昏き海都は黄砂に沈む   作:非単一三角形

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 シャルロッテ視点。

 決戦はもうちょっとだけ先なのです。



第17話 太陽の見る街

 

 

「……こうして見ると、つくづくとんでもない事故だったのね」

 

 建物の立ち並ぶ住宅街にぽっかりと空いた広い空間を眺めて、ウィルベル師匠は呟いた。

 

 

 もう何か月も前にも思える、シャリーちゃんたちの船が飛び込んできたあの現場。

 周囲に散らばっていた瓦礫や被害を受けた家屋の対応はどうにか済んだみたいで、残ってるのは木肌が見えるようになった…半分潰れたような船。

 

「……あ、ほら、あの辺りです。シャリーちゃんが出てきたところ」

「へえ、それじゃあんたもその時ここらに……これ、あんたも相当やばかったんじゃないの?」

 

「あ、あはは……いやほんと、よく生きてましたよね、あたし…」

 

 

 今もそこから解体した木材その他を運び出す人の列ができている。

 あの列の向かう先に、瓦礫の処理をしている場所があるんだろう。

 

 そんな中で何人か、瓦礫とは違うものを手に別の方向へ歩いていく人がいた。

 その人たちが向かう先をと見てみれば、ずらっと並べられた木箱が目に入ってくる。

 ……ああ、なるほど。あれがラウルさんが言っていた──

 

 

「遺留品の一時置き場、ね」

「そう、みたいですね……」

 

 予定では、現場から見つかったもの――あんまり壊れてない家具とか衣類――については、一旦組合で保管して、それから引き取り手を探すらしい。

 都度組合本部にある倉庫に運び込んでる…って話だったし、ここに積んであるのは今日の作業で出てきたものってことなんだろう。

 

 木箱に付いたラベルを見れば、大体見つかった場所ごとにまとめてあるらしいことがわかる。

 ざっと見た感じ、布や本の他にもちょっとした小物なら結構無事みたいかな?

 今、出てきてる物なんかは大体シャリーちゃんのものなんじゃないかとも思うけど……船の中にあったのか周囲の家屋にあったのかわかんないって言われたら、まあそっかあ。

 

 

「……あれ、これって……」

「師匠? 何か見つけたんですか?」

 

 何かに気づいた様子で呟いたウィルベル師匠が、一つの木箱に近づいていった。

 目配せを受けてあたしも見てみれば、そこには不思議な紋様が刻まれた……これは、メダル?

 

「うん、微かだけど精霊の力を感じるわ。あの子が前に言ってた、精霊の力を借りる為の護符ってこれの事じゃないかしら」

「っ! じゃ、じゃあ、これって……ッ」

 

 ()()()()()()()()()()を指差した師匠は、周りを気にしてか声を潜めてそう呟く。

 その言葉を聞いて、一拍──意味が頭に染み込んだ瞬間、あたしは胃の中がひっくり返るような衝撃を胸に感じて、思わずえづいてしまった。

 

 

 ……シャリーちゃんが言っていた、村の人たちが身につけていた護符。

 これが、そうなら。…それが今、ここにあるってことは。

 この護符にべったりとついた、赤茶色の正体は──

 

 

「…ちょ、ちょっとシャリー、大丈夫?」

「う、あ……は、はい」

 

 気遣うように背中をさすってくれる師匠に、何とか返答して。

 何度か深呼吸した後で、赤茶色に――()()()()に塗れた『それ』を、もう一度目に映す。

 

 気付いた瞬間、頭の奥によみがえってきたのは、()()()()()()()()()

 それから最期の瞬間、あたしに向けられた()()()()()()も、だ。

 

 

 ――『コルテス兄さま』。

 

 シャリーちゃんが時々、囁くように口にする名前。

 きっとシャリーちゃんにとって一番身近で、一番大切だった人。

 

 その名前を呟いた後はいつも、今にも泣き出しそうな顔になっていて。

 それでも俯いて、顔を上げた時には元の表情に戻って……いや、違う。ずっとシャリーちゃんは責任感で涙を堪えていたんだ。

 

 …ウィルベル師匠のおかげで、()()()以来あまりそういう姿を見なくはなったけど……

 だからと言って、辛くないわけない。…寂しいと思ってない、わけがないよ。

 

 

「……それを聞くと今すぐ持ってってあげたくもなるけど、そうもいかないわよね」

「……勝手に取ってっちゃダメですよね、さすがに」

 

 ついついチラっと人目を確認して、いやいやと首を振った。

 多分そうかなあって思うだけで根拠は出せないし、下手したら火事場泥棒になっちゃうよ。

 

 そんなやり取りをしてたせいなのか、この場所の管理をしているらしい組員さんにも、ちくりと咎めるような目を向けられた。…いやいや何もしないですよっ!

 …まあ、この場合は疑われるような仕草を見せてた方が悪いよね、うん。

 

 

「……仕方無いか。それじゃ、そろそろ戻りましょ。あの子たちも待ってるでしょうし」

「そうですね、戻りま――?」

 

 

 ……あれ?

 

 

「…シャリー?」

「……」

 

 護符から目を離して、何気なく向けた視界に……何か違和感があった。

 

 

 …………何だろう?

 

 あたし、今……何を不思議に思ったの?

 何か変なものが見えたとか、変なことが起きたとかじゃなくて……でも、何かが――

 

 

「……っ!」

「シャリー!? ちょ、急にどうしたの!?」

 

 

 気づけば、突き動かされるみたいに足が動いてた。

 

 

 まるで、大きな船に追いかけられた()()()みたいに。

 

 今は走り出さなきゃいけないって、そんな感覚に追い立てられて。

 

 驚く師匠の声を背中に、走って、走って──曲がり角から路地裏へと飛び込んで。

 

 

「──そ、れ……っ! どこに、持ってくんですかっ!?」

 

 

 詰まる息を堪えながら、そう問いかけた。

 走り始めたそのとき、ギリギリ一瞬だけ角に消えるのが見えた、背中の主に。

 

「……っ!?」

 

 そうして、あたしの声にぎょっとした顔で振り返り、ひきつった笑いを浮かべた、その人は。

 

 

 

「な…………なんだ、シャリーちゃんじゃないか……いや、大したことはないんだよ?」

 

 

 

 聞き覚えのある、()()()()()()()声で、そう言った。

 

 

 

▲ ▽ ▽

 

 

 

 ……この街でどんな目に遭ってきたか、シャリーちゃんはあたしにはあんまり教えてくれない。

 

 大怪我をして組合本部に駆け込んできたあの日のことだって、母さんのことばかりで自分に何があったのかは殆ど話してくれなかった。

 あたしに気を遣ってるのか、他に何か理由があるのか……そこまではわかんないけど。

 

 

『――あたしが割って入らなかったら、本気で危なかったかもしれないわ』

 

 

 だから、あたしが()()を知ったのは、ウィルベル師匠の言葉からで。

 それを聞いたのは、採取や討伐に向かう途中の、ちょっとした雑談の中のことで。

 

 

『途中で止まる気配も、止める気配も無かったのよ。何で周りは止めないのかってそのときは……まあ、今ならそいつらから滲み出てた微妙な空気も、全くわかんないとは言わないけどさ』

 

 それを聞いた途端、頭に浮かんだのは「そんなの…っ!」という否定の感情で。

 反論の言葉を探すあたしをじっと睨んだ師匠は、静かな口調でこう言った。

 

 

『…シャリステラたちの船が原因で、大人しい筈のサンドドラゴンが動き出して、船を襲ってる。あんたがそうじゃないと思うっていうなら……その理由は、何?』

 

 

 ……答えは、出てこなかった。

 シャリーちゃんがそんなわけ、と漏れた呟きは、「根拠になってない」とバッサリ切られたし。

 

 

 事実だけを挙げれば、()()考える方が自然なこと。

 あたしがそれを否定できるのは、直接の()()を受けてないからに過ぎない。

 

 彼女を知らない多くの人間からしたら。

 あの船の、その後のあの竜の被害を直接受けた人々からしたら。

 『全ての元凶』と捉えられても否定できない場所にあの子(シャリステラ)は立ってるんだと、教えられた。

 

 

 ──それがわかってるからこそ、シャリーちゃんはぶつけられる罵倒を否定しない。

 向けられる悪意に、敵意に、少なくとも表立っては抗わないんだ、と。

 

 必ずしもその選択が正解かと言えば首を捻るところだし、本人が気質や責任感からそうしてるにしても限界はある……というかあったわね、と師匠が遠い目をしていたのが、今も頭に浮かぶ。

 

 

 シャリーちゃんは秘密にして、師匠が教えてくれた、あたしの知らなかったこの街(ステラード)の姿。

 今までのあたしが知る機会のなかった、触れることが無かった、人の悪意。

 

 

 

「──それ……勝手に持っていかれたら、作業してる人たちが困っちゃいますよ?」

「う…ほ、ほら、誰のものかすぐわかるような物なら、早く持ち主に返してもいいじゃないかって君もそう思わないかい?」

 

 その人が腕に抱えている、一つの木箱。

 初めに一時置き場を見た時にはあったはずで、なのに一度別の木箱に注目して、もう一度全体を見たときには無くなってしまってた、あたしの覚えた違和感の源。

 

「…そ、それにこのラベル! わざわざこうして分けてあったって事は、作業をしてた人間だって同じように考えてたって証拠だろう?」

「……確かにあたしも、そう思いますけど」

 

 見せられた木箱のラベルに、そこに書いてある文字に、ちょっと納得は浮かぶ。

 確かにさっきこれを見てたら、あたしも同じように考えたかもしれない。

 あの護符を見て、早くシャリーちゃんに渡してあげたいなって考えたのと同じように。

 

 今までの…シャリーちゃんと出会う前のあたしなら、特に疑ったりもしなかったかもしれない。

 言葉通りに受け取って、組員さんに見つからないように、なんて協力でもしてたかも。

 

 

 けど、それを……この人が()()()()()()()()()かどうかは、別だ。

 本当にこれが、親切からくる行動だったなら──

 

 

「それなら、あたしが持って行きますよ。その方が良いですよね?」

「っ……そ、れは……」

 

 

 ──そんな人が、こんなに苦い顔をするわけない。

 さっきの言葉が出てくるぐらいに、()()()()()の事を知っているなら、尚更。

 

 

 …何のために、を考えても、答えは出てこない。

 けれどそこに、また何かの『悪意』があるんだってことだけは、あたしにだってわかる…!

 

 だって今、この人が抱えてる木箱の中身は。

 そこから覗いてる、見覚えのある物々を受け取るべき相手は──

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()から」

 

 

 赤から青へのグラデーションが鮮やかな、きっとこの世に二つとないマフラー。

 並べられてた沢山のそれと同じ木箱、そこに貼られた『()()()』のラベル。

 

 そこにあるのは全部、ユリエさんの――ミルカのお姉さんの、形見なんだから。

 





※原作既プレイの方へ

 原作ステラの憂慮を「そんなこと、あるわけないよ!」と笑い飛ばす原作ロッテさん。
 その根拠はどこからくるんですかね?

 街に来たばかりの原作ウィルベルさんも「港に突っ込んだあの船が何かやらかしたのかな?」と発言するほどなのですから、いわんやステラードの一般住民をや、なのです。


※原作未プレイの方へ

 ユリエ姉さん、コルテス兄さまは原作ではパーティ入りするキャラです。念のため。

 ユリエというキャラについて一行でまとめますと、クール美人系シスコンお姉ちゃんです。
 特徴的な原作会話を挙げますと、

※初めて妹の話題が出た時

 シャリステラ「ミルカ、さん?誰ですか?」
    ユリエ「妹よ」

 シャリステラ「へえ…ユリエさんの妹なら、きっとすごく可愛いんだろうなあ…」
    ユリエ「いいえ、ものすごく可愛いわ」

 シャリステラ「…え?」


※初めて妹とシャリステラを引き合わせた時

 シャリステラ「すごい方なんですね」
    ユリエ「すごくすごく優秀。私が保証する」
    ミルカ「ちょっと、姉さん…」

    ユリエ「あと、ステラードでは指折りのすごく可愛い妹」
 シャリステラ「え?」

    ユリエ「私が保証する」
    ミルカ「姉さん…ちょっと静かにして」

 ……こういうお姉さんです。見た目はクール系褐色美女。見た目は。

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