昏き海都は黄砂に沈む   作:非単一三角形

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 捏造設定盛り盛り回。

 今話の為に『アーシャ』と『エスカ&ロジー』の某イベントテキストも書き起こしてきました。



第13話 精霊賛歌

 

 

 ――シャン、と。

 

 鈴の音が響いた。

 

 

 黒髪と、白い手足が、ふわりと回されて。

 一拍、動きを止めた瞬間、白い布地の上を長い黒髪がさらさらと流れてく。

 

 

 ――シャン

 

 小さな手が握る、沢山の鈴のついた不思議な楽器が、またその音を鳴らして。

 ゆっくりともう一度、今度は逆方向へと回転が始まる。

 

 

 ――シャン ――シャン

 

 止まることも無く、加速することも無く。

 時計の針みたいに正確な間隔で、鳴り響く鈴の音。

 

 まるでそうするように作られた人形のような。

 そうなるように磨き上げられた工芸品のような。

 

 綺麗で、精緻で、狂いがない、『舞』。

 

 

 ――シャン ――シャン

 

 音の中心で、目を薄く瞑ったまま、捻るように踊り続けるその姿。

 気づけばあたしは、そのうち息をするのも忘れてそれを見つめ続けていた。

 

 

 

 

 

 

 ペリアンさんのところで、『商会』を通じた依頼を受け取れるようになってから数日。

 そこには今まで『組合』でこなしてきた納品や討伐に加えて、街からちょっと離れた場所にある採取地の調査も幾つか混じっていた。

 

 『調合』みたいな内向きの仕事だけじゃなく、実際に街の為に身体を動かしている姿を見せる。

 傍からは雑務に見えるような仕事でも、真面目に従事している様が見えるようにする。

 これらにはそんな意図もあるんじゃないかと、あたしから話を聞いたラウルさんは言っていた。

 

 

 ──現実として実行可能な、目に見える形の『贖罪』を。

 実情がどうであれ、そういう姿を見せられる機会を増やしておけば、後は会長(ペリアン)さんの方で上手く調整するつもりなんだろう、と。

 

 

 …あたしに難しい事はよくわかんなかったけど、話を聞いたシャリーちゃんは力強く頷いて。

 それから「身体が動くか確認します」の一言と一緒に──『あの日』以来になる不思議な誂えの民族衣装に袖を通した。

 

 服に結んであった、シャリーちゃんの腕には重そうに見える変わった作りの鈴を握って。

 あたしの部屋の家具を色々動かして、どうにか確保したスペースで……その『舞』は始まった。

 

 

 

 ――シャン ――シャン

 

 

「すごい……なんか、すごいや……」

「…成程、こういう感じかあ…」

 

 即席の祭壇でゆっくりと踊るシャリーちゃんは、声を掛けるのも失礼に思うぐらい神々しくて。

 ただぽっかり口を開けて見守るしかなかったあたしの横では、予定が空いてるからと様子を見に来てくれていたウィルベル師匠が、何かを呟きながらしきりに頷いていた。

 

 

「……ふうっ」

「え、あ……お、お疲れ様っ」

 

「ふふ…ありがとうございます、シャリーさん」

 

 時間にするなら、きっと五分と少し。

 徐々に動きを緩めていく形で踊り終えたシャリーちゃんは、少しだけ紅潮した頬で息を吐いた。

 

 

「これだけ動けるなら十分…ってのもあるんでしょうけど、それだけじゃないわね? 精霊…とはちょっと違うみたいだけど、あんたの身体に加護が宿ったのが見えるわ」

「っ! 本当、ですか?」

 

「…あれ、わかってやってるわけじゃないの?」

「え、その……長の家系に伝わるしきたりのようなもので……」

 

「ああ、元々の理由は忘れられちゃってる感じか……よくあるけどねえ」

「え、っと……どういうことですか、師匠?」

 

 何だか自分の中で納得している様子のウィルベル師匠に、シャリーちゃんと一緒に首を傾げる。

 そんなあたしたちを見て小さく笑った師匠は、人差し指を立ててこう言った。

 

 

「慌てなくても効果の程はすぐわかるわよ、シャリー。…そうよね、シャリーちゃん?」

 

 

 

▲ ▽ ▽

 

 

 

『──キィ……ッ!?』

 

 

 大きな木に囲まれた採取地に、捻るような断末魔が響く。

 次いで枝の上からドサッと落ちてきたのは、ネズミのモンスター『フルーツハムスター』。

 

 可愛い小動物のようにも見えるけど、人を見掛けると尻尾に生えた木の実――硬い上に割れるとめちゃくちゃクサイ――を投げつけて攻撃してくる、立派なモンスターだ。

 

 

 そんなこいつを枝から落としたのはシャリーちゃんなんだけど……ねえ今、()()()()()()()()に見えたんだけど? さっきの舞にも使ってたおっきな鈴を、シャンって。

 そしたらなんか、白い弾みたいなのが飛び出して……ねえそれ、いったいどうなってるの?

 

「……いえ、実はわたしもこういうことができるようになる、というだけで原理がわかってるわけじゃないんです」

「え、ええっ、そうなの!?」

 

 話を聞くと、さっきの『舞』を踊ってから大体一日の間、こんな力が使えるようになるらしい。

 それからシャリーちゃんの村では他にも、護符──特別な模様を刻んだお守りのような物──を身に付けたりとかで、こんな感じの力を振るう方法が伝わっているんだとか。

 

 

「……形を変えた『精霊信仰』の一種ね。さっきのなんかは自前の魔力も使ってるみたいだけど…周囲の精霊に助力を呼びかける方法を、こんな形で確立してる一族がいるなんてね~」

 

「は、はあ…」

「えーと…」

 

 またしみじみと呟くウィルベル師匠の姿に、二人で顔を見合わせる。

 ……えっと、なんか、師匠は納得してるみたいですけど……

 

 

「…確かに村でも『精霊から力を借りる』なんて言われてましたけど……精霊なんているわけないですよね?」

「だよねえ……あんなの御伽噺じゃないんですか?」

 

 

「えっ? …………いやいやいやいや、何でそこで精霊の実在が否定されてるのよっ!?」

 

 

 あたしたちの呟きを聞いてか、激しく動揺している様子のウィルベル師匠。

 ……そこまで驚かれると申し訳なく思いますけど……精霊とか、魔法使いとか、そういうのって正直子供向けの絵本か探検家の与太話に出てくるようなものですし……

 

「…えっと、じゃあ師匠は精霊とかって信じてる感じなんですか?」

「信じるも何も、いないと思う方がおかしいというか……ねえ、あんたも本気で言ってるの?」

「えっ、は、はい……」

 

「嘘でしょ……? 参ったわね……」

 

 あたしたちの答えがよっぽどショックだったのか、師匠は頭に手を当てて黙り込んでしまった。

 それから、「この子たちになら……いや、でも……」という呟きを零した後で、こめかみに指を当てながら困り顔で話し始める。

 

「……そもそもあたしの旅の目的が、強い力を持つ精霊を探すことでもあるのよ。場所によっては信仰対象だったりもするし、程良くその街に馴染んだところで聞いて回ることもあるんだけど……ここらじゃお伽噺扱いかあ。これは期待できそうにないわね……」

「はあ、えっと、すみません?」

 

 溜息混じりにそう言われて、でも申し訳ないけど全然実感が沸かなかった。

 ……正直なところ、小さな子供が言ってるなら可愛いですむけど……って感覚ですし。

 

 

 ──そんな感じの考えが、どこか顔にも出てたのかもしれない。

 暫くあたしをじぃっと見ていた師匠は、不意に口の端をグっと吊り上げた。

 

 

「……そう、よね。あんたたちも、あたしに言われただけじゃあ信じらんないわよね?」

「し、師匠?」

「ウィルベルさん?」

 

 

 ……あ、あのっ、どうしたんですか、ウィルベル師匠…?

 なんか、笑顔なのに怖いというか……背中に蒸気みたいなものが見えるというか……

 

 

「ここからなら街も遠いし……いいわ、一回あたしの本気、見せたげる」

 

 ギラリと光った眼光に、乗っていたのは赤と緑の二色の光。

 暴風みたいな風と、炎に舐められるような熱さにほんの一瞬、身体を撫でつけられて。

 

 

 ──その瞬間(とき)あたしは、頭のどこかでチラリと。

 ひょっとして、とんでもない人を師匠にしたんじゃないかと、そう思った。

 

 

 

()()()よ、()()()よ、応えなさい――【ツインコール】!」

 

 

 

▽ ▽ ▲

 

 

 

「あっ、わ、あ……!?」

「……っ!?」

 

 

 視界一杯に広がる青空に、どこまでも続いて見える地平線。

 何にも触れずに揺れる足先に、体中を吹き抜けて撫でていく風。

 

 その感覚は、見える景色は、二度目ではあったけれど。

 

 

「あっははは! そんな贅沢な飛び方あたしだってしたことないんだから、感謝しなさいよー!」

 

 どこか近くで笑ってる師匠に返答することもできず、あたしは――視界の端でシャリーちゃんも――思い切り身体を強張らせながら、大空の中で震えていた。

 前回体験した()()との一番大きな違いは、まさに今も背中にガンガン掛かってる、『重圧』。

 

 

『ヨモヤ コンナコト ニ ワラワタチヲ ヨビダストハ ナ』

『マア タマニハ イイダロウ ヨ』

 

 

 あたしたちを抱えるようにして飛んでいる、もの凄い存在感のナニカ――師匠曰く、それぞれがこの世界の『風』と『火』を司っているという、二体の『精霊の王さま』。

 凶暴なモンスターに襲われたときとは全く違う「すごいものに遭った」って感覚が、さっきからずっと背中を走り抜け続けてる。

 

「し、し、師匠……だ、だだ、大丈夫なんですかあ、これえっ!?」

「なあに? 精霊の王の手の中が不安だって言うの? 失礼な子ねえ」

 

「えええぇっ、そ、そんなことはっ!? す、すみませーんっ!」

 

『オオ ナカナカ ココチヨイ ケイイ ジャ』

『ニンゲントハ コウデナクテワ ナ』

 

 あたしの悲鳴と、師匠と精霊の王さま達の笑い声が重なった。

 聞こえてくる声は驚くほど和やかで、だから大丈夫なんだろうけど……心臓に悪いですよお!

 

 

『……オヤ? コノコムスメ ナニヤラ カワッタ カゴ ヲ ツケテイル ナ』

『フム? オオ イワレテ ミレバ』

 

「ひっ!?」

 

 あ、王さまたちの矛先がシャリーちゃんに……思いっきり悲鳴上げてるけど、大丈夫かな?

 それに、変わった加護って……あの『舞』のこと?

 

「そうなのよ。この子の一族は代々精霊の力を借りる術を伝えてきたみたいなんだけど、なんだかそれだけじゃなさそうなのよね。あんたたちに何か心当たりはないかしら?」

 

『フム。コノ カンカク オボエ ガ アルヨウナ キハ スル ガ』

『ハテ ナンデアッタカ ノウ』

 

 ……精霊の王さまたちにもわからないんだ。シャリーちゃんの一族っていったい……

 というか普通に会話するんですね、師匠。やっぱり本当に凄い人だったんだなあ……

 

 

「――と、まあ、彼らのような精霊を探して、あたしは旅をしてきたってわけ。納得できた?」

「は、はいっ、それはもうっ!」

 

 思案する王さまたちを横目に、笑って圧を掛けてくる師匠へ、あたしは全力で首を縦に振った。

 す、すごい……錬金術士って、こんなこともできるんだ……! ああ、でも──

 

 

「……一人前の錬金術士への道は遠いなあ」

「え…………あ、いや、あたしはたまたまこういう……流派ってだけで、あんたがこれを真似する必要は無いわよ!? …し、知り合いの錬金術士にも同じことやってるのはいなかったし!?」

 

「へっ? あ、はい」

 

 ちょっとした呟きのつもりが、なんだかやけに慌てた様子で否定された。

 そっかあ、流派の違い……でも、できることならあたしも……

 

 ……精霊がお伽噺扱いのステラードじゃ無理があるかなあ。師匠の言う通り。

 

「だから、ええっと…………しゃ、シャリーちゃんはどう? なんかさっきから静かだけど――」

 

 

 

()()、なんでしょう」

 

 

 

 師匠の呼びかけに返って来たのは、ぞっとするほど温度の消えた呟き。

 急なことに息を呑んだあたしと師匠に、シャリーちゃんの声は続く。

 

 

「わたしには……船、に見えてます、けど」

 

 

 シャリーちゃんが指差す先。遠目に見えるステラードの街並みの、更にその向こう。

 それでも地平線の彼方…とまではいかない『黄昏の海』の中に、()()は在った。

 

「……本当だ。多分あれ、どこかの商会の船……だけど」

「遠くてわかりにくいけどアレ、煙吹いてない? 何かトラブルでも――」

 

 師匠の言葉は、そこで途切れた。

 あたしの思考もまた、同じタイミングで。

 

 

 船の下から飛び出した巨大な『ナニカ』が、彼方に見える船影を覆い隠したことによって。

 

 

「…………なに、あれ」

 

 

 師匠の呟きが、耳を通り過ぎて、落ちていく。

 高揚も、緊張も、どこかに忘れてしまったように、あたしは()()を見ていた。

 

 

 何十人も乗れる、沢山の荷物を載せて砂の海を渡る大きな船。

 それをあたし達の視界から、すっかり遮ってしまえる巨大な影。

 

 距離のせいで、どっちも子供のおもちゃほどの大きさに見えているけど……

 あれは、()()()()()()なっていいものじゃない。

 あんな、()()()()()()()()()()()……潰れたり、ひしゃげたりしていいものじゃない、ハズだ。

 

 

 叩く、噛みつく、捻る――

 それこそ子供がおもちゃで遊んでいるみたいに、巨大な影が船を弄ぶ。

 

 その度に船は、小さな『何か』を砂の上へとばら撒いて。

 少しずつ、少しずつ、小さな形へと変わっていく。

 

 音も、声も、あたし達には遠すぎて聞こえない。

 でもそこで轟音が、怒号が、悲鳴が……上げられてるってことだけは、わかる。

 

 最後に一度、巨大な影が大きく背を伸ばして。

 見えていた煙が、影と一緒に『黄昏の海』へと消えて――それで、全部。

 

 

 もう一度向けた視線の先には、何も残っていなかった。

 

 

 

「なに、が……なにが、起きたの?」

 

 

 呆然としたその呟きがやっと耳に入って、ああそういえば、と思った。

 この街に来たばかりの師匠は、知らないんだ、と。

 

 

「「――『サンドドラゴン』」」

 

 

 師匠に伝えるつもりのあたしの呟きは、シャリーちゃんのそれと重なった。

 





※原作既プレイの方へ

 捏造オブ捏造。
 いわゆる「超必」の演出にも含まれてるし、何かしら意味あるんやろ、ということで。


 そして顔出し願いましたは精霊の王のお二人。
 テキスト比較してみると、意外に言葉の選び方等に差異があるのがわかります。

 『エスカ&ロジー』では通常技として雑魚敵相手にもホイホイ呼び出せてますし、このぐらいの関係性は築けているのではないかと。
 前作の会話からして『火』さんはわりと大らかっぽいですし、『風』さんも前々作のイベントの流れからして案外ノリは良さそうなんですよね。


※原作未プレイの方へ

 ゲームにおけるシャリステラの武器は『鈴』。
 見た目と扱いからして『神楽鈴』。服装も相まって完全に巫女さん系。
 通常攻撃では鈴からなんか魔法弾っぽいのが出ます。Oh,ふぁんたじー。

 ……尤も、次作のソフィーあたりから当たり前のように杖から魔法弾飛ばし始めるので、以降の作品を含めれば特筆するようなことではないんですけども。
 トトリとかアーシャとか杖ポコしてた女の子たちの時代も今は昔か。

 ……あれ? でも次々々作のリディーも杖でぶん殴る系女子だな?
 いやまあ、彼女の場合なんか途中からマッチョ属性(?)付き始めるしセーフ(?)


 本作シャリー'sには御伽噺扱いさせましたが、作中の精霊に関する一般認識は今一つ不明です。
 古い言い伝えには出てきたり、存在を信じている人もいる、ぐらいの扱いかなといった印象。
 錬金術を科学と言い切る某人物に至っては一言「茶番」と切り捨てる始末。

 以下、原作会話から抜粋

   ウィルベル「あんた、精霊の存在を感じられるの?」
    コルテス「いや、別に…」

   ウィルベル「ふーん。護符を使っているから、てっきり精霊と親しいんだと…」
    コルテス「精霊か…そんなものがこの世界にいたら…」

   ウィルベル「いるに決まってるじゃない!ばっかじゃない!?」
    コルテス「バ、バカだと!?」
  シャリステラ「に、兄さま!ムキにならないで!」
  シャルロッテ「ウィルベル師匠、熱くなりすぎですよ~!」

   ウィルベル「だって…!」
    コルテス「だってだな…!」

 …というわけでコルテス兄さまが「精霊なんて実在しない派」なのは公式設定。
 そこで本作ではステラは元よりロッテも同じような認識を抱いていたという設定になりました。

 今回の話に出した精霊の護符(チャーム)持ちって彼の事なんですけどね。消えた信仰の名残感。

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