昏き海都は黄砂に沈む   作:非単一三角形

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 原作でいうところの錬金術(調合)チュートリアル回。
 ……を利用した本作中での設定(解釈)紹介回。

 しかし過去作準拠だと薬一つの作成でも数時間~数日単位なんですがそれは。


※今話に限らずこの先もどんどん独自設定、独自展開を入れていく予定です。
 無理だと感じたら即時ブラウザバックを強く推奨いたします。



序章-2 理に立てる爪

 

 

 ――錬金術。

 

 

 それは一定の法則こそあれど、科学ではなく。

 少なからず理から外れども、奇跡ではなく。

 

 二つ、三つ、あるいはそれ以上。

 縁もゆかりもない物質同士を束ね、混ぜ合わせ、新たな"先"へと導く()()

 

 

 水を、木を、土を、肉を、

 毛皮を、金属を、毒物を、気体までも。

 

 釜に満ちる液体は形を奪い、そして与える。

 望まれし新たな効能、新たな力を潜めた、新たな姿を。

 

 

 向かうべき結果(さき)を与えし導師――『錬金術士』の意志のもとに。

 

 

 

 

「……痛みはどうかしら、テオ爺」

「おお…中々の案配ですな」

 

 

 ──尤も

 

 

「これならすっかり元通りに…イタタ!?」

「っ!?」

「あ、親父!? いきなり立ち上がるなって!」

 

 

 その効能の多寡には、錬金術士個々人の技量が大きく影響するのだが。

 

 

「あ、あんまり効かなかった、のかな……ごめん、なさい……テオ爺……」

「い、いえっ! 嬢様…っ! こ、これこの通り――ぐうぅ…!?」

「バカ野郎、無理するな、親父っ!」

 

 

 効果が皆無だった、わけではないのだろう。

 

 シャリステラがその手で作り出した湿布薬――【リフュールパット】は、確かに其処に発現した癒しの力をテオクーガの腰へと振る舞ったはずだ。

 貼った瞬間、老父の顔色が幾分か血の気を戻していたことからも、そこに疑念の余地は無い。

 

「…シャリーも落ち着け。失敗したわけじゃないんだ。そうだろ?」

「にぃ、さま…でも、わたし……」

 

 しかして望んだほど、思うほどの効果が出なかったことも、また事実。

 自らの手を見つめ瞳を揺らす妹分に、コルテスは伸ばした手でその背を支えながら問い掛けた。

 

 

「……素材に問題があったんじゃないか? 何か、他に使えそうな物がないか探してこよう」

「あ……」

 

 掛けられたその言葉に、掻き乱れていたシャリステラの思考が救いを求めて傾き始める。

 自身の外に原因を探すことへの後ろめたさを胸に、たったいま行った錬金術――『調合』が従う決して逃れ得ぬ制約へと。

 

 

 ──こと『調合』においては、素材の是非が完成品の性能を少なからず左右する。

 

 雑草から『良薬』を作り出せる者はいても、『霊薬』を生み出す術は存在しない。

 これは万理万則を覆し得る『錬金術』が従う、数少ない(ルール)の一つなのだ。

 

 

「ほら、さっきシャリーが使ってた薬草に似た奴ならまだ幾つかあったぞ。…俺にとっては違いがあるのかどうかもいまいちわからないが──」

 

 勿論、技量により補い得る部分も決して少なくはない。

 況して彼女が作らんとしたのは、ごく常識的な範囲に収まる『良薬』だ。

 

 そもそもたとえ希少な薬花の類がこの場にあろうと、その薬効を活かした『霊薬』を作り出せる腕前など今の彼女は持ち合わせてはいない。

 当然、そのことを誰よりも理解していたのはシャリステラ自身でもあって。

 

「…………うん。ありがとう、兄さま」

 

 錬金術に関する知識、素養の一切を持たないコルテスに、それらを知る由はない。

 彼が船室隅から運んできた箱の中身も、当人にとっては見分けのつかない雑草の束でしかなく。

 

 しかし──否、だからこそ。

 

「もう一度、調合してみるね?」

「っ、ああ。何でも試してみればいいさ」

 

 己への呵責に沈みかけたシャリステラの意識を、彼の言葉は引き戻し得た。

 意識的にか否か『それ』を成した眼差しへと微かな笑みを返し、彼女は今一度釜の前に立つ。

 

 

「……さっき使った薬草(トーン)じゃ、薬効が足りなかった。わたしには、足りないそれを補う技術は……まだ、無いから──」

 

 かくして、先の失敗を『正しく』失敗と捉えた思考の元、彼女の手は滑らかに動き出す。

 コルテスによって運ばれてきた箱の中、雑多に積み重なる薬草の中へと。

 

「…………あった」

 

 錬金術士の素質が一つ、『素材の目利き』。

 傍目には同じに見える物体から、その品質、特性、潜めし力までを見出す技術。

 

 熟練の錬金術士に比べれば未だ遥かに拙いだろう彼女の『目』は、しかし確かに見つけ出す。

 積まれた薬草(トーン)の中にたった一株混じった薬花、『変異トーン』の存在を。

 

「これと…あとは、これで……」

 

 迷いなく、淀みなく、手に取った薬花を他必要素材と共に釜へと投入。

 直後ボコリと泡立つ水面に、掻き混ぜ棒を差し込み、ひと混ぜ、ふた混ぜ。

 

 やがて釜の底、掛けられた火より伝わる熱に呼応するように、満ちる液体が色を変えていく。

 目の前で起こる()()()()()()に彼女は一度頷き、再び掻き混ぜ棒を握る手を動かし始める。

 

 

 虹色の液体が渦を巻く。

 

 白の煙が釜から立ちのぼる。

 

 滲む光が彼女の頬を照らし、最後に響くは木を叩くような軽い音が一つ。

 

 

「──できた! これで、どうかな?」

 

 

 果たして振り向いたシャリステラの手には、見た目は先と同様の湿布が握られていた。

 

 

 

▲ ▽ ▽

 

 

 

「…どうだ、親父?」

「うん? ほう、これは…うむ!」

 

 新たに『調合』された湿布を患部に貼りつけ、一拍。

 具合を確かめるように瞑目していたテオクーガは、一度息を吐き──徐に()()()()()

 

「お、おい親父!?」

「テオ爺、いきなり立ったりしたら…!」

 

 これに驚いたのは若者二人。

 やせ我慢を見せられたばかりであることも手伝い、次の瞬間には痛みに倒れ伏すのではないかと支えるように伸ばしたそれぞれの手が虚空を彷徨う。

 

「なに、心配なんかありゃあせん。さっきまでの痛みが嘘のようじゃ」

「…ああ、どうやら、そうらしいな」

 

 しかしそんな彼らを取り残し、当の老父は軽く腰を捻りつつ手足の曲げ伸ばし。

 つい先刻までの苦悶を忘れたかのようなその姿に、見守る二人の顔にも次第に納得が広がった。

 

「テオ爺…本当、に?」

「ええ、もうすっかり良くなりましたわ。嬢様のおかげですな!」

 

 

「…………よかったぁ」

 

 

 胸元で手を合わせたシャリステラの口から溢されたのは、深く沁み入るような呟き。

 その様子にテオクーガは一度思案に髭を撫でた後で、柔らかく言い聞かせるように口を開いた。

 

「…やはり嬢様の錬金術の素質は素晴らしいものです。今少し自信をお持ちください」

「っ……そう、かな」

 

「ええ、そうして錬金術をしっかりまなびなされ。必ずや嬢様の力となりましょうぞ」

「わたしの、力に……」

 

 

 

「……そういえば俺も昔、錬金術に手を出してみたが、まったくダメだったなっ」

「っ、兄さま?」

 

 不意にコルテスが放ったその言葉に、俯き気味だった顔を上げるシャリステラ。

 小首を傾げる妹分へと、彼は苦笑交じりに自らの経験を語る。

 

 古代の錬金術士を成り立ちに持つとされる彼らの故郷『ルギオン村』においては、経験則として少なからず浸透している事実。

 それを根拠に当時幼かった彼が、『素質』無しと処断されてしまった日の事を。

 

 

 彼らが『錬金術』と呼ぶ技術は、決して万人がその手にし得るモノではない。

 素質を持たない者には知覚すらできない『何かの力』が、その術理に深く関わっているからだ。

 

 

「──まあ、俺はその頃でも特段惜しいとは思っちゃいなかったが……シャリーが生まれながらにその『素質』を持ってるってのは確かなんだろうな」

「素質……」

 

「だから、その…なんだ。親父もさっき言ってたが…」

 

 ガリガリと頭を掻きつつ、歯切れの悪い言葉を漏らしながらコルテスは続ける。

 

 

「それは間違いなくシャリーの持つ力、シャリーにしかできないことだ。…胸を張れよ、な?」

「……はい、兄さま」

 

 

「…ふうむ」

 

 考え込みつつも、ふわりとした笑みを浮かべたシャリステラに、ほっと息を吐くコルテス。

 そんな二人の様子を、また髭を撫でつけつつ見守っていたテオクーガが小さく呟きを漏らす。

 

「──どれ、腰も治ったことじゃし、補給に降りるかの」

「あっ、親父…俺も行くぞ」

「テオ爺、兄さま、わたしも…」

 

「いやいや、力仕事はワシらに任せて嬢様はこちらでお待ち下され。なぁに、そうそうお待たせはいたしません」

「……シャリーがシャリーにしかできないことをやってくれたように、今度は俺達が俺達にできることをやりに行くんだ。じゃなきゃここに居る意味がないからな」

「あ……」

 

 笑い混じりに返された言葉に、やや所在無さげにしつつも頷きを返すシャリステラ。

 そんな彼女の視線に見送られつつ、力仕事担当の父子は船室を後にするのだった。

 

 

 

▽ ▽ ▲

 

 

 

「──やはり嬢様にはお前が必要じゃな。これからも嬢様の支えになるのじゃぞ、コルテス」

「…えっ、あ、ああ……」

 

「どうした? 不本意というわけではなかろう」

「いや、それはそうだが、その…いいのか? 親父は…」

 

「なあに、今さら野暮なことなど言わん。節度さえ守れば好きにすればよい」

「い…いや、でも、族長は…」

 

 

「ほう、知らぬと思うか?」

「な…っ」

 

 

「…わかったか? ついでに言っておくが、息子が評価されて喜ばん親などおらんからの」

「ぐ…あ、あのな…そういうことは……」

 

「あまり嬢様の前で鼻を伸ばさせるわけにもいかんからのお。若い内はすぐ調子に乗りおる」

「…………」

 

「まあ、何を言うまでもなかったようで安心したがの。少々強引ではあったが及第点はやろう」

「……やっぱりか。ああ、意図はわかったさ。けどな、親父。さっきのは───」

 

 

「言うな」

「……ッ」

 

 

「お前の言いたいことはわかっておる。だがな? それも嬢様の為なのだ」

「…………なあ、親父」

 

 

 

「──錬金術士ってのは、()()()()なのか?」

 

「…ああ、()()()()、じゃ」

 

 

 

「…けど、族長だって錬金術士なんだろ? そんなにとは……」

「コルテスよ」

 

 

「……親父?」

「この船も、水も……村に伝わる全ては、元を正せば全て『錬金術』による産物……ワシらには、そう()()()()()おる」

 

「……ああ」

「だからこそ、()()()()()()()()()……それが古くより続く村の在り方じゃ」

 

「…………」

「じゃが現在、水を……その()()()()()()()ワシらは()()()()()()おる。この意味がわかるか?」

 

 

 

 

「…嬢様は、ワシらの──()()()()なのじゃ」

「っ……!」

 

 

「故にワシらは壁となり、柱となり、その意志を支えねばならん。……覚悟を決めよ、コルテス」

「……言われなくても、俺はそのつもりだ」

 

 

 

 

「……ところで治ったっていっても、無理はするなよ、親父? 腰痛は癖になるっていうからな」

「ふん、お前に言われるまでもないわ」

 





※原作既プレイの方へ

 ルギオン村勢の様子がおかしい? ええ、作者もそう思います。
 本作の改変ポイントの一つということですね。背景は追々。


 某ガンコオヤジさんが言うには、錬金術とは歴とした科学であって不思議なことは欠片も無い、だそうですが…(歴代主人公'sの所業を見る)…そりゃ無理じゃないですかね…?

 また『シャリー』では『品質』ではなく『効力』ですが、字面から意味が分かりにくそう(特に未プレイの方に)という判断から前者の用語を採用しております。あしからず。


※原作未プレイの方へ

 ゲームではアイテム作成時、名指しで要求される『指定素材』と、(金属)や(木材)といった大雑把な種別で要求される『自由素材』に分かれて使用素材を選択させられる形になっています。
 高位のアイテムの場合、大体が高位の指定素材+自由素材幾つか、という形になっていますのでどれだけ腕前(錬金Lv)が良くとも高位素材が無い限り格(Lv)の高い道具は作れません。
 本作でもそれに準じて今話のような解釈といたしました。

 ……逆にモノさえあれば超希少な薬花(ドンケルハイト)工業廃水的なブツ(汚染された泥水)と一緒にブチ込んで『霊薬』完成とかゲーム的には可能だったり。それ腕前でどうにかなるもんなん?

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