昏き海都は黄砂に沈む   作:非単一三角形

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 シャルロッテ視点復帰。

 書き溜めが作者的山場を越えましたので、今週から投稿ペースを上げていく所存。
 作品あらすじにも書きましたが、これまでの週三更新から週五更新に変わる形です。



第16話 月映す影

 

 

「──シャリ……ステラは、何も悪くなかったって、理解は……できてる、はず」

 

「でも、私の中でそれを……許すことが、まだ、できてない」

 

「だから、その日が来たら…………あのとき殴ってしまったこと、言ってしまった言葉について、ちゃんと自分の口から謝る、つもり」

 

 

 ある日、あたしの家に来たミルカは、赤く腫らした目でそう言った。

 ……どこか困ったような顔でそれを見守る、ウィルベル師匠に連れられて。

 

 

「この街は……ステラードは今、サンドドラゴンの討伐を前に一つにまとまろうとしてる」

 

「私も……それには協力したいと、思ってる」

 

「…………姉さんが好きだった、この街の為にも」

 

 

 ……あたしの後ろで、シャリーちゃんが聞いているのも、絶対わかってるはずなのに。

 今は合わせる顔が無い、なんて言って……決して家の中に入ろうとはせずに。

 

 

「だから……だから私も、一緒に戦わせてほしい」

 

「私も…錬金術士として、あの竜の討伐に全力を尽くしたい」

 

「この恨みを、怒りを、正しくぶつけるべきはあの竜だって……そう思うから」

 

「虫の良い話なのはわかってる、けど……」

 

「…あの日の償いは必ずするって、約束するから…」

 

 

「…………シャルから、そう伝えておいて」

 

 

 

 

「──わたし、あの時……ユリエさんに助けて頂いたんです」

 

 

 あたしの後ろから、あたしが思ってたよりずっと落ち着いた声で、そう返ってきた。

 俯いたままだったミルカが、少しだけ肩を揺らしたのが、あたしからは見えていて。

 

 

「船が衝突する瞬間、覆い被さるようにして庇って頂いたから……大きな怪我をしなかった」

 

「だから…………『代わりに』と言われて、何も言葉が出なかったんです」

 

「わたしのせいなんじゃないかって……わたし自身、そう思ってしまったから」

 

 

 顔を上げたミルカと一緒に、家の中へと振り向いて。

 背中を向けたシャリーちゃんがゆっくりと話す声を、あたしは呆然と聞いていた。

 

 

「わたしが、わたしたちがいなければ、何も起きなかったんじゃないかって…何度も考えました」

 

「何度も何度も自分を責めて、すぐに蹲って動けなくなってしまいそうで……その度にわたしは、ミルカさんたちに支えて貰っていたんです」

 

「そんなわたしに、ミルカさんたちがしてくれた、たくさんの親切は一つだって忘れません」

 

「ありがとう、ありがとうって…もっとたくさん言いたかったのに、全然言えてない」

 

「だから……わたしの方こそ、お願いします」

 

 

 あたしから、シャリーちゃんの顔は見えなかったけれど。

 耳に届く音から感じられたのは、ほんのちょっぴりの涙と……いつか聞いたような、前を見据え続ける決意の声。

 

 

「わたしを、あなたたちと一緒に戦わせてください」

 

「わたしが錬金術士として身につけてきた全てを、あの竜の討伐に尽くしたいんです」

 

「それが……それが、終わったら──」

 

 

 

「もう一度、あなたとお話がしたい。……そう伝えてください、シャリーさん」

 

 

 

▲ ▽ ▽

 

 

 

「――どうにか収まった、ってことで良いのか?」

「…………たぶん?」

 

「たぶんってお前……まあ、しょうがねえか…」

 

 

 なんだか最近あたしも馴染んできた気がする、組合本部カウンター前。

 ここ数日にあった『色々』をあたしから聞いたラウルさんは、溜息を吐きながら机に沈んだ。

 

 ミルカとシャリーちゃんの仲違い……って言って良いのかはちょっとわかんないけど、とにかくその『現場』に居合わせてたのは、あたしだけじゃない。

 ……というかあれ、本部(ここ)でラウルさんがシャリーちゃんに事故当時のサンドドラゴンについて、より詳しい話を聞こうとしたのが発端でしたもんね。

 

 

 ──けど、まさかユリエさんがあの船に乗ってただなんて……ああ、でも、あの時あたしが見た『誰かの手』……今思い返せば確かに、見覚えのある手だった、気がする。

 …もっと早くに気づけなかったあたしのせい、でも、あるのかな……

 

 

「収まったというか……とりあえず一時期に比べればってとこかしらね……」

「……まあ、お二人が気持ちを前に向けていられるようになったのなら上々でしょう」

 

 額を押さえたウィルベル師匠の呟きに、肘を立てて両手を組んだソールさんが投げやりに言う。

 ……うわ、今気づいたけどこの人、目の下にすっごいクマが……だ、大丈夫なんですか?

 

 

「…方々への根回し、決戦の場の選定、人材と物資の確保――目に見えた激務の最中に発生した、作戦の要となる錬金術士お二人の確執でしたからね」

「う、うっわあ、すみません……」

 

「いえ、誰が悪いという話ではありませんから。……ここ暫くお三方ともこちらに足を運んで頂けなかったことで、そちらの進捗が聞けずにいましたが」

「それすごい影響出てますよね!? すいませーん!?」

「…まあ逐一聞かされてもわかんねえ部分だから構わねえといえば構わねえが……で、どうだ?」

 

「え、ええっと……用意しろって言われた分の【竜眠香】は大体できました。今は決戦用の爆弾をどんどん作ってるところです。……シャリーちゃんが」

 

 

 ──師匠が送ってきてもらった『先輩』の本で、あたし達の錬金術はまた一気に広がった。

 竜に対してよく効く道具は勿論、それを含めた大きなモンスターを相手取るのに便利な道具も色々と作れるようになってきてる。

 

 …ただ、あたしも結構新しい道具を作ってはいるんだけど……主に威力の高そうなヤバイ爆弾を作り始めたのはシャリーちゃんだったりするんだよなあ。

 その気持ちは何となく、いや、すごくよくわかるから、何とも言えないんだけどさ。

 

「決戦用の爆弾…ってことはちょっと前におまえらが、街外れで大きな音を立てることになるから周知しておいて欲しいっつってたのは……」

「はい、できた爆弾の威力を確かめる為です。…師匠が用意してくれる『的』を使って」

 

 

 あたしたち『ひよっこ錬金術士』の修行用にと、ウィルベル師匠が作ってくれた、めちゃくちゃ丈夫な代わりに自発的な攻撃はしない人工魔物、その名も『ラムローストくん』。

 最近のシャリーちゃんは街外れに設置したこの『的』に向かって、日々凶悪になっていく爆弾を鬼気迫る様子で投げ続けてる。……正直ちょっと怖い。

 

 しかもこないだ様子を見に行ったときには、どこかからそれを聞きつけたらしいミルカがいて、なんかヤバそうな新型武器の試射を一緒にやってるところだった。……お互い会話はしないまま。

 二人の間に漂う微妙な空気を見ていたのは、爆撃を浴びる『ラムローストくん』…と、師匠。

 …『的』が壊れる端から補充してた師匠の引きつった顔が、こうして思い出すたび頭に過る。

 

 

「……いちいち補充するのも面倒だし、まとめて用意するようにしたから今は……まあ、それでも一日あれば粗方壊しちゃうんだけどね、あの子たち」

「そ、そうか……まあ、頼もしいと言っとけば良いのかねえ…」

 

 頭の後ろに手を遣りつつ、苦笑いを浮かべるラウルさん。

 しばらくそうして考え込んでいた後で、ふと何か言いたげにウィルベル師匠に目を向けた。

 

「……後は、実際にサンドドラゴンと対峙する人間についてだが……竜討伐の経験があるっていうあんたは、協力してくれるんだよな?」

「そりゃ、これだけ焚きつけといて、途中でサヨナラはしないわよ」

 

 話を振られた師匠は軽く笑いながらひらひらと手を振ってラウルさんに答えた。

 …うん、すっごく頼もしい! ……んだけど、同時にちょっと申し訳なく思っちゃう。

 

 以前聞いた、師匠の旅の目的には全然役に立たなそうなんだよね、この街。

 本当ならそれがわかった時点で通り過ぎていっちゃうはずの場所で……それをあたしが、強引に引き留めた挙句に大事に巻き込んじゃったみたいなところあるし……

 

 

「あたしと、後はこの街の誇る錬金術士たち……ってとこね。あの『的』を壊せるまでに成長したこの子たちの錬金術なら、戦力として申し分ないわ」

「……錬金術士たち、か」

 

 ……う、チラっとあたしを見たラウルさんが、また考え込むみたいに口元を抑えた。

 あたしに任せるのは不安……って話ですかね? そりゃまあ、あたしも驚きましたけど──

 

「……確かにあのデカさのサンドドラゴンに対して、普通の武器で太刀打ちできるとは思えねえ。思えねえが……本当に錬金術士に頼るしかねえのか?」

「竜狩りのハンターだとか、馬鹿デカイ剣を軽々と振り回す剣士だとか、あたしの知り合いになら何人か例外は居るけどね。今からこの街に呼べるわけも無いし、他に選択肢は無いと思うわよ?」

 

 

 ……と、いうことなんだよね。

 あんな馬鹿デッカイドラゴンと戦う方法なんて、あたしたち錬金術士の爆弾を使うしかない。

 それなら爆弾を別の人間に渡せば……とも言われたんだけど、そうもいかないんだ。

 

 だって錬金術士(あたしたち)が作る爆弾って、その……めちゃくちゃ危険だから。爆弾だし。

 持ち方とかちゃんとわかってないと、触るだけでドッカン! なんて可能性もあるし……

 

 それに、その錬金術士が自分用に作った特別な爆弾だったりすると、同じ錬金術士でも危なくて触れない、なんてことだってある。そういうのを作れるようになったのも最近のことだけど。

 …シャリーちゃんがこの前作ってた爆弾、すごい繊細な扱いを要求される感じだったからなあ。

 あたしじゃ触った瞬間、ドカン! って()()()()()()未来が見えたよ。

 

 

「あー……まあ、そういうことなら仕方ねえが……」

「…随分歯切れが悪いわね。何かあったの?」

 

「……以前、本部(ここ)に押しかけて来た連中がな。『商会』を通じて話を聞きつけたんだろうが──」

 

 ガリガリと、また頭の後ろを掻いてラウルさんが唸る。

 そうして疲れの滲んだ顔で、絞り出すように言った。

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、だとさ」

 

「……っ!」

「……おおう、そうなるのね、あいつら」

 

「こっちとしちゃ、本人含め元からそのつもりなんだ。その場で了承はしたんだがな?」

「なるほど、それは確かに腹立つわねー」

 

 苦笑い混じりの師匠の言葉に、あたしも強く頷いた。…なにそれ、すっごい気分悪い。

 きっとミルカもここにいたら、同じようなこと言ったんじゃないかな。

 

「まあ、その条件を呑むならあいつらも船を出すってことになってたからな。感情を抜きにすれば悪い話じゃなかった。…あらかじめ話をまとめておいてくれた会長さんに感謝しねえとだな」

「会長……ペリアンさんが?」

 

「ああ……実際、そもそもあの竜に手を出そうとすること自体に反対する声もあったんだ。それを()()()()()()()()が責任をとろうとしているなら、という建前で根回ししてくれてたらしい」

「……っ!」

「それは、また……」

 

 あまりにもあんまりな言い方に、頭に血が上り……かけたところで止まった。

 そういう人たちも結果的には協力してくれるように、ペリアンさんが上手く働きかけてくれてたことが、あたしにも何となく理解できたから。

 

 

 …それに、と。重ねて考える。

 

 サンドドラゴンの討伐が上手く行ったら、そのとき先頭に立っていたシャリーちゃんへの、街の人たちからの印象だってきっと変わるはず。

 自分たちがやったことを責任を取っただけじゃないか…って言う人もいるかもだけど、この街の為に戦ってくれたんだって考える人だって、たくさんいるはずだ。

 きっとペリアンさんも、そういうのを見越して動いてくれたんじゃないかなって、そう思えた。

 

 

「──ってわけで、このまま何事も無ければ数日の間に手配は整う……予定だ」

「…何よ、その不安になる言い方は」

「事の始まりからして不測の事態まみれですからね。言いたくもなります」

 

 ソールさんの顔の位置が、組んだ手の上から、その後ろまで下がっていた。

 ……ラウルさんも含めてめちゃくちゃ顔色悪いんだけど、何日寝てないんだろうこの二人。

 

 

「……ああそうだシャリー、シャリー嬢ちゃんにこれも伝えといてくれるか?」

「え? あ、はい、何ですか?」

 

「ここんとこ現場の人間に任せっきりだったんで、俺も詳細は把握してねえんだが──」

 

 

 

「そろそろ例の『事故現場』の解体作業が、あの船本体にも及ぶそうだ」

 





※原作既プレイの方へ

 原作5章の決意表明台詞……から微妙に色々と変化しています。
 まあ、本作ステラにステラードという街を好きになる理由があるかって言われるとね。残当。

 そして主人公たちが先頭に立って戦うことになる理由を捏造。
 船はともかくとしても巨大な竜に対し六人ぽっちで戦わなきゃならない理由なんて「ゲーム的な都合」以外に無いですからね。この手のゲームの共通命題ですけど。


 ……しかしまさかラムローストくんが『ライザ』で再登場するとは。
 難易度ノーホープで対峙した彼(?)の尋常じゃないHPに噴いたのも良い思い出です。


※原作未プレイの方へ

 『シャリー』作中において、アイテムを使用できるのは主人公たちのみです。
 そして主人公が二人いる『エスカ&ロジー』および『シャリー』では一部アイテムにどちらかの主人公でしか使用できない、という設定が入っています。

 これらを良い感じに文章化を試みた結果が今話でした。


 ……なおこの辺りのシステムは次作『ソフィー』を境に大きく一新される形となっています。
 錬金術士以外が爆弾使えちゃうの割と複雑。でもキャラの個性がはっきり見えるの好き。

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