続けてのシャリステラ視点。
前提条件の確認回。
「――シャリーさん…………ナディさんが大変なんですっ!」
ウィルベルさんの回復魔……薬で、歩けるぐらいには怪我を治してもらった後。
向かった先は、目抜き通りと同じく名前だけは聞いていた場所、財協組合本部。
本当なら、
このまま通りを歩いていたら、また同じ騒ぎになってしまうかもしれないし、ウィルベルさんもそうした物を扱っている場所については詳しくないそうなので、それならとにかくシャリーさんに事情を伝えなくちゃと考えた結果だった。
「…っ、母さんが!? そ、そんな、あたしどうしたら…!?」
「シャル、落ちついて。まずは医者を呼んだ方がいい」
「! そ、そうだね! あたし、お医者さんを呼んでくる!」
丁度、本部の中に居たシャリーさんは、わたしから話を聞いて真っ青な顔になったかと思うと、ミルカさんの言葉に頷いて、勢い良く飛び出していってしまった。
……そっか、お医者様を……ううん、それでも
「……それで、シャリーのその怪我は何があったの?」
「え、あ…これは──」
自分ではわからなかったけれど、シャリーさんやミルカさんが一目で気づくくらいには傷跡が残っていたみたい。……いえ、文句なんてあるわけないですよ、ウィルベルさん。
わたしの中では辛いけれど仕方のないこと…と思っていたけれど、苛立った様子のミルカさんに促される形で、わたしはここに来るまでに何があったのかを話すことになった。
話を聞いていたのはミルカさんの他に、見ていたのはわたしが初めに殴り倒されたあたりからだったというウィルベルさんと、わたしにとっては初対面になるラウルさん。
シャリーさんから名前と立場と
「……馬鹿じゃないの?」
そうして話を聞いたミルカさんは、心の底から凍りつくような声で、そう吐き捨てた。
「それをシャリーに当たって何になるの? あの事故を起こしたくて起こしたとでも思ってるの? 自分たちだけが被害者だとでも? ……バカじゃないの?」
「お、おう…言うわね、あんた」
「……まあなあ」
続いた罵倒に慄くウィルベルさんと、複雑そうな顔で頷くラウルさん。
「想定していた以上に過敏というか…正直、読み違えてたな。シャリーがついてりゃここまでじゃなかっただろうとは思いたいが……」
「…バカは誰がいても一緒よ。そもそも周りに普通に人がいる状況でそんなことができる人間が、その程度で遠慮するわけないわ」
…もう暫く様子を見た後でなら、わたしが街へ出てもそこまで大きな騒ぎにはならないだろうとラウルさんは考えていたらしい。
確かに、こうして組合本部の中にいる限りでは、周りから悪意の混じった視線は感じない。
わたしがシャリーさんと一緒に作って納品した道具を、仕事の中で実際に使ったハンターさんが増えてきているからだそうだ。
さっきも見覚えのある器を手に「ありがとう」と、言われて……たったそれだけのことなのに、熱くなった目の奥を堪えることになってしまった。
「…ていうか流石に反応おかしくない? さっき
「あー……その、それは……」
ウィルベルさんが口にした疑問に、ラウルさんは目を泳がせて言い淀んだ。
…わたしも不思議に思って向けた視線に、返ってきたのは何故か葛藤するような表情。
「……サンドドラゴンは普段、
「…………え?」
「シャリー、あなたはこれを……知らなかったみたいね」
…………ミルカさんの呟いた言葉が、頭の奥に沁みていく。
おとな、しい…? でも、あのときあの竜は、わたしたちの船を、突然──
「事故の原因がサンドドラゴンに襲われた、というなら……この街で暮らす人間が真っ先に考える可能性は……『自業自得』」
「そん、な……」
「縄張りを荒らしたか、気を立てるようなことでもしたか……そういう疑いが、最初に来るわ」
「わ、わたしたちはっ! そんな…そんなことっ!?」
…手が震えた。
視界が端から、真っ暗になっていく。
あれは、あの事故は、不慮の事故じゃ、なかった…?
兄さまが、テオ爺が……たくさんの人たちを巻き込んでしまったあれが、わたしたちの…?
……知らない。心当たりなんてない……だけど何か、知らないうちにサンドドラゴンを刺激する何かを、わたしたちがしてしまっていたのだとしたら……!?
「…ごめんなさい。落ちついて、シャリー」
「っ! ……ミルカさん……?」
…ふと、胸元で握りしめていた手に、温かいものが触れているのを感じて。
顔を上げたそこには、わたしの手を握るミルカさんの顔があった。
「少なくとも私は、あなたたちが何かしたとは思ってないわ」
「……ミルカさん」
「サンドドラゴンの被害だって…今まで報告されたことがないだけよ。沈んだ船の近くであの竜の雄叫びを聞いた、ぐらいの知らせなら無いわけじゃない」
「あ……」
「襲われて、生き延びた人間が今のところシャリーしかいない。…ただそれだけのことよ」
「……!」
握られている手から、ミルカさんの優しさが流れ込んでくるような気がして。
また灼けつくように熱く、溢れかけた目の奥に、わたしは必死に力を込めた。
……都会は、お父様が昔話してくれたような、きらきらした世界じゃなかったけれど。
ミルカさんたちと出会えたことは──紛れもなく幸せなことだと、心の奥で、そう思えた。
「…し、しかしまあ、背中に火を点けてって……そんなことが出来るもんなんだな」
「え、ああ、そこはあたしの魔……れ、錬金術の道具でちょちょいっとね」
重くなった空気を払おうとしたのか、ラウルさんがちょっと無理矢理に話題を飛ばしていた。
同じく顔を引きつらせていたウィルベルさんがそれに乗っかり、得意げに頷く。
……でもあの時も、さっき傷を治してくれた時にも、道具らしきものは出していなかったし……もう『魔法』でいいんじゃないですか?
いえ、ウィルベルさんが隠すつもりでいるなら、わたしは勿論黙っているつもりだけど──
「いえ、『魔法』でしょう?」
「……ちょおっ!? ソール!?」
「「「……えっ」」」
傍のカウンターから、さっきまで全く会話に加わっていなかった声で放たれた言葉に、わたしとミルカさん、そしてラウルさんの声が重なった。
驚くわたしたちや、叫んだウィルベルさんに構うことなく、ソールと呼ばれた人──そういえばこの人の事もシャリーさんの話に出てきてた──が淡々と問いを続ける。
「以前お会いした際には隠すような素振りなどなかったじゃないですか。何故ここでは錬金術士だなどと名乗っているんです?」
「や、それは……あっ、ち、違うのよっ、シャリーちゃん!? その、魔法だなんてそんな……」
「あ、いえ、
「え……ちょ、ミルカ!?」
「……私じゃない」
「あ、ミルカさんもなんですね」
「ああああっ!?」
ウィルベルさんが頭を抱えて膝から崩れ落ちた。
……さっきまであんなに格好良いと思っていた背中が、何だか煤けて見えちゃう…。
「…知り合いがいるなら根回ししておくべきよ。あんた、根本的に嘘が向いてないわ」
「状況が掴めませんが、以前頼まれた件についてはどうにかなりそうだとお伝えしておきます」
「……それはどうもっ!」
ヤケ気味に立ち上がったウィルベルさんが、例の外套を広げて浮かび上がった。
それを見上げて言葉を失った様子のラウルさんに、呆れて溜息を吐くミルカさん。
……うん、誰が知っていて誰がそうでなかったのか、とてもわかりやすい。
「……何を頼んでいたの?」
「このソールが前にいた『コルセイト支部』になら、錬金術の資料がそれなりにあるはずだから、こっちに送って貰えないか頼んでたのよ。……あたしにあるのは、色んな錬金術士と知り合いってだけだからね」
ミルカさんの質問に答えながら、最後に付け加えられた一言で、なんとなく事情が理解できた。
……ああ、道理で指導の内容と立ち振る舞いに違和感が…そういうこと、だったんだ。
「それじゃ、そのコルセイト支部にも古式錬金術士がいるのね」
「ええ、腕はいい錬金術士ですよ、腕はね」
「……何でそこだけ強調したの?」
怪訝な顔をするミルカさんを、ソールさんは涼しい顔で受け流す。
「あ~……だから、その……騙すようなことしてごめんね、シャリーちゃん」
「え? い、いえっ、そんなっ!」
申し訳なさそうにそう言ったウィルベルさんに、慌てて首を横に振った。
騙されただなんて……謝られるようなことをされたなんて、わたしは欠片も思ってない。
今だって、わたしたちの為にわざわざ――本人が錬金術士でないのなら尚更――錬金術の情報が手に入る当てを探ってくれたところなのだから。
真実を知った後でもわたしの心にあるのは、ただただ大きな感謝と尊敬の気持ちだけだもの。
そんな想いが表情に出ていたのか、わたしの顔を覗いていたウィルベルさんは、ふふっと笑って息を吐いて…顔を上げて――また苦笑いと共にこめかみに指を当てた。
「後はもう片方のシャリーか……どう切り出したもんかしらねえ」
「……別に、すぐにでも言ったらいいのに」
「いや、でもあの子、会うたびキラッキラした目で『いつか師匠と同じようなことを出来るようになります!』って言ってくるのよ? 否定できると思う?」
「だったら尚更早く言った方が良いと思うわ」
「でもほら、この子たちの錬金術ならあながち夢物語でもないんじゃないかとも思うわけで……」
「……確かにそれは否定できないけど」
いつの間にか、仲良さそうにやり取りをしているウィルベルさんとミルカさんの姿に、気づけばわたしも頬が緩んでいた。……ミルカさん、すごく疑ってた様子だったのに何があったんだろう。
……それから、目の端にずっと話について行けてない様子のラウルさんが見えているけれど……ごめんなさい、後で知り合いらしいソールさんから聞いてください。
「──組長を見ていたあの視線。全てに気づいた上で、口を噤んでいただけたようですね」
「……」
「流石はあの齢で『中央』より推薦を受ける方です。実に聡明だ」
「…ああ、そうだな」
「……想定を越えてシャリステラさんに負担を掛けてしまったのは心苦しいですが、おかげで話を通すことは叶いました。負い目を感じていらっしゃるのでしたら、結果で報いるべきでしょう」
「ああ……ああ、それしかねえよな」
「…会長さんの言い分もわかるがな。情報を抑えてられるのだって限界に来てる」
「食料の買い占めを既に始めてる奴だっている。このままじゃ、貧しい奴から飢えていくんだ」
「それでも『中央』の手をこれ以上入れたくねえってんなら……他に手はねえんだよ」
「……」
「…………」
「…………俺が」
「俺が守りてえのは……俺にとって何より大事なのは……このステラードなんだよ」
※原作既プレイの方へ
喋る時はですます調、心内台詞では「~だわ」「~かしら」といった語尾が多いステラちゃん。
視点キャラに据えると案外「らしさ」を出すのが難しいのです。
…まあ、ロッテはロッテで難易度高いんですけど。
ちょいちょい残念思考垂れ流してくれるからなあ、この子。
※原作未プレイの方へ
・今まで被害が報告されていなかった竜が、よそ者の来訪を境に活動を始めたと噂になる。
・さらに未帰還船の発生と、その付近の航路にて当該の竜の雄叫びが観測される。
…これでよそ者憎しの気運が忽ち大炎上しない原作ステラードが凄過ぎるんよ。港街やぞ?