術……えっと『古式錬金術』? ですね」

 

 ウィルベルから渡されたお手製感漂う手引書に今一度目を通し、小さく頷くシャリステラ。

 自分では真偽の判定ができないそれを睨んで、微かに口元を歪めるミルカ。

 

「さっき言っていた、『錬金術士ごとにやり方は異なる』というのも、間違ってはないですし…」

「…随分と放任主義に聞こえるけどね」

 

 初めにそう言った上で「空けた部分を自力で埋めなさい」と渡してきたのがこの手引書。

 ざっと目を通したシャリステラが確かにその有用性を認めるも、それに比例するようにミルカの眼差しは吊り上がる。

 

 

「──どうですか、師匠! できてますか!?」

「え、ええ、その調子だと思……っ、その調子よ!」

 

「…わわっ! な、なんか見たことない反応が始まったんですけど!?」

「え、あ、えっとこれは…確か……! そ、そこの中和剤を入れれば良いわ! ……の、はず

 

「これですか!? ……わぁ、収まってきた…! す、すっごい…さすが師匠…!」

「…………よかった。あってた…」

 

「え? 今何か言いました?」

「え、や……なんでもないわよ? そ、それより釜から目を離さない! 集中!」

 

 

 

「……でも怪しいわ」

「まあ…そうですね」

 

 当のウィルベルはと言えば、「まずは現状の実力を見せてもらうわ」の一声にてシャルロッテに調合を行わせ、それを傍でじっと観察している……風を装っているように二人からは見えていた。

 傍目にも忙しなく目は泳ぎ、時折シャルロッテから振られる質問にも、逐一おっかなびっくりな応答が二人の耳に届いている。

 

「…シャルを騙してるなら許さないつもりだった、けど」

「騙されては、ないですね。少なくとも今の時点では」

 

 受ける印象とちぐはぐな実態に、どう判断していいやらと眉を下げるミルカ。

 対して今度はじっくりと手引書を読み始めたシャリステラは、微笑みと共に首を振る。

 

 

「──うむ。あんたも中々やるじゃない。筋が良いわよ」

「ほんとですか!? じゃ、じゃあ、あたしもすぐ師匠みたいに空を飛べるようになったりは…」

 

「え、あ、その…りゅ、流派がだいぶ違うみたいだからね! あたしの真似してもそれは無理よ。やりたいならあんたの方法を自分で見つけることね!」

「あう、そうですか……道は遠そうだなあ……」

 

「…………まあ、あんたなら焦る必要はないわ。頑張りなさい」

「っ、はい!!」

 

 

 

「……それにわたしには、あれが騙そうとしてる姿だとは思えません」

「それは……そうね」

 

 様子はどうあれ、確かな指導が行われているのは紛れも無い事実。

 そして何より、そこに温かな熱量が注がれているのもまた、二人にも疑う余地は無かったのだ。

 

「…………あ」

「まあ、それならどうしてあんな、とは思いますけど……ミルカさん?」

 

 疑問に思考を埋め首を傾げるシャリステラの傍で、ミルカの目が小さな呟きと共に見開かれる。

 ややあって彼女は深く溜息を吐き、いつにも増して冷めた瞳で、こめかみに手を当てた。

 

 

「……わかった」

「え?」

 

「多分あれ、シャルのせいよ」

「ええっ?」

 

 

 妙に確信を持って放たれた幼馴染への言葉に、目を白黒させるシャリステラであった。

 

 

 

▲ ▲ ▽

 

 

 

「――今日のところはこんなもんね。そのうちまた様子見に来るからしっかり精進しなさいよ?」

「はいっ、ありがとうございました、ウィルベル師匠!」

 

「……ただし、なるべく自分独自の方法を考えていくこと! 模倣ばかりじゃ進展はないからね」

「え? は、はいっ、頑張ります!」

 

 時刻はそろそろ日も落ちようかという頃。

 そこには未だ疲れを見せない弟子に苦笑を浮かべるウィルベルの姿があった。

 

 

「あ、そうそう…シャリーちゃん、でいいかしら?」

「え? あ、はい」

 

 一瞬、どっちを呼んだやらと迷うも、どうやら自分達が互いを呼び合う時にならったらしいと、少し遅れた納得がシャリステラの頭を巡る。

 そうして小首を傾げた彼女にウィルベルが伝えたのは、軽い微笑みを伴った『激励』であった。

 

 

「あたしの知り合いの錬金術士にね。次から次へと他人の頼み事を解決して回った結果、終いには『聖女』呼ばわりされるようになった娘がいたわ」

「っ……!?」

 

「ほんっとあの子はお人好しでねえ……自分も色々あったってのに、あっちこっち走り回って……付き合わされたのもまあ、今となっては良い思い出だけど」

「……」

 

「……神輿担ぐ勢いで『聖女さまー』って拝まれてたのはどうかと思ったけどね」

「えぇ……」

 

 

 話をされた意図にまで理解が及び、感謝が浮かんだ反面、「いえ、そこまでは求めてないです」という思いがシャリステラの頭をもたげる。

 結果、愛想笑いに近い表情になった彼女に、話したウィルベルもまた「まあ、そうよね」と軽く苦笑いを返した。

 

「何より、錬金術にそれだけの力があることをあたしは知ってるわ。…あんたも頑張りなさい」

「……はい!」

 

 その言葉を最後に、ウィルベルは二人に背を向け『目抜き通り』へと歩き出す。

 彼女のとんがり帽子が雑踏に消えるまで、二人のシャリーは去り行く背中を見送るのだった。

 

 

 

 

 

 

「…………はーっ!? 何とかなった、わよね!?」

 

 街角を曲がり、辿り着くは人通りの少ない広場。

 そこには胸に溜まっていた重苦しい息を全力で吐き出すウィルベルの姿があった。

 

 

 だらだらと流れる冷や汗。

 ガクガクと震える膝に足。

 先程尊敬の眼差しで彼女を見送った二人には、間違っても見せられないその有様。

 

 

「ああ~……あたしってば何だってこう……はあ……」

 

 未だ悪寒の残る四肢をさすりながら、彼女はぼそぼそと自嘲する。

 懺悔にも近しい響きを込めた、誰に聞かせるわけにもいかない独り言を。

 

 

「……しょうがないじゃない。あんなん聞かされて、今さら錬金術士じゃなくて魔法使いなんで、とは言えないじゃないのよぉ……」

 

 

 声に出し始めてしまえば勢いがついたのか、胸中のそれを吐き出していくウィルベル。

 

 

「あの二人にとっては、あたしの聞きかじりの知識でも案外役に立つみたいだし……」

 

「アーシャの調合をなんとなしに見てて良かった…けど、これから先どうすんのよ、あたし!?」

 

「もう覚えてることなんて殆ど出し尽くしたわよ!? このさき、調合のコツだ何だと聞かれても答えられるような知識なんて、あたしには――」

 

 

 

「――なるほど。そういうこと」

 

 

 

 びくん、と。

 

 彼女の身体が跳ねた。

 

 

「古式錬金術士との知己があって、その調合を間近に見たことがあったと」

 

 横合いから聞こえてきた声へ、油の切れた人形の如く、彼女は首を向ける。

 

 

「そしてシャルの話が本当なら……本物の、お伽噺の、『魔法使い』」

 

 いつの間にか……方式の違う錬金術士だとか言って、席を外していた――

 

 

「……むしろそっちの方が凄いんだけど?」

 

 ――なんか疑り深かった(ミルカ)

 

 

「……えっと、その、何でここに……」

 

 真っ白になった顔と頭で絞り出された呟きに、半開きの目で睨むミルカは背後を指差す。

 

 

「……ここ、私の家」

「あ、はい」

 

 実に明にして瞭なる返答であった。

 

 

 

▲ ▲ ▲

 

 

 

「――そのうち機会を見つけて問い質すつもりだったわ。……力づくでもね」

 

 

 『新式』あるいは『現代式』とでも呼ぶべき錬金術士であるミルカの、自宅兼アトリエ。

 淡々と続いた言葉と共に、ゴトリと重厚な音を立てて作業台に置かれたのは、実に無骨な光沢と硝煙の匂い漂う『杭打機』。

 

 工事道具の一種にも見える彼女お手製の『それ』が、モンスター討伐にも用いる凶悪極まりない武器であることを、目の当たりにしたウィルベルが戦慄するのは後の話。

 

「…なのに、自宅の前で全部自白されたんだけど。……どうしたらいいのよ、私?」

「いや知らないわよごめんなさい!?」

 

 八つ当たり気味に睨むミルカに、逆ギレ混じりに謝るウィルベル。

 しばらくそうして視線を交差させていた二人は、やがてどちらからともなく溜息を吐いた。

 

「……シャルはあなたに会った日の事をかなり興奮した様子で話してくれたわ」

「ああ…でしょうね」

 

「私は知ってるのよ。シャルはお人好しで、真っ直ぐで……結構思い込みが激しい」

「……」

 

「シャルのああいうところ、嫌いじゃないんだけど……時々すごく疲れる」

「ああー…」

 

 付き合いの長い幼馴染故の理解力。

 嫌に実感の籠ったミルカのそれに、ウィルベルは強く共感を覚えつつ相槌を打つ。

 

 

「あなたを錬金術士だと、言い出したのはシャル?」

「……まあ、その場ですぐ否定しなかったあたしも悪かったし……」

 

「それは本当にそう」

「んぐっ」

 

 不意打ち気味にじっとりとした視線を浴び、彼女は思わず目を逸らした。

 ……が、そういうわけにもいかないかと思い直し、苦笑混じりに視線を戻す。

 

 

「そもそも、あんな弱音を吐くぐらいなら、どうして弟子入りを承諾したのよ?」

「あ、それは……その……」

 

「…シャルの勢いに負けた?」

「あ、うん、それはある……」

 

「……錬金術に関する聞きかじりの知識があったから?」

「あ、いや、それは返事しちゃった後で……」

 

 

「…………は?」

「あ、や、錬金術士と魔法使いって、親戚みたいなとこあるのよ? 触媒の扱いとか、似通ってるところはあって……だから、その……そんな目で見ないでくれない……?」

 

 睨む瞳に可哀想なモノを見る目線が混じり始め、徐々に泣きが入るウィルベル。

 十歳近く年下の少女からの憐みの目は、彼女が思っていた以上にキツかったらしい。

 

 

 ……流石に、『師匠』と呼ばれてテンション上がってた、という本音だけは隠し通していたが。

 口にした暁には、極寒の眼差しがいよいよ致命傷を与えてくることも想像に易かったのだろう。

 

 

「…………まあ、安心したわ」

「えっ?」

 

「シャルを騙そうとする悪い人間じゃなかったこと」

「…ま、まあ、それはね……ほんと、悪い子じゃないのはわかってたし…」

 

 

 不意に、ふっと表情を緩めたミルカが、剣呑としていた視線を外す。

 ウィルベルは追及を逃れてほっとする傍ら、ふと浮かんだ一つの疑問を口にした。

 

「あんたは、シャル……シャリーの何なの? 保護者なの?」

「……シャルはいつでも、眩しいほど真っ直ぐ」

 

 冗談めかしたその問いに、返ったのはどこか遠くを見るようにして出された答え。

 意識しているのか否か、ミルカの向けた顔の先にあるのは、静かに佇む例の杭打機。

 

 

「シャルが真っ直ぐ生きることを邪魔する存在を、私は許さない」

 

 

「……イヤ怖いわあんた」

 

 燃える炉まで備えたアトリエが、何故か妙に肌寒く感じたウィルベルであった。

 





※原作既プレイの方へ

 アーシャの部屋に入り浸ったりもしてそうなウィルベルさんならこれぐらいはね?(熱い期待)

 原作世界線でもウィルベルとミルカの初顔合わせの後、シャルロッテの見てない所で似たようなやり取りがされてたんじゃないかなあ、とか思ってたり。
 …というか改めてテキスト読み返すと「気合い」ぐらいしか言ってない…言ってなくない?
 これで騙せるというか、誤魔化されてくれるのはシャルロッテだけだろうに。


※原作未プレイの方へ

 ゲームにおけるミルカの武器は『杭打機』(お手製)です。
 敵の懐ゼロ距離でパイルバンカー発射、な技も持ってます。なんなら○ァンネルも出します。
 彼女の武器に限らず、パーティの武器防具製作は彼女の担当だったりもします。

 金髪翠眼ダウナー系ひきこもりクーデレ妹ロリ体型パイルバンカー使いファ○ネル乗せです。

 う~ん、過積載。


 ……そして自宅は汚部屋です。台所にカビとか生やしちゃってるタイプ。

  原作ミルカ「家が汚れていたって錬成はできるもの」「物の在処は把握してるから問題ない」

 片付けは姉かシャルロッテがやってるそうです。
 また基本的にその二人以外には触らせない模様。尊い

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