ちょっと遡ってシャリステラ視点。
原作はやさしいせかい。拙作はやさしくないせかい。
※注意:ク〇みたいな思考及び言動のモブが出ます。
原作キャラにこの役回りをさせるわけにいかないので名無しのモブです。こればっかりはね。
『ちょっとお客さんが来たから、しばらくシャリーちゃんのお部屋にいてね?』
――守られていた。
『あらあら、あの子はそんな子じゃないのよー?』
『ええ、とっても良い子なの。真面目で素直で頑張り屋さんでねー』
――わたしはずっと、守ってもらっていた。
『んー、どうしてそんな風に思うのー?』
『うーん……その気持ちは分からないわけじゃないけど……』
――あの人が、守って、くれていた。
『その憤りをあの子にぶつけようとするのだけは、間違ってるわ』
……わたしは、知っていた。
わかっていた。
わたしたちの船が、あの日この街にどれだけの爪痕を刻んでしまったのか。
この街の人たちが、わたしたちに……わたしに、どんな感情を
『…それは、シャリーちゃんのせいじゃないわ』
あれは『事故』だったんだと、あの人たちはそう言ってくれる。
それは、仕方のなかったことなんだと。
わたしが、わたしたちが、望んだ結果じゃないんだから、と。
『……聞こえていたのね。でも、シャリーちゃんは気にしなくていいのよ? …今はまだみんな、ちょっと落ちついていられないだけなんだから」
そうしてあの人に守られていることを、わたしは受け入れていた。
……受け入れてしまっていた。
だから、
『……バレ、ちゃった……もうちょっと頑張れるかなって…思ってたん、だけど……』
『え……? っ、ちが…のよ!? これは、シャリーちゃんのせい…なんかじゃ……!』
『だい、じょうぶ…よ? こうして少し、横になっていれば、すぐに……』
――だから。
『…………え? 駄目よ、シャリーちゃん』
『……わかっているんでしょう? 傷つく、なんかじゃ済まないかも……』
『それに私の病気は……あっ、シャリーちゃんっ!』
…ごめんなさい。でも、こうするって決めたんです。
『駄目っ! 戻ってきて! シャリーちゃんっ!?』
だから、待っていてください──
「――う、ぁ……っ」
掠れて聞こえる自分の声で、意識が薄れていたことに気がついて。
身体のどこかから感じる冷たく硬い感覚の中で、状況を思い出そうと必死に頭を働かせた。
…息が、詰まる。
頭が、痛い。
ぼんやりとちらつく視界にあるこれは…石畳?
…っ! 目に、何か……これって、液体…?
「けほっ……」
手をついて、精一杯の力で頭を起こして。
焦点の合わない目で、何度も瞬きを繰り返して。
やっと見えてきたそこにあったのは、
話にだけは聞いていた、ステラードの街の目抜き通り。
遠巻きにしながらわたしを囲む、村では見たこともないような大勢の人垣。
それから──通りを歩いていたわたしに真っ先に話しかけてきた、大きな男の人。
……うん。わたしが気を失っていたのは、ほんの少しの間だったみたい。
でも、このままじゃいけない。話をするなら、ちゃんと
「っ、く……」
人垣の中から、「立った…」と誰かが呟く声が聞こえた。
震える膝を手で抑えようと下を向いた瞬間、足元にボタボタと何かが零れる。
……あ、これ…血だ。
今、瞼の上を流れ落ちた血……また頭、切っちゃったんだ。
傷口は……っ! 痛い、けど…そんなに大きな傷じゃなさそう、かな。
「…………」
「な……なんだよ、その目は!」
気を失う少し前、意識が途切れる少し前から、正面にいた男性の顔を見上げた。
怒鳴り声と一緒に握られた拳──
…でも、さっきと比べたら、落ちついてくれているようにも見える。
今なら、少しは話を聞いてくれるかもしれない。
そう思って、もう一度小さく息を吸って……
「こ、の街で…薬草を取り扱っている場所を、教えてください。お願い…します」
下げた頭からまた血が零れて、目の前の石畳に赤い染みが増えていく。
ぐらりと身体が傾きそうになるのを、唇を噛み締めて堪えた。
『願い』を言った後でしばらく、伝わってきたのは肌寒いくらいの沈黙。
誰かの足音と、息遣いとが時々聞こえてくる中、胸の前で組んだ手に力を込めて。
そうしていたわたしの耳に届いたのは、男性の歯軋りと――
「っ、薬草なんかどうする気だよ!」
「どこの店がお前になんか売るか!」
「そんな軽い頭下げたぐらいで許されると思ってるのか!?」
――四方から響く、野次と罵倒。
身体中に走る寒気に震えながら、たどたどしく引きつる喉を動かしていく。
「…わたしは、錬金術士です。薬草は、薬の調合に使います。薬が、必要な病人が…いるんです。だから、お願いです。…お願い、します…っ」
……聞いてくれているかも、わからない。
この声がどんな風に届いているのか、不安で堪らない。
それでもできる限りを答えたくて……答えたつもりで、もう一度深く頭を下げた。
「…っ、わ…たしのことは! 何と言われても仕方ありません! それでも、薬が……今すぐ薬が必要な人のために、どうか――」
……返答は、ぐるりと回った視界と、頬に与えられた新たな痛み。
…口の中、血の味。
手足の感覚が、抜けていく。
手放しそうになる意識をぎりぎりのところで繋ぎ止めて……聞こえた声に耳を傾けた。
「『何と言われても仕方ない』……だと?」
……ああ、
倒れたわたしへと近づいてくる足音を感じながら、思考の隅でそんなことを考えて。
「開き直ってるんじゃねえよ、この――
…………あの日、シャリーさんが、わたしに伝えるのを迷っていた事。
伝えるのが怖くて、でも伝えないわけにはいかないとうんうん唸っていた――ナディさんによく似た顔が、脳裏を過ぎった。
わたし一人だけが、生き残ったこと。
わたしたちの船のせいで、沢山の被害者が出てしまったこと。
一度に教えられていたら、きっと立ち直れなかったと、わたし自身今でもそう思う。
……でも、本当は全部、
必死に船から這い出したすぐ後の、コルテス兄さまの声が、聞こえていたから。
わたしたちの船が飛び込んだその場所に、人がいる建物があったのも、見えていたから。
……生きているはずがない。
死んでしまった人が、出ていないはずがない。
だからこうして、恨みを、罵りを、ぶつけられることも、あの時からわかっていた。
「……っ」
――けれど。
指先に触れる冷たい石を引っ掻いて、けれど、と思ってしまう。
あれは、船に襲いかかってきた巨大な竜――サンドドラゴンを振り切ろうとした結果で。
黄砂の『海』に呑み込まれない為に船の全速を振り絞って……竜を振り切れた頃には減速機構が壊されていたという、その時のわたし達にはどうしようもなかった『事故』によるもので。
「……な……さい」
悪いのは、サンドドラゴンであって。
…わたしたちじゃ、なくて。
「……め…ぁ、さい」
そもそも『失った』のは、わたしだって、同じことで。
なのにどうして、わたしが……わたし、ばっかり、が――
「……っ、ごめ……なさい」
「……あ?」
痛みに痺れる舌で絞り出した謝罪の言葉は、嘲笑で返された。
……当然、だよね。
わたし自身、今は申し訳なく思う気持ちより、理不尽だと叫びたい想いの方が強いんだもの。
わたしは悪くなんかない、サンドドラゴンのせいなんだ――って、本当は今すぐ叫びたい。
でもそれじゃダメ、そんなの駄目だって、頭のどこか冷静な部分が訴えてくる。
「……ごめん、なさい……っ」
「お前……ッ! そんなもんで許されるとでも思ってるのかっ!?」
……思ってない。
逆の立場だったら、わたしだって絶対に許せない。
自分のせいで君の家族が死んじゃったよ、ごめん……なんて言われて、許せるわけがないもの。
「……お願い、します」
だけど今は。
わたしが許されようがされまいが、そんなこと
「っ……! たす、け…たいんです……っ」
ガクガクと震える足を抑えて、根の合わない歯を食いしばって、立ち上がる。
三度揺れる世界に今度こそ耐えきれなくて、お腹からせり上がってきた
「う、ぇぐ……っ! …く、薬を……だから……」
わたしを守ってくれたあの人を。
わたしに手を差し伸べてくれたあの人を、たすけたい。
今、考えられるのは、たったそれだけ。
「教えて、ください……!」
――こんなわたしを、『娘』と呼んでくれた、あの人を。
「こ、の……人殺しがっ!!」
三度目の返答は、三度振り上げられた拳。
周囲の人たちの息を呑む音が、何故だか妙に耳に響いた。
「――ねえ、そこのあんた。ちょっといーい?」
「……は?」
「え……?」
突然辺りに響いた、場違いに軽い調子の声。
驚いた男性の手が宙で止まって、聞こえた先を振り向く動きに、わたしもつられて目を向けた。
「な、お前、どこから……っ」
「いやいやそんなことよりさ。あんた、
「はぁ……? 何言って──なっ!? あ、熱っ、あぢっあああっ!!?」
「う、うわああっ!?」
「きゃああっ!?」
突然の乱入者が指差したのは、男性の背中。
そこにあったのは、いつの間にか煌々と輝いて、焦げ臭い匂いを放っている、『炎』。
男性の狂乱が伝染するようにして、周囲の人垣にまで混乱が広がっていく。
わたしは、呆然とその惨事を眺めながら──乱入してきたその人を、見上げた。
「……ウィルベル、さん?」
「しっ! ……さっさと離れるわよ」
「っ、あ……!」
「わ、とっ? ……そっか、そうなるわよね……」
口元に立てた指を当てて、そう言ったウィルベルさんがわたしの手を引く。
けれど、ほとんど意地で立っていただけだったわたしは引かれるままに歩くこともできなくて、もつれるように倒れかけたところを支えられる形になってしまった。
「うぁ……ご、ごめんなさい……」
「あーもう、いちいち謝んないの。あ~……いけるかしら?」
ちらりと、ウィルベルさんの視線が未だ続く狂騒に向けられた。
一瞬迷った様子の後、取り出されたのは一本の箒――ホウキ? え、なんで?
「これ、そっちの手で握って」
「え? は、はい」
「それから……よっと」
「え……ひぁっ!?」
意図が掴めないまま、それでも促された方の手で古びたホウキの柄を握る。
そうして首を傾げた次の瞬間、襲ってきた奇妙な感触に思わず悲鳴が漏れた。
「え、こ、これ……ええっ?」
「ふふっ、いい反応ねー」
腰のあたりに何かが巻きついたんだと、一拍遅れて理解して。
けれどそれがウィルベルさんの外套だと理解するのには、さらに数拍が必要だった。
…だって、この人がそうしようと手を動かした様子なんてなかったのに、まるで布地そのものが意思を持っているみたいに動いて、わたしに巻きついてきていたのだから。
「それじゃ、このまま……飛ぶわよ?」
「え、飛──わ、あ……っ!?」
続いた言葉に驚く間も無く、手の中のホウキと巻き付いた外套がわたしを引っ張り始める。
足の裏がほんの少し、それでも確かに地面から離れているのを感じて、思わず身体が硬直した。
「街中だし、あっちのシャリーみたいに青空の旅、ってわけにはいかないけどね。まあ、これだけ騒ぎが起きてれば、頭の上でも飛んでかない限りは大丈夫でしょ」
「あ……」
「…あれ、ひょっとしてあの子から聞いた話、信じてなかった?」
「えっ、あ、いえ、そういうわけじゃ……」
言われて確かに、ホウキで空を飛んだ、という一幕を聞いていたことを思い出した。
興奮しながら話すシャリーさんの様子を見ていても俄かには信じられなかったけど……こうして自分の身体で体験したなら、話は別だ。
空飛ぶホウキに外套、そして男性の背中を焼いた、何処からともなく現れた炎。
そしてすごく特徴的なこの人の服装を改めて眺めて、頭のどこかで納得がいった。
やっぱりこの人は、本当に、本物の、お伽噺に出てくる『魔法使い』だったんだ。
…………見た目通りに。
※原作既プレイの方へ
原作では人的被害は出てませんからね。原作では。
割と自罰的な面があり、何でも己の無知・不勉強に繋げようとする序盤のステラちゃんの前で、いつもほわほわ、悩みもストレスとも無縁に見える人物が突然倒れたとなれば、彼女はその原因を果たしてどこに見出すか。
…なお原作プレイヤー視点。
※原作未プレイの方へ
原作にこんなモブはいません。念のため。やさしいせかいは民度も高し。
物的被害についてもそこまで責められる描写はありません。実に民度の高い街原作ステラード。
作中での『魔法使い』の存在云々に関しては現代日本とそれほど変わらないっぽいです。
名乗れば「エセ手品師」。見せると言えば「茶番」。強く主張すれば「世迷言」。
一方『エスカ&ロジー』の酒場にて「魔法の手品ショー」と称して人前で堂々と魔法を披露し、おひねりを貰っていたりするウィルベルさん。逞しい。
なお手品のレパートリーが少ないと文句を言われる模様。世知辛い。