昏き海都は黄砂に沈む   作:非単一三角形

22 / 42

※ク○モブ注意報三回目。
 ク○にはク○の行動理論がある、のかもしれない。

 (特に重要な内容じゃないのに文字数だけ多いです。ク〇モブ劇場を見たくない方は後書きまで飛ばして頂いてもほぼ問題ないと思われます。ご随意に)



第18話 黒点抱く太陽

 

 

「──あれ? ミルカに渡すんですよね? …違うんですか?」

「……」

 

 遺留品を持ち去った人を追いかけて、入り込んだ路地裏。

 そこにあるのは、わかり切ってるはずのあたしの問いかけに、まるで丁度良い答えを探すように黙り込んでしまった男性の姿。

 

 ユリエさんの遺品を抱えたまま、言葉を詰まらせてしまったその人に問いを重ねつつ、考える。

 ……あたしだって、この状況でそれを単なる親切だと思うほどノーテンキな頭はしていない。

 ただ、ここまで彼を追いかけたこと自体は結構直感だったし、わかってないこともまだ多い。

 

 

 見張りの組員さんがあたしたちに気を取られた隙を突いてまで、それを持ち去ろうとした理由。

 いったい何をして……いや、どうやってシャリーちゃんへの悪意を形にしようとしてるのかを。

 

 

「それに今、ミルカは忙しくしてますから……それも、知ってますよね?」

「あ、ああ……そうだろうな……」

 

「はい。今はステラードが一つになって頑張らなきゃいけないときですから!」

「…………ああ、そうだな」

 

「それで…えっと…………それ、どうするつもりなんですか?」

「…………」

 

 

 ……ダメだ。また黙っちゃったよ。

 ああん、もう、いったい何がしたいのさ、この人!?

 

 …と、とにかく、さっきの組員さんも困ってるだろうし、元の場所に戻すにしても何にしても、こっちに渡してくれるようにお願いしないと……

 

 

「さっきの置き場に戻すつもりがないなら、あたしに渡してくれませんか? …ミルカには後で、あたしからこっそり渡しておきますから……」

「っ! そ、それでは()()()()()だろう!?」

 

 

 …………えっ?

 

 

「……どういうことですか、それ?」

「っ! ……」

 

「『意味』って……ユリエさんの遺品で、何をする気で──」

 

 

 

「君もおかしいと思うだろ、シャリーちゃん?」

 

 

 

 ……急に響いたその声に、思わずその人の顔に目が向いた。

 さっきまでひどく泳いでいた彼の目が、イヤに輝いているのがあたしには見えて。

 

 

「なんで……何であの小娘(ガキ)が、()()()()()()()()()が出来てる?」

「……っ!?」

 

 

 …ぞっとするような声音で放たれたその呟きに、手足の先から血の気が引いた。

 あたしが何も言えないでいる内に、男性の言葉は続いていく。

 

 

「街を盛大にぶっ壊して、竜を怒らせて……どうしたって疫病神でしかないじゃないか」

 

「錬金術士? 竜討伐に参加して罪を雪ぐ? それが何だよ? 何の償いになるっていうんだ?」

 

「街の危機に先頭に立って戦う? 自分が災害を招いておいて、寝言も大概にしろよ……なあ?」

 

 

 ……同意を求められたんだと理解できたのは、目の前に仄暗い瞳が迫ってると気づいてから。

 

 

「…知ってるか? あいつ、何と言われても仕方ないって言い出したんだ」

 

「その上で、出した被害の埋め合わせってなあ……違うだろ? そんなの誰も求めてないだろ?」

 

「大人しく下を向いてろよ。本当に悪いと思ってるなら……前を見ようとするなよ、最初から」

 

 

「──君も、そう思うだろ?」

「……っ!?」

 

 

 息がかかるほど近くで囁かれた言葉に、頭を端から削られていく気さえして。

 意味を少しずつ理解していくほどに、喉の奥から吐き気が込み上げた。

 

 なにを……何を言ってるの、この人……?

 償いにならないって、そんなの……シャリーちゃんだって……!

 

 っていうか……それって、結局──

 

「…………なにそれ、バカみたい」

「は……?」

 

 

 淀んだ眼が、丸く見開かれた。

 呆気に取られた様子のその顔に、お腹の底からムカムカする気持ちが湧いてくる。

 

 

「あたし、そんなこと思いません。…自分がそうだからって、人を巻き込まないでよ」

 

「起きてしまった事は変えられないから…無くなっちゃったものは戻ってこないから! あの子は自分にできる限りの事をして頑張ろうとしてるんじゃない!」

 

「それなのに…何それ? 結局何をしても許すつもりなんて無いってこと!? それともこれから一生あんたの顔色窺って、俯いてれば満足だって言うの!? ……バッカみたい!!」

 

 

「な……なぁ……!?」

 

 

 どんどん口を衝いて出てくる言葉に、心の中ではあたし自身が驚いてた。

 この人に言ったってしょうがないって気持ちもどこかにあるけど……知るもんか。こうなったら今まで思ってたこと全部、ここで吐き出してやる!

 

 

「…あれはシャリーちゃんにはどうしようもない『事故』だった! 大切なものを奪われたのは、シャリーちゃんだって同じなんだ!」

 

「シャリーちゃんだって危うく死ぬところだったっていうのに…何で誰も『助かって良かった』、『生きてて良かった』って言ってあげられないの!?」

 

「それどころかいい大人があんな子に寄ってたかって償え、謝れ、責任を取れって……そっちこそ恥ずかしくなんないの!? いい加減にしてよ!!」

 

 

「……ッ、お、前に、何がわか──」

 

 

 

「わからないわよ、声だけ大きな()()()の気持ちなんて」

 

 

 

「――えっ?」

「な……っ」

 

 歯ぎしりをした男性が、腕を振り上げたのが見えて。

 思わず身体を強張らせた瞬間、耳に届いた冷たい声に意識を引っ張られて。

 

 気づけばあたしと男性の間に、()()()()が突き立てられていた。

 

 

「は……? あ、熱っ!?」

「こ、れ……師匠の……!」

 

 

 ウィルベル師匠がいつも何処からともなく出現させて、自在に操る炎の剣。

 一瞬遅れて剣から噴き出した熱が、あたしに殴りかかろうとしてた男性を怯ませた。

 

 モンスターに襲われたとき、よく似た剣を何本も、それも同時に空を踊らせるみたいに操って、一気に焼き切り払ってしまうのが師匠の戦い方。

 一度に何体のモンスターに襲われようと、それ以上の本数の剣で危なげなく迎撃する姿は、もう頼もしいなんて言葉じゃ言い表せない……けど、それを街中で、なんて──

 

 

「…こういう言っても聞かない奴の相手は、『旅人』のあたしに任せときなさい、シャリー」

「あ、師匠……」

 

 頭の上からふわりと降りてきたウィルベル師匠の姿に、ああ、追いかけてきてくれたんだ…と、ちょっぴり場違いな安心が心の中に広がった。

 そんなあたしに一度目配せをしてから、師匠は熱に炙られた腕を擦る男性に視線を向ける。

 

 

「…何だ、これ……? っ、お前、何を──」

「あんたさあ……色々言う前に、まず前提として聞いておかなきゃなんだけどね?」

 

 まだ何が起きたかわからない様子だった男性が、剣を挟んで立つ師匠に顔を向けた。

 そんな彼に師匠は、突き立てた剣に軽く手を掲げながら、一歩、踏み出して。

 

 

「あんたに、シャリステラが何をしたの?」

 

 

 ……背中越しに聞こえたのは、いつもの師匠と全然違う、背筋に寒気が走る声。

 

 

「……調べてたのよ、あの子に頼まれてね。あんたが具体的に何の被害を受けたのか、何に対してあれだけ怒っていたのか……償うことは出来なくても、謝るべきことは知っておきたいからって」

 

「最初の事故で出た犠牲者の身内? …違ったわ。なら潰れたっていう商船の関係者? …これも違う。となると先日襲われた船に何か関係が? …これでも見つかんない」

 

「ちょっとずつ聞き込みの範囲を広げて、あのときあの場にいた人間にも話を聞いてみて…この前ようやく答えが出たわ。……驚いたけどね」

 

 

 こめかみに指を立てて、小首を傾げて見せながら。

 ぞっとするほど軽い声音で、師匠は続けた。

 

 

「あんたって、結局さあ──()()()()()()()()()じゃない?」

 

 

 え…………害を受けて、ない?

 ……あ、さっきの『野次馬』って、まさか……!?

 

 

「ただ、単に、皆が『悪い』と言ってるから。それに便乗してただけなんでしょ?」

 

「先頭に立って声を上げてれば、それだけ自分が『正義』になっていられるから」

 

「だからこそ、あの子が()()()()()()()()()()ことが、()()()()()()。……そんなとこよね」

 

 

 ……なに、それ?

 ほ、本当に、そんな……?

 あの…さすがに師匠の言葉でも、信じらんないって言うか──

 

 

「う……うるさい! それぐらい誰だって考えるだろうが!?」

 

 

 ……否定、しないんだ。

 ほんとに……本気この人、そんな考えでシャリーちゃんを……

 

 

 …………何それ。

 

 何それ……何それ、なにそれなにそれなにそれ!?

 わっけわかんない!! バッカじゃないの!? 何考えてたらそんなんなるわけ!?

 

 

「俺はただっ! 悪い奴を反省させてやってるだけだろうが!」

 

「誰しもが思ってることを、誰より率先して動いてやってるだけなんだよ!」

 

「そ、それに…誰も俺を止めなかっただろ!? 俺が間違ってないって何よりの証拠じゃないか! いや、むしろ俺に文句を言うお前らの方こそおかし──」

 

 

「うっさいバカ」

 

 

 燃え盛る炎と吹き荒ぶ風を思わせる二色の蒸気。

 背中に庇われてる形のあたしでさえ震えそうになるぐらいの()()()()()が、そこに在った。

 

 

「正しいとか、間違ってるとか、あんたと話をする気はないわ。どうせ平行線だもの」

「っ、あ……!?」

 

 ……ウィルベル師匠が、怒ってる。

 前にあたしたちに笑いながら本気を見せてくれたときなんかとは、比べ物になんないぐらいに。

 

 

「あんたが()()を間違ってないって言うんだから、あたしも同じ事をしてやるだけよ」

 

 赤と、緑。

 無数の大剣が次々と、音も無く空を覆っていく。

 目を向けただけで焦げそうな、あるいは切り裂かれそうな怖気を振りまいて。

 

 

「あの子は……シャリステラは、あたしの…弟子の一人。あたしの身内なの」

 

「身内に手を出されたら、報復する。…これぐらいの理屈なら、あんたも理解できるでしょ?」

 

「一度目は火傷で済ませた。二度目も……ここで引くなら許してあげる。けどね──」

 

 

 

「三度目は、無いわ」

 

 

 

▲ ▽ ▽

 

 

 

「――あー……あたしってば、ほんっと甘いんだから……」

「…ウィルベル師匠?」

 

 

 路地裏から目抜き通りへと戻って少し。

 元来た道を歩き出したところで、師匠はちょっぴり頭痛を堪えるみたいにしてそう呟いた。

 

「これで当分、よそには旅立てなくなっちゃった……まあ、元からそのつもりではあったけどさ」

「あ……」

 

 ……そっか。そうだよね。

 

 あれだけの思いをすれば、少なくとも師匠がこの街にいる限りは、あの男性もシャリーちゃんに近づこうとはしないだろう。

 でも師匠は目的があって旅をしてるんだから、ずっとこの街にいるわけじゃない。

 

 ……そのはずだったのに、あたしのせいで……

 

 

「……すみません、師匠」

「ん? …ああ、気にすることないわよ? ああいう奴に幾ら話をしたところでムダなんだから。むしろ、あんたのおかげでさっさと話をつけられて良かったーってぐらいね」

 

「本当、ですか?」

「本当に。…まったく、あんたも気にし過ぎよ。普段頭を使うタイプじゃないってのに」

 

「…な、なんですかそれえ!」

 

 あんまりな言い草に声を上げたあたしに、ケラケラと笑う師匠。

 ……ああ、さっきの怒ってる姿もそうだったけど、やっぱりかっこいいなあ、師匠って……

 

 

「……あ」

「ん? どうかした?」

 

「いえその……結局あの人、()()で何をするつもりだったのかなー、って」

「え? あー……」

 

 手に抱えたもの──あの男性が置いていった木箱を示して尋ねたあたしに、師匠が首を傾げた。

 ユリエさんの遺品……ミルカに渡すってところにだけは否定はしなかったよね、あの人。

 ……ひっどい悪意からの行動だったことだけは確実だけど、じゃあ何をする気だったんだろ?

 

 

「……ねえ、ミルカって、この街の中では結構有名な人物なのよね?」

「え? あ、はい、そうですね。この街一番の……いや、あたしがつい最近までアレだったんで、殆ど唯一の錬金術士でしたし」

 

「ってことは、その姉のユリエさんとやらも?」

「あ、はい、凄腕のトレジャーハンターとして……姉妹合わせて知ってる人は多かった、かな?」

 

「ふむ……だとすると……」

「……だとすると?」

 

 

 考えこむ師匠の口から、「あいつから見たら…うーん…?」という呟きが聞こえてくる。

 …そっか、あの人の気持ちを想像……やめとこ。話聞いてもひとっつも理解できなかったし。

 

 

「…同じ錬金術士ってことで、ミルカがシャリーちゃんを保護してるように見えてた…のかしら。その上で……ああ、なるほどね」

「! わかったんですか、師匠!?」

 

「ええ、想像だけどね。…今、二人が一緒にいる所に()()を持って行ったとして……もしミルカがお姉さんの事をまだ知らなかったとしたら、どうなったと思う?」

「え? …………あ」

 

 

 …言われて、頭の中にあたしですら見たことないくらいに取り乱していたミルカの姿が蘇った。

 あれから何日も経って、師匠がミルカと何日も話をして……やっと立ち直ってくれた、けど。

 

 あの日、あの時、シャリーちゃんを殴ってしまったこと。

 シャリーちゃんに、ひどい言葉をぶつけてしまったことを、ミルカは今でも後悔してる。

 それを……もしその場に、()()()()()()()()()()()どうなった?

 

 

「……結果だけ言えば、最初から意味の無い企みだったってことになるわね。ミルカはもうそれを知っていて、その上で一緒に戦うと腹を決めたんだから。…動揺はしたかもしれないけど」

「……それでも二度と近づかないでほしいです。シャリーちゃんにも、ミルカにも」

 

「ふふ、そうね。あたしの目が黒いうちは近づけさせないわ」

「…はい! 頼りにしてます、ウィルベル師匠!」

 

「うむ。…とはいえあんたもさっさと一人前になれるように頑張りなさいよ? ずーっとあたしがついていてあげるわけにはいかないんだからね?」

「う……わ、わかってますよ!?」

 

 

 一人前の錬金術士……ちょっと前まで、夢のまた夢ぐらいに思ってたんだけどな。

 けど、師匠と出会って、シャリーちゃんと一緒に腕を磨いて……今から何日か先にはドラゴンと戦うつもりでいる、だなんて……その頃のあたしに言っても絶対信じないだろうなあ。

 

 ……サンドドラゴンを、倒せたら。

 錬金術士(あたしたち)の力でそれをやり遂げたら……シャリーちゃんを見る目だって変わるよね、きっと。

 

 そうしたらあんな人みたいな……ううん! ステラードの街が、あんな人ばっかりなわけない!

 今も歯を食いしばって頑張ってるシャリーちゃんのことを、みんな受け入れてくれるはずだよ!

 

 

 その為に……いや、その為にも!

 

 

「あたしたち……絶対サンドドラゴンに勝てますよね、師匠?」

「…………このウィルベルさんがついてるのよ? ドーンと大船に乗った気でいなさいっての!」

 





 何で同じく被害を受けた人間にここまで悪意を向けられるの?
 → 被害者じゃなかったから。

 とりあえず、もう登場させる予定はありません。金輪際。


※原作既プレイの方へ

 描きたいシーンの為にと原作に存在しないモブを追加しましたが、やっぱり異物感が酷い。
 わざわざこの手の不快感振り撒くキャラを用意せずとも、二十数作に渡り面白い展開を描かれるアトリエシリーズシナリオライターの方々を、作者は心から尊敬いたします。


 ……水不足に困窮する村から来たシャリステラに水の買い煽り持ちかける某商人(ラーチカさん)とかどうなんだとはちょっと思ってますけど。


※原作未プレイの方へ

 浮遊する大剣乱舞を錬金術と言い張れるの?

 つ 『生きている魔剣』(独りでに踊る剣の攻撃アイテム。出演作:メルルなど)
 つ 浮遊する二本一対の巨大な腕を操る錬金術士(出演作:ソフィーなど)
 つ 浮遊する無数の光の剣で戦う錬金術士(出演作:リディ―&スール)


 …それでもホウキに跨って飛ぶのは錬金術の範疇なの?

 つ 『スカイフリーカー』(見た目は完全に魔女の箒な探索アイテム。出演作:フィリス)


 ……精霊関連は?

 つ 『ハイターシュトルム』(精霊の力を封じ込めた爆弾。出演作:リディ―&スール)
 つ 『四精霊の瓶』(錬金術で生成した人造精霊を詰めた瓶。出演作:ルルア)


 …………やっぱ錬金術って魔法じゃね?(暴論)

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。